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箱庭の君  作者: 鏡 龍彦
高校一年生 -春-
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meet me there -kitai-

春の訪れを感じ始める今日この頃。


春の定番といえばまず卒業式。知り合いの三年生は早瀬先輩ぐらいなもの、涼子先輩と共に花を送らせていただいた。お別れ会とかそういうものは必要ない。遠くへ行くわけではなく、この間のように買い物でもお茶でも、いつでも連絡すれば会えるのだから。お祝いは演劇部の方で。そこにまでお邪魔するのは違うわよね。


そして定番二つ目入学式。一月後のそれにて、知り合いの出演が一人、確定した。


本日はファミリーレストランにて椿の合格祝いを皆で開いている。昨日発表、彼女から届いた合格の知らせ。それを聞いて急遽会を開くことと相成った。



「いやあ、我が薫陶の賜物ですなあ。」


お祝いの言葉やらなんやら一通り終わり、食事も大体済み、締めのドリンクを飲みつつそんな風に語った。


「はい。おかげさまで。」


基本こういうものは本人の頑張りが全てなのだが、言うだけ言っても良かろうよ。


「来年度はメンバーが一人増えるな。」

「そうですね。剣道以外にはさしたる興味がないのでしたらうちに入りましょう。」

「はい。そのつもりです。」


それには文句はないが、懸念が一つある。


その懸念は今私の隣で姿を晒し座っているのである。会が始まってから、めちゃ気になるようで時折ちらちらと椿は私の隣のメルクスへと目を向けること数十度。一切食事に手を付けず、言葉も発さず座り続ける彼女。おまけに私とそっくり。気にならない方がおかしいであろうよ。


「あの、、、」


そして意を決したのか、とうとう切り出した。明確にメルクスへと向けて、声をかけた。相当な勇気が要ったであろう。何せ誰も一言も言及しねーんだからな。一体何だと思ってもしょうがないというものだ。


「はい。」

「その、、、」

「私はメルクスと申します。以後、お見知りおきを。」

「はい。椿です。」


んー、必要最低限。二人ともそうしゃべる方じゃないしな。無口、といっても言い過ぎではないしな。こちら側からやはり多少の説明はすべきであろう。


「この子ね、未来から来たのよ。色々あって、ね。」

「そうですか。」


どう切り出そうか考えながら出た言葉はまた、必要最低限。おまけにたぶん、言葉の選択間違えた。突拍子もないボケに聞こえる気がする。


にしてもなんかこう、改めて考えてみると、何で来たんか不思議でしょうがない。守られている、んだろうが、今までのことを振り返ってみて、むしろ面倒事を引っ提げてきただけにしか思えん。


「そういやさ、敵対勢力的な輩は現れたのかい?」

「いえ。」


涼子先輩の問いかけに即答で否定するメルクス。ふむ、やはり、もともとそんな奴らいないんじゃね?


「あんたさ、本部とは連絡つくの?」

「はい、可能です。」


やっぱり。こいつきっとただの監視員だわ。あの子そうやって楽しんでるのね。直接来ちゃったらそれで終わっちゃうもの。この真面目で純真そうなアンドロイドに、嘘の任務を伝えて、報告を受けてるに違いないわ。


あるいはどうしても来れない事情があるからしぶしぶ、か。こっちの方が可能性は高そうだな。現状彼がひねくれていく気配はなさそうだが、果たして。


「まあいいわ。とりあえず椿は暇があったらうちでイクスの相手してやってね。」

「はい。」

「ふふん、信じてないねぇ、椿っち。まあこの後驚くよ。証拠はいくらでも見られるからね。もちろん、ここだけの内緒さ。」






双子の姉妹だとは知らなかった。最初に感じたのはそういうもの。けれど本人含めて誰も何も言わないので言い出しづらく、そろそろ解散かな、という流れになったときに思い切って尋ねてみた。


返ってきた返事は日本人にしては変わった名前を告げるもの。その後鏡先輩はもっと不思議なことを言った。


以前言っていたあのゲームの話が絡んでいるのだろう。何となく、本当の事なんだろうなと感じた。私の反応が薄いと思われたようだが、言い回しが冗談を言っているときの先輩とは違ったのだから。この中でも多分、一番先輩との付き合いが長いのは私のはず。見誤ったりはしない。


そう思っていたので、見せられたそれにもさして驚かなかった。うらやましいな、と思ったぐらいである。






「良かったのかしらね。」


鏡様が椿少女に私について伝えたことの是非について問うてきた。


「問題ないでしょう。私の目から見ても、非常に好ましい存在だと感じます。」


かねてより考えていた計画が、彼女の加入により進行しそうだ。以前の時も感じたが、どっちつかずの玲央少年に、上手くバランスを取ろうとなさる涼子様。これでは決着がつくことは無い。


二人の関係性はこの数ヶ月でよく理解できた。対立すること多々あれど、致命的な亀裂が入ることはあり得ない。そして現状、鏡様に微不利。前回、運による決着でも敗北を喫していた。そこに持ってくる新たな勢力として、椿少女は最適である。


