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箱庭の君  作者: 鏡 龍彦
高校一年生 -冬-
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easy task -kaenai_mono-

皆との打ち合わせを終えて、テナクスへと戻る。イクスたちと街の散策でもしようと宿へと向かうと、そこでは例の謎の青年がイクスたちとともに待ち構えていた。






「なるほど。元同業者って、そういうこと。」


ヴィンディカーと名乗ったその青年の事情を聞いて納得した私は、当然協力を申し出た。人の命を金で奪う連中。潰さない理由は必死で考えたところで出て来ない。


「本拠地はマリティア。きっと国ぐるみのテナクスへの嫌がらせだね。」

「だろうな。うちのおやじもおそらくそれで、殺されたんだろう。」


ビオより東がクラクトで、クラクトから北にここテナクスがあり、そのさらに北がマリティア。そこがちょうどコルンペーレの南東だ。


どうせ様子を見に行く予定だったのだし、一石二鳥だろう。


いつもより一人増えたメンバーで、さらに北へと馬の鼻を向けさせた。






果たして、その日のうちにマリティアへとたどり着く。荷物もなしで馬を走らせればこんなもんだ。


ヴィンディカーの言うとおり既に顔が割れているかもしれないから、一応の安全を期して街の転移ポイントへと向かいそこから一旦セリナ邸へ。彼とは街に入る直前にいったん分かれ、明日朝もう一度落ち合うことにした。


「金で買えるものじゃ、ないんだ。そうだよね。」

「そうね。換算はできるしそうすることが必要なこともあるけど、それは他人に勝手につけられて、勝手に買われるようなものじゃないわ。」


保険とか、慰謝料とか。


「そう。ミラージュはいくら?」

「うーん、、、まあかなり高いんじゃない?まだまだ死なないからね。」

「なるほど。じゃあスケさんはすごく高いね。」

「いや、あいつはスカスカだから。」

「そっか。」

「うん。じゃあまた明日。」


ログアウトして、端末で生命保険の値段の決め方を調べてみる。平均余命で死亡確率などを加味してのきっちり設定。慈善事業ではないのだから利益は必要だ。そうしてもしもの時に支払われる金額は、その人が自身の残りの時間を金額で換算したものなのだろうか。


そうして提示された金額で、あるいはそれより多い額でもって、これと交換に死をと言われて、賛同する人はいるだろうか。いるかもしれない。そう少なくはないかもしれない。


けれどもしそれが強制だったら、そしてその提示されたものが手を下す相手の懐に入るのなら。そんな理不尽な事って、無いよね。


階下へ降りる。ちょうどよく父さんがいた。


「父さん。保険金殺人って、今まであった?」

「なんだ藪から棒に。ないな。そんなもん、フィクションの中の話だ。めったに起こるもんじゃない。」

「そうだよね。」

「元気になったり憂鬱になったりころころと、落ちつかん奴だな、お前は。」

「暗殺者とか、お話の中でよくいたりするじゃん。金のために他人を害するような。そういうのって、実在するのかなって。」

「なるほどな。そうだな、、、いたとしても確信犯的な、そういうタイプの方が多いんじゃないか?」


現代のルールで考えれば、コルンペーレの一件は重大犯罪だ。確信犯罪だ。それと今回の件と、どうしてこれほど忌避感が違うのか。その理由を探ろうとして、とても怖くなった。独裁者だった。気に食わないから処刑する。自分の好き勝手にできる世界で。それを許すルールの中それをできる力を持って。


そして逆に安心した。


「父さん、この世界は、優しい世界だね。」

「間違え続けたからな。そうなったのは、きっと必然だ。」


スイッチ一つで殺せる世界。引き金一つで奪える命。そんな事実を少なくとも身近に感じることは無いこの世界は、満更でもないんだな。






翌朝、イクスとセリナを連れてマリティアへと向かう。スケさんウドーはあまりに目立つし、その二人を欠いてはセバスを危険にさらす可能性があり怖い。イクスはどうしても連れていく必要があるが、彼一人なら私とセリナの二人でなんとかなるだろう。


