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箱庭の君  作者: 鏡 龍彦
高校一年生 -冬-
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in the jail -fuuka-

推測通り、再びログインして降り立った先は選択の余地なく牢屋内だった。


辺りを眺めてみる。目についたのは二冊の本。そのうちの片方を手に取る。初めての牢屋ガイド、というタイトルだった。パラパラと見る。どうやら一応の説明が書いてあるようだ。過ごし方とか出方とか。


出所の手段としては一定期間経過後の釈放、何らかのイベントの進行、あともちろん脱獄。まともに刑役を過ごしたいなら、時間進行を繰り返せばそれで済むようだ。


今回の収容ケースはおそらくイベント絡み。だから二番目で出ることにはなるのだろうが、最後の一つは心惹かれるものがある。どうやるのかまでは説明がないみたい。もっとも力業で可能だろう。しかしそれも芸がないかなぁとも思う。


もう一冊の方に目を向ける。タイトルなんと初めての脱獄ガイド、だった。ワクワクしながら本を開く。中にはページのくりぬかれた中に埋まる小さなピッケルが一本。


ぶん投げた。


数十年かけて穴掘ってられんわ!どんなロールプレイやねん!どこぞの銀行員じゃないんや!


「くはは、お嬢さん、一体どんな罪でここへ押し込まれたのかな。」


ちょうどその本を放り投げたタイミングで、しわがれた声が外から届いた。体を向け、鉄格子の傍から外の様子を眺めると、反対側の牢屋群の中、斜め前に収監されているスケルトンがいた。


「スケルトンが牢屋の中なんて何の冗談よ。」

「くふふ。死すまで閉じ込めるというのでな。自ら死んでやったのだが、こうして立ち戻ってきてしまってな。」

「あっそ。」


どうやらここに入れられてからアンデッド化したようだ。何らかの強い思いでも持っているのであろうか、スケさんと同じく生前の意識そのままを維持しているように見える。


「退屈を紛らわすのに、地上の話を聞かせてくれんかな?」


周りの牢にはお仲間がおらず、長い間退屈していたのだろうと思った。それ以上に、この流れでの出会い、イベントに絡んでいるキャラと高を括ったっていいだろう。どうせ出ようと思えばいつでも出られるのだから。


「そうね。まあいいわよ。たいした話でもないけどね。」


出入りを遮るはずの鉄格子をエンスト状態でひねってみて問題ないことを確認した私は、このスケルトンの話し相手になることにした。






「ほほう、暗殺組織の本拠地に乗り込んで幹部を生け捕りとは。いやいや中々たいした話ではないか。」

「そのおかげでそのさらに上に目を付けられてこの有様だけどね。」


みんなは大丈夫だろうか。そこが唯一心配ではあるが、私が一人の時に仕掛けてきたことから鑑みて、スケさんを筆頭に戦力的な情報は多少の誤りを含んだ上で伝わっているのだろう。あのエスコート一日目夜のオーガの件も、正しく伝わらずに彼が倒したという流れで理解されているのかもしれない。


何にせよこの話しかけてきたスケルトンが現状一番の懸念であることは確かだ。


「そうか。地上の様子は、いつまでたっても変わらぬものだな。」


牢屋内、私から見えるようにするためか、鉄格子のすぐそばで壁に背をもたれさせて足を伸ばし座りながら嘆息する骸骨。非常に背景にマッチしたその光景。


「まあ、ね。今改めて考えてみれば、街自体がきな臭さで満ちてた気がするわ。でさ、あんたはどうしてここに入れられてるの?いつから?」


自分から語るのもまた暇つぶしになろうと思って問いかけた。情報を得るには気分良く語ってもらいたいのだが。


「私の方こそ、そうたいした話ではないのだがな。一言でいえば、簒奪者の一員、よ。いつのことかなど、もはや覚えておらん。」

「昔この国のリーダーだったってこと?」

「少し違うな。」

「反乱でも起こして失敗したの?」

「反乱とは、違うな。座るはずのなかったものにその椅子へと至る道を、切り開いただけよ。」


それを聞いて、ここへと至った経緯がより気になった。次はどう切り出そうかとそのスケルトンを見たのだが、昔を懐かしむ様子はなく、私の意図に反して多くを語りたいようには見えなかった。


その眼窩が私を通して見ているのは牢の外。牢の内よりさらに狭いところに収まっている事柄になど触れたくはないと、肉が無いためにわかりにくい微妙な表情から、スケルトンとの付き合いが長いおかげで判別できるようになった気がするその些細な表出から、そんな風に思っているのではないかと感じ取れた。