私が介入しては鏡様もいい顔はしない。しかし彼女ならば。


「何でうちの高校に来たかったのかはいまだに謎だけどね。まあ受かったんだし何でもいいわよね。」

「そうですね。」


私には痛いほどわかるのであるが、その解答は鏡様の想定外なようである。彼に一応、報告がてら相談しておくべきであろうな。


部屋にたどり着き、約束していた時間になって鏡様はご自身の世界へと向かわれた。






「おっすおっす。時間通りだね。」

「お待たせしてしまいましたか?」


時間通りであったが、先輩はすでに入って来ていた。すぐにコールをかけて、通話をつなぐ。


「いやー。全然。すぐいらっしゃいな。今街の中だから。」


招待を受けて、承認して先輩の傍に降り立つ。変わらぬ人たち。


「カメリア、アンバイルぶりだね。」

「そうであるな。」

「よろしくお願いします。」


そう答えて、感触を確認する。ここはやっぱり、私の所とは違う。ぱっと気づいたりすることは無いが、それと思ってちゃんと意識してみると細かな感触が現実と変わらず存在していることがわかる。


「その、彼が?」

「そう。そういうこと。あの子の事とかは、禁句よ。影響出ちゃうかもしれないから。」


小声でそう返された。同意の頷きを返す。


「何?内緒話?」

「あんたら手間のかかる子たちのために、新しい保母さん役を買って出てくれたのよ。感謝なさい。」

「どうもです。」


お辞儀を一つ。


「うむ、歓迎なのじゃ。なにやら、忙しい事情が無くなったらしいの。」

「はい。」


受験の事だろう。


「じゃー今日は頼むわ。そう悪さする奴らじゃないし今までもこういう時はちょっと顔を出す程度だったんだけどさ。見てくれるだけでありがたいわ。んじゃ、またあとで。」


そうして鏡先輩、ここではミラージュ先輩は、粒子となって消えていった。


「うるさいのが行ったか。やれやれ。」


むむ、このウドーさんはミラージュさんのことが嫌いなのだろうか。


「こう言ってるけど、来ないと来ないでさみしがるんだよ。」

「むう、、、」


そうなんだ。素直じゃないおじいちゃん、そんな感じだな。


「それで、皆さんはこれからの予定とかあるのです?」


試験勉強のために向こうへと戻った鏡先輩の代わりをしっかりと果すために、まとめ役を買って出る。


「昨日お主が代わりに来ることを聞いての、皆で相談したんじゃが、見事に二人ずつで割れての。」

「やはり遺跡であろう。この数日、戦いが無かったからな。ここも楽しめるところではあるが、遺跡奥には強力な守護者がおるかもしれぬ。」

「そうですわね。」

「しかしカメリア様はここは初めてかもしれませぬゆえ、こちらをご見学なさるのが筋かと。」

「そうじゃろう。どうじゃ?どちらがよい?」


うーん、どっちでもいいな。でも、まずは実力をつけないといけないかな。勉強でほとんど遊んでないし、まずは最低限のものを身に着けたい。


少し迷ったけれど、遺跡を選択した。皆で向かう。


道中。


こういったゲームで遺跡探索だと、罠とかあるだろうしその対策はどうなのかと聞いてみた。


「ああ、それなら。」






遺跡内。毒矢、はじかれるそれ。落石、砕かれるそれ。回転床、叩き壊されるそれ。


「ミラージュ考案、スケさん罠探知。ちなみにミラージュも、同じことやってたよ。」

「探知というか、すべてかかったうえで無効なだけじゃ、、、」

「言わぬが花、じゃ。あほなんじゃ。実際まあ、有効な手段ではあるしの。」


確かにそうなのだが。楽しみの一つをぶち壊しているようで何とも言えない気分になった。


「あら、何かありますわよ。」


私はちょっと同じ真似はできそうになかったので、スケさんに先導を任せてセリナさんの指した方角へと向かう。部屋、と呼んでよい空間の中、蓋の閉じた箱があった。


「うーん、宝箱とか、でしょうか。」

「ううむ、開けてみるべきじゃが。」

「そうであるな。貴重な何かかもしれん。」

「ですわね!」


(・・・)


私の言葉に返すように続けて口にした三人。その内容とは逆で、しばらく待ったがその誰もが近づかない。


「えっと、、、」


こういう時こそ私の出番か、と開けようと近づく。がしっと肩をつかまれた。


「いやいや、違うであろう。如何にミラージュ殿の妹分とはいえ、抜け駆けは許されぬぞ。」


かなり強い威圧を伴って制止させられた。どうやら警戒心から近づくのをためらっていたわけではないようだ。


「その、こういう場合何か決まりごとが?」

「うむ、以前ダンジョンでな。似たような状況になった。ウドーが開けたのだが、大量の金が入っておった。」


なるほど、運要素的な何かがあるのか。


「その後また同じような状況があってな。今度はミラージュ殿が嬉々として開けてみると、擬態したモンスターであった。それもかなり強力な。焦って斬りつけておったが、中々にてこずっておった。ミラージュ殿が、だ。」

