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箱庭の君  作者: 鏡 龍彦
生後半年 -初めてのおつかい-
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encounter -kanojyo_ha_dourui-

魔窟に一番近い街。その街のポイントは既に解放されていて、問題なく降り立つことができた。ウドーと二人、初めての地の様子を眺める。


「うーん、特に考えなしに来ちゃったけど、朝になったら追いかけてくるよね?」

「そうじゃろうな。今夜のうちに距離を稼いでおくかの?」


それは無意味だ。この時間、馬車も借りれないから徒歩で向かうしかない。そうした場合ミラージュが補助効果を馬にかけながら進んできたら。そうする彼女を想定すると、すぐ追いつかれるのは間違いない。心配をかけないように目的地を告げたのは失敗だったかもしれない。


「うーん、逆にちょっと遠回りだけど、もう一つの最寄街の方に行って攪乱しよう。」


スケさんが一緒ではおそらく僕の希望はかなわない。ミラージュも、彼と会話を交わすことには難色を示すかもしれない。だから可能ならばこのまま二人で目的地までたどり着きたい。そう考えながら改めて詳細に魔窟の構造データを読み取ってみると、むしろそこからの方が目的地には近いことが分かった。


「そうじゃな。あ奴は一直線じゃからな。間違いなくここから向かうじゃろうな。ここが、一番近いのじゃろ?」

「うん。」

「では間違いないのじゃ。」


結論が出て、そこからもう一度転移して今度は魔窟南方のデセルタムへ。南北両側に洞窟への入口があるのだが、こちら側は北側とは違い歩いていくにはちょっと遠すぎる。なのでウドーと二人朝まで過ごすための宿を探して街を散策した。


砂場の占める領域の多い街だ。砂漠と呼ばれる場所で間違いないだろう。街の中心部に大きな水場があるようで、その傍辺りを中心に街ができていったと設定を参照するまでもなく予測できる。生物には、水が必要なのだ。


見慣れない様式の石の建築物が立ち並んでいて、観光好きのウドーの目も暇にならなかったようだ。


「ここにしようか。」


セバスから渡された金の入った袋を懐から取り出して、ウドーに問いかけた。


「それがなくなると困るのじゃろう?どの程度あるのじゃ?」

「かなり渡してくれたみたい。この量だと無くなることはまず無いかなぁ。」


中身を確認する。今目の前にある宿なら、その量の変化は誤差だ。


「ならば良いじゃろ。」


そう言ってウドーは僕の返事も聞かず歩みを進めてその宿の中へと入っていった。僕もそれに駆け足でついていく。中は質素な作りだった。奥の受付へと向かい、宿泊希望と告げる。


無事手続きが済んで、鍵を受け取り指定された部屋へ。こういうやり取りをするのも実は初めてなんだったと、ウドーとともに部屋内で佇みながら考えた。全然、経験足りてないよな、とそういった雑務を担当していたミラージュやセバスに対する愚痴が少し浮かんだ。


そのまま部屋内で日々欠かすことなく続けていた魔法の訓練を始める。最初のころに比べれば多少見られるぐらいにはなった。そうして穏やかな時間が過ぎていって、朝日が昇った。






翌日、渡しの人に依頼して魔窟の入り口まで連れて行ってもらう。南側の入口だから、中でミラージュと鉢合うことはないだろう。運び人さんにお礼を言って運賃を渡しウドーと二人その洞穴へと入る。ちょっと進んだところで、声をかけられた。


「お、こんにちは。珍しい組み合わせね。トレントをテイムしてる同族なんて初めて見たわ。それも少年。」


柔らかい女性の声音だった。その音源へと顔を向けると、警戒心無く優しげな表情で僕とウドーを見つめる目と視線が合った。その瞬間、目を見開いた彼女。


「こんにちは。」

「どうもなのじゃ。うーむ、あ奴とは違って穏やかそうなやつじゃの。のう、イクス。」

「そだね。」


特にその特異な反応は気にしないことにして、挨拶を返した僕とそれに引き続いたウドー。今度は傍目にはただのトレントのウドーが言葉を発したことに驚いて目を見開いた彼女。


ミラージュよりも少し背が高い。見た目には彼女と同じくややほっそりしているけれど、佇まいは近い。剣士のそれだ。そして何より真っ赤な瞳、白い髪。印象的なそれらの特徴。同じく僕のことを一瞬勘違いした彼らの事を思い出す。


