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箱庭の君  作者: 鏡 龍彦
続・高校一年生 -冬-
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animus

やはりだめ押しは必要なようだった。実際に目の前で起こることでわかることもあるというものだ。そういうものを、用意しておいた。


「ああ、そんな、、、」


イクスの告げた言葉を聞き、悲嘆にくれるタプハラ。相当に心境の変化があったよう。すかっり信じ込んでいる。


「最後の慈悲を与えましょう。神の御業を、目撃しなさい。」


そう彼へと言葉を放ち、神社建物内で白ローブを羽織った後ロスパーにまたがり浮遊した。白馬に乗り、空をかける。


連絡を入れ、リュウレオを呼ぶ。今回のために設置していた簡易ポイントに降り立ってもらう。


私は目標地点で、連絡を待った。遅い。頼んでいる身とはいえ、遅すぎる。イライラしながら待っているとようやく、コール音が鳴った。


「どう?」


すぐに出て、状況を聞く。


「ああ。決壊させたら、10分後ぐらいにそこに至るな。ちと想定外になってたせいで少し遅れた、すまん。」

「わかった。ありがと。避難状況は?」


避難勧告をさせていて私より少し遅れてここに着いたイクスに、確認する。


これから先一刻の間、街の障壁の外に出ないように。周知徹底。外壁から眺める分には構わない、被害は出させない。


「大丈夫。タプハラさんも協力してくれた。上手くいったよ。かなりの人が、見てくれるみたい。」

「ありがと。リュウ、レオ、準備できたわ。」

「じゃ、行くぞ。」


数秒後、コール先から轟音が鳴り響いた。うるさいので切る。


「しばらくしたら、洪水が来るわ。縦に真っ二つ。スケさん、エンハンス・ストレンクス、限界までかけるわよ。ウドーはタイミングを合わせてしかけを発動。イクス、リュウレオを拾ってきて。」


彼の返事が届く前に、音より早く駆けるメア。


背に乗せ一人ずつ。二人とも、ここへと至ったときには失神していた。


頬をパンパン、たたき起こす。


「ああ、何だったっけか、、、」


まずはリュウ。


「うーむ、何か記憶の奥底に引っかかるものが、、、」


続きましてレオ。こちらは二度目の体験。


計一分もかからず仕事をした。


「あんた、もう慣れたのね。」

「うん、最初はくらくら来たけど、今はもうそれもないよ。」


そう、この子は最初の時ですら意識を失っていなかった。さすがなのである。ちなみに私も怖いものみたさで必死に機嫌を取って乗せてもらったが、頬がちょっと痛い気がした感覚が残るのみであった。つまりリュウレオと同じく。


「あと五分、といったところね。」

「でさ、ミラー、、、」

「腕がなりますな。切れ味の良いのは、こちらの方であるか。」


そう言って、雷刀を引き抜くスケさん。


「あほーーーーーー!それやばいから!納めなさい!大剣、大剣よ!」


必死で喚いた。


「む、そうであるか?」


すごすごと残念そうに鞘に納めて、大剣の方を引き抜くスケさん。ほっと一息。運が悪ければセリナ辺りが死ぬ危険があった。想像できたのか、ブルリ震えた彼女。


「師匠、水に雷は危険ですのよ、、、」


変な感じになって、そのままイクスはリュウに促されて上空へと退避していった。






激しい振動が伝わってくる。押し寄せる洪水だろう。武者震いが走る。命の源のそれが、今は牙をむいてやってくる。洗い流すには、最適ね。


「レオ、リュウ。」


彼ら二人からも、想定される事態に備えた魔法をかけてもらう。スケさんセリナ、ウドーに私。それ以外はスカイウォークやら乗馬で上空退避。


「スケさん、一番槍は、任せたわよ。」

「うむ。」


満足そうにうなずく彼。まずは彼に真っ二つに割ってもらう。


「ウドー。」

「問題ないのじゃ。街の左右に抜ける手はずはぱーふぇくと、じゃ。」


リュウの指導の下ここ数日、ウドーがしっかりとここまでの道筋およびここから先流れ抜ける道を作っていてくれたはず。事前準備は完璧なようだ。それを発動してもらえばよい。


