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箱庭の君  作者: 鏡 龍彦
高校一年生 -春-
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consumption -syouhi_no_shikata-

「うーん、ほんとに困ったわね。」


目の前馬車内。押し込まれた大量の金。


「もう一台、買えば?」

「イクス君や。そういうことではないのですよ。必要ないのに持ち運ぶとか、無駄の無駄じゃない。まったく、なんで銀行というものがここにはないのか。」

「この間言ってた、お金を預けるところだね。」

「それだけじゃないけどね。無くても回るっちゃ回るんだろうけど、少なくとも我が家は火の車ですわ。いや、金にくるまわれ、ですわ。」


本当に、どうしたもんか。配って回るのもなんか気が咎めるんだよなぁ。こう、変に後ろ指を指されそう感。そういうものがある。


「イクス君や。超高額な絵画とか、売ってないかしら。検索してみてくんない?」


恐ろしい値段がする絵画というものはある。それらを二、三枚とこれ、交換してくれないだろうか。


超金持ちの心持ちが少し、わかった気がする。こやつら眺めててもすぐ飽きるが、名画ならば、目をいつでも楽しませてくれる。おまけに場所もほとんど取らない。有り余ってどうしようもない使い途としては最適な気がした。


「1000万金ぐらいのなら、いくつかあるみたいだよ。」

「それ!それよ!今すぐ買いに行くわよ!」


おそらくやり込み要素的なコレクション品だろう。重たい馬車を引き連れイクスの案内で店へと向かった。途中カメリアもやってきた。彼女の審美眼や如何に。






「で、これ、1200万金?」


目の前には抽象画。さっぱり何が描かれているのかわからない。


「地獄の光景、でしょうか。」


地獄、確かに赤く毒々しいが。見たままの感想を告げるカメリア。


「ふむ、この中央の青は、清らかさを感じさせますが。」


一番頼りになるセバス。まあ何だっていい。買うのだ。


馬車内の三分の一をその質量及び体積の数百分の一に変えて、次へと向かった。






「おお、これは、わかりやすい美女の絵ね。表情の憂いが、中々だわ。」


入った店にて、すぐに目に入った素敵な作品に感想を述べる。


「そうですね。私もこれは好きです。」

「はい。名作でしょう。」

「おいくらですの?」


告げられた金額、10万金。なんでや。何が違うんや。さっぱりわからんわ。


何にせよその絵とその店で一番高かった、さっきに比べるとだいぶわかりやすいものを購入して残りの半分を消費した。


「さあ、次よ。」






イクスの案内で最後に訪れた店。イセティコの街中、裏路地。高いところなら表通りにどでかい店を構えているもんじゃないかとは思うが、彼の言うこと、信じて店内へと入る。中はまさに、天国が広がっていた。


「これは、ドット絵ね。」

「ですね。どれも味があって素敵です。」


遥か古に一世を風靡した表現技法。わずかな色味とどでかい正方形でもって形作る、至高の芸術作品。


「おお、これは!なんと、こちらは!」


テンション高く作品を眺めまわった。






「ミラージュ、もういい?どれにするか、決めた?」


イクスに告げられ、買うべき品を選別する必要に迫られた。全部、欲しい。


「全部じゃ!」


心の赴くままに、一声告げた。






馬車内。特に気に入った作品を買えるだけ買って詰まった絵画群。さすがに全部は買えんかった。


「さて、二台目の馬車を買いに行きますか。」

「ええーーーー、、、」






「ふむ、一理あるわね。」

「そうですね。確かに、モンスターに破かれては涙しか残りません。」


必死に、だったら所蔵しておく倉庫とかそういうのを買った方が、と説得した。ミラージュは変な方向に変な反応を示すのだ。時折こうして突拍子もないことを始めてしまう。カメリアさんも似たような気質を持っているようだ。お金以上に絵画なんて持ち運んでも役に立たないだろうに。


「でもね、イクス。切実な問題ができたわ。」

「何?」


この買い漁った絵画の処理以上の問題なんてないと思うが。


「お金、無くなっちゃった。」

「また稼げばよかろう。」

「そうですわ。」


それらに同意するように首を上下にフリフリするカメリアさん。僕とウドーとセバスは、細目を向けて彼女たち三人と一体のスケルトンに残念な目を向けた。






「駄目!それは、駄目よ!」

「なんで?実物がいるわけだし、これが一番要らないんじゃない?」


いびつな造形の骸骨が描かれた絵画を、金に変えるべく売ろうかと手に取ったところで激しい抵抗にあった。手からそれを取り上げられ、スケさんの隣に据えられた。


「ほら!この技術の進化!その生き証人よ!歴史的価値よ!値段以上よ!」


よくわからないことをわめきたてるミラージュ。どちらも生きてなどいないというのに。隣のカメリアさんを見ると、またまたこくこくとうなずいている。どう見ても手抜きの絵にしか見えないんだけど。何か向こうでは異なる価値観が働いているのかもしれない。


