start line -soudou_ha_okoru-
久しぶりにある意味始まりの地といってよいブティーナへと降り立つ。街は復興が進んでいるようだ。溶けて積もった瓦礫も撤去され街は平穏を取り戻し始めている。
懐かしみを感じつつも、目的を果たすべく南へと向かおうとしたところ、一応今の状況をうかがってはいかがかとスケさんから珍しく指摘を受けてその通りにすっぺかと警備隊詰所へと向かった。
警備兵の話によると、最近彼等でもてこずるようなモンスターが街近くの境界に出没する頻度が上がっているらしい。怪我人も結構な数出ていて大変なのだとか。
「んーこういう時治癒魔法がしっかり使える人材がいれば、役に立てるんだけどね。」
ウドーのそれは応急処置程度で、本格的な治療ができるレベルではない。自分で取ってもいいが、今の構成は相当気に入ってるんだよな。速いし、力強いし、応用いろいろ効くし。おまけにまた一からスキルを磨くのは面倒だ。そう時間がかからないとはいえ。
「でしたら、私が。」
「そう、まあ特にこんな感じって決まってないなら、いろいろやるのもいいと思うけど。」
カメリアの申し出。否定はしない。
このゲーム、明確に自身の育成方針は二タイプに分かれる。一つ目は私やリク、レオのように理想的な英雄像があって、そこに一直線でそのままタイプ。もう一つはクーラさんやリュウのように何でもかんでもできるようにするタイプ。
特にどっちがどうってこともない。自分がそうしたいと思うようにするだけ。きつけりゃ意地を張らずに難易度下げればいいんだからな。
しかしながら導入された対人戦では特化型しか息をしていないのはゲームの世の常、である。役職指定があるし、細かい違いを除いて差異が出るのはコマンダーだけだ。
「はい。」
「んじゃ、できるだけ目についたモンスターを狩り取りつつ、南へ、れっつごー。」
カメリアとは、向こうで結構長い付き合いになる。知り合いがその昔からの友人を連れてきた場合、よくある話題は接点となった共通の人物の昔についてだったりすることが多いのだろう。向こうで陸と顔を合わせたときは大体涼子先輩の話に向かうことが多かった。そして今の状態、まさに私がその接点である。
ウドーの道案内にて、南の地帯を押し進む。ブティーナにて、雰囲気を出すために全員分のまさかりと斧を購入した。皆肩にそれを担ぎながら陽気に進む。細かいやつはまさかり組に任せて。私とスケさんは斧でもってどでかいやつらをぶち割るのじゃ。
「竜巻旋斧ラリアーーット!」
斧を両手に一本ずつ抱えぐるぐると回転する。以前の回転切りの改良バージョン。これなら蹴られない。ボゴっとそのまま突っ込んで敵トレントを大木断。一度、やってみたかったのよね。
「おお、それならば、蹴りを打ち込まれることもないですな。これは、例のものの改善技なのでは?」
「うん、リク相手にやってみたら?まあ間違いなく足払いね。」
「なるほど。それは、確かにそうであるな。」
相手に対する合う合わない、トレントなら、足払いはない。一方基本的に様々な手段を講じることができる人型相手には、そもそも何もできないと思ってよい。だからこそ、秀でた一つで勝負に出るのだ。奇策の類は相当周到に考えられたものでも、一発芸になれば十分程度。次は、無い。秀でたところが皆無ならば、負けるだけだ。1v1とはそういうものだ。もっとも向こうとこっちでは最初の一回の比重が違うので、私のこの考えは少しずれているのかもしれないが。
そんなことをスケさんと二人で議論していたら、カメリアも割り込んできた。
「そうですね。一度そういう方向に考えが及びましたが、師範に駄目出しされました。」
なんと、真面目なこの子もやっぱりそこには行きつくのか。
「いや、私もだわ。しょっちゅう新技考えては叩き潰されてた。」
「はい。見てました。私はそれの改良版を師範に見せて、それを叩き潰されてました。」
おうまいがっど。あの恥ずかしい技の数々、改良されるほど観察されていたとは。主に小学生高学年、ぐらいの頃の自身の恥ずかしいアイディアが次々思い起こされる。
「どんなのがあったの?」
「そうですわね。その師範という方のことも気になりますわ。」
「ええっと、まず二刀流ですね。これは正式に採用する方もおられる由緒正しきものなのですが、先輩のはちょっと変わってまして。通常は小太刀という防御用に攻撃用の太刀の二本なのですが、先輩は小太刀二刀流で戦うのです。」
おうまいがっど。なんかこれカメリアの恥ずかしい過去暴露でなくて、流れ的に全部私に攻撃方向が集中してないか?
