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箱庭の君  作者: 鏡 龍彦
生後半年 -初めてのおつかい-
53/100

pursuit -konnkai_ha_nonnbiri_to-

「ふーむ。」


魔窟北の最寄街にて四人散策する。魔窟産の素材やらその加工品やらが売っていて興味深い。クラクトとは違い雑加工なところが逆に味が出ていて面白いなと思いながらぼんやり眺めていたところで視界へと入って来た一品。目にして一瞬で焼き付いた。


今目の前にあるその一品を眺めながら、どうしたものかと顎に手を当て考えていた。


「嬢ちゃん、欲しいのか?」


店のおっさんが声をかけてきた。揉み手をするでもなく、ぶっきらぼうに。


「これさ、説明してもらえる?」

「おう。うちの今目玉の商品よ。最近馴染みの奴から仕入れたもんでな、雷を発生させる機能をつけた魔剣さ。」


そう。このおっちゃんの言うとおり、先ほどからびりびりびりびりとその刀身に雷をまとっているのだ。フォームも中々に美しき刀で、新たな手持ちの一本として加えても良いのだが、なんだか嫌な予感がするのである。


「手に取ってみても、大丈夫なの?」

「ああ。構わんぞ。」


ぐっと右手親指を立てて合図を送ったおっちゃん。それを見て、柄におそるおそる手を伸ばす。ごくり。熱いとわかってるおでんを口に入れる気分だわ。このただ雷発生機能を付けただけ感、すごいわね。


「一応聞くけど、今までこれを手に持った人いる?」


やはり臆して手を引っ込めておっちゃんの方へと向き直り、問いかけた。


「そりゃいるさ。ここに置いたのは俺だからな。」


そりゃそうだわ、とその事実が確証となって安心し、柄をつかんだ。


「あびゃーーーー。」


びりびり来た。


「話、、、違くない?」


嘘をついた店主にジト目を向けると、彼はポケットから手袋を取り出し、ぴらぴらさせながらニンヤリとした顔を向けた。ゴム、手袋、だと、、、


「どうだ?切れ味は十分、切りつけた相手を硬直させる雷付き。この手袋とセットで三万金。値引きは受付けねーぜ?」






「ミラージュ様、あちらのお店もよさそうですわよ。」


セリナの指した方向。デカい物品を主に取り扱う店のようだ。エンストを覚えてそういった武器も一時的には持てるようになった彼女、普段傍でぶんぶん振り回す奴がいるためか、興味があるのだろう。


店へと入る。入ってすぐ目の前、飾り棚最上段に置かれた大剣。なかなかの一品だ。


「いらっしゃいませ。どういったものをお探しでしょうか。」


店員の一人に声をかけられた。先ほどの店とは違い、大店である。


「あの剣を見たいですわ。」


セリナが示したのはやはり、私も目に付いた大剣。それを聞いた店員さんはでは、といって大柄な別の店員を呼びに行き、試しスペースまでその剣を運んでくれた。当然のように置かれた先はスケさんの前。まあ、そう思っちゃうのは仕方ないだろうな。


それとじゃれてしばらく忙しいであろう彼女の代わりに、他にもセリじゃらしはないかと店内を見て回る。器用な彼女のこと、リーチがほしいなら大剣よりも槍系統の長物の方が向いてるんじゃないかな、と思いいろいろと物色する。また別の店員さんが声をかけようと近づいてきた。


「槍をお探しですか?」

「まあ、ちょっとね。」


でしたら今最高級の一品が入っておりまして、と言って奥の方へと向かった店員さん。少し期待しつつ待っていると、輝く槍を一本携えて戻ってきた。その神々しい輝きはもちろん、柄に施された装飾模様もまた美しい。これはやばいものを持って来たな。いくらするんだ?