「だったら最初に買ったこの3つの内のどれか、だね。」

「そうね。じゃあこれでしょ。」

「そうですね。」


0.8倍で売却ができるようだった。960万金。結構な額。


「これで倉庫が買える。文句はないよね。」


僕の一言に、うーむ、と腕を組んで考え込むミラージュ。まだ何かあるのだろうか。


「いっそのこと、美術館造ってみない?」






「つーわけでさ、協力お願いできない?」

「いいよー。楽しそうだし。」


目標のリクはすぐに引っかかった。一応他にも連絡したが、リュウにははっきり断られた。このところ難しい本を読解しているために大変なようだ。


そうして建築を開始する。区画は少し街のにぎやかなところからは離れている。三等地、といった評価が適当だろうか。


そういう方面に興味があり、将来進むことを多少考えているらしく、このゲームでいろいろな建物を造っているらしいのだ。そんなリクの建設計画は凝っていた。実現して見せようぞ。ドット絵美術館ということを考慮して庭やらなんやら、細かい指示が飛ぶ。クーラさんも張り切っている。カメリアとリクやクーラさん、レオの仲が良くなっていくのもうれしい限り。


「おおー、こりゃ、実際に出来上がったのを見るとすごいわね。」


中庭、屋上から眺めると、芝生で綺麗に描かれたドット絵袴姿の私。


「でしょ。アートミラージアム、完成だね。」


数日かけて、完成した美術館。館内には購入したドット絵群が鑑賞のために飾られている。出入りは自由。管理人さん的な人を、雇わないとね。


「私も作りたいとは思ってたんだよね。にしてもこの絵、ドット絵じゃないけど素敵ねぇ。こんなの、あったかしら?」


特に気に入っていたので、ドット絵ではないが入ってすぐに飾ることにした女性の絵に対し感想を述べるクーラさん。おや、これはもしや久しぶりの。


「印象に残るよね。これだけのもの、涼子が初めてっていうなら、間違いないんじゃない?」


早速イクスを呼んでみる。購入時運んだのは私だし、まだ触れていなかったはず。三度目が来たのかもしれぬ。この女性も閉じ込められているやもしれぬ。


「んー、メッセージはないね。」

「そう。絵自体はどんな感じ?」

「特に変わったところはないよ。もしそうだとしたら、描いた画家さん絡み、じゃないかな?」


そうか。何にせよイセティコにて早速二つ目の差異か。まだ確定ではないが、探しに行くことにした。


「あの絵の作者、ですか?」


購入した店にてまずは情報を求めた。ここで何もつかめなければ街をしらみつぶしが必要だが。


「それでしたら、東区にアトリエを構えているベラスというものがそうですよ。お気に召したのでしたら、是非援助の手を。時折ああして中々の作品を見せてくれるのでね。」

「ありがと。会いに行ってみるわ。」






「ベラス、男性かな。」

「そんな感じがしますね。」

「だねぇ。芸術家に会うのって、結構緊張するよねぇ。」

「感性が独特らしいですもんね。変に機嫌損ねないようにしないと。」


ゲストが混じりいつも以上の大所帯。平和な芸術の街を闊歩する。適当な人物を見つけるまではウドセバに美術館の管理は任せた。特にウドーは庭に描かれた絵に痛く打ちひしがれたようでわしも、作ってみるのじゃ、とか言っていた。


東区で道々ベラスさんのアトリエの場所を尋ねると、大体の人が知っていた。それなりに名が売れている証拠だろう。あんな絵がかけちゃうんだもんな。たどり着いたアトリエ、ノックする。


「ベラスさん、いらっしゃいますかー?」

「はい。ベラスです。」


目が、丸く。4人、イクスも、声が出ない。現れた絵描きさんは超細身の木人種だった。き、だからか!しょーもねーな!






「んでー、北の集落からここにきて、絵をかいてるのね?」

「そうです。」


ただのトレントのウドーに比べると形は人に相当近いが、組成が木。そして痛々しいほどにやせ細っている。健康を害しているのであろうか。慣れぬ街中での暮らしでストレスが溜まってるとか。ウドーと違って繊細そうだしな。


「なんでそんなに痩せてるの?確か木人種って体格のいい人が多いと思うんだけど、それに見るからに高さに比べて不釣り合い、、、」


リクが直球で問いかけた。問題を抱えているなら解決してあげないとね。話は早い方がいいわ。


「ああ、これはですね。」


そう言ってベリベリと自身の体の一部をむしり取りキャンパスにこすりつける。それで、描くんかい!喩えでも何でもなく身を削って作品を作る心意気は立派だが、その資源は有限だ。いや、しかし、なんだ。普通の鉛筆だと同族が、とかそういうめんどくさい話になるのか?


