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箱庭の君  作者: 鏡 龍彦
生後半年 -初めてのおつかい-
54/100

hana_saku_niwa

中々に楽しき余興を終え。時間をかけても仕方ないとさっさと中層を突破することにした。


既にその戯れの中でこちらの実力の程度を理解したオリガは驚くこともなく。ノーマルな水準ではあり得ない短時間で下層へと至る唯一の入口にたどり着いた。そこで待とうかとも思ったが、時刻を確認するとまだまだ余裕。イクスとウドーの足で戦闘ゼロで進んだとしても数時間は余裕がある。


待ち続けるのも暇なだけだし、と下層を進むことにした。


次々現れる敵集団を蹴散らす私たち。オリガはセバスとともにその様子を眺めていた。


自然に決まったスケセリ私の三人での交代制、一人が休み。二度目の私の休みの番になって、オリガセバスの傍で戦う二人の様子を眺める。別に二人と違って戦い続けたいわけではなし。新しい出会いのオリガと会話を交わす方が有意義かな、と二人の様子を眺めながら、戦闘を一切の問題なく終えて戻ってきた二人にその旨を告げた。キラキラと輝く双眸二セット。どうやら2v1の氷龍とは勝手が違う2v多数にご満悦のようである。


「一応行っておくけど、ケガはしちゃだめよ。セリナ、安全第一よ。」


その私の言葉に深く頷きを返すセバス。


「ご心配なく。わきまえておりますから。」


うむ、よろしい。え?スケ?怪我など、彼の辞書にはその二字は無い。1か0だ。そして1を引ける相手は、ガチ中のガチの私やゲストか、差異の何かだけだ。






しゃくしゃくと果物をほおばりながら、ひっきりなしに現れるモンスター集団と二人の戦いを眺める。


「にしても意外なほどにこのナイフは有用ね。」

「そうですね。また一つ、お役に立てることができるようになりました。」


セバスもえらくご満悦である。実はお茶入れ以外は苦手だったのである。手先不器用。けれど長年の修練?の賜物によってマスタークラスと至ったユニークスキル。そういう一芸は、プライスレスよね。


「お役に立てているようで何よりだわ。で、どう?こういうのがあったらいいとか、何かある?」


オリガの旺盛な知識欲。手元に持った光る槍で明かり完備、雷刀はスケにより文字通りの神器と化した。そしてこの実用性100パーセントの短剣。快適に過ぎる魔窟探索において文句も不満も出るはずもなく。


ズズッと変わらぬおいしさのお茶を飲みながら、オリガへの返答を返した。


「そうね、全自動お茶入れ機能搭載の何かとかあったら、まず買うわね。この味に比肩できることは決して無いでしょうけど、普通の一杯でも、この味を知らない限りは心安らぐと思うわ。」


セバスのお茶入れ作業を今回も念入りに観察してこぼした結論。


使っている道具とか、そういったものの癖をすべて把握して時間配分やらなんやら考慮してるんだろうなと思い、感想をこぼした。


「これは、無理ね。」


素直に降参するオリガ。


「お気に召していただけたようで、何よりです。これだけの事ではありますが。」

「セバス、前も思ったんだけど、謙遜しなくていいからね。スケもセリナも、私で代替可能だけど、あんたは無理よ。そのことだけは、ちゃーんと認識しておくのよ。少なくとも私をかばって無念、、、とかそういうのは期待してないからね。セリナをかばうなら許すけれども、もちろんそんなことにはさせないけど。そう言うのは私やスケさんの役目だからね。」


何となく思いついた言葉をセバスへと向けて、こくりとうなずく彼を見て、戦闘が終わり戻ってきたセリナも聞こえていたのか頷いて、ほわほわした雰囲気で戦闘後の休憩を続けた。


「ほぅ、ミラージュ様の言うとおりですわ。」


まだ温かいお茶を飲んで、感想をこぼすセリナ。


「そうなの。この際だから、ちゃんと伝えておくわ。私はどんな怪我したって翌日には元通り。神の、、、御使い、なのよ。だから優先度は最低よ。」

「それがしはいつもそう思っておる。つい先ほどの立ち合いも、前のそれもその前も、真っ二つにする意気込みで臨んだ。ミラージュ殿には手加減されているとはわかっていてもな。」