「がぶがぶ噛まれておったのう。あれは見ものじゃったわい。」


うん?じゃあ何を今は?よくわからなくなってきたぞ。


「つまり、モンスターを引きたいんだよ。二人は。」

「わしは開かんぞ。噛まれるのは嫌じゃからの。」

「お嬢様、危険に飛び込むのはいかがなものかと。セバスめは開ける前に一度斬りつけてみることをお勧めいたします。」


うーん、だったらスケさんが適任じゃないかな、と彼の方を見た。こくりと大げさにうなずいた彼。


「順番的には、師匠で問題ありませんわね。」


セリナさんも折れたようだ。近づき開く。開かれた瞬間、天井から障壁がおり、ドガシャーンと出口を閉じた。古典的な。その音に気を一瞬取られ、箱の方はと振り返ると、スケさんと牙で鍔競合いを行っているモンスターの姿が見えた。






「同程度の体格でここまで力で拮抗したのは初めてよ。」

「師匠は運も良いですわね。」


広い室内、観戦を決め込んでいた皆の手前、手を出すのは憚られて眺めていたが、力は確かに互角。けれど剣の技量は歴然とした差が。ところどころ、先輩の影響が垣間見えた。大剣とはいえ、彼の手では竹刀を振るうのと変わらないだろう。その差を感じてすぐ、的確に追い込むその手筋。昔私がやられていたのとおんなじだ。


こうされたら、こうするといいのよ。


言葉がよみがえる。


そのモンスターが倒されると同時に、閉ざされた扉も開いた。わかりやすい仕掛けだ。


「時間は、大丈夫?」


問われ、確認する。まだ八時過ぎだ。


「はい。大丈夫です。」

「では、先を目指すのじゃ。」

「次は私ですわね。」






「ここから二手に分かれるね。どっちもそれぞれの最奥まで続いてる。」


壁に手を触れ、先の様子を調べるイクスさん。私も触れてみたが、何もわからない。


「ふーむ、わしはこっちの気がするのう。」

「ではこちらだな。」


ウドーさんの指示した方向とは逆を示すスケさん。これは仲違いとかではなくて、そういうことだろう。


「ウドーさんの方は宝だから、その逆が罠、と思ったのですか?」

「そうである。」

「なるほどのう。どっちでも構わんが。」

「うーん、宝の前に強力なガーディアンがいるものですが。」


よくある設定を伝えてみた。


「なるほど、道理ですね。」

「そうですわね。私もそちらに乗りますわ。」


どうやらかなり信頼されてしまったようだ。どうしよう。適当に言ってみただけなんだけど。


道中。


「別に何もなくてもなんとも思わないと思うよ。」

「そう、ですか。」

「もう片方にも行けばいいだけだからね。」

「そう、ですね。」

「ミラージュ無しでこうして探索するのって初めてだけど、新鮮で楽しいよ。彼女は向こうではどんな感じなの?」


本当に興味があるようで、目を輝かせて尋ねられた。不必要に向こうのことは話さないように、とは言われていたけれど、その圧におされて先輩の事ならと話を始めた。


「へー。そういう出会いなんだ。最初にセリナのおうちで会ったときの印象からは、全然そんな風に感じなかったけど。」

「強く、してもらったのです。私は本当に、弱かったのです。」

「そっか。僕は、今も、だよ。でも、これからさ。」

「そうですね。私もです。」


行き当たった先には、宝の山。その前には、機械兵器。お約束はここでも正しいようだ。


ウォーンと機械特有の唸りをあげて、私たちへと向かってきた。腰に下げた刀を抜き、果敢にとびかかった。






街へと戻り、様子を見に戻ってきた先輩に戦果を告げる。運んできた宝を前に、また金が、、、とげんなりしていた。使い途とか、無いのかもしれないな。


そうしておやすみの挨拶をしてゲームから出てギアを外すと、目の前に先ほどと同じ人物。一瞬頭がホワイトアウトしそうになるが、すぐに今日の夕方のことを思い出して声をかけた。


「メルクスさん。何か御用ですか?」

「はい。非常に重要な作戦会議があるのです。」

「なんでしょう。」


語られた内容は、プンプンと怒るべきものであった。あの人、龍という男、鏡先輩の幼馴染で、ことあるごとに敵対するらしい。玲央さんと涼子さんは日和見で、現状先輩がやや劣勢らしいのだ。一筋縄ではいかないらしく、困り果てているとのこと。


許せないのは、私よりも付き合いが長いらしい事実。唯一勝っていると思っていたそれが、負けるとは。追い落とさねば。4月以降、部活で。それまでにしっかりと相談を重ねる約束をして、メルクスさんは見えなくなってしまった。


考える。先輩はすごく頭もよい。でもそれよりもさらに、すごいらしい。そんな人に勝てるのか。無理だろう。だから数は必要だ。陸さんについては、メルクスさんは触れていなかった。彼にも相談してみよう。力になってくれるかもしれない。


そう心に誓って、眠りについた。今日はとても楽しい一日だった。合格したという結果への喜びなんかよりも、新しく広がった世界、これから待ち受ける新しい世界への期待の方がはるかに勝っていた。


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