「こちら光の槍でして。」

「うん。わかる。輝いてるものね。」


(・・・)


うっとりとその機能美の髄を凝らした芸術品を見つめながら次の言葉を待つ。聖なる加護がかかった聖槍かしら、なんてファンタジー特有の感動を味わいながら次の言葉を待つ。


(・・・)


「いかがです?」


説明それだけかいな。いかがとか言われてもな。どう光の槍なのか教えてもらわんことにはさすがに判断できんぞ。


「その、機能とか、そういうのの詳しい説明はないの?」

「突いてよし、叩きつけてよし、です。」


そりゃ槍だからな。それは槍という一般的名称で呼ばれるべきものが持つ機能であって、この特殊個体に対する説明ではないよな。


「そうじゃなくてさ。この光の槍の特殊機能をさ。わかるじゃん?アンデッド特効とか、そういうの。」

「ああ、そういうことでしたか。失礼いたしました。」


コホン、と仰々しく咳払いして自信満々にその店員は、光ります、と言った。


(・・・)


「いかがです?」


それだけかい!さらなる説明を待ったのだが、いかがとか言われてもな。


「光の槍じゃなくて、光る槍って説明したほうがいいわよ。」






「ミラージュ殿、あちらに寄ってはくれぬか?」


スケさんの指した方向。先ほどとは真逆で小物類が並ぶ店だった。今手持ちの黒剣にかなう物は先ほどの店にはなかった模様。ならばと矛先を変えてきたのであろう。拳の所にセットできる武器とか、はめられたら厄介よね。


店内に入る。ダガーやら投げナイフやら弓矢やらが所狭しと並んでいる。どれも見た目は武骨だが作りはしっかりしていて、良品ばかりだ。奥には店主と思しき不愛想なおっちゃん。まさに武器屋って感じがするわね。


「冷やかしなら、、、」


そのセリフの途中で私の後ろのスケさんが目に入ったのであろう。続きの言葉はなく、腕を組んでうーむ、とうなった。


「こいつ用に、スピード型を相手取るとき便利なものとか、無い?」

「なるほど。」


私の言葉を聞き、自身の店の在庫を思い出そうと考え込む店主。


「ちょっと待ってろ。」


何かいい品でも思い出したのだろうか、奥へと入っていき、すぐに戻ってきた。手には、何の変哲もないナイフらしきもの。鞘の意匠はこの店には不釣り合いなほどに綺麗、だが。


「普通の業物、かしら?」

「ふむ、それがしにもどのような一品か、見当が付けられませんな。」


店主はやや渋い顔をして、商品の説明を始めた。


「扱いに困る物ばかり作るやつのとこからな、まあ面白いってんで最近仕入れたんだが、どうにも店先に置くのはと思ってたんだが。」


(・・・)


「鞘から抜くと、ほれ。」


ちゃんと説明が続いた。少しだけ抜かれた短剣の、黒い刃がのぞいた。おお、今使ってる黒剣とお揃いでぴったりかも。


「全部抜いちまうと、すごい力で目の前にある斬りたいもの、を勝手に斬りに行くのよ。」

「ほほう、それは面白いわね。」

「だろ。」


呪いの一品の類か。スケの力でも抑えられないほど強いのだろうか。これは試してみるしかあるまい。


「試してもいい?」


その言葉を聞いてカウンターの下から果物を机に置いた店主。手に取り短剣を抜くスケさん。どうやら問題なく抑えてしまえるようだ。そして握る力を緩めた瞬間、スケさんにはあり得ない器用な手さばきと速さで、テーブルに置かれていた果物の皮をきれいに剥いた。


「おおー。これは、すごいわね。力を抜いたら、目前の敵に勝手に斬りつけに行ってくれるのね。よし、スケさん、私を斬りたいと思ってみなさい。」

「ぬぬ。」


私を見つめ、左手に持った短剣の先を向けてくる。一応クイックンをかけて待ち構える。力が緩む。さあ、どれぐらいの、速さで、やって、、、くるのかし、ら?


