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箱庭の君  作者: 鏡 龍彦
高校一年生 -冬-
50/100

kaimasyou

翌日朝。また囲まれないようにと昨夜と同じく家々の屋根を飛び移り、昨夜カギはあけておいてねとお願いしていた窓から宿の部屋へと入る。


入るなりイクスからウスルの因縁の相手がまだ存命?な事を教えられた。


おまけに喧嘩を買った張本人がそいつらしい。裏から操る影のリーダーって感じなんだろう。もちろん表がまともであるかどうかは別問題であるが。


「仇討ちとかは、興味なさそう、、、ね。」


それを聞いてすぐにウスルを見たが、どーでもよい、といった面持ちで椅子に腰かけていた。様子を見るとか悠長なことを言っていた昨夜のことなど忘れて、このままさっさとカチコミに行きたいのだが、つき合わせるのもどうかとも思い、言葉を濁した。


「別に見物するのはやぶさかではないがな。」

「じゃあ行きましょう!」


やっぱめんどい、とか言われないうちにさっさと準備をさせて、皆で堂々と街中を黒幕の本拠地まで練り歩いた。






「ではスケさん、セリっち、露払いは任せます。私たちを見事敵本命の元までお連れしなさい。」

「露程度でもおれば良いのだがな。」

「そうですわね。」


敵本拠地、暗殺組織のものと同じく傍目にはただのお屋敷。その固く閉ざされた柵の周囲に転がる警備の者たち。


「くふふ、やはりお主は危険よ。私などよりはるかにな。」

「大丈夫よ。この子もあいつも馬鹿だけど、ちゃんと守るから。それにこの子もいるしね。」


イクスを指してそうウスルに告げた。


「そうではないのだよ。そうではな。」


なんか意味深に昨夜とまったく同じセリフをこぼした。続きを待ったのだが、やってこなかった。


何ともしがたく手持ち無沙汰になって、仕方なく私は侵入を拒む機能を曲がりなりにも持っているはずの柵を蹴っ飛ばした。閉じていた錠はその衝撃に耐えられずにガキョ、っと金属特有の音を立ててはじけ飛び、柵はそのまま庭先へとどんがらと転がっていった。


「さて、じゃあウドー、周囲防壁展開。ネズミ一匹逃がさないやつ。」

「らじゃーなのじゃ。」


庭先へと足を進め、出口をふさぐ。余計な外からの侵入も防ぐ完璧な戦術。どうよ。逃げられるとして残り警戒すべきは地下通路とかだが、あるかもわからないものを警戒するのも違う。あったとしても足の速さで追いついちゃる。


そうして強制的に外界から隔離された敵本拠地。言葉は悪いが今回の殺人鬼役は私たちね。


「なかなかいい庭よね。こっちでは珍しいわ。」

「そうですわね。セバス、お茶の用意を。」

「かしこまりました。」

「お、セリっち、わかってるねぇ。」


緊張感無く侵入した面々。そのまま我が物顔で庭先にてくつろぐ。いついかなる時も準備を忘れぬセバスの職業魂にも感服である。


「そういやスケさん、今回アンデッド絡みなのに手を上げないのね。」


ふと気になって聞いてみた。どういう基準で選んでるんだろう。


その私の問いかけにイクスも気になる、という顔で近づいてきた。


「そうであるな。悪事を働いていたとしても、それが人の域を超えぬものであるなら、我が領分では無い。今回はそういうものであろう。」

「そうだろうね。」


こいつが今こうして娘とともにアンデッドとしての生を長年続けている理由、私実は知らないんだな。それ関連のイベントはいくつか終わらせたけれど、核心的なところにはまだ触れていないと思う。結構気になるな。


