animals -soko_niha-
すぐに懐いたリス一家を連れて、ビル群を進む。先ほどジャンプした時に森林地帯が見えた。そちらの方がこの子たちにはずっと住みやすいはず。外来種で生態系が、といったことは多少気にはなるが、平衡がほんのちょっとずれる程度の影響しかないだろうと楽観した。
「可愛らしいリスたちですわね。」
「そうですね。」
リスについてはこちらの人たちにとっても既知生物のようだ。私の頭や肩、腕や手に乗るそれらをさして、感想をこぼしたセリナ。
「そうね。」
動物に懐かれるのはウォンバ、ロスパーを除けば三度目だった私はそれが結構うれしくて、顔が先ほどからにやけていた。やっぱこの世界は、いいわね。
ちなみに懐かれた経緯は、次のように明解なもの。親リスが放っていた殺気、それは私達に向けたものではなくさらにその先の巨大ドブネズミに向けられたものだった。こりゃ、捕食者被食者の関係か、と感じた私。害獣に慈悲を向けたりもしない。それだけだ。
「おお、こりゃ見事ね。」
森への道筋の途中、広がるブドウ畑。みずみずしく実ったブドウ、取って食べたい欲求に駆られるが、これも保護対象かもな、と思い留まる。
「おいしそうですわね。」
セリナ、不用意に一房、むしり取って一粒口に入れる。これは、私の様子に気を利かせてくれたんだろう。
予想通り、警報が鳴った。特に気にすることもなくセリナはそのブドウを私へと手渡してきた。私も気にせず一粒いただく。それをさらにセバスへと。
「ありがと。悪いわね。言ってなかったけどここ、いろいろうるさいのよ。」
リスにもブドウ食うか?と試み、皆でその一房を食べ終えた頃に例の奴らが現れた。今回は囲まず、一方向に整列した。流れ弾の危険性を考えているのだろう。
「我々は真理省聖果警護局のものである!許可なく奪取し、あまつさえ口にした行為、特級禁止事項への抵触である!この場で射殺する!」
ジャキンとアサルトライフルをこちらに向けた隊員たち。
「セリナ、セバス、私の後ろ。リスたちも頼むわ。」
ばっち来いや、と気合を入れる。待ちに待ったシチュエーション。お約束、あこがれ。銃弾すべて、はじき返しちゃるわ!
一斉に放たれた銃弾。直前のタイミングでクイックン。やってくる一発目を、斬、れた。やった、やったぞ、私。返す刀で次を、と思ったが、弾幕濃すぎのラグ無さ過ぎて無理だった。そのまま私は銃弾にその身を撃ちつけられた。
痛い痛い。これは、痛い。が、それで済むだけで十分だ。保護されてない顔面は両腕でカバーして耐えた。時間が経つごとに、かけ続けているエンストの防御力アップ効果で楽になっていく。先ほどのレースでの消費がまだ完全回復はしていなかったので心もとないマナ残量だったけど、無視できるまでには持った。
よし、まずは隊列ね。大きく横薙ぐ。超強化されたそれが巻き起こす風圧で、雨を降らす雲が霧散した。
「セリナ!」
指示と同時に閃光が駆け抜けた。
「ぐぅ、、、保護局から報告があった脱走者、か。」
捕縛のための道具を丁度良く敵側が持っていたのでそれらを拝借して一人ずつ身動きできないようにした後、追加が来たらマズいかもと思い隊長格の者だけ抱えて森林地帯の奥へと逃げていった。
ある程度の距離を取ったところ、どういった手法で監視を行っているかは判然としないけれど、真理省の個室で見た様子からスクリーンディスプレイが怪しいと見てそれが一切ない辺りにまで足を運んだ。ここなら監視の目も届かないだろうと一旦腰を落ち着けて、運んで持って来た奴にあれこれここのことを尋問しようと試みた。
「そうよ。ま、ブドウを勝手に取っちゃったことは謝るけど、射殺するほどのこと?罰金を取ればいいじゃない。」
素直に思ったことを口にする。二つの倫理観?的なもの、向こう、つまりは現実、およびこのゲームの本来の世界、のいずれとも一致しないここで、あれこれ思考したところで無駄骨だ。
「我らの指導者ソシノイド様が栽培法を考案なされた聖なる果実、軽々しく触れていいものではないのだ!あまつさえそれを口にするなど!」
ふむ、新情報。トップはソシノイド、という名前らしいな。勢いよくブドウをむさぼっていたリスたちのためにもう何房か取って来ていたそれをつまみながら、会話を続ける。