改めてその言葉を自身から発することには抵抗感があったけれど、即座のスケさんの返しに心は落ち着いた。


「素晴らしいわね。一応言っておくけど、あんたこのところマジでやばくなってきたから、この直近の二回は立ち合い水準で可能なレベルでの本気よ。その前は、あんまし覚えてないけど。誇っていいわ。」

「そうで、あるか。」

「もちろん、御使いがそう簡単ではないこともわかってね。カメリアの時のあれ、私でもできるんだからね。木剣同士なら、負けないわよ!」


刀なら、その胴を分かつ。それはできない。木剣なら、ぶっ飛ばすだけで済むだろう。避雷針代わりにもなる、のか?何にせよ次は負けるわけにはいかぬ。


「なるほど。では次回は互いの主装は木剣にて。その際はこの雷刀を副装として解禁してもよさそうですな。」

「そうね。」


にやり、互いに笑みをかわす。


「わたくしの道程もまだまだ山頂には程遠いということですわね。」


私とスケさんのやり取りに、吐息交じりにこぼすセリナ。目は、ため息をつくシチュエーションには似つかわしいものではなかった。


「セリナお嬢様、私は先のビオでのデュエルの光景を見られただけでも、今思い出しても涙が、、、」


そうですわよね、なんてセリナの口調をまねて同意の言葉を放った。






最下層奥地の一か所。洞窟内には珍しく、花畑が広がっていた。日光など差さぬ場所、ファンタジー特有の不思議植物の類であろうか、控えめな白でその美しさを主張する花の群れ。その中に、場違いな無機質が紛れ込んでいた。


「あれ、何かしら。」


当然気になって声を発する。


「ここ、文献にあった場所だわ。」


オリガが私の問いかけに対する答えとはやや外れた言を述べた。とてとてと花の中へ入り、その無機物質を手に取って鑑定の目を向ける。


「これが、、、これが彼女の求めていたものだわ。間違い、、、無いわ。」


わなわなと震えが止まらず、手にしたそれが落ちた。落ちて割れてはいけないと思いそれを宙にいる間に拾って、効果欄をのぞいてみる。


〈光耐性100パーセント。身につけることであらゆる光属性に基づく影響を遮断する。光属性の補助、回復の効果も遮断してしまうことに注意すべし。〉


心当たりがあった。これを探し求める存在については。


「事情を秘してた理由わかったわ。」

「気まぐれで、そのアンデッドを打ち払うのか?」


吹っ切れたとはいえ、まだまだその影響の干渉残る我が口元は、冷徹に感情込めない機械的な一文を放った。それに対する強烈な敵対の意志を込めて、オリガは私へと言葉を発した。


うれしかった。その歓喜に堪えられなくて、私はすぐ隣にいたオリガを抱きしめた。


「違うのよ。違うの。そうじゃ、無いのよ。」


ほのかに香る、こびりついた汗のにおい。完全には除去しきれなかったみたいで。






「いったん戻りましょうか。」


よくわからない、といった表情の面々。その花畑で休憩を取った後、そう提案した。


中層へと至り、早速目に入った探窟者連中へと駆け寄り問いを発するオリガ。


「ルーは、今どこ?」


飾ることなく直球で発した問い。心の内が透けて見える。どうやらそのヴァンパイアは、ルーという名前らしい。


「すまん、知らねーわ。俺らはこの辺りにしばらく籠ってたから、少なくともこの近辺には顔を出してないと思うぞ。」

「ありがとう。」


どうやら探窟者連中の間では有名人のようだ。迫害されているわけでもないらしい。


「上層の方が、聞く相手は多いわね。」

「うん、ありがと。」


そのまま中層を駆け抜けて、上層へと至った。道中数は多くなかったが、出会った探窟者たちに同様の問いかけを行った。イクスたちの情報も同じく求めたが、得られるものは何もなかった。