「残念だが、よそ者には裏の事情はこぼさないな。」


夜の間にいろいろ嗅ぎまわったのだろうヴィンディカーが合流してすぐそう告げた。


「大丈夫よ。この子がいるから、敵の本拠地はどこかわかるわ。」

「そうか。助かる。」

「今からかちこむ?それとも多少足元を固めてから?」

「面倒事はさっさと終わりにしたいですわ。」


なんだかすごく久しぶりな気がするけど、そういえばこの子はすごい短気なんだった。業物の剣を手に早くいきませんこと、と逸る気持ちでいっぱいのようだ。


「そうね。さっさと片付けましょうか。何名かテナクスに引っ張って帰るわよ。ヴィンディカーも、まずはそれでいい?」

「ああ。」

「では、ミラージュ組若頭セリっち、ブレインのイクスの言うことよく聞いて、ハチャメチャに暴れまわってやりなさい!」

「はい!」


意気揚々と敵本拠地へと向かった。






イクスの案内でたどり着いたのは、一軒の豪邸。地下組織的なものだと思っていたので少し予想外だったが、特に臆する理由もなく、入口の守衛さんに用向きを告げた。


「依頼の件で話をしに来たわ。通してもらえる?」

「どのご依頼の件でしょうか。」


すぐにそう返された。別に問答無用で通ったっていいのだしそうする予定だったので、セリナに合図を送ろうかどうしようかと考えていると、イクスが言葉を発した。


「悪意を世界へ。」

「続きをどうぞ。」

「やがて善意で満たされる。」


そうしてどうしようかと考えていた私に割り込んで、イクスと守衛の間で符丁のやり取りが行われた。通じたようで、問題なく屋敷内へ通されて、客室らしい部屋へと案内される。


少し部屋へ行くまでに待たされたので誰かが待ち構えていると思ったのだが、そうではなかった。おまけに案内してくれた人も部屋を出て行ったし。馬鹿なんだろうか。ここがどういう場所か想像に難くないので皆で事前処理として棚の奥にあったネズミの巣穴を潰した後、ソファーに座り相手方が現れるのを待った。


しばらくして担当の者が現れた。


「どのようなお話でしょうか。」


部屋へと入り一礼をして、向かいのソファーへと座り告げた第一声。実働部隊には見えない振る舞いである。黒いローブで覆っているとかそういういかにもな感じではなく、普通の町人。粗野な感じだったあの三人とは畑が違うのだろう。


何にせよ、ぶちかますタイミングはどう考えてもここよね。待ってる間にどう切り出そうかと考えていた内容をそのままぶつけることにした。


「クレームよ、クレーム。」

「はて、そのようなことは初めてですな。一体どのような?」


一瞬渋い顔を見せて、それからすぐに元の穏やかな表情に戻してそう問い返す男。失敗の報は伝わっているようだ。そのやらかしの根本原因が私たちなことまでは把握していないみたいである。


「こいつ、あんたらが最近やった仕事で悪意を浴びたの。で、その結果新しい悪意を抱えたのよ。それ、おかしくない?さっき聞いたけど、善意で満たすんでしょ?どうなの?」


ヴィンディカーを指してそう告げた。悪意的な復讐心に燃えているかは知らんが、仕返しの類はしようと考えてここまで来たんだろうし、丸っきり外れではない。


その私の言葉を聞いてピクリと反応した男。表情が、外形が、変わった。


「どうやってここまで来た?」


険しい表情。口調すら変えて。凄みは、あるのかもしれない。幻術をかけていただろうちょっと前の顔とは違い、残忍性を感じさせる。


「テナクスまでの道中で馬鹿やった三人にね、懇切丁寧に道案内されたの。いい構成員をお持ちのようで。特にあのジョセイってのは、鋭い勘を持ってるわね。引き抜き、いいかしら。」