「ああ、ごめん、違うのね。てっきり高位の、いや、ごめん。何でも無いわ。で、何?ただのトレントじゃないの?面白いわね。」

「イクスだよ。こっちはウドー。」


手を差し出す。


「私はルーよ。よろしく。」


握手を返してくれた。探窟者ルトザード、ルーというのは省略愛称のようだ。


「初めて見る顔だし、どーせここは今日が初めてっしょ。あなたたち目立つし、前から来てたなら噂ぐらいにはなるものだけど私、何も聞いてないしね。でしょ?」

「そうだよ。今日ついさっきから。」

「そうよね。だったら案内してあげるよ。私結構古株なんだから。頼りにしてもらっても、全然問題ないわよ。」


データによれば危険人物の類では一切ない。見た目から推測した通り、剣士のようだ。魔法の類もそれなりに得意のよう。多芸。そして何より彼女の事情は、僕と同じだった。そのことにひどく興味をそそられた。











「それで、一体どんな理由があってここに来たの?」


三人、洞窟内をのんびり進む。話題の一つとして、僕らの用向きを問うてきたルー。素直に話した方がよいだろうか。


「うるさい連れやらあほな奴にほうぼう振り回されての。さすがにちょっと疲れてきたのでな、こうして気の合う者同士でしばしの間のんびり観光でもと思ったのじゃ。」


返答をやや渋った僕の方をちらと見た後、ウドーが勝手に説明した。全然嘘の事情なんだけれど、本人はむしろそっちが本心のようである。冗談めかしてではなく、割と真剣な口調で語った。何か思い出したようで、ぶるっとその体が震えた。


ああ、寒いところか。相当きつかったんだな。うるさいのってミラージュの事だろうし、もう一人の方は、スケさん、、、なんだろうな。


「だったら観光スポット巡りかしらね。昔使われてた祭壇とか、そういうとこがいい?」


データで検索する。彼女の指摘した類の場所は目的地とは別方向だった。


「ここの下層に、会いたい人がいるんだよ。だから行き先は決まってるんだ。」


回り道をしたって別に構わないのだけれど、彼女に嘘をつくという行為自体が憚られた。だから真なる目的を偽りなく告げた。


「へー。観光がてら知り合いにってとこですか?でもそんなとこに住んでる奴なんて、ろくでもない奴よね。上級のデーモンとかうようよいるけど、そいつらと仲良しな人なのかしらね。」


やや目を細めて、軽い調子の声で返してきた。どうやら嘘をついたと思ったようだ。確かに彼女の言うとおり通常そんな場所にいる人などいないのだけれど。


「そうだね、仲良しだと思うよ。デーモンたちより格上の存在だし、思考の基準は似通ってるみたいだから。」


僕の返しの言葉に対し再び前と同じく目を見開いて驚きを見せる。


「それって、邪神とかの類、でしょ、、、本気なの?」

「うん。」


はっきりとうなずいた。こちらは彼女の事情を知ってしまっているのだ。だから向こうにも知ってもらおうと思った。対等な立場で。そこを基準にしないとぶれるからって。そうついこの間ミラージュに告げられた。きっと何か意味があるのだろう。


「実は見かけによらず、相当な実力者だったりするのかしら。」

「僕じゃなくて、ウドーがね。」

「お主もじきにわし並みになるわい。」


だといいけれど。何が足りないか、少なくともその何かを判明させないと。埋めるためにも。






道中は上層ということもあって低危険度の敵が出没するのみ。途中多くの探窟者とすれ違った。その際ルーはよく声をかけられていた。若い見た目に反して、彼女は彼女自身が述べた通り古株なのである。彼等とは違い、ここでは問題なく受け入れられているようだ。