「ストップすとーっぷ!いかん、いかんよ。それ以上は、いかんよ。」


だったら顔料、あれなら石とかそういうのから作れるはず。何にせよそのまま没頭し始めようとするベラスさんを止めに入った。






「いやあ、何か皆さんを見たらインスピレーションが刺激されましてね。筆を取った瞬間、つい。」


別に体調が悪くなっているわけではなく、ただ身が削れているだけのようである。しかしこのまま描き続けたら、いつかなくなっちまうわけであるからして。


「鉛筆とか使わない?」

「だね。さすがに、見てられないよ。」


ひとまず何を言われるかはわからないが、代替案を提案してみる。


「いえ、肌に合うものでないと筆が進まなくてですね。」


想定内の返事だったのだが、言い草がひどくシュールなジョークに聞こえた。木肌を使って描くわけなんだから、肌が、肌に、肌で、合うとか合わないとか、混乱してきた。


「栄養をためればまた太い胴になりますか?」


ふむ、いいところに目をつけるはカメリア。もしそうなら製作活動を小休止しながら、進めばよいよな。


「なるでしょうが、そのためには作品を生み出し続けねばなりません。」


根が深いようだ。私たちの忠告をかなりの程度身に沁み込ませているのか、体毛代わりの葉を掻いている。まだまだ高価で売れる作品を量産できたりはしないよう。それが歯痒いのだろう。


「ミラージュ、しばらくの間の活動資金を援助しよう。その間に、肌に合う木の素材を探そう。」

「そうさねぇ。」

「ウドーさんに相談なさってはどうですか?何か知っているかもしれません。」

「そうね。じゃ、ベラスさん、ちょっとついて来て。悪いようにはしないから。」






美術館へと戻る。まだ出来上がったことを広めてはいないので、お客さんもいない。


「ああ、素敵な建物ですね。私の絵がこんな場所に飾られるなんて、気恥ずかしいです。」

「いい絵だもの。店に入って真っ先に目について惹かれたわ。安かったのが意外なくらいよ。」

「ありがとうございます。」

「こっちも、ここのこと、誉めてくれてありがと。」

「お客様ですか?」


セバスがやってきた。お茶をお願いする。化学反応は往々にしてわかりやすい組み合わせで起こるものである。彼の淹れたお茶を一口、カップを落として割った。体にぶちまけるが、お構いなしなようだ。どういう構造かは知らんが、表面からでも多少は吸収できるらしい。セバスのお茶に対し過去最大級のリアクションを取ったベラスさん。


「うごあぁぁぁぁ、、、」


自分を見失い、ベリベリと体をむしってそれを手に空いていた壁に絵を描いていく。鬼気迫るその様、気圧されて、止めようという気は起こらなかった。


「なんじゃい、うるさいのう。」

「ウドーさん、実は、、、」


絵具で枝先を汚したウドーが登場した。


事情を丁寧に説明するカメリア。こくこくとうなずきを返しつつ、絵を描くベラスさんの後姿を眺めるウドー。木同士、わかる何かがあるであろうな。期待を込めたまなざしで言葉を待つ私。


見事なウォールアートが10分ちょっとで完成した。どうやら伝導率最高の自身の木肌でもって魔法効果による着色を行っているようだ。肌に合う、とはこういうことか。


「すみません、壁を、、、我慢ができず。」

「いや、壁はいいけどさ。」


体積をまた減らした彼の体。壁に描かれていたのは恵みの太陽と小川の清流。山の頂上に太陽が接していて、そこから川の源流が始まっているようだ。先ほど飲んだお茶からのインスピレーションなのであろう。黙して語らぬウドーを見ると、枝を組みこくこくとうなずいていた。


「で、どうなの?あのまま描き続けたら、体無くなっちゃうんだけど。知ってることとか、無い?」

「魔法で描くのじゃろうな。じゃったら、伝導相性の良いものなら全く同じか、それ以上になるのじゃ。」


魔法の杖原理とでも呼ぶべきものがあるのか。結構そういうのって大事だよな。シャーペンやらボールペンやら、手になじむものだと違うわよね。


ここだと杖持ってるクラシカルなイメージのマギとかいないから考え着かなかったが、そういうことか。


「なるほど。相性の良しあしとか、どう判定するんですか?」


何とか式といったものがあるんだろうか。再び期待のまなざしで今度はクーラさんの方へと目を向けると、ないない、と手を振って返された。


「どれ、ちょっと触れるが、構わんかの?」


そう言ってウドーはベラスさんの下へと向かい、枝先で触診?した。


「ふむ、割と変わり種のようじゃな。まあ絵を巧みに描くようなやつじゃからそりゃそうなんじゃろうが。」


少しうらやましげな視線をベラスさんに向けて、述べた。


おおー、なんか今日のウドー、輝いてないか?いや、活躍の場面は相当にあったんだけど、トレントらしいところって今回初じゃんか。いつも想定以外の箇所、別に人でもトレントでもそれできるのはすごいわよね、といったところで力を見せてくれていたじゃんか。魔法はもちろん、ダンジョンポーターとか、鍵開けとか。


それが今回、ついに彼本来の持ち味が。トレントだからこそのそれが。


「で、どう?近場で見つかりそう?」

「わしがこの辺りのことを詳しく知っておるわけなかろう。」


ああ、そうだった。こいつは超辺鄙なところの住人なんだった。今日何度目かのガックシを感じた。


「しかしじゃ、南には丁度よさそうなのがごろごろ生えとるぞ。」

「さすがやな!」

「ですね。」


次の目標が決まった。



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