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箱庭の君  作者: 鏡 龍彦
高校一年生 -春-
67/100

number tells -suuji_ga_kataru_koto-

結局のところ、いずれの勢力にも差をつけなければいいだけの話。


鑑賞側として、芸術の支援者として、そこのところをぶれさせずに伝えたらいいんじゃないですか?といった内容のアドバイスを玲央から受けた。龍からは必要になった際に数値化するアイディアをいくつか出してもらった。


陸とも相談して三号館の建設を開始することに。口出しはすべて無視、こちらの意見をゴリ押した。


出来上がったそれ。他の二つと合わせて、なんとも目立つ建物群に仕上がった。リクがそれぞれ収める作品群に合わせたものをとめちゃくちゃ外装を考えてくれたのである。特に今回は参考資料とかすごい大量に調べてくれたようで。


デザインされたそれら。最初の一号館はエッジの効いた外観。立方体を複数組み合わせたもので、上から見ると線の太いロ型だろうか。中庭には例の私を模したドット絵、芝生の色味による表現。窓から屋上から、どこからでも眺められるようになっている。


二号館は逆に曲線を意識したもの。柔らかい印象を出したかったんだとか。詳しいことはよーわからぬ。


そして三号館。アブストラクティブコンクリート、抽象的具体建造物。自分で言っててよーわからんが、矛盾の代用語の一つであろう。もちろん、コンクリートではなく石材なのだが。つまり、矛盾ではない。そもそも抽象画、という言葉自体変だからな。絵として描かれた時点でそれは具体物だ。だから抽象的な絵など存在はしない。建物もまた、しかり。


その用例の抽象はわかりにくい、をもじったものだ。そう直接に言っちゃうと、自分が頭悪い気がするじゃん。そういう偉い人達の、逃げだろう。


この数日でできた新たな三つの建物を一望できる場所から、様変わりした景観を眺めながらあれやこれやと、玲央にでもぶちまけたら間違いなく強烈な反論避けられないであろう取り留めない思考を繰り広げていた。


飾る作品には困らなかった。一号館、通称ドット絵館は自腹のものばかりだが、その話題でもって二号館三号館には売り込み多く、絵の是非の判別つかなかった私はセバスとイクス、ウドーにカメリアへと選別を全て押し付けて建物の製作作業にふけっていた。


「うーむ、素晴らしいわね。」

「ありがと、なんかこそばゆいよ。」


リクのデザインに対して。うん、伝える感想、それだけ。細かく表現できるような感性も語彙も、持ち合わせてないからね。もっと勉強、しないとな。


そうして三大勢力のいがみ合いは収束へと。一件落着万々歳、のはずが。






「我ら少数勢力にも作品を展示する場を!」

「そうです!不平等は、ワルタヤ様の意にそぐわぬでしょう!」


せやろな。おさまるわけないよな。文化派閥なんて、ほんとに山ほどあるもんな。


「リクさーーん、出てーーーー、、、」


先ほどからコールをつなげようと必死に虚空を撫でてオン確認。どうやら連日の製作作業で新たなアイディアをわかせるにはしばらく時間が必要なよう。連絡を入れて、考えるよ、と返事をもらった後、三日ほど音沙汰がなく、端末にてあともう少し、と本日夕方ようやく知らせがあったのだ。新たな何かを生み出す行為、相当な疲労があるのだろう。


「んー、ひとまず無難なものを建ててさ、リクが素敵なものをデザインしてきたらそっちに鞍替えすればいいんじゃないかな?」


イクス君の建設的な提案。


「さすがね。よし、あんたたち、任せなさい!」






「これは、お主、ちょっと弁解できんのじゃ。」


出来上がったそれ。童話や絵本でよく見る平屋。問題ないだろ。一時的なものだ。何が弁解できんというのか。リクの素敵造形で目が肥えてるだけじゃないのか?


「ちょっとウドー、ただの絵を飾るための家ですから、一時的なものですから、実用にかなってれば十分でしょうよ。」


しっかりと反論する。


「そうじゃな。中に入って、それと同じことを言えるのならな。文句もないのじゃがな。」


非常に引っかかる物言いをしてくるウドー。ベラスさんに負けまいと今日も枝先を絵具で汚して、無駄かもしれぬ絵画制作に勤しむ彼。自分ですら満足いく作品をいまだ作り出せぬこいつに言われたくない。なかなかの出来栄えではないか。私は満足じゃぞ。


「ミラージュ、、、中に入れば、わかるよ。」


イクスに促される。最近ほぼ一緒のカメリアも、なんか表情に陰りが見える。嫌な予感がする。間違いなく、私に見落としがあるのだろう。


「わかったわ。現実はたとえ非情でも、甘んじて受け入れないといけないこともあるものね。」


意を決して、建物内へと入った。


特に問題は、、、あった。たくさん作品が飾れるようにと、サイズを大きくした平屋。角度鈍角150度の斜め屋根に、まっすぐな壁、飾りの煙突。だってさ、絵本の家って、こういうのじゃん。ファンタジーって、そういうもん、じゃん。


ただサイズを拡大しただけのそれ、天井高すぎ、飾る面積は確かに広いが、大抵は遠すぎて駄目だ。


「なるほど、外面だけ整えても、駄目なのね。」


人間以上に、建物は内面も重要視されることを理解した。


各館の管理人はそれぞれの勢力より出してもらった。順にモノ、ジータ、トリス、テトナという名前にここではしておこう。順に一から四号館。派閥も順にドッター、印象、抽象、その他。