周囲の牢を眺める。私と彼以外、収容されているものはいない。もしかしたらかつて行動を共にした彼の仲間達が、ここに一緒に入れられていたのかもしれない。そして彼が、彼だけが一人残った。


見上げる石の天井。グレー一色の小空間。こんなところにずっと一人で閉じこめられて夢に見るのは地上との再会。決して叶わない夢ではない。それはちゃんといつまでもそこにあるし、遮る障壁さえ突き破ってしまえばいいだけなのだから。足さえ動けば、そう願うなら、その壁を取っ払う役は私が変わってあげられる。


「私はミラージュよ。あんた、名前は?」

「ウスルペルだ。」

「ウスル、でいいわね?望み通り、聞かせてあげるわ。目一杯ね。」






夜更けまで語り続けた。こちらの大陸に渡ってから起こった出来事。多少脚色して、外への興味をよりかき立てるように。


「私などよりずっと危険人物であるな。ここに入れられるのも納得というものだ。」

「そんなことないわよ!まあ、道中の盗賊とかコルンペーレの一件とか、直接にも間接にもこの手にかけちゃった人はもしかしたらあんたより多いかもしれないけど、、、」

「そうではない。そうではないよ。ミラージュよ。そういうことでは、ないのだ。」


フルフルと頭蓋を左右に振って否定した。


「簡単な話ではあるのだ。本当に、大したことでもないのだ。」


そうしてウスルは自分の過去を語り始めた。勝手に想像していたものとは違って、ずっと悪意に満ちたお話だった。






「いいように、使われただけじゃない、、、」

「そういうことである。真実を知ってあきれる以外になかろう。」

「私だったら、ぶん殴りに行くわ!小奇麗な言葉で惑わせて、汚いこと全部押し付けて、その最後がこれって!」

「かもしれんな。が、妄信し従った私にも落ち度はあろう。そうではないか?」


そうだろうが、そうなんだろうが、そうじゃない。アンデッドになってまで存在し続けているのだ。その意志は、嘘ではない。


エンストをかけて、私は鉄格子をぶち破った。牢を出てウスルのいる方とは反対へ行き、突き当りの扉も蹴破って上へと昇る階段のあるその部屋に常駐していた看守を気絶させ、そこに設置された武器置き場から回収されていたマイ刀を取り鞘から抜きはらって翻し、ウスルのいる牢の前まで進んだ。


「こんなところで閉じ籠り続けて、風化しちゃってるのよ。もう一度金属をそん中ねじ込んだら、元に戻るかしらね?」


ギャリっと格子を左腕でへし折って、刀をウスルの胸元に突き付けた。


「出る気ないならそれでもいいわ。でも、もう缶詰の蓋は開いちゃったからね。こっから先もこのままじゃ、風化を超えて腐敗していくわよ。」


さっきへし折った横のもう一本をねじりゆがめる。


「くはは。そうか、そうか。以前訪れた邪神などよりずっとそなたは口がうまい。案内、願うとしようか。」

「勝手する悪い奴だってわかったら問答無用で斬るからね。」


重い腰を持ち上げたウスルを背に、牢屋の並ぶダンジョンの出口へと向かった。


看守部屋から二階へ上がる階段を進む。連れてこられたときに外から眺めた様子ではそれなりの重要施設なことがうかがえた。重大な政治犯であっただろうこのウスルが収容されていたということもその推測の裏付けになっている。


「ここがどんなところか、あんたは知ってるんじゃない?」


階段を上りながら、後ろのスケルトンに声をかけた。


「大罪人を収容する施設だ。もっともここしばらくは私以外の囚人はいなかったがな。」

「そう。私が入れられてすぐだし、警戒は厳重かもしれないわね。でも正面突破で脱出するわよ。扉を開けたら、出口まで駆け抜けなさい。出て右手の方向よ。私のことは心配ないのは、わかるわよね。」


階段の終わり。こちら側から見て押し開きになっている扉がここにもある。ここを出て右まっすぐで出口だった。


「そうだな。」


再度補助を満載にして、ウスルにもできる限りの補助をかけた後、じゃあ行くわよ、と目で合図をして扉を蹴破った。詰めていた警備の者たちがその衝撃音を聞いて集まりだす。それよりも早く私たちは出口へと突っ走った。


「飛び越えるわよ!」


手を差し出す。細い骨の手を自身の手とつなげて、クイックンの赤色光を放って達した助走で、二人夜の空へと飛び跳ねた。


魔法効果がかかる。何もない宙を蹴ることができる。これは、スカイウォークだ。


そのまま二人上空をかけて皆の泊まる宿へと入った。






「ミラージュ、こんな時間に来るなんて珍しいね。」


私以外の面々は皆襲撃を受けたりとかそういったこともなく平和な夜を過ごしていた模様。私が捕まったことにも全く気付かなかったようだ。そういう耳聡いタイプはいないのでしょうがないのではあるが。イクスならやってできんこともないだろうけど、何を調べたいのかわからないのに必要な情報を入手するというのは無理ゲーだ。


