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箱庭の君  作者: 鏡 龍彦
高校一年生 -春-
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kagami_in_wonderland

目が覚めると、薄暗い室内。オフィス的な一室のよう。どこやねん、ここ、と思いながらぼやけ眼で周りをうかがう。壁が白一色、生活感なく、デスクと椅子以外には奥に扉っぽいものがあるのみ。おかしいわね。昨日はちゃんと自分の部屋のベッドで寝たはずだけど、どうなってるのかしらね。


扉を開こうとドアノブを回そうとしたところ、そもそもついていないことが分かった。押戸かしらと思うが、鍵がかかっているのか動く気配はない。そうしていると扉の向こうから話し声が聞こえた。


「本日の業務の進捗は、、、」


ふむ。やっぱり普通のオフィスか?よくわからない報告が続く。


「問題ないですね。この調子でどんどん幸福指数を上昇させていきましょう。」


んー、ん?自分の身なりを明かりの中確認する。袴。籠手。腰には刀装備。とりあえず確認のためにエンストをかけてみる。かかった。ドアを手で強く押す。グギギ、と歪み音を出してそれはひしゃげた。


現代的な建物内にゲーム内要素。この紛れ無き矛盾感。間違いなく自分が今どこにいるかわかった私はそのまま扉を力で押し破って、ずかずかとその声が聞こえる方向へと歩いて行った。


「な!どうやって!」


私に気付いてすぐさま胸元から拳銃を取り出し突き付けてくる二人のうちの片方。よし、撃ってこいや。柄に手をかけ、銃弾斬っちゃるけん、と念じるが、なかなか銃声は響かない。思い通りに進むということは無いようだ。しばらくして、隣の二人目の男が手でその銃口を遮って落ち着きなさい、と一言ささやいた。


「この子の扱いはわかっています。あれを、ごらんなさい。」


そうして横方向を指すその男。またまたベタな。よそ見してるうちにバスバス撃つんだろうよ。その手には乗らん、それでは銃弾斬り演武ができんではないか。が、気になるのも事実。一瞬だけと思いちらと90度首を動かす。戻す。


ん?二度見せざるを得なかった。


「おお、ミラージュ殿。ここが神の住まう場所だと、この者たちに連れられてきたのだが、本当であるか?しばらくここで待っていれば強敵と見えられると言われたのだがな。」


よりによってこいつかー、と思いつつ、右手を額に当てて途方に暮れる。扉の小窓越しに、スケさんが見えた。くぐもった声でそんな風に語った。


「この者を解き放てば、道々強敵を探して暴れまわるでしょう。そうさせたくなければ、我々に協力なさい。」


探し、そうだな。そして真実を知ったらがっくりするだろう、な。私の表情から観念したと取ったのか、宙で何やら操作してスケさんの前の扉がスーッと消えていった。おお、近未来っぽい。さすがだわ。あの銃も実は銃弾ではなくレーザーとか出るんかもしれん。したら、やばかったかもな。


「では、その者とともにこちらへ。」


促されて後ろをついていく。語り口や振る舞いが落ち着いている。


「詳細は中の者に聞いてください。では。」


扉の前のプレートには、幸福推進局と書かれていた。えらくざっくりした部署名だな、と思いつつ、中に入る。せわしなく業務に勤しむ者たちの姿があった。オフィスフォーマルである。当然の反応を示したのはスケさん。


「奇抜な格好であるな。あれでは、紙をまとっているのと変わらぬのでは?」


剣で斬られるとか、想定の外だからな。いや、もしかしたら超合金繊維で編まれていてめちゃくちゃ防御力が高いのかもしれん。この袴も、それに似たようなものだしな。


「あなた方が、連絡のあったゴリアーテ部隊ですね。」


多分そうなんだろう。誰にどう声をかけたらいいのかわからず扉入ってすぐでスケさんと二人立ち尽くしていると、女性職員の一人に声をかけられた。何も聞いてないのでうんとも言えずそのまま話の続きを待つ。


「ちょうど良いタイミングですね。本来の予定とは違いますが、至急手伝っていただきたい業務が発生しまして。こちらへ。」


案内され、個室の一つへ。そこに立体映像により大写しで、おそらくこの街、の地図が映される。その一か所、赤く点滅している場所があった。そこで何かの問題が生じたのだろう。


「お気づきですね。つい先ほどここに新たな入居者が一体、ありまして。」


(・・・)


「察しが悪いですね。」


ため息交じりにそう言葉を向けられた。んなこと言われてもな。それの何が問題なのかさっぱりわからんのだが。だから黙るしかないんだが。


「我々真理省の定める規定値をそれにて突破したのです。このままではこの地区を訪れた際の幸福指数が減少してしまいますでしょ?ですから、規則にのっとり半分になるまで間引いてきて欲しいのです。」