最初のクレームは当たり前のごとくテトナから。うちだけ手抜きじゃ、ありません?とのこと。手抜きではない。設計者が違うだけだ。頑張ったわ。本気は、出したわ。


続いてのクレームはモノから。庭が荒らされることが多い、何とかしてくれ、とのこと。なんてこったい。番スケルトンを派遣することにした。一応イクスにも様子を見るようにお願いする。


他派閥からの嫌がらせであったことが判明した。陰湿である。


次のクレーム。今度はトリスより。どうやら報復集中攻撃で風評を荒らされているようだ。文化人の文化的な攻撃。それは時に、直接暴力にはるかに勝る。おかげで集客が減り困っているとのこと。元々の原因の一部は彼らのせいであることは否定できないが、番スケとイクスによると、注意して以来ぱったりと止んだとのこと。


改心したのならそれを突かれ続けるのはかわいそうだと思い、イクスに庭デザイン、できない?とお願いする。いけるやろ、お主ならば。参考資料も揃っている。それらから共通点を抜き出して本質を抜き出して、抽象的な庭を造るのよ。これ以上リクに負担を負わせるわけにはいかぬ。


そうして三号館の庭も立派に。なんかこの庭、修学旅行で似たのを見た気がするわね。行きつく先は同じ、ということか、あるいは発想が使用言語の日本寄りになっているのか。いや、どうだろうな。


その対応を私たち側からの保護するメッセージと見たのか、風評を打ち消すことには成功した。かなりの程度、うちら美術館勢力はでかい影響力を持ってしまったようである。それが逆に面倒でもある。


クレーム四つ目、ジータとテトナから。これは来ることが想定できた。うちにも、ということだ。


乗り掛かった舟、要求通りに唯々諾々。こういうの、と向こう側から指定してくれたのでらくちんであった。


その頃になって、復活したリクにより四号館も立派なものに置き換わった。






「なんかさ、もうこれは戦いと変わらないよね。」

「そうね。戦場を、提供してしまったようね。」

「この頃は、集客数で競い合っているようです。」


自演可能な数字だよな、それ。自派閥の人たちを持ってくればいいんだから。水増しすら、してるかもしれない。カメリアが聞き知った各派閥の一日の来場者数、合計すると明らかに多い。街のキャパを超えてる。たとえ周辺地域の全住民が全ての館を毎日訪れたとしても、簡単な掛け算でその偽造が証明できるぞ。


これは数値化して競っていくものじゃない。そういうものだが。


「作品が、泣いています。」

「そうね。あんたも、泣きそうな顔ね。」

「どうすればいいと思う?」


青い瞳をこちらへと向け問いかけるイクス。その目が今回は最強の武器となろう。


「わざわざこっちの土俵に乗ってくれたんだから。それを生かさない手はないわ。白黒、パンダ並みにはっきりつけるわよ。」

「パンダ?」

「私たちの世界の霊獣よ。歴史的に、おそらく断トツトップの動物。」

「どういう基準で?」

「目的来場者数。」






〈今回の騒動、ただ芸術を多くの人に鑑賞していただく機会を与えたいと願った我々美術館側としては、大変遺憾に思っております。それゆえ、我々の手であなた方の評価を下すことにしました。基準はあなた方の提示に従います。それを明確に誤差なく実行するための改築工事のため、しばらくの間閉館となります。〉


区画全域を障壁で覆い、唯一の出入り口前に案内板を置いた。敷地内では筋肉担当による突貫工事が進んでゆく。この区画四方に配置された各館、そのちょうど中央に高楼を設置する。そして入口から高楼までの一本道、そこから各館へと四股に道を走らせる。分かれ道には先にある各館のインフォメーション板。


また高楼前、分かれ道へと向かう時に必ず目に留まる場所にでかでかと来場者数計測中、の文言板。この板の右下端に小さなサイズの字で注意書き。同一人物の二重計測は致しませんのでご注意ください。ただそれだけの一文。


意図的にしろ、無意図にしろ、こういうのって大抵小さく書いてあるものよね。


最後に各館の出口から、区画外へと通じる門。ここにも案内板。こちらから入った場合、来場者数へのカウントは計上されませんのでご注意ください。との文言。


「こんなところね。」

「上手くいくといいね。」

「そうですね。」

「じゃーイクス、開館から閉館まで、任せた。」

「うん。問題ないよ。」


全展望顔視システムが完成した。






開館日当日。大々的にその日付を告知していたため、非常な混雑となっていたらしい。夕方顔を出した時にもその様子は垣間見れた。早速閉館時間後にイクスから本日の数値を聞いた。それをそのまま美術館前にて掲示する。


「中々、素敵な結果になったわね。」

「そうだね。」


高楼前の通路を通る各人、その全ての顔は、コピーペーストではなく一人一人しっかりと異なる容姿になっている。丁寧に作られたゲーム様様である。


それら全員、覚えることなど彼にとっては朝飯前であろう。向かった先と紐付けしても余裕であろうな。そうして同じ場所への出入りを延々繰り返す輩については二重カウントせずに発表された数字、トップは最も勢力的に弱者であった四号館だった。


道理ではある。無党派層は、好き好んで混雑する中鑑賞したいとは思わなかったのだろう。混雑を厭う概念まで組み込んでいるとは、恐れ入ったわ。これは龍の想定にもおそらくなかった結果だろう。


日の落ちた美術館前、発表された数字に喧々諤々の皆。


当然来るは大量のクレーム。


「はいはーい、文句がある方はもう一度明日、高楼前の注意書きをよーくお読みください。右下あたりに注目、ね。では、今日はこれにて、解散!スケーー!」


彼が現れるなりウサギのように飛び跳ね散っていった。






不毛な争いは翌日、終結した。四号館以外全て、水増ししてた事実がばれた。それは強力な鎮静作用として働いた。


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