道中の戦闘で見せつけてくれた膂力も速さも、ミラージュにははるかに劣るものの、高い値だった。


彼女と比べてしまうことは酷な事である。


そういうところも、僕と似ていた。もちろん僕なんかよりずっとずっとルーは強いのだけど。


「お主、あ奴ほどではないがなかなかやりおるの。」


モンスターの襲撃を退けて一息ついた何度目かのタイミングでウドーがそうこぼした。既に二人の息はぴったり合っていて、攻撃と防御が絶妙な具合でブレンドされていた。


「なーに?私よりずっと強い知り合いがいるの?だったら一緒に来てもらえばよかったのに。」


もっともな意見を出したルー。それはそうなのだが。


「いやな、目的の探し人とは話をしに来たのじゃよ。で、そ奴がおると間違いなくこじれるらしいでのう。じゃからこうして二人だけで来たのじゃ。」

「ふーん。何か知らないけど、難しい事情があるみたいね。」

「そうなんじゃろうな。わしにはよくわからんがの。さっき言った通り、わしは観光気分の付き添いじゃからな。」


ウドーとルーのやり取りを聞きながら、壁に触れ現在地を確認する。それだけで周囲の構造はある程度把握できる。現状の僕でも、意識して触れれば可能だ。全体図と合わせて進行方向に間違いがないことを再確認。この先突き当り、本来遮られているはずのそこから下層へと向かえる。


「ルー、こっちは行き止まりだよね?」


一応確認してみる。


「そうよ。変な広間があるだけ。そこが私の仮住まい所なんだけどね。」

「そうなんだ、ありがと。僕らはそこから先に用があるんだ。だからそこまででいいよ。ついて来てくれて、ありがとう。」


そう言って別れのタイミングを切り出したけど、彼女は難しい顔をして渋ってきた。


「そう、分かったわ、じゃあまたね、、、なんて言うわけにはいかないわよ。ついていくわ。その先、てのは何か知らないけど、またね、が嘘になっちゃったら、帰ってこなかったら、寝覚め悪いじゃない?その先で君が行う何かを見られるのが嫌とか言うのかしら?」


つい先ほど会ったばかりだというのに、そうして僕らを引き留める彼女。口調は軽い感じだったけれど、目が合って、それが冗談ではないことがなんとなく伝わった。


困ったな。別について来ても問題はないのだけれど、正直僕はミラージュと違って何もない。いや、あるにはある、彼女にもできない能力が。けれどそれは、身の安全に貢献する類の物じゃない。


ミラージュなら、どんな危険なところにだって弱っちい僕を連れて行って無傷で帰してくれるし、今までずっとそうしてくれてた。


もちろんスケさんに頼る場面もあるけど、それは彼女が自由に動く余地を得るための必要な措置だ。たとえスケさんがいなかったとしたって、動きにくくはなるが僕を小脇に抱えつつ進んでいったに違いない。


「それにね、あんたらを連れて歩いてたこと結構みんなに知られたし、もしあたしだけのほほんとしてたら、悪い噂が立つかもしれないでしょ。それは損だしね。」


黙りこくってしまった僕に向けて追撃を放ってきたルー。そう言われてすごく悪い気がした。確かに、自分の事よりも他人の事の方が意思決定に与える影響は大きいのかもしれない。


思考する。結論はすぐだった。


危険があるかもしれない場所まで付き合わせて、何か取り返しのつかない事が起きてしまうことの方が気分は悪かった。だからミラージュの真似をして脅しをかけることにした。


「命を支払う覚悟は、あるの?」

「んなもんないわよ。」


即答だった。どうやらあきらめてくれたようだ。


「じゃあ、決まりね。連れて行ってもらうわよ。」


あれー。


「なんで、、、」

「ウドーさん、そういう状況になったら、私このイクス君の首根っこつかんで逃げるからね。」

「わかったのじゃ。」


どうやら完全にセリフを間違えた。逆効果だった。






ルーの仮住まいへとたどり着いた。ここ自体には危険はないと二人に告げる。そりゃそうでしょ、と返するー。目的の場所には鉢植えが並んでいた。


「ルー、これ、動かしても大丈夫?」

「構わないわよ。」


一つ一つ別の場所へ移そうとしたが、ウドーに全部済まされてしまった。


その空いた壁の一箇所に触れた。


「ウドー、この辺りの壁、削れる?」


僕の要求に従って指定した壁の岩を魔法で削り出してくれた。開いた先にはさらに奥へと通じる隠し通路。


「うそ、何でこんなところ知ってるの?位置的に間違いなく未知のルートだわ。」


ウドーによって削り取られた厚い岩塊。それを見、出来た空洞の先から続く通路を眺めて、ルーはそう言葉をこぼした。何といって伝えたらよいのかわからなかったので黙っていると、またまたウドーが説明役を買って出た。