おーう、ディストピーア。私の深層心理はこんな世界を実は望んでいたりするのか。






まさか間引くが文字通りの意味だとは思わなかった。どうせそのうち覚めるだろうと思い現代建築やらスクリーンが立ち並ぶ街をスケさんと一緒に指示された場所へ向かって進んでいたのだが、そこにいたのは大量のトレント。数少ない水場を求めて争っている。こりゃー新しい入居者ってあいつ、で間違いないな。


「ひとまず、言われた通り処理をした方がよいであろうな。」


スケさんの言に同意して、トレントの群れを間違ってやつを斬らぬように注意して進みながら薙ぎ斬っていった。


「おお、おぬしら、わしじゃ。」


やっぱり。ウドーの声が聞こえた。そちらを見ると、隣にはカメリアがいた。最近結構一緒だったからな。夢にでてもおかしくない。態度がすごい横柄になってたらどうしよう。てかここ、トレントしか入居者としてカウントしないのね。二名、が正しい数値だろうに。


「先輩、転移で急に別々になったので心配していました。」

「うむ、しかしこれで後はセリナとセバスだけじゃな。心配じゃが、大丈夫かのう。」


二人とも現実のそれと変わらぬ様子。スケさんもそうだし、そういうものよね。あれ、そういえばイクスは?とウドーに不思議そうな顔を向ける。まさかそんな奴のことは知らんとかそういう感じか?


「あ奴と一緒にここを歩くのもはばかられたでの、向こうの、あの、民家、でいいのかの?で、待たせてあるのじゃ。」


どうやらちゃんといるようだ。


「ではいったん合流致そう。」


四人でその民家へと向かった。中に入ると、イクスがいつも以上に真剣に建物内のさまざまな物品に触れて調べている。


「ああ、ミラージュ、スケさんも。良かった。見つけてくれたんだね。ありがとう、ウドー、カメリアさん。」


私とスケさんの腕に触れ、ホッと安堵の息を吐くイクス。


「向こうから道を切り開いてやってきただけじゃがの。言ったじゃろ。こやつらは目立つから間違いなくそれとすぐにわかると。」

「その通りでしたね。」


すっかり仲良しになったウドーとカメリア。二人して私とスケさんをからかってくる。


「しかしこれが以前お話しされていたプレゼント、なのですね。ここまで大規模なものだと、さすがに混乱してしまいますね。」


んー、ん?


「こんなのは初めて、だね。これじゃ、根源の探しようがないかも。」


臨時転移ポイント、設置、可。ログアウト、可。


ヘッドギアを外す。見慣れた室内。時計を見る。昼前。朝ごはん、思い出した。食べた。そのあとログインしたんだった。すっかり夢だと思ってたわ。


もう一度ログインしなおす。


「どうかした?ミラージュ。」

「いや、まさか現実だったとは、思わなくてね。」


あ、今自分で面倒な一言を放ってしまった。本当にもう、境界さんよ、仕事をしておくれよ。前にメアで気絶した時も強制退場はなかったしな。意識を失っても、ギア機能が強制スリープに入る前にこちらで目覚めて行動を開始したらそのまま継続なのだな。


「じゃあ状況を整理するわよ。まずあんたら三人、最初から一緒だったのね?」

「そうです。」

「じゃな。」

「うん。」


完璧に意志の統一された同意。思い出す。ここへと放り込まれたのは確か、美術館で次の目的地をどこにするかを皆で相談していた今日の朝方。


そこへ突然粒子を伴って現れた何者か、そのまま全員まとめて転移させられた。


その辺りの記憶に齟齬がないか、皆に確認、問題なし。ポイント設置も無しに転移、おまけに強制、これは間違いなく差異。んなもん普通にあるはずがない。


カメリアが律儀に目覚めたときの時間を確認していたようで、おそらく転移の二十分後、ということらしい。


もうちょっと記憶を漁ってみる。うん、昨日、11月以来のアップデートが来た。次回が大幅アップデート予定らしく、今回はそのつなぎの軽いもの、というのは涼子先輩の教えてくれた情報。が、父ちゃんと母ちゃんが頑張ったのか、私のDLはおっそろしく長かった。


ふむ、きっと凝りすぎて前回のタイミングで間に合わなかったものが完成して、今回送られてきたんだろう。


「なるほど。」


その意識を失っていた時間、間違いなく分断工作の時間。その目的、イクスを楽しませるため。そう、間違いなくここは、、、


「テーマパークね。」

「テーマパーク、ですか。それにしては、、、」


窓から外を眺めるカメリア。本質を見失ってはいかんよ。


「そう。遊園地とかそういうのって、ジェットコースターやらお化け屋敷があるから遊園地、じゃないでしょ?逆よ。遊園地だから、そういうのがあるの。忍者好きなら忍者屋敷、映画好きなら映画モチーフのそういうの。楽しませるためにね。」

