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箱庭の君  作者: 鏡 龍彦
続・高校一年生 -冬-
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interlude -3-

ルイナから北、こちらの大陸の三国のうち、唯一まだ一度も足を運んでいないところ。私たちは、今現在そこを目指して進んでいた。目的も完全になくなり、何するでもなく進んでいる。こちら側はルイナ内はもちろん北の二国にもまだ訪れていない街がいくつかあるので、何かすべきことが生まれないうちはそれらの場所を一巡りしてみることにしたのである。


こちら側をこうして馬車で進むのは結構久しぶりな気がする。レオリクと一緒にノースショアに行った時以来か。そのとき、これ以上人数増えたら収拾つかんな、なんて思った気がするのだが、あの当時と比べて増えたメンバーはというと、ロスパーとメアの二頭。どちらも賢く気高く世話いらずの三拍子そろう名馬である。もはや馬ってなんだろう、という根源的な疑問が湧き出なくもないのだが、翼があればペガサス、角があればユニコーン、であろう。そうして言葉が用意されているわけだから、そういうものなのだ。


飾り角なんてつけてみるのも、いいかもな。翼は、羽ばたけないなら邪魔だしな。


平和な道すがらほけーっとお日様の光を浴びながら、かぱらかぱらと三拍子を刻むロスパーに騎乗してガックンガックンしていた。


「ミラージュ、気、抜けすぎじゃない?」


すーっと横に平行移動してきたメアにまたがり声をかけてきたのはイクス君。もうほとんど自分の手足のように宙駆ける黒馬を動かせているようだ。


「いやあ、こっちは暖かいし、平和ですし。あっちでは本当に怒涛のきついのばっかだったからさぁ、ギャップでガックシとね。ほんと、ここまでの数日、なーんも起こらないもん。」

「まあ、そうだね。」

「不思議動物とかでも林から飛び出さないかしらね。ウォンバにメア、二度あったんだもの、三度目ってのがあるはずだわ。そういうのは、大歓迎なんだけど。」


自分で言ってみて、何か本当に来そうな気がしてくるから不思議なものだ。


三って、不思議な数字よね。環を構成する最小数。シンプルな古典力学での空間次元。原色も。三権分立、三人寄れば、女三人。さんさんと温めてくれる太陽。ああ、英語の太陽もサンだわね。ちなみに息子もいれば、将来も安泰だものね。


大抵のことは3で片が付くことをあほな感じに結論付けて、第三者の意見を聞いてみた。


「スケさんや。3という数字について語らんかね?」

「3であるか?」


御者台でいつものように馬の手綱を握っていたスケさんへと問いかけた。言葉をそのままとらえると興味ない感じの返答に聞こえるが、表情としてはやや興味を引いた感じだ。


「いやね、二つだと、対立しちゃうじゃん。ぶつかっちゃうじゃん。でも3つあれば、何でもうまくいきそうな気がするのよね。ほら、剣だって、、、こうして、、、ほら。」


ロスパーから降り、剣を三本、互いに交差120度で寄りかからせて地面に立たせてみた。


「ふむ、なるほど。これは二本ではうまくいかんな。」

「でしょうよ。」

この場合摩擦も効いているのだが、細かいことは良かろう。


その私とスケさんのどーでもいいやり取りを見て、イクスがなんか深い思考を始めたようだ。とんでもないことを言い出したら、上手く返答できるかしら。


「だとしたら、生物がうまくいかない原因は根本的なところで二つだから、だね。」


雷、落ちた。今現在、外と内のバリエーションで2×2の4つに増えてはいるものの、確かに、そうだ。大分類では、一種ごとに2つだ。それを根本的、と表現したのだろう。


そして今目の前に、人種の三つ目となりうる存在が、いる。


いや、考えすぎだわね。長年上手くやってきたもの。発展してきたもの。足りない一つを努力と工夫で乗り切ってきたのよ。それに性別が対立原因だったことって、戦争とかそういうものに関してはないはず。


それに一つしかないのにうまくやってたりとか、そういうのもいるはずよね。あんまし詳しくはないけど。


「二つで上手くやってるわけだし、むしろ中々すごいってことじゃない?」

「そうだね。」


止まった馬車から顔を出し、地面の置物に興味をひかれたセリナがセバスと一緒に二本で剣を立たせていた。器用な子やな。






「集落ね。今日はあそこで一晩の寝床を間借りしましょう。」


中規模の集落にたどり着いて、ぞろぞろと入り込む一団。早速最初に見かけた人に声をかける。


「一晩の宿を借りたいんだけど、どこに申し出ればいいかな?宿とかあればありがたいけど。」

「ああ、ありますよ。」

「どの辺り?」


(・・・)


「あの、、、」

「はい。」

「宿の場所、どこでしょうか。」


(・・・)


ガン無視、というにはこちらに目を向けている。ちょっと怖い。どうやら頑なに宿の位置は教えてくれないようだ。何なんだろうか。面倒くさいことではあるが、今までにない反応だったので気になって、少し粘ってみることにした。