「その基準だから、セキさんもここのアンデッドには手を出さないのかな?」

「そうであろうな。それがしなどよりずっと優秀であろうからな。ここのことなど、とうに知っておったかもしれんな。」


なるほど。イクス君目の付け所が良い。


「なんにせよゴキブリ討滅できない限りはイタチごっこよね。どうにかならないかしら。」

「そうであるな。本当に、うっとうしい奴よ。」

「ゴキブリとは、あの邪神の事か?」

「そ。叩き潰してもまたどっからか湧いてくるから。あんた、精神体まで届く神剣のありかとか、知らない?」






そうして穏やかに物騒な会話を繰り広げて数分。しびれを切らして向こうの方からぞろぞろやってきた。甘い大好物に惹かれてホイホイと。


目が合った瞬間、ゲッっと嫌そうな顔をするプルス。そそくさと傍にいたスケルトンの後ろへと隠れる。絡んでたか。


「いやー、スケさん。悪知恵を吹き込むいたずらっ子がいたみたいよ。」


その私の言葉に返事はなく。どうやら気をため込んでいるようだ。


「自ら逃げ道をふさぐなど、愚かしいにもほどがあるな。そんな娘を助けて、満足か?ウスルペルよ。」


敵の首魁のスケルトンがウスルに声をかけた。その周囲には手練れっぽい雰囲気の戦士が数名。数はこちらより多いが、かつてのウスルと同様、張子の虎たちだろう。


「イクス殿、あれがそうで間違いないのか?」

「うん、あいつがトレキア。ウスルさんを裏切った人。暗殺組織のリーダー。外見データが一致してる。」


おそらく昨日幹部から読み取ったデータから得た、そのスケルトンの名称を告げるイクス。


「そうか。そうだな。そういう名で、あった気がするな。イクス殿、その程度なのだよ、自分のことなどな。裏切った恨むべき相手の名すら覚えておらん。奴は私のことを覚えてくれていたようだがな。そういうものだよ。」


本来叶わぬはずの再会。死すらも超越して果たしたそれは色鮮やかなものではなく。グレー一色灰褐色。牢屋の中より色味が少ないわね。


「そこまでボケたか、ウスルペル。我が手先として一番に働いた貢献でもって牢の中生かし続けておいてやったというに。その我が優しき慈悲も無駄であった。全く、恩を仇で返すとは。こうして厄介事を運びこむことになるとはな。」


なんだろうな、こう敵の親玉がいかにもな小物臭がするのは。前の時も思ったのだが。綺麗な青空をほけーと眺めながら、そのスケルトンの語る言葉に耳を傾ける。


(・・・)


それで終わりかい!


「あー、はいはい。で、そのお優しき、、、イクス、なんだっけ?」

「トレキア。」

「そう、トレキアさんは、いったいどうして暗殺者を使ってテナクスへと荷運びする善良な商人さんを襲うような真似をしたのでしょうか。」


必要な情報は正直それだけだ。


「何。こちらの仕入れが滞ったのでな。敵にも同じ目に遭ってもらえばよかろうと思ったのよ。」


んー、何だろう。


「春先攻めるのに事前準備的な?」

「その通りである。」


んー、どうだろう。


「もしかして仕入れが滞ったのって、コルンペーレ関連?」

「そうである。」


んー、腐ったやつら同士、つながってたのか。鉱物資源、ここに流れてたのね。にしてもポンポンといくらでもしゃべってくれるな。


「ちなみに私を狙って逮捕したのは?」

「当然、助けに来る連中を一網打尽にするためである。そ奴のせいで結局この庭を汚すことになって甚だ遺憾ではあるがな。」


んー、ほんとに何でもしゃべってくれるな。もっと聞いてみよう。


「この国の表のリーダーさんたちとはどの程度つながってるのよ。」

「奴らはただの操り人形よ。真の支配者は私。これから先も、永遠に、この朽ちぬ身体と知略をもって、やがては大陸統一を果たしてみせようぞ。」


中々に楽しいおしゃべりが続いていたのだが、そろそろ時間切れとなった。残念。本物の虎が気合十分に顔を持ち上げた。以前より全然強いわ、これ。


そうしてプルスの先ほど身を隠した場所へと進むスケさん。おののき道を開ける張りぼての戦士たち。開けた視界の先に、残念ながらその求めし姿は既になかった。


「スケさん、ここのことは気にせず屋敷内くまなく調べてきていいわよ。」


返事もせずに走り出した。


「じゃ、セリナ。言った通り露払いは任せた。」


そう告げて私もトレキアの下へと歩みを進める。何とか自分を取り戻し、立ち向かってこれる奴らの相手は全てセリナに任せて、さっきまでの自信満々な面持ちを180度ひっくり返したそいつと対面する。