「あれ?何で?」

「はー、やっぱりか。」


頭をポリポリとかいて、嘆息する店主。


「どゆこと?」


さっぱり理由がわからなくて、素直に疑問を発した。


「斬りたいもの、を斬るんだ。そいつがな。」


あー、主語がないって、勘違いするわよね。うん。


「具体的には?」

「果物、野菜だな。」

「なるほどねー。」


面白いけど、ただの全自動皮むきナイフだわ。武器屋に置くべきもの、としては確かに微妙だわ。


「抑えつけられるような奴の手にあれば言うことを聞くかもと思ったんだが、駄目なようだな。」






ちらとセバスを見る。順番的には次は彼なのだが。そうして目が合って、中々の眼力を返してきた。ありません、という意志が伝わってきた。


「なんですの?セバスも、見てみたい店があるのなら申し出るべきですわよ。」


セリナのセリフにこくこくとうなずく。街の中で、スケセリの両名とは違いいろいろと準備のための交渉やらなんやらで働いていたのである。


「そうですね。ではあちらはいかがでしょう。」


指し示された先にあったのは工房。武具を扱うところのようで、どう見てもセバスの見たいものではなさそうではあるが。


「まあ、それでいいならいいわよ。茶器とかそういうのもあるかも知れないしね。」


その工房へと入っていった。






中には怪しげな武器と素材の山。そこに埋もれるように一人の女性が作業に没頭していた。ぼさぼさな髪、荒れ汚れた服。ちょっと臭う。


「風呂、入れ!」


くるっとその私の言葉に顔をこちらに向け、そして見せる驚きの表情。


「それ、売れたんだ。」


抱えていた雷刀、光る槍、全自動皮むきナイフを指して、そうこぼした。


「ええ、買いましたとも。機能は別にしても綺麗だしね。で、そう言うってことは、あんたがこの何とも言えない品々の製作者さんなのね。」

「そうだよ。」


少しばつが悪そうに肯定した彼女。偶然立ち寄った工房だったが、いい引きをしたようだ。さすがセバス。


「いい道具ってのは作るのは難しくてねぇ。でもどうしても作りたくてさ。それさえあれば大丈夫ってものを。魔窟下層でも安全に戦えるものをさ。」


自身の作品を一応は褒められたのがうれしいのか、顔をほころばせてそう語った。


何か理由があるのだろうか。魔窟下層と考えると、強力なモンスター相手に雷刀はこちらの被害を考えなければ強力だし、光る槍は明かりの代わりにもなって便利だし、皮むきは、、、本来期待する機能が発揮できていれば補助武器として最高の一品だ。あと食事の用意短縮にもなるな、うん。


「買ってくれたってことはさ、何かピンとくるものがあったってことでしょ?だったら何かこう発想、アイディア、ないかな?その今着てる服?変わった形だけど、すごい業物のようだし。」


お目が高い。こちらも褒められてうれしくなって、彼女のために頑張って考えることにした。まずは事情を聞いてゴールを把握するところから、かしらね。






「いや、予定以外の来客なんて普通ないからね。ごめんね。ああ、そういや自己紹介もまだだったわね。オブリガルデよ。」


小奇麗になった彼女。


「ミラージュよ。長いから、オリガで、いいかな。」

「うん。」


自己紹介を終え、そこから事情をあれこれ聞いた。


魔窟で探し物、をしている人のお手伝い。その人がどんな人で何を探しているのかは教えてくれなかったが、命の恩人らしい。素材を求めに魔窟へ潜ったときに、危機的状況から救われたのだとか。


オリガ自身も、その人から事情を聞くのにかなりの時間を要したらしく。悪い人じゃないし、悪い探し物でもないんだけど、という点は強調していた。


「そう。そういうことならこの三種の神器でもってお手伝いに向かうわよ。たぶん、いや間違いなく、いけると思う。元々魔窟には行く予定だったしね。どお?ついてくる?」


うーんと少し考えてから、オリガは私の言葉に同意した。


「そうね、実際どう使うのかとか、そういうのを見るだけでも価値はあるわね。最近煮詰まってたし、初心に帰って探窟者視点に立ち返るのもいいか。うん、行ってみるわ。」

「おーけー。じゃ、準備準備。」


大抵のものは先ほどの散策の間にセバスが用意していたので、そう時間もかからず出発した。






魔窟へと入る。上層は他の探窟者が多いのでまずはひとっ走り中層まで突き進む。道々樹連れの少年を見なかったかと聞いて回ってみたが、情報は出なかった。


一晩だけでそう奥まで行ってなかろうと思ったのだが、逆に裏をかいてまだ入ってきていないということが推測できた。かなり目立つペアだ。ここを通ったのなら、目撃ゼロはあり得ない。


もしくは南側から向かったか。


いずれにせよ下層への降り口で待てばよい、だろう。時間距離を考慮すれば到着はこちらが先になることは間違いない。


中層にてそれなりのクラスのモンスターが遠目に見えた。


「んじゃあ、いっちょ使ってみますか。」


巻いていた布を取り払う。薄暗い洞窟内に零れる光。うん、目立つね。速攻気付いてこちらへと向かってくるモンスター。


「んー、引き寄せちゃうねぇ。」

「それがいいのよ。」


オリガの問題点指摘に対してそう返して、今度は絶縁手袋をつけた右手で雷刀を少し抜いた状態で床に置き、そのまま鞘から引っこ抜く。びりびりと零れる電撃。マジでやばいわ、これ。普通に振るえる勇者とか、相当魔法防御高いんだろうな、そういやあの人たちって大抵魔法の方も達人だものね、なんてことをほけーっと思いながら、体に当たりピリピリ痛いそれを根性で耐えて、全力投擲を敵へと放った。