入口まで戻る傍ら、諦めずに同様の情報収集を行い続ける。


「ああ、ルーなら最近は南側に居を移したらしいぞ。」


明確な情報を得た。その情報を信じて南側へと向かう。結構な距離があるが、強い意志の前にそれはさしたる障害ではないようだ。


洞窟内、オリガの勢いにおされて南へとひた走る面々。


「ああ、今日の昼前会ったぜ。変わった二人を連れてたな。見ない顔だし、新人だろう。上層を案内してたんじゃないか?」

「それ、その二人、詳しく。」


突っかかる。間違いないだろう。


「ルーと同じで珍しい白髪の男の子と、トレントだな。弟か何かなのかね。」






「あんたの探し人と私の探し人、どうやら一緒みたい。」

「変わったすれ違いね。奇妙だけど、意図を感じないでもないわ。」

「そうかしらね。」


別になんだって勘ぐれば必然に見えるものだ。人はそういう性質を持っている。そんな風に必然だと予想して思考を進めた数多くの試行の中、本当に必然であったものにぶち当たることもあって。そんなものなのだ。


「こちら側から下層へと向かったということですの?」

「でしょう、ね。」


ほんの少し引っかかって、考えを巡らせた。


私にお願いすることなしに、ウドーを連れて向かった。目的地も告げて。それは偽りではなかったことが、目撃証言からわかった。


だとしたらすぐに追いつかれる。待ち構えられる。彼がその予測を間違えたりはしないはず。


行きたいところがあったならば、最初から私にお願いすればいい。そういう積極性は手に入れたはずだ。考えなしに行動したのなら、、、昨日の事を怒られるから?短絡すぎる。そうして焦る彼の姿は、想像できない。


「セバス、イクスが出てくときの様子、もう一度詳しく。」

「はい、、、そうですね。ウドー様だけがついてくることを強く主張しておりました。行先を問いましたら、少し考えた後、魔窟へ、と一言答えていただけました。」

「ありがと。」


やはり焦って短絡的に行動に移したわけではないようだ。だとしたら少なくともウドー以外が一緒じゃ不都合があったのだ。私も含めて。私には言えない、言いにくい何か。だから夜の間にセリナ邸を出た。真実を告げたのは心配させないためか。


そうして本日出会ったルーという名の誰か。データを読み取ったのは間違いない。そうできるほど、オリガの言うことを信じれば善人だ。それを読み取ったイクス。事情を、知ったはず。その上で、協力を申し出たのだろう。


「オリガ、そのルーって人の事情、ちゃんと全て打ち明けてくれる?必要だわ。うちの者が、お世話になっているんだもの。異論は、ないわね?」


語られた事情は、それとわかるぐらいにわかりやす過ぎるものだった。間違いない、差異だ。メッセージ付きの、プレゼントだ。











「さすがに甘く見てたわねぇ。」

「そうだね。」

「このまま逃げる分には問題なさそうじゃの。」


目の前には上級のデーモンの集団。数が多すぎてこれはちょっと突破できそうにない。単一のデータならウドーと僕だけでも何とかなると想定していたけど、集団で居座られるだけでルーを含めても不可能となった。


すごすごと、三人上層へと戻る機構の下へと忍び足で戻っていった。


「さて、どうしようか。」

「ひとまずこの素材を売りたいわね。」


戻って復活していたデーモンをもう一度倒して手に入れた二体分の素材。おそらくそこそこの総額になっているであろうそれら。


「馴染みの仲介屋がいるんだけど、一緒に来る?」

「そうじゃな。無理と分かった以上あ奴らと合流する以外ないしの。よいか?イクス?」

「そうだね。」


どう説得しようかと思考しつつもそのまま三人、魔窟出口付近へと向かった。無事素材を交換できて、鉢植えを手に入れたルー。


「花が、好きなの?」


聞いてみた。彼女の仮住まいにも同様の鉢植えがあった。


「探し物があると言われてる場所、花が生えてるらしいのよ。洞窟の中に咲く花。毎回こうして違う種類の花を持ってきてもらってね、どうせすぐ枯れちゃうんだけど、もしかしたら、ってね。で、そういうことなら南の砂漠の植物の方がいいんじゃないかって教えられて。砂漠とか言われてもわかんないんだけどさ、なんか強いらしいのよ。」