最後のひと手間、私たちがこの場でさも斬ったかのようにみせる、まあほとんどそれを実践するんだが、ことと、万が一それた場合の対処。初撃である程度の勢いを殺せれば、細かいところは私とセリナで十分だ。


「よし、セリナ、見えたら、クイックンよ。」

「はい。」






ゴロゴロと響いてくる音。緊張、するわね。ゴロゴロ、音が近づいてくる。ん?ゴロゴロ?


現れたのは、超巨大氷球であった。遺跡探索で厄介事に巻き込まれる考古学者も真っ青の、ボーリング。


「んー、想定外ね。」

「であるな。いかがいたす?」


これ縦にぶった切ってもそのまま壁にぶつかるな。固体だと、用意してある道、関係なくね?ウドーの防壁だと、いくら重ね張りしてもすべて突き破りそうだ。


どうしよ。止められんこともないんだが、奇跡としては弱い気がする。しかしそれもまた刷り込みのせいか。ま、ここは後のことは考えず止めときゃいっかと結論付けると、空から声が聞こえた。


「奇跡を目撃せよ!」


聞き慣れた声。拡声効果をかけたのか、辺りに響いた。見上げると、リュウの野郎がにやにやとした顔を浮かべていた。


あいつ!面白くなると思って!有言実行、おまけに黙ってた!許さん、これは、許されん。想定外で頭真っ白で私たちが押しつぶれたりとか、考えないのか!いや、考えたから、だろう。


復讐すべき事柄がまた増えて、でも今は目の前のそれの対処が先だと思って、取りうる最善策を、必死で思考をまわしていく。


いや、無理だ。怒りで、したいことが一つしか浮かばない。落ち着くために、深呼吸。うん、駄目だ。落ち着けたところで、結論は変わらん。


ついさっき、やらねばならぬと思いついたそれ。解決策は、一つ思いついたらそれで満足しちまうもんだ。別解考えるとか、時間の余裕がない状況で中々労力が向かうところではない。もう一度だけ考える。うん、大丈夫。気の迷いじゃ、無い。角度も位置も、問題ない。


「虎蹴げぇぇぇぇーーーーーーーーき!!」


世界を取れる右でもって、有名な必殺シュート、しっかりと狙いを定めて蹴り上げた。


見事、ブチ当たった。ゴール、決めましたわ。あれ、死んだかもしれん。ああ、ついにやってしまいましたが、後悔はありません。






洪水もとい大氷球、蹴り一線で上空へ。飛ぶ龍落とす、その威力。


地面へと落ち、割れて欠片が四散して。


「メア!」


命令して、細かく砕けたその欠片たちを、黒炎で燃やし尽くしていった。


黒はきっと悪魔の色。燃え尽きた先には何も残らず。アンバイルの上空に引かれるメアの残り火。


街へと落ちる軌道のものすべてを焼き払って、一息つくと、歓声が上がった。






「何とも言えない結果よね。誰かさんのせいでね。」

「仕方ねーだろ。凍ってたんだから。転がすのに、結構な労力割いたんだからな。お礼を言われてもいいぐらいだ。」

「まあ私は弁解いたしません。」


レオは素直に悪乗りを謝っていたけど、リュウの方はミラージュにぶっ叩かれて怒っているようだ。


「あんたらなら、速攻溶かせたじゃない!そうすりゃすべて計画通りだったわよ!」

「液体より固体の方が制御しやすいだろうが!だろうがよ!実際、おれんとこに見事にぶちこんでくれたわけだしなーあ!?」


何か、始まってしまった。


「イクスさん、向こうへ行っていましょう。」

「うん。」


彼らと同じく、様子を見に来ていたクーラさんの下へとレオとともに向かう。


「狐火みたいで綺麗だったねぇ。」


今回出番がなかったクーラさんが、不思議な言葉を放った。


「狐じゃなくて馬だと思うけど。」

「ああ、違うのさ。ついたり消えたり、そんな様子をね、表現した言葉。古より伝わるアイディアなのさ。人を騙すとか惑わせるとか。私はロマンチックだと、思ったけどねぇ。」