「喧嘩売ったのはこっちだけどそうなる原因を作ったのはそっち。買わなくてもいいそれを買ったのもそっち。覚悟はできてるわね。」


刀の柄に手をかける。これを全力で抜き去ればアンデッドとはいえその存在は潰える。多少の魔術の心得はあったようだが、その全てを軽くいなし進む私プラス先ほどのスケさんの威圧も相まって、スケルトン表情判定資格非保持者でも容易に判別できる顔を晒して右手のひらを私に向け、口を必死に動かした。


「ま、待て、待て、待ってくれ。」

「ええ、いいわよ。いつまでも待ってあげるわ。何があるの?」


既に道化と化したトレキアのその一言に応じる。これを機に改心するなら、それでよい。無いだろうがな。


「金を、金を払おう。いくらでも。」


金か、そうだな。命は金に換算可能だものな。そう、それは非常に、非情なまでに魅力的な提案だな。


「そう、いい提案ね。わかったわ。じゃああんたが、あんたの命に付けた値段を示しなさい。」

「そ、、、」

「ヴィンディカーの父親、あんたの指図で殺された人、依頼料、いくらだったっけ?」


イクスへと問いかける。幹部に触れたときにデータとして得ているであろう。


「十万金。」

「だそうよ。よく考えて算出しなさい。」


家一件よりも安い値段。たとえもっと、その十倍、百倍であったとしたって、駄目なのだ。ジャックポットを一度運よく当てることなんかよりも、ずっとずっと価値があるはずなのだ。最後の最後に、その事実を知らしめるべきだ。壁を相手に一人寂しく続けるだけのむなしいキャッチボールなことはわかってるけど、それでも、溜飲を、収めさせてくれ。


(・・・)


「ではひゃ、百万金でどうだ。十分であろう。」


待ちに待って提示された金額は予想以上に安かった。青筋が立つのを何とか抑えて、返答した。


「そ、うね。その値段で、買ったわ。そういう、商売、なんだものね。流儀には、従うわ。」

「そ、そうか、、、」

「セバーーース!!百万、もってこい!!」


セバスから現金の入った袋を受け取ってそれをトレキアの足元に投げた。その行動に不思議顔を浮かべた彼の表情を永遠のものとするカメラのシャッターを、私は切った。


伝わらなかっただろうな。金なんて、暮らせるだけあれば十分だと思うけどな。ゲームのお金だからそう思うのかな。それともまだ独り立ちしてない子供だから、そんなことが言えるのかな。わかんないな。わかんないけどやっぱりこれは、むなしいな。


再び空を見上げて、控えめなため息を吐いた。






「本当にあんなもののために支払うのですか?納得できませんわ。」


宣言通り百万金をすでに動かなくなった骨とともに土に埋めた後、セリナが声をかけてきた。


「ダンジョンで稼いでくれたみんなのお金の一部をドブに捨てるようで悪いけど、そういう流儀だもの。嘘は、駄目だわ。」

「そう、ですか。」


そう。覚悟は必要だ。やり返される覚悟が。けれどいくら覚悟したって、私はここでは害されない。ほんの数舜痛みを味わって、向こうへと戻される。リスクゼロで、一方的に攻撃できる。その事実はきっと意志を鈍らせる。判断を誤らせる。だから思いつく限りの対等な立場で。その一線を超えないように。


そしておそらく唯一、私と対等な立場にいる例のゴキブリさんは、無事スケさんに斬り捨てられましたとさ。めでたしめでたし。


「さて、私はこれからどうしようか。」


大立ち回りを終始見物していたウスルが、ポツリとこぼした。


「ここで裏の権力者役でもやってみれば?ローブでも着ときゃ、違いなんてわからないでしょ。」

「それはまた、皮肉なことだな。」

「悪さしたら、私たちが懲らしめに来るかもだけどね。」

「ではやめておこうか。」


私の軽口ににやりと笑って返すウスル。


「一緒に来るのもありよ。見ての通り、うちらマギは足りてないからね。」

「いや、しばらくはそなたの言うとおりここに留まるよ。故郷、なのでな。」

「そう。わかったわ。」


故郷との再会は、トレキアとのものとは違い色鮮やかだったのだろう。空を見上げてつぶやかれた彼のその言葉が、私の自分勝手を肯定してくれた。


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