「こやつとその、乱暴な知り合いはの、神の御使いというものらしいのじゃ。神とか、よーわからんがすごい連中らしいのじゃ。」


正確には僕は違う。そして彼女もそう評されると不機嫌になるようになった。


「それは、図らずもすごいのと知り合っちゃったわね。ねえ、用事が終わったら、私の手伝いお願いしてもいいかな?」


至極一般的な反応を返したルー。それほど期待はしていないようだ。御使いは気まぐれ。ただその気の向くままに行動する。そういう認識のもとに発された言葉だろう。


「うん。終わったら一度ミラージュ、その知り合いの所に戻るけど、その後紹介しにここに連れてくるよ。きっと手伝ってくれると思う。そういう人だもの。彼女がいたら、すぐだよ。」


断る理由はなかった。もしかしたらミラージュは、彼女を見て嫌な顔をするかもしれない。好ましくない感情を引き起こすかもしれない。それは僕にはわからない。けれどきっと、助けてくれるという確信はあった。


「ふーん。どんな人なのか、気になるわね。ウドーさんの言う限りでは、慈愛に満ち溢れてるって感じではなさそうだけど。」

「期待するだけ無駄じゃぞ。こわい奴なんじゃ。それだけは確かじゃ。」

「じゃあ怒らせないようにしないとね。」


この頃はちーとくらいは優しくなった気がするがのう、と小声でつぶやいたウドーであった。


ミラージュは優しいけれど、それも多分禁句なのかな、と思って反射で声を大にして口に出したりはしなかった。つい昨日、それで失敗したのだから。


「じゃあ、進もう。この先少し進んだら下層に通じる機構があるんだ。その前に中級のデーモンが一体。戦力的には問題ないよ。ウドーだけじゃなくて、ルーもいるしね。」

「ただのデーモンなら私一人でも問題ないわね。わかったわ。素材、尻尾も角も高価で買ってくれる奴らがいるのよね。そのお金で、花を、買いたいんだけど、いいかな?」


下層の敵データとルーとウドーのデータを何度かシミュレートして、慎重に進みさえすれば問題ないと判断した。






ミラージュに買ってもらった腰の剣を抜き、万が一に備える。干渉して、折れず傷つかない仕様に変えてある。身に着けているローブも外的な干渉で一切傷つかない設定にしてある。


もっとも殴られたら衝撃は薄布を通して伝わり痛い。そんなただの薄膜程度の効果しかないのだが、そのおかげで覆われた範囲は斬られたり突き刺されたりする可能性が大きく低下するというのは重要だ。


長く触れていることが干渉可能性を高める、というのは現状最も有意義な推論。僕と結合の強いもの。メッセージ入りの存在はまさにそういったものの代表だ。


状況、6.24m先、宣言した通りの敵性存在。鋭い角と爪、背には一対の飛膜、前方へとせり出し尖った口、その内側に並ぶとがった歯、筋肉質の体、細く鋭い両目。


その二つでもって、訪れた僕ら侵入者に敵意満載の威圧を送ってくる。全身はやや赤みがかった色をしている。データ通り、中級デーモンだ。その名称の前にも後ろにも修飾語のつかないただのデーモン。放たれる威圧も、スケさんやミラージュが立ち合いで発揮するのに慣れ親しんだ僕には風速0.05mだ。


「ウドー、とりあえず岩弾ぶつけてみて。ルーは流れ弾に当たらないところから向かって。一撃入れたら即離脱。足をまず落としてくれたらうれしいかも。」


即座に行動に移すウドーとルー。弾幕の多さにそのデーモンが張った防壁は持たず、そのまま人に比べれば大きな体に打ち込まれた。直後、絶妙なタイミングで腿を払うルー。片膝をつき、歩行ができなくなるデーモン。問題なくこのまま処理できる。安心して、床に手を触れる。


データ抽出、アラウド、材質変形、ディナイド。操作、ディナイド。


やはり完全に自由に干渉するにはまだ足りないものがある。ミラージュは、モンスターを倒して成長したらしいから、僕もそうすることでできることが増えるかもしれない。


「二人とも、ありがとう。とどめをもらってもいい?」


異論はなくて、すでにボロボロで意識を無くし息絶える寸前のデーモンの前に立った。


思い出す。映像を再生する。ためを作って、そこから一気に振り払う。何度も練習したその挙動。彼女が時折やるように鞘に納めたままだと、全然うまくいかないから出したまま腰に構えて。そうして横に全力全開で振りきった。