にらむ。威圧混じり。どこ吹く風。スケさんにもお願い。影響なし。もしやこいつ、凄腕なのでは、と思い確認のため寸止めボディーブロー。少しゆっくり目に放った。


それには大きくのけぞって、逃げていった。


「なんだったのかしら。」

「ふむ、不可思議な反応でしたな。」


スケさんの同意。後ろにいた他の面々にも意見を聞こうと振り向いた。クエスチョンマークを浮かべる面々。


「どうか、した?」

「師匠にミラージュ様、一体どこに話しかけておりましたの?」


は?隣のセバスも、セリナに同意の頷き。


「どこって、さっき逃げていったあいつ。」


指差す先、走っていく先ほどの人物の後姿。間違いない。


「おぬしら、ボケたか?」

「おじいちゃんに言われたくないわよ!」


言葉ではそう返しつつも、少し、震える。マジか。ゲーム内とはいえ、想定外すぎてちょっと怖いぞ。


「スケさん、間違いなくいたわよね?」

「うむ、間違いなかった。」

「イクス?」

「男の人、逃げてったよ。」


どうやらイクスにも見えたようである。


「ウドーは、見えなかったのよね?」

「何も見えなんだ。」


むう、ほぼそういう系で確定か。私とイクスは例外として、他に見えたのがアンデッドのスケさんだけだもんな。


好奇心を刺激されて、ここでしばらく調査をしてみることにした。






次に出会った人からは場所をしっかりと聞けて、宿へとたどり着いた。清流の流れる穏やかな村である。妙なところは特にない。店主なら村の事情にも詳しいだろうと思い、いろいろ尋ねてみる。


「最近この村で変わったこととかあった?」

「いや、変わらぬ日々だな。あんたらみたいな旅の連中が止まっていくくらいだ。」

「知らない顔を見かけたりとかない?」

「外からくる奴以外でって意味なら無いな。」


そうか。秘密を抱えている村とかそういう可能性もあるが、一応聞いてみるか。牙をむかれたところで、どうなることもないしな。


「特定の人にしか見えない人がいるとか、ない?」

「なんだそりゃ?幻術使いの類か?今そんな奴は宿泊してないぞ。」

「そう。隠し事とかあるなら、どうせ私たちが暴いちゃうわよ?」

「へそくりは勘弁しといてくれよ。」


特に億面無く、おどけてそう答えた店主。


「そ。ありがと。」


やや支払い多めで、宿代を払った。部屋へと皆で向かい、状況を確認する。


「実質目撃したのはそれがしだけということであろう。」


スケさん、イクスは私と同列扱い。


「そうですね。イクス様以外では、ミラージュ様とスケ殿しか目撃しなかった、というところは引っ掛かりますね。」

「そうですわね。」


セバスにセリナ。彼らはイクスからの私、の順のようだ。なんかちょっと、認識の違いが垣間見えて面白いな。そうなる何かを私のいない間にイクスはしゃべるとかやるとかしたんだろうか。


腕っぷしだけの私に比べて、こういう不思議な状況ではイクスの方が信頼が高いのかもしれない。


何にせよそこは大事な情報。スケさんとセバスの言に私も頷き、考えうる理由を想像する。


「こやつを除けば、あほつながり、じゃな。」

「あん?」


枝先を見るまでもなく、さした先がイクスであることは明白。だからにらむ。


「ウドー、それならセリナも目撃してないと、話が合わないよ。」


おお、イクス君がさりげなく毒を吐いておる。うんうん、そうよね。ちらりセリナを見ると、彼女も深く首肯していた。それでええんか、セリナよ、、、


ん?


「ちょっとイクス、今の言、私を除外してなくない?」

「いやあ、分類としては、スケさんとセリナ、ウドーとセバスの組かなって。前衛の実力者。」


なるほど。悪気はないようだ。前衛、は別にしても、一定の身体能力保持者ということか。セリナはそのラインを超えていないため。それなら彼女に見えなかった理由が説明できる。