「なるほど。」

「で、ここは、現代風。つまり、向こうを模してる。イクスにとっては、あるいはスケさんたちにも?最高のテーマパークだわ。」

「おお、確かに。」


イクスが納得した。


「で、それでなんなんじゃ?」

「つまりね、イクスにドキドキワクワクの冒険をさせるために、お伴はあんたら二人にしたの。おそらく実力測定とかそういうなんかで、私とスケさんははじかれた。セリナも多分そう、ね。」

「じゃあセバスは?」

「捕らわれのお姫様役、で間違いないわ!」


人選的には逆だろうが、実力的にはそれで間違いない。ちょうどいい実力のウドーとカメリアが一緒だったことが裏付けである。外見でなく、そこだけで組み分け判断を行ったのであろう。私とスケさんは妨害しないようああして軟禁していたんだろう。任された仕事も景観を元に戻すためのものだったし、局の名称も前にイクスの、をつければ意味が通じる。おそらくセリナも、あの真理省、だったか、のどこかで軟禁されているに違いない。


「なるほどのう。それで、どうなるんじゃ?」

「つまり危険は基本無い、ということよ!だから二人も大丈夫。確かめるためにも、あんたたちのスタート地点に一度向かいましょう。」


イクスの完璧な記憶を頼りにその場所まで進む。


「きっとこの辺りに、、、あった。」


お帰りはこちら、の看板。実際に出てみると、イセティコのポイントに出た。あれ、これどうやって向こうに戻るんだ?とりあえず転移を試してみる。あった。真世界、何ともな名前ね。


戻ると、やはりさきほど出た場所。出入り口はここで間違いない。きっちり私を待っていた面々にどうよ、とどや顔を送る。


「どうだった?」

「イセティコに出た。私の完璧なる推理が、間違いじゃなかったことがこれで証明されたわね。」

「さすがです。」


そのカメリアのセリフの直後、ドーンという大きい音とともに地面が揺れた。


ギラリと輝いた眼光。T.レックスさんがお出迎え、である。


「ミラージュ殿、あれは人懐っこい生き物なのであるか?」

「そ、そうね。人が好きすぎてお腹におさめたがるほどにね、、、」

「お主、、、」


いやー中々の推理だったんだけどなぁ。いや、違うわ。


「そう!このスタート地点で雑魚狩りしてたら楽しくないわよねってお達しよ。ビビらせて他へ行くように促すための、そういうのよ!」

「じゃ、確かめてみよう。」


その巨大肉食獣の所へ向かおうとしたイクスの肩を、がしっとつかむ。


「違うでしょ、こういうのはじゃーどうぞって、私に行かせるもんなのよ!」

「じゃあ、どうぞ、なのじゃ。」


ウドーが冷たく言い放った。ああ、やったるわい。最強の代名詞の一つであろうが、ここでは恐くないわ。恐竜じゃなくてただ驚かす役目の竜だってことを、驚竜だってことを、見せつけてやるわ。


一応エンストを何度もかけ続ける。ピカピカ光っているのが丸見えでカッコ悪いが、痛いのはいやじゃからの。


「おーよしよし、いい子ですねー。」


鼻先をこちらへ近づけるそいつ。いい子いい子しようと手を伸ば、、、がしっ、と両手で口の上下を押さえる。ぐぎぎ、中々の顎力。さすが、だわ。だが、屈服させて見せよう、実はおとなしいチワワのようなもんだと、証明せねば。


追加のエンスト。いつの間にかできるようになっていた威圧の目線、全力全開で浴びせる。よし、怯んだ!


後ろの面々に、ニッコリ笑顔で向き直る。暗くなる視界。ああ、噛まれた、わね。ひざ下、ガジガジされてるわね。しかし肉どころか袴を突き破られないわね。超性能の袴に感謝し、口内に入った右手で牙の一本をぶっこ抜いた。


アギャオーーー、と叫び声をあげ怯むティラノ。


その瞬間、アラームが鳴った。


一体次はなんだよ、としばらく待つと鳴りやんで、人だかりに囲まれた。


「我々は真理省絶滅危惧種保護局である!指定動物への虐待行為を確認した。規則に従い連行する!」


んー、これさ、絶滅種よ。危惧どころか危篤もこえてご臨終の生物よ。そうだよ、な?ああ、なんかますます混乱してきた。


牙を一本失ったというのに、新たにわらわらと現れた獲物をガジガジ食んでいるそいつ。


「あのー、隊員さん、食われてますが。」

「それがどうした!皆、確保!」


抵抗する気は起きなくて、私はこのゲームで二度目の連行をされることとなった。


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