ちらりと部屋に設置された棚を見る男。それは、残念だがもうない。


「ま、冗談は置いといて、その受け取っちゃった悪意、いらないから返品しに来たの。あんたらが配達で受け取った全額、出しなさい。クラクトの武器商を襲った分よ。ミスったほうはいらねーから、出せ。」


そんなもの欲しいわけじゃない。本当にただの悪質なクレームだ。言いたいだけだ。


「ふん、何を言い出すかと思えば。んなもん通るわけないだろうが。真っ当な商売で稼いだ金だ。渡すわけないだろ。ほら、お駄賃やるから、さっさと帰んな。」


懐から取り出したものを私の顔面めがけて投げる男。それは私には届かず、ヴィンディカーの剣ではじかれた。そのままソファーの間にまたがっているテーブルを転がって床へと落ちた。ちらと過保護なヴィンディカーの方を眺めて、言葉を続けた。


「このままここで暴れまわって、このお屋敷を潰してもいいんだけど?」


問答無用で手を出してきた。おまけに真っ当な商売と宣いおった。こいつらに同情の余地は持てない。マイナスだらけの足し算だ。プラスになることは無い。


「ふはは、こういう稼業をやってると馬鹿な奴らはいくらでも見る機会があるが、ここまで愚かな奴は初めてだ。わざわざここまで乗り込んできて金の無心、そのうえでそれか。」


そう言ってゆっくりとソファーから立ち上がった。


「笑かせてもらった礼にこのままきっちりと丁重にお送りしよう。」


ソファーから壁へと歩き、巧妙に隠されたスイッチを押した。もちろん、何も起こらないわけだが。いや、正確に言うと、何も飛び出さないわけだが。


開いた仕掛け棚の先には、昏倒して簀巻きにされた構成員。誰も出て来ないことに戸惑い首を動かして見るなり目を広げてその姿を眺めた男に向けて、もう一度伝えた。


「出してほしいのは金だっつってんだけど。こんなむさくるしそうなおっさん欲しいなんて一言も言ってない。あんたこそ、馬鹿じゃないの?言葉、通じねーんですか?」

「一体、どうやって、、、いや、見つけたとしても、こいつがやられることなど、、、」


自然な反応だった。頭が、回っていないようだ。私の挑発交じりの言葉など聞こえてないようだった。


「ミラージュ様、もう、よろしいのでは?」

「そうね。」


セリナに腹パンは任せて、私はロープをヴィンディカーへと手渡す。


「どんな立場の奴かはまだわかんないけど、あんたの仕事、でしょう。」

「ああ、ありがとう。」


簀巻きにされる男。イクスが情報を読み取る。


「この組織のトップ、、、いや、まだ上がいる?んー、、、」

「そう、まあ何にせよ別のよりでかい何かが絡んでるってことね。予想通りっちゃ予想通り。盛大に喧嘩を売っちゃったことになるわけだけど、どうしようかしらね。」


今考えたところでどうしようもないか。後のことはまた後で。ひとまずこのミノムシ二つをテナクスまで運ぶことを優先することにした。ヴィンディカーが一つ、私とセリナでもう一つ。補助満載で転移ポイントまで駆け抜けた。






事情説明は全てヴィンディカーに任せて、私たちはセリナ邸へと戻った。昨日の商人に引き続き、とても感謝された。一応のけじめはついたのだろう。こっから先、捲き込むわけにはいかない、かな。


「つーわけで、喧嘩を売ってきました。」

「ほう、次は国が相手であるか。中々に斬りがたい相手ではあるな。」

「あほか。そんなもんどうやっても斬れんのじゃ。」

「ふむ、そうであるか?しかし砦や城程度なら斬れようぞ。」

「そういうことじゃないわい。」


確かにできないわけじゃないが、あまりに強引すぎるのも違うような。国全体が絡んでるなら、それもよしではあるのだが、確証無しで破壊行為、というのもなぁ。


「イクス、どう思う?」

「マリティアで過ごしてみよう。ぶつかってみないと、始まらないでしょ?」

「