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箱庭の君  作者: 鏡 龍彦
高校一年生 -春-
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expression -en-

ついこの間、二度あることは、といったことを考えた。たいていの事柄には三度目がやってくるという意味の慣用句、だ。その意味するところについて、じゃあ一度起こったことには二度目があるのか、という点に関しては、言及がない。


断定口調で三度目が起こることを述べているのであるが、前提である二度目が起こるかどうかは黙して語らず。


何が言いたいのかというと、イクスへの素敵な贈り物、メッセージ。想定していたような情報は得られないままだけど、意図がいろいろ感じられるものばかりであった。しかしながら、メアは役に立っているが、正直もうちょっと、どうなの?という感覚はぬぐえない。少し今までのそれとは違うのだ。


つまり、簡単に結論づければ母親のプレゼントばかりで、メアは初めて引いた父親のプレゼントだ。それに対し一つしか無いなんてことは無かろう。だから二度目は存在するということだ。


そして今目の前に、それと思しき物体?が置いてある。


「おい?聞いてんのかよ?俺をここから出すんだよ。ドューアンダースタンディット?」


掠れた合成音声っぽい声音。軽い口調で話すそれ。イセティコへとたどり着き、早速入った店。怪しげな雰囲気でけったいな代物ばかり陳列されている。その中、前を過ぎると語りかけてきたのは一枚の絵。


「あんた生前、何して閉じ込められたんだって?」


先ほど聞いた事情を再確認。


「連続殺ジーン。シリアルキラーっちゃあ俺っちから始まったと言っていいね、うん。どうよ。役に立つぜぇ。殺したい相手とか、いんだろ?もう全部、お任せよぉ。」


別にそんな奴いねぇ。


「イクス、これは駄目よ。出ましょ。」

「ちょちょちょ、ちょっとまった、ウェイト、ウェーイト。」

「ミラージュ。」


やや訴えるような目で見つめられた。仕方ないわね、折れて、その絵を購入することにした。


「で、あんたは何でわざわざ自分の悪い過去をばらすのよ。」


何となく入ったお店にて売っていたその絵。特徴、しゃべる、閉じ込められた、出たい。状況としてはそっくりなのである。


「なんでってそりゃおめー最高のアピールポイントだろ?言わない方が変ってもんだぜ。」


頭は悪いのかもしれない。優しく嘘偽りを語りかけて解放されたら裏切ればいいのに。正直なところは好感が持てる、か。


言葉を解する絵ということで結構なお値段だったこいつ。剣を携えた男が描かれている。奥に女性っぽい造形。そういう構図である。語り口から、手前の男で決まりだろう。


「やっぱりそうみたい。」


作品へ触れるのは、と断られたので買う、買わないを悩んでいたのだが、買って正解だったようだ。購入したことで絵に触れられるようになったイクスがさっそくその描かれたものに指を当てて結論付けた。


「おいおい、坊主、何だ?触って何かわかったのか?」

「この近くの遺跡で解放できるみたいだよ。」

「おお、まじかよ!行こう、行こうぜ。レッツゴーだぜ。」


喜びわめく自称殺人鬼。


「みんなと合流してから相談しましょう。」






街の散策、スケセリ組、ウドセバ組、イクミラ組の三つに分かれて行っていた。最初に合流地点へと戻ったのはもちろん私たちで、少し後にウドセバ組がやってきた。


「どうだった?」

「中々じゃった。セバスがきれいなカップを見つめておっての、わしが買ったんじゃ。」


戦利品のようにそれを見せるウドー。おお、確かに良さそうだ。花の模様が丁寧できれい。


「たしか30万金ほど払ったが、問題ないじゃろ?」


ぐっと親指を立てるポーズ。結構なお値段ではないですか。ここにいればいくらでも余りまくってるお金の使い途がありそうですな。馬車内でいつまでも場所を取り続けているそれを処理できる機会にようやく恵まれた。体積比10:1ぐらいで交換できそうだな。