こちらへと突っ込んできた勢いと私の投げたスピードでもって、刀は深々と突き刺さった。そして想像通り、激しいスパーク。そこからさらに体内を走り続ける電撃。うん、動けんわな。


「想像以上ね!技名は、、、電光石火!うん、決まり!」

「投げるの、逆じゃない?」


新技の発案にテンションの上がる私に向けて、製作者として物申してきたオリガ。


「いやいや、想定と違う使われ方をしたからって、投げ槍になっちゃいかんよ。これは、ちょっとでかい明かり兼おびき寄せ。で、あれが投げ刀よ。輝きに引き寄せられてる敵は慣れない眩しさから、高速で向かって来る刀をそう簡単には避けられないわ。」


この二品、組み合わせれば最強だ。殊に薄暗いこの魔窟においては。実証された。雷刀は直接振り払うのは強烈に嫌な予感しかしなかったので投擲武器として試してみたが、予想通りである。あんなもん目の前で発生したら、こっちもしばらく動けんわ。


慎重にモンスターから刀を抜いて、鞘へと納めようとする。床に置いてその鯉口に刃先を合わせる必要があり不格好である。先ほど行った鞘から抜く動作と逆。なかなかうまくいかず手こずっていると、少し待たされるのが嫌だったのか、セリナが声をかけた。


「左手も手袋をはめてはいかがですの?」


ふむ、そう言うかね。では実演してもらおうではないか。ものすごく嫌な予感しかしないけどな。店のおやじもこうして入れてたからな。テーブルがあった分楽そうだったが。そう思い、右手の手袋を取り、ん、と両手分をセリナに差し出す。特に迷いなくそれをつけて鞘を持ち、普通に納刀しようと鯉口へと刃先を近づけそのまま納めていった。


「あばばばばばば」


ああ、やっぱり。鞘に納める間に大量にこぼれた電撃がセリナにぶち当たった。






「ミラージュ様、申し訳ありませんでしたわ、、、私が間違っておりました。」

「いやいや、まあ不格好で時間かかっちゃうのは確かだからね。しびれ、大丈夫?」

「はい、、、」

「うーん、衝撃に応じて放つようにしたんだけど、納刀時にも出ちゃうのは問題なのね。改善の余地がありそう、、、」


研究者気質なのか、被害に遭ったセリナへの気遣いよりも創作の方の思考が優先されたようだ。


「スケ様であれば問題なく振るわれるのではないですか?」


セバスがポツリこぼした。


(・・・)


しばし待つ。興味ありませんな、という言葉は返ってこず。試しに素手で振るわせてみる。全然大丈夫なようだ。勇者、おったか。スケさんが細い刀を使う姿とか思考の外だったので思いつかんかったわ。


「さすがセバスね。」

「ふむ、補助武器としては取り回しもよくよさそうですな。では、さっそく。」


広がる威圧、ちらとセリナを見る、前に声が届いた。


「見取り稽古で!十分ですわ!」






「あびゃーーーー。」


プスプスと体から煙を発して倒れ伏す私。ついに、互いにほぼ全力で負けを喫してしまった。これ無理だ。雷撃でいちいち一瞬硬直しちまう。クイックン効果もこれでは半減だ。最後、大剣の強烈な一振りになすがままに誘導されて、とうとう雷刀の一撃をかわせず受け止めてしまった。


くそう、どうやらとんでもないものを買ってしまったようだ。


「ふむ、生物相手では反則級ですな。それがしの実力ではないところが残念であるが、勝ちは勝ち、素直に喜んでおくべきであろう。」

「おめでとうございます、師匠!」


ぬぬ、立ち回りが巧みである。


「今ならリク相手でも勝てそうね。」


キッとセリナには睨みを、スケさんには称賛を送った。


「そうであるかもしれぬな。しかし、これに頼るようでは成長が止まるというもの。封印止む無し、ですな。」


ほんと、ぶれねぇな、スケさんは。


「あなたたち、異常なまでに凄腕なのはわかったけど、なんかそこはかとなく残念ね。」


全自動皮むきナイフでセバスが剥いた果物をほおばりながら、オリガが感想をこぼした。


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