ひとまず皆へとウスルの紹介と、ここへと連れてくるに至った流れを伝えた。


「仕掛けて来ぬつもりかと思ったが、かなり直接的に攻めてきましたな。まさかミラージュ殿がお一人の時を狙うとは。」

「そうじゃな。知らぬが仏とはよく言ったものじゃ。にしてもお主、よく我慢したのう。」


けなされてるのか褒められてるのかよくわからないウドーの一言にまあね、と返して、今日これからおよび明日以降の行動を相談した。明日朝には手配書なりが街に出回るかもしれない。そうなると非常に動きづらくなる。


それならそれでビオに飛んで別の場所を観光もいいか。様子見継続の我が意見に否定的だったのはスケセリの二名のみ。多数決かしらね、と指針を決定した。


「まあいいでしょ。どうにもならなかったらビオに戻ればいいしね。それで、あんたはこの後どうする?」


連れてきたウスルに聞いてみた。行きたいところがあれば連れて行ってあげないと。勝手に引っ張りだしたのだから。


「今晩はひとまずここにいさせてもらってよいか?同族もおるようで、疎まれてはおらぬし、安心できる。」

「構わないわ。久しぶりの外だものね。何かあったら、イクス、この子に言って。うちのブレインだから。」

「よろしく、ウスルさん。」

「ああ。」


その様子を眺めて、私はその場を後にした。






ミラージュが出て行ってから数分経過した。その間ずっと静かに窓から空を眺め続けるウスルさんに先ほど引っかかったことを問うた。


「ウスルさん。」

「どうかしたか、イクス殿。」

「ウスルさんを騙した人、まだここにいるよ。」


その人物は暗殺組織のトップと同一だった。先ほど握手を交わした時に判明した。


「そう、か。私と同じ、ということか。」

「たぶんね。」

「そうか、、、」


空気を吐いて、ごく小さな音量でそう言葉をこぼした。また手伝ってあげよう。今回はミラージュの持って来た案件だ。反対される理由もない。そう結論付けて言葉を出そうとしたタイミングで、ウスルさんは僕に言った。


「情報はありがたい、が、もはや私には関係ないことだ。あの娘の仕返しをするなら、そなたらでやればよかろう。」


意外だった。てっきりヴィンディカーと同じく復讐したいと考えると思っていた。実際自分も今回の件には仕返しをすべきと思っている。ミラージュを害した?のだ。その事実が大きなファクターとして思考を動かす。


「不思議そうな顔だな。そなたもあの娘と同じなのだろうな。そうさな。そちらの、、、」

「スケさんだよ。」


察することができて、名前を告げた。


「スケ殿、こちらで話をご一緒せぬか。何、私の言うことに簡単に相槌を打ってもらえればそれでよい。」

「構いませぬぞ。」


やってくるスケさん。


「では。イクス殿、そなたは捕まって閉じ込められてしまったあの娘の仕返しがしたいのであろうな。もちろん無事に戻ったとはいえ、腹に据えかねるものがあるのであろう。」


こくりと頷く。


「そのついでに私のことも、と思ったのであろうな。そのことについてはあの娘も、知れば同じことを言うであろうよ。しかし前者の方は、言わぬがよい。喜びはせんだろう。」

「そうであろうな。」


ウスルさんの言うことに同意するスケさん。


「そう大したことでもなかったのだよ、実際な。それに自分の事となると、ますます大したことではなくなる。その瞬間はどれだけ濃かろうと、やがて薄れる。そう、確か風化と言っておったな。風化、か。牢屋でも風は吹くこともある。少しずつ、風となって抜けていくのであろうな。」

「そうであるな。」


再び同意するスケさん。


思い返す。思考する。その通り、なのかもしれない。


僕が飛び出ていった後のミラージュの様子は、皆から聞いた。申し訳ないことをしたと思った。


自分ではそんな大事だとは思っていなかった。整理がついたら、いずれ戻るつもりだった。


「そうなのかもね。でも、明日はきっと無理やり付き合わされると思うよ。ミラージュは強引だからね。」

「そうであるな。」

「じゃな。」

「ですわね。」

「ええ、間違いないでしょう。」


三度目のスケさんの同意とそれに対するほかのみんなの言葉が雑音0の室内に優しく響いた。


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