「そ。そのソシノイド様は真理省の頂上におられるのかしら?」
まあまずは会ってみないことにはな。居場所、口を割るかどうかはわからんが、幸い拷問道具はわが手のうちにあるようだし。
「ふん、教えるわけが無かろうよ。」
でしょうな。私は手に盛ったブドウを隊長さんの鼻先へと近づける。両手両足を縛られているため、抗うことなどできず。
「あなたは許可を持っているのかしら?」
恐れ多い、といった表情を浮かべて首をフルフルと振り、必死で顔をブドウから離そうと首をねじる隊長さん。効果は抜群のようだ。一粒取り、それを隊長さんの口内に入れようと試みる。首を左右に振って意固地に抵抗される。
「セリナ、セバス、どっちでもいいから手伝って。」
ではわたくしが、とセリナが手をあげて、がしっと頭をつかみ、それ以上回避できないようにした。よろしい。私は一旦ブドウをセバスに手渡し右手で口を無理やり開かせ、左手で隊長さんの頬を両側から抑え込んで口を閉じれないようにし、そこへ右掌をセバスに差し出し置かれたブドウの一粒を近づける。
果たして、おいしいブドウの誘惑に勝てるのでしょうか。悪魔じみた行為にやや気後れしつつも必要な事よ、と割り切った。
「わ、わわっわ、、、」
「そのまま、話したいことを話しなさい。」
「ほひのいろははは、ひはひ。」
ん、わからん。左手を離して、もう一度、と促す。
「ソシノイド様は、地下に。それだけしか、知らぬ。だから大罪を、犯すのだけは。」
「ええ。十分よ。ありがと。」
特に目的もなく、街をさまよう四人。目覚めた敵と思しき二人からは、セリナさんとセバスさんの情報は得られなかった。尋問の途中で、狐に姿が変化してそのまま逃げられたのだ。
「うーん、一体どういうことなんだろうね。」
「そうですね。」
あれやこれやとイクスさんと考えを言い合いながら足を動かしていたけれど、納得のいく説明はつかなかった。
「少なくとも敵は幻術のエキスパートということでしょうな。」
「そうじゃの。あ奴には、相性の悪い相手かもしれんな。」
「であるな。」
「いったん合流しましょうか?」
提案してみた。その直後、スクリーンディスプレイに大写しで先輩の姿が映った。
「真理省情報解析局広報課よりお伝えいたします。現在聖果栽培エリアにて凶悪犯罪者が逃亡、第一種特別警戒令が敷かれました。善良な市民の皆様方は無暗に外をうろつかないように警告いたします。今後外にて発見次第、義務違反とみなして速やかに射殺いたします。」
ものすごいアナウンスだった。肝を抜かれて、すぐさま皆に屋内への避難を提案した。
とりあえずすぐ近くにあった建物の中へ。普通の街ビルのひとつ。中の様子は人気が無く、無機質なまさにコンクリートの中といった感じ。
そんな中に人が一人、立っていた。勝手に入ったことを詫びようと声をかけに近づくと、向こうから話しかけてきた。
「いらっしゃいませ。どのようなものをお探しでしょうか。」
「ええと、、、」
どうやらお店のようらしい。周囲に商品などは陳列されていないのだが。
「何を売っているの?」
イクスさんが返事をする。
「ペットの動物を扱っております。商品カタログはこちらです。」
そう言って懐から小冊子を一つ取り出し、ご覧ください、と私に手渡してきた。中を確認してみる。
山羊、虎、牛、鹿、狐。一ページ毎に値段が書かれ写真が載っている。パラパラと眺めて、不思議なことに一般的なペット動物がいないのがわかった。
「その、犬と猫は、扱っていないのですか?」
気になって聞いてみた。問いかけて、目が細くなるお店の人。
「そちらの用向きのお客様でしたか。これは失礼いたしました。奥へどうぞ。」
流されるまま、ついていくことにした。奥には仕切りで個別商談ができるようになっている箇所が四つ。私たち以外の客がいるかは中が見れないようになっているのでわからない。外の方がきっと危険だししばらくここで過ごすのも悪くはない、か。
「カメリアさん、ポイントをさっきの入ってすぐの所に設置してもらえる?いったんミラージュの所に行ってみるよ。」
「はい。」
仕切りの中へ入る前に提案されて、従うことにした。このまま皆で合流するのもいい、と思う。不意の情報に気が動転していたけれど、それが一番安全なはずだ。