僕にとってのミラージュは、彼女にとっての花なのだろう。外の世界へと通じるパス。そのミディウム。彼女の抱える鉢植えの花に触れる。植生その他のデータ。魔窟内の植物も検索する。


すぐに見つかった。下層の一画に、彼女の言うとおり花の生えた特異な場所がある。先ほど向かった場所とは反対方向だ。中層を経由して降りたほうが近い。こちらを、優先しようか。


「今から、向かう?途中駄目だったら、さっきみたいに引き返せばいいし。」

「そう、ね。」


今度は短縮ルートを使わずに、中層へと向かった。


中層を進むこと自体は全く問題がなかった。恐いのは途中ミラージュ達にぶち当たることだけ。いや、今の目的を考えるとそうなった方がいいんだけど。


言い訳、何にしようかな。足りない経験をしてみたかったとか言ったら、どうだろう。うーん、そう、ならそうすべきよね、とかいって最下層奥地に連れて行かれるかも。さあ、這い上がっていくのよ、とか言って。結局道中の敵は全部ミラージュが斬り倒すんだろうけど。過保護、だからね。






下層へと降りる。先ほどのことを考慮して、目的地まで取れるルートの中、なるべく広い空間に出ることがないように目的地まで向かう。一体相手なら、三人でも対応できるのだ。


道中、不自然なまでに敵に出会うことは無かった。


最後、目的地手前、どうしても避けられない大部屋。ここを抜ければ花の一室まで。けれどその広間には二体のモンスター。数は少ないが、いけるだろうか。


「どうするのじゃ?」


待てると言っていたけれど、先ほどから黙りこくってしまっているルー。戻ろう、と言ってしまうのは、酷な仕打ち。


「まったく。途中で待ち構えておるかと思うたのに、必要な時にはおらんのじゃからのう。まああ奴はそういうやつかのう。」


ウドーの愚痴再び。確かに、すでに朝から昼を回って相当な時間が経過している。既に地上は日が落ち始めているだろう。正規ルートで一つしかない下層入口で待っていると思ったけれど、出会うことは無かった。無いものを期待することはしてはいけない。引くべきか進むべきか。もう一度ルーの顔を、表情を見る。目が合った。


「ルー、ウドーと一緒に片方を相手して。僕は、そっちに二体目が行かないように引きつけるよ。」


挑発して、一体の気を引き続けるぐらいならできるだろう。ケガも、大丈夫だ。彼女の今感じている苦悶に比べれば、大したことではない。


「戻り、ましょう。こんなに下層を進んだのだって今日が初めてだもの、十分、だわ。また今度、しっかり対策を練って、それから、で、いい。」

「いける。今手を伸ばせば、届くよ。」


先に待ち受ける恐怖。これもまた新たに手に入れた邪魔者。それをしっかりと制御して、冷静に思考する。危険なのは僕だけだ。それは本当に一切引き返す理由にはならなかった。


シャキンと剣を抜いて、敵の一体の下へとひた走った。


奇襲、にはなったのだろうが、たどり着くまでに僕に気づく二体。そうして僕へと視線を向け態勢を整える。


(クイックン)


何となく、念じてみた。光は灯らず、効果は出ず。


(火球!)