「散財してしまい申し訳ありません。」

「全然いいわよ。むしろ人数分買いたいぐらいだわ。」


で、こちらの戦利品について相談する。


「これは、絵自体も中々のものですな。」


セバスの審美眼。威圧眼を所持していることはわかっていたし、これも以前所持の確認はついた。ちなみに普段は三白眼である。


「よー、中々いかしたセンスを持ってるお仲間がいるじゃねーの。いや、いいとこに買われたね、俺っち。」


軽快に話す絵。


「ふーむ、けったいな物体じゃの。しゃべりおるとは。」

「おめーに言われたくねーぜ、ねーーぜっ!」


一理ある。


「その古代文明というのが残っておった頃ははるか昔なのじゃろ?したらこやつ、わしより年上、じゃな。」

「そーだぜ。敬え敬えー。」

「あと二人いるから、集まったら出発するわよ。」

「おう、どんな奴らか、楽しみだぜ!」


変な化学反応が起こらねば良いが。






「戻りましたわ。」

「セリッち、どうだった?」


興味の対象としてはそう楽しめるものもないのではと思っていたのだが、意外にも戻ってくるまで結構な時間がかかった。


「ええ、舞闘用の武器類が豊富でしたの。それで気になって師匠と演武やら見て回っておりましたのよ。」

「うむ。どれも見事な動きであった。」


なるほど。そういうのは好きなのね。


「スケさんなら動きの流麗さより、大木を縦割りとかそういう魅せ方がユニークね。」

「ふむ、見世物というのもまた技を磨く方向性としては一つの道であろうな。」

「そうね。それが実戦向けならなおさら良いわね。バランスは難しいけど、違った方向で進んでみるのも得るものはあるかもね。」

「私はステップを考えてみますわ。」


うむ、足運びは超大事だ。自分なりに改めて考えてみるのもまた良いことだな。


「ミラージュ。」


イクスから声がかかった。ああ、そうだった。すっかり話題が盛り上がってすべきことを忘れていた。


「スケさんセリナ、うちらはこういう物を手に入れたんだけど。」


そう言って例のものを見せる。スケセンサーの反応や如何に。


「おうおう、これまたいかしたお仲間じゃねーの。レジェンダリーに別嬪の嬢ちゃん。」


何と、絵画センサーがスケを識別しおった。


「ぬぬ、この絵、、、」


スケがすかさず反応した。何か言葉の表現を選んでいるんだろうか。一体どんな事実が判明するのか。


「しゃべりおった、とかそういう普通の反応はいらないからね。こうズガーンと一発、すごいの頼むわ。」


その私のセリフを聞いて、言おうとした言葉を喉?に押し込んだ。あ、潰しちゃった。


「ミラージュ様、、、それは、酷というものですわ。」

「ご、ごめん。」

「いや、なに、ミラージュ殿が良き相棒を見つけたと思ったのだがな。しゃべるとは思わなんでな。」


不思議なセリフを放ったスケさん。その謎はすぐに解明するのである。






イクスの道案内で遺跡奥地の一画へ。そこにあった装置を使って絵に閉じ込められた彼を解放してあげる。現れたのは一本の刀であった。


「こういう、こと。」

「おう?俺っちのフォーム変わっちまったなぁ。前は直剣だったんだが。」

「持ち主に合わせた型を取るのであろうよ。」


しかし、殺人鬼、か。まあ間違っちゃあいないわね。直接傷を与えるのは、いつもこいつらだからね。


その現れた刀を手に取り、鞘から抜いてみる。刀身が赤黒く濁っている。呪いとかそういったものはないみたいだが。


「おおっと、こりゃーやべー、こりゃーやべーな、おい。」


なんだよ。気にいらんってか?


「嬢ちゃん、俺ら相性良すぎるぜ!壁に当ててみ?」


言われた通り当てようとしたが、プリンにスプーンを突っ込むより容易にその壁の中に刀身が入っていった。


「うげ、これ、、、」


何の補助効果もかけず、力も入れずでこれである。危険な代物すぎるな。落ち着いて鞘に入れなおして、一息つく。鞘は大丈夫なようで安心である。


「嬢ちゃんの手に持たれるとああなるみてーだな。」


これはきっと禁止武器の条項に入るに違いない。これがあれば最高難度だろうが楽勝だからな。うちにしかないんだろうが。


「私以外だと?」

「まあどうだろうな。」


イクスに持たせてみる。抜く。刀身青い。綺麗なんだが。なんでや。


そのまま壁、斬りつける。カーンと響く音。


「次、セリナ。」


気にしないことにして、次はセリナにも試させてみた。刀身は普通の銀色だった。カーンと再び響く金属音。


「じゃあ一応、スケさん。」


スケさんにもやらせてみる。刀身はセリナと同じく。こちらもまた壁を切り抜くことなどなく。


再び私が持ってみる。一瞬で赤黒く染まるそれ。


「おおー、すげーぜ。本当にすげー。ここまで俺っちの力を引き出せる奴なんて初めてよ。」


しゃべる剣。性能はちょっとあり得ないぐらい。私が持つと。私以外だと普通の性能のようである。


「この子の時には青かったじゃない?ああいう色になんない?」

「さあなぁ。嬢ちゃんの悪ーい本性が出てるんじゃねーか?」


デコピン一発、柄にぶっこんだ。うぎゃ、と一言放って、気を失ったのかしゃべらなくなったそいつ。






「言い値でいいわよ。」

「では50万金でいかがでしょう?」


売り手が値下げを強要して不審に思われ買取拒否されてはいかんと思い、即決した。五倍になって金が返ってきてしまった。


お金を受け取り、アンティーク武器屋を後にした。


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