「ではそれがしはここに留まろう。」
「わしもじゃ。」
「うん、お願い。ここもここで気になるしね。確認して、一緒にかはわからないけどすぐ戻ってくるよ。ミラージュもポイント置けるはずだしね。」
そう言ったイクスさんを一人残して、先ほどの商談室に入った。
「こちらがご所望のリストでございます。」
先ほど渡されたものよりやや分厚い冊子を渡され、中を見てみる。犬や猫、鳥類などの一般的なペット動物が並んでいる。値段は先ほどのものより遥かに高い。途中からは、見たこともない種類の動物たち。一番最後には、ティラノも載っていた。
「あの、値段がないものがいくつかあるのですが。」
「それは入荷待ちのものですね。ご予約いただければ、取り寄せ致します。価格はその際にかかった費用をもとに決められます。もちろん、ご購入はお値段をもとに判断いただいて結構です。値段がついているものはそうして取り寄せて、売れ残ったものですから。はい。お気に召したものが、ございましたか?」
別にペットがほしいわけではなく、時間を消費するための質問だったので返す言葉に困っていると、スケさんが返事をした。
「この、ティラノサウルスというのは、先ほど街で見かけたのだが、入荷するのか?」
「ほう、、、ええ。相当なお値段にはなりますが、可能ですよ。」
少し驚いた様子を見せた後、できると言い切った。それを聞き、ふうむ、いやしかし、ふうむ、、、とめちゃくちゃ頭を悩ませていた。欲しい、のか。
「大体いくらぐらいになるか、予想はつきますか?」
「そうですね、、、真理省保護局への委託手数料及び所持その他に関する事務手数料が結構な額になりますので、5000万金ほどは見ていただきたい、ですね。」
なんとなくだが、述べられた内容は理解できた。要は賄賂、だな。
「しっかりしつけられるなら、わしは反対はせんのじゃがの。」
ウドーさん、リスのページを開いてもの欲しそうにしていた。ああ、すごく合うかも。
ミラージュ傍の転移を指定して移動。森の中だった。
「おや、イクス、転移ってことは一旦出たの?」
ミラージュにすぐさま声をかけられた。すぐ近くにセリナとセバスも。
「見つけてくれたんだね。さすが。で、違うよ。カメリアさんの置いたポイントから。」
「ああ、なるほど。」
僕のその言葉を聞いてすぐにミラージュも転移ポイントを置こうと、さっきの民家の所は、もういらないわよね?と確認してきたので頷き返した。
「ほんとだ。この住居群の所が、そうね?」
「うん。ペットショップ、だったよ。」
「ふーん。それは本物?電気仕掛け?それとも、、、」
んん?問いかけがよくわからなくて首をかしげた。彼女の指した方向、身体を木に括りつけられた大きな虎がいた。
「この虎、もしかして元々人だった?」
「正解。てことはあんたたちも遭遇したの?」
「うん、セリナとセバスに最初化けてた。」
その辺りの事情を共有する。
ミラージュ側はどうやらまた何かやらかしたのか襲撃を受けて、その襲撃相手の隊長格の人を連れ去ってきたらしい。変化後逃げられることなく捕縛できていたのはさすがの面々だなと思った。
そしてセリナとセバスも、会ったときは動物に姿を変えられていたとか。虎と人、どちらの姿がオリジナルなのかをミラージュは相当に気にしていた。
「それを確認しようとね、時間で人に変化してた効果が切れたのか、人から虎に化けてこれから切れるのかを待ってたんだけれどね。一応、気になるじゃない?」
「なるほど。スケさんは剣で叩いて戻してたよ。」
つい先ほど目撃した実例を提示する。
「ああ、その手もあったわね。」
「では。」
「いや、私がやるわ。」
セリナを遮って、暴れ疲れてぐったりしている虎に峰打ちを叩きこんだミラージュ。意識を刈り取られ、すぐに人の姿に戻った。
「おーけー。少しは見えてきた、かな?合流したほうが、よさそうね。お腹もすいちゃってるし。」
虎の捕縛を解除して後、ペットショップに皆で戻ることにした。
「んじゃー私とカメリアは少し離れるけど、みんなこの森から出ちゃだめよ。」
先輩が連れていたリスと楽しそうに戯れるウドーさんを眺めながら、相当に遅い昼食を食べるためにログアウトした。