「武器などは所持しておりましたか?」

「んー、持って、無かったわね。」

「そうであるな。」

「うん。」


三人揃う。目撃した内容にずれがある、ということもなさそうか。


「でも確かに、スケさんの威圧にも全くひるんでなかったのよね。私の控えめのパンチには逃げ出したけど。」

「そうであるな。」


もう一度男の姿を思い返す。悪意のある類ではなさそうだった。


「よし、スケさん、今から探しに行こう。見つけたら捕まえて、ここまで引っ張ってくるわよ。」

「了解した。」

「僕も、ついていくよ。わかることもあるかもしれないしね。」


目を閉じあれこれ考えていたのであろうイクスもついてくる宣言をした。






そう苦労することもなく、見つけることができた。さっきの男、小川の向こうに立っていた。近づいて声をかける。


「さっきはごめんなさい。」

「ああ、これはどうも。」

「イクス、スケさん、見える?」


首を縦に振る二人。


「あんた、何者?」


ストレートに、尋ねてみることにした。


「ここの住人は、嘘しかつきません。」


クレタ島人みたいなことを言いおった。表情を眺める。馬鹿にしている感じではなく、いたって真面目顔だ。


「忠告のつもり?」

「私はここの住人ではありません。しかしこの川より先のことは、語れぬようになっているのです。」

「それで宿の場所は教えてくれなかったのね。でも他の人はちゃんと教えてくれたわよ。嘘じゃなかったわ。」

「そうであったな。」


スケさんが相槌を打つ。


何ともかみ合わない。こういう経験は、以前にも数度こちらで体験した気がするが。


「今日のうちに去ったほうが良いでしょう。そうすることを、お勧めします。」


そう言って男は粒子と化してかき消えた。


「ありゃりゃ、こりゃー、、、」

「神の類であろうな。」

「ですよねー。誰か想定、つく?」

「この辺りが好きなのは、芸術のワルタヤであろうか。」


うーむ、どんな設定の存在だったっけか。


「イクス、ワルタヤさんってどんな人?」

「芸術を愛する神。イセティコで特に信奉されているね。この辺りはほとんどないみたいだけど。物静かでただ作品を作るものに祝福を与えるだけらしいよ。」

「もらったのは明らかに警告よねぇ」

「そうだね。」

「ま、言うとおりにしましょうか。取り返しがつかない事態は、嫌だもの。」


急遽宿をキャンセルして、皆には野宿をお願いした。






「ああ、忠告を無視しても何もないよ。次で何か入るんじゃない?」


昨日の変わった出来事を涼子先輩に伝えると、そう返された。


「そうですか。でも私とスケさんにしか見えなかったのはどうしてです?イクスはまあ、置いとくとして。」

「あほつながり、だな。」


うぜーことを言い放った龍。効くかどうかはわからんが返しを放ってやる。


「昨日ウドーにも同じこと言われたわ。お堀づくりで長い間共にして思考が似通ってきたみたいね。」

「うぐ、、、」


結構効いたようだ。


「まあ、それは置いといて、プレイヤー以外は条件があるんだよ。随分シャイな神様みたいでね。」


条件、スケさんのみが満たしているそれ、アンデッド?いや、関係なさそう。芸術神だしな。地上の人に見られたくはないから姿を隠しているわけだ。私たちプレイヤーは例外。だとすると、、、


「ああ、同位存在との直接接触の有無、ですかね。スケの奴は、プルスと何度か対峙してるんだろ?」


む、龍に先を越された。しかしなるほど、確かに。直接ぶった切っているスケさん、それなら、例外だと思っていたイクスも条件に適っていたおかげで見えたという可能性も出てくる。


「正解。さすが。」


見るだけじゃなく、会話したりぶった切ってようやくってことね。謎が一つ解けた。


「一度悟りを開けば、見えるものが変わるということですね。」

「なるほどね。私もどっかでばったり神様にでも巡り合わないかしら。」

「滝行でもしてこい。水に頭を殴られて、余計ポンコツになるかもしれんがな。」


ぐ、切り返しが、とっさに出ない、、、ぐぬぬ、、、


「あんたらさ、いい加減にしたら?」


ほんわかした感じで、涼子先輩からの打ち止めの一言が間に入った。あの氷球をぶち込んで以来、ほとんど冷戦状態でことあるごとに互いに突っかかっているのである。


「そうですよ。決着がつかなかったんですから、痛み分けで良いでしょうに。」

「だってこいつ、魔法にシールド、おまけに消えたりで小狡いんだもん。まともに相手したら三秒で斬り倒して決着だったわよ。」


思い返す。治まりつかぬ口論の末、レオの1v1でけりをつけては?という言葉に即透明化して魔法を放ってきたリュウ。


「あほか。最大限効果的な手だろうが。与えたダメージは俺のが多かったんだ。むしろ俺の勝ちだと言ってよかったはずの所を引いてやったんだからな。感謝すべきだろ。」

「最初の氷球のダメージを除けば、でしょ!そこ、計算にいれましたかー?いれてないですよねぇ?」

「ありゃ不意打ちだ!1v1を始める前だ!」

「私もあれは入れてはいけないと、思いますよ。」

「そうだろ?ほら、玲央も言ってる。」


ぬぬ、第三者からの介入、これは、屈するべきか?


「あたしは入れてもいいと思うけどねぇ。」

「!でしょ?ほら、涼子先輩はこっち側よ!」


四人じゃ2―2に割れるだけで、その後も決着はつかなかった。






「リバーシでいいだろ。」

「いや、駄目っしょ。それあんた有利じゃん。」

「将棋。」

「勝てる気せん。いや、違う、そうじゃなくて、えっと、もっとこう、神頼みが通じるような、運でバーンと決まるようなの。運じゃ、しょうがないっしょ。納得するっしょ。カラオケ勝負で負けても、あんた絶対納得しないじゃん?私だってそうよ。」

「なるほど確かに。じゃー、、、」


勝負を決める勝負も一段落ついて、漫然とした話し合い。最後は結局これなのだ。


「ジャン、ケン、ほい!」


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