ほんのちょっと入り込んだだけで、止まってしまった。


「あらら、剣の腕はさっぱりみたいね。」


がっくりうなだれる。


僕の横から、そのデーモンに見本を見せるように一振りでとどめをさしたルー。しっかりとその動きを見たけど、自分との違いは判らなかった。


「うーん、、、向き不向きって言ってたけど、やっぱりこっちは不向きなのかな。」

「間違いないじゃろうな。」

「そうでしょうね。刃先が途中からぶれぶれだったわよ。しっかり握って、でも込めすぎないで。」


全力で振るのに、そんなところまで気を遣えない。不可能だ。


「ま、お主はわしと同じ、マギ向きなのじゃ。いや、、、ロード向きじゃな。」


それってみんなが頑張ってるのにただ眺めてるだけで何もしない役職じゃないか。


「口を後ろから出すだけじゃ、駄目なんだよ。」

「駄目じゃないわよ、別に。ちゃんと前の事考えてくれてるならね。」


ルーのその一言に、質量の存在を感じた。


「外じゃどうか知らないけど、ここでは怪我しないことが一番だからね。その判断を正しくできる人材は、引く手あまたよ。」


慰めてくれているのだろうが、効果はない。怪我なんて。僕の方が気を使われるぐらいなのだから。


「まーそれはいいとして、ここは何なの?うちらにとって雑魚とはいえ上層に中層下部のモンスターがいるとか、尋常な場所じゃあなさそうだけど。」


うつむきをやめない僕に、これ以上は、と話題転換を図ろうとしたのだろう。戦闘を終えて弛緩した雰囲気になった中、本来ここに立ち寄った目的を質問してきた。


「御使い向けの短縮ルートだよ。中層を飛ばして下層までつながってる。で、すぐにこのデーモン復活しちゃうから、間違ってここに来ないようにしないといけなかったんだ。」


しっかりと、彼女が求める答えを真摯に告げる。


「なるほど。それでさっきの所をまた閉じたのね。知ってなきゃ気づくことなんてないわよね。もしあの厚さの先の空洞に気づけるような凄腕がいたとしても、現状潜り続けてるような連中ならあんなどん詰まりにはもう用はないだろうしね。」


だからこそ仮住まいに使えてるんだけど、と嬉しそうに口元をほころばせてそう言った。この事実を知ったことで、彼女の目的にはかなり近づいたことになる。だから釘をさすことにした。


「広めてもいいよ。その情報で金をもらったっていい。でも一人で向かっちゃだめだよ。僕もルーが帰って来なかったら寝覚めが悪いよ。」


目を見開いて反応したルー。本日何度も見せたその表情。そうしてすぐににっこり笑って、ポツリと、本当にそうなのね、とこぼして次のセリフを返した。


「話半分で聞いてたけど、本当の事みたいね。ああ、、、神に今日の出会いの感謝を。ええ、待てるわ。待てるわよ。ずっとずっと、待ってたんだから。今更焦ったりはしないわ。」


そう一気にまくし立てて、一息。


「それで、私の探し物はここに、この奥底のどこかにあるのね?」

「あるよ。」


断言した。


「そう、そうなのね。良かった、本当に、良かった。」











つながる手。はじめましての握手を交わす。


魔窟管理者ルトザード。永遠に燃え尽くことなきアンデッド。洞窟内に、籠る生。シンプルなそのお願いは日の下へ。今日も今日とて、夢を見て。遅い朝、巡り合ったは確信者。沸き立つ心、我慢して。その願い、ようやくにして果たされる。


ただ未知求め、素材を求め、探窟励む者たちを。日々助けつつ、見守り続け、歩き続ける不老の身。求めし物を、悠久の時、探し続けるヴァンパイア。


日の光、外の世界へ、その先へ。



この狭いとも広いとも言えない洞窟の中で生まれた彼女には、そこに閉じ込められ続ける彼女には、僕と同じ波長が発生しているのを感じた。


〈外の世界は、希望で満ち溢れているのかもしれないわね。少なくとも、そう思い続ける限りそれは希望だと思うのよ。〉


彼女を通して伝わるメッセージ。


だから僕は、彼女の申し出を素直に受け入れた。


「じゃあお言葉に甘えてお願いしようかな。よろしく、ルーさん。」

「ルーで、いいわよ。」


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