こちらは問題なく。動きの遅そうな方へと、避ける方向を想定して撃った。大した威力などないのだけれど、大きく横に飛んで避けたそいつ。


「ウドー!ルー!そっちは任せた!」


その言葉とほぼ同タイミングで、確定した、変更しようのない着地地点へと向けて放たれる岩弾。


それで意図は伝わったと確信して、もう一体の方に集中する。声を、かけてみるか。


「言い残しておくこととかある?もうすぐいなくなっちゃうんだから。」


何とはなしに僕の放った言葉の意味を察したようで、ぐあうと一声、不機嫌そうにうなった。


黒いデーモン、上級だ。サイズも一回り大きい。


こうして対峙すると、恐れはなくなってしまっているのがわかる。やるべきことをただやるだけ。時間を稼ぐだけ。120秒も持たせれば十分だろう。


スッと踏み込んで、剣を一振りした。そのまま敵の挙動をしっかりと観察し続ける。


引く。敵の右腕が空をえぐる。あれにぶち当てられたらそのまま剣ははじかれるだろう。手元から抜けるだろう。


落ち着いて判断し火球を数個苦し紛れにぶつけて、距離を保ちつつ左へ移動する。


体の向きをしっかりと僕の方へ調整するそいつ。威力の無さにおちょくられているとでも思ったのだろう。さっきよりもずっと不機嫌そうな表情を浮かべている。


でも残念だけど、これが全力。


(!) 


突進が来た。横っ飛びでかわす。ゴロゴロとそのまま前転。考えられうる限りの最速の方法で距離を取る。その行動を終えてすぐに立ち上がって突進してきたやつを見る。その視線の方向から飛んできた火球、手にした剣で振り払う。


次は氷棘。数が多い。けど当たったって突き刺さりはしない。数本を剣ではじいて、残りはローブで受け止めた。少し勢いに押される。


「君の魔法も、大したことないね。」


衝撃から来た痛みをこらえにっこりと笑って、そう言葉をかけてやる。突き刺さって終わったと思ったのだろうが残念、これは僕のできたことだ。


転がりかわす、無様な様。


できないものは、ローブで受ける。剣ではじく。


長いなあ、長いなあ。そうして意識がもうろうとしてきたところで、ルーの剣がきらめいた。ああ、やっぱりそれも、ミカヅキだね。






「何とか、なったけどね、、、」


三人になって、相手をしていたもう一体も処理ができた。


「これでいいんだ。行こう。」


何も言わせず、奥へと歩みを進めた。


ちょこちょこついてくるウドー。ルーも、ちゃんと来ているようだ。


「お主、変わったのう。いや、もともとあ奴がおらねばそうだったのかの?」

「どうだろうね。」


思考する。出会わなかった場合の道筋を。風車畑で、眺めるのにも飽きて、危険を前に外へと飛び込んだだろうか。


結論は最速で出た。






データ通り、暗い洞窟内に花の群れ。けれどその中央に、光り輝く槍が突き刺さっていた。


「ああ、綺麗、ね。」


白い花。彼女の髪色と同じ花。本来そこにはないはずの明かりに照らされて、輝き光る赤き瞳。


「この光は、大丈夫そうだね。」

「ええ、温かみを、感じるわ。」

「なんか槍に巻かれとるが、ありゃなんじゃ?」


確かにウドーの言うとおり、石に無理やり鎖をつなげたペンダントのようなものが巻かれていた。


そっと触れてみる。それは彼女の求めるものだった。


「ルー。」


壊さないように丁寧にそれを槍から取って、ルーへと手渡した。槍のデータも流れた。何か関係があるのかと判明した製作者の名前でも検索をかける。


そう、ここに先に来たんだね。手は貸さないって、そう決めたんだね。大丈夫、ちゃんとやり遂げたよ。ミラージュ。


「この花、一本ぐらい持って行ってもいいかな?」

「良いんじゃないか?どれ、わしが運ぼうかの。」


花の一本を、土魔法で根っこの部分からふわふわと浮かせ持ち上げてくれた。


「じゃあ、戻ろう。中層までは安全じゃないからね。」






暗い夜を一晩魔窟で過ごして、びくびく震えるルーの手を引っ張って出口を出た。日に照らされる彼女の体は、痛みを感じることもなく。初めて見上げる青空は、残念ながら曇り空だったけど、そういうものなんだろう。


「色が、多いわね。目が、忙しいわ。」

「すぐに、慣れるよ。慣れちゃうのは、嫌かもしれないけどね。」


多分そこにいるんだろうなと、オブリガルデという人の工房へと向かった。


中には予想通り、みんなが待っていた。


「ただいま。」

「おかえり。カッコよかったわよ。」


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