「なるほど。」


解説されて、納得した。確かに、そういうものだったのかもしれない。


「そうですね。」

「可愛らしい奴らじゃからの。納得じゃわい。ろまんちっくとは、いい響きじゃの。意味は分からんが。」


出番のなかったウドーも、感想を述べた。


狐火は、僕が灯したものたちで、終わったんだろうか。そうだったら、いいんだけどな。











「鏡様が、元気になられました。」


このところ彼女は楽しそうだと報告を続けていた。花の効果があったかは判然としていないが、何か力になれたのではないかと、それだけで快適な感覚に満たされる。


「今日は、特に元気だったんじゃない?いや、怒ってたかな?」


やはり。既に経験した事柄に完璧な予測を交えた彼、こちらのことなどお見通しなのだろう。


「花を、買いに行きました。」


にっこりとその返事に笑顔を返して、ルートガルデは元気かい?と聞いてきた。うなずく。


「原因を、お聞きしても?」


んー、と思考するそぶりを見せて、まあ、いいよ、と肯定。


「向こうの人たちが、悪さ、でいいのかな、気に入らない行動をしてたんだ。それで、、、」


語られる内容。理解できた。やはり、私の介入がいらぬ迷いを生じさせたのだろう。


「ミラージュ達の御業を目撃して、信仰、というよりは考え方、と言った方がいいのかな。僕が伝えた意識はより真実味をもって広まってね。そうして予想外なことに、アンバイルはペーレとの同盟を持ち掛けた。最もそれはまだ、彼女は知らないことだけどね。クラペ、、、クーラさんによると、中々ないことらしいわよ、わたしは結構、満足だわ。って。そう感想を告げてたよ。まだ先の、話だけどね。」


そんな感想を彼女が述べるのはまだ先のこと。


彼が彼女とこちらで顔を合わせるのも、まだまだ先のこと。一瞬で過ぎるはずの時間が、今はただ長期にしか思えない。待ち遠しい、のだろう。











翌日、学校から帰ると、母さんに声をかけられた。


「鏡ちゃん、部屋の鉢植えの花、珍しいものみたいだけどどうしたの?」

「ああ、友達にもらったの。外国の、貴重な花なんだって。」


嘘ではなかろう。


「そう、なんていう花なの?とてもきれいよね。」

「んー、、、ルートガルデ。」


自室にて、その花を眺める。ひっそりと白く輝くそれ。


道々モンスターどもをなぎ倒し、最後の手前で二匹残す、遠くで陰ながら見守る。そんな数週前の記憶がよみがえる。少なくとも、悪い思い出にはなっていなかったようであることを、先日部屋に置かれたこれを目撃して知った。


「良い名かと。」

「ありがと。」


メルクスに褒められた。昨日あの後、神社を立てた場所は更地に変えて、撤収した。狛猫は壊すに忍びないのでセリナ邸庭の新たな飾り物として設置することにした。


それから先は知らんぷり。本当に、余計なお世話、うざったい奴の代表よね。


あとは濁さず、は実行できただけでも良しとしよう。


「仲間を、買いに行きましょうか。一輪だけじゃ、さみしいかもしれないし。メルクスは何色が好き?」

「何色でも。」


むう、そう言われるのが一番難しいのだが。


「まあ、いいわ。そうね、いろんな色があったほうが、いいものね。」


近くの花屋へ、安めの花を買いに行った。


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