名作古典剣客漫画に影響されて真似してただけのそれ。カメリアはその出自をどうやら知らぬ模様で一切恥ずかしげもなく説明を始めた。いやさ、そういう時期ってあるじゃない?私の場合多分少し通常よりも遅かったんだろうけど。
「ほう、いかなる効果が?」
「えっと、取り回しが良くて、防御にはすごく優れています。手数も多いです。」
ぐう、ここだと盗賊系が二刀ダガーとか普通やねん。クーラさんとか、器用系はそういう感じで魔法も駆使して戦うのだ。確か双剣用の武器もあったはず。誇らしげに語るカメリアであったが、私の方はちょっときつい。これは、今までにない攻撃方法だ。
「なるほど。ちょうど刀とダガーの中間ぐらいの長さのものと考えてよろしいのですか?」
「んー、そうですね。でもかなりの器用さが必要なので、簡単ではないですよ。」
「であろうな。それがしには無理であろう。」
意外に好評のようだった。すかさずフォローを入れる。
「スケさん両手大剣と片手大剣プラス拳闘の切り替えでしょ?それで十分よ。でも私やこの子じゃ、拳の威力なんて補助なしじゃ出ないからさ。そういうことよ。」
「なるほど。」
ふーむと唸るスケさん。まあここでは一般人程度には凶悪だけど、スケみたく弾き飛ばすほどではない。
「わたくしは少し興味がありますわね。」
「そうね。セリナには向いてるかもね。他にも普通に双曲刀とか、いろいろ型はあるのよ。ま、今度調べてみましょう。イセティコならそういうレアな種類のものも置いてあるかもだから。」
「そうですわね。」
うっし、流れ的にこれはここで終わりになったな。これ以上傷口が広がらないうちにまとめられてよかった。
「他には?」
間を置かず直でイクス君の悪意なき悪意の問いかけ。どうしよう。叫んで無理やり止めようかしら。
「そうですね、印象に残っているのは、水流剣でしょうか。」
「おお、なんかすごそう。」
ピタリ、足が止まる私。
「そうですね。言葉で説明するのはちょっと難しいですね、、、こういう感じです。」
背を収縮させ腹を伸ばし大きく後ろにのけぞった、サイバーパンク救世主が銃弾を避ける格好にて刀を後背で横薙ぐカメリア。そのまま背を再びぴんと立てて直後胡座をかき、そこからひねりをいれつつぴょーんと飛び上がって突きを放つ。
ええ、酔拳ですわ。酔と水の違いが当時わからんくて、流をいれたほうが格好良くね?と思って安直につけたんですわ。しかし改良したと言うほどはあって、動きにキレがある。本物っぽい。
「演武の一種のようですわね。」
「そうであるな。奇抜な動き、惑わされよう。」
なんかべた褒めである。違うのよ。それはね、びしっとこう、言い放つべきなのよ。ちらり、ウドーを見る。この流れ、こういう時辛辣な一言を放つのはこいつだ。
「そうじゃな。おぬしも、やってみせるのじゃ。」
皿を食えと申すであるか。いや、やってやろうではないか。現実を超えたここにて、最強の挙動を、実現しようではないか。
脳裏にて、くらくらな酒場のクーラさんを思い浮かべる。あれね。あのふらふら感ね。
気合の一声を放った後、私は不思議な踊りを踊った。
「わしなんか、魔法しばらく使えんかも。」
素晴らしいウドーの感想が森林地帯に小さく響いた。
「ここじゃ。あ奴らがそうじゃ。」
ウドーの指した先、凶悪な面構えのトレントたちがたむろしている。目が吊り上がり口は大きく裂け。がちがちとその牙とも思える尖った幹をかみ合わせながら得物を追い求めているのであろうそれ。凶暴さがにじみ出ている。というかやっぱりこの手の奴は肉食なのだな。無理やりこじつけるならば、食虫植物なんかの木バージョンといったところか。
しかしこれが相性いいのか、と温厚なベラスさんを思い不思議になるが、確かに我を忘れて製作にふける彼は鬼に憑かれたようだった。
「で、全部狩っても問題ないの?」
「すぐ生えるのじゃ。年を取ってわしのようにならん限りは、ただのモンスターじゃからの。それこそ、数日で元に戻ってしまいおる。」
道中現れるトレントを狩ることにさしたる感想もこぼさず、渋い顔をすることもなかったウドー。少し気が障ったのだが、安心できた。リポップするタイプのモンスターに対する認識は種に寄らず共通のようである。
「じゃ、木こり部隊、とつげーき。」
一瞬で片がついて、締めの一言をカメリアに無茶ぶりしてみた。
「5,7,5で、まとめてみる?」
「今の状況に対してですか?」
「うん。適当に。」
(・・・)
「刀持つ、両手を斧に、持ち替えて、剣豪断つは、新たな得物」
歌いおった。字数制限に合わせて、それなりにまとめおった。おまけに7,7追加して。
ベラスさんの新たな得物になるであろう木材を抱えて、戻ることにした。
「どう?」
「素晴らしいですね。今まで以上に良作が描けそうです。」
「そう、よかった。」
持って来た木材は彼の元々あったであろう体積の数十倍。保存とかは、考えなくてもよいだろうが一応の忠告はしておく。
「もし足りなくなりそうだったら、早めに美術館に連絡して。その連絡をこっちに伝わるようにしておいて、また用意するから。絶対に自分の体をむしっちゃ駄目よ。」
次の仕事は管理人さん探しだ。
「はい。本当にお世話になりっぱなしで、どうこのご恩を返せばよいのか。」
なんか少し前よりふっくらしている彼。セバスのお茶効果じゃろ、とはウドーの言。あれ、消費以上に戻るなら、それで解決だったんじゃ、なんて結論は後になって知ること。世の中、そういうものなのである。
「いい作品を、作ってくれればそれでいいわ。うん。」
「そうじゃな。」
新たな拠点の一つとなった美術館。クーラさんとリクは、南へとは同行せず、別館の制作計画を練ってもらっていた。ベラスさんの作品とドット絵はやっぱりラインを引いて飾るべきかな、と思ったのだ。
すぐ隣の土地も購入して、二号館の建設開始。完成はすぐだ。そして、結構な規模の総合美術館がこの街に出現することになる。
そんな私たちの文化的な活動が、この街にひと騒動巻き起こすことになるなど、浮かれ気分だったその時の私はこれっぽっちも考えてはいなかった。
街に吹き荒れるは戦争の風。激しい対立。言説飛び交い、自身の派閥の優位性をアピールする。結論の出ない芸術論争。評価基準は歪み無き鑑賞能力のみ。もっとも私に欠けたそれで、新たな敵と対峙した。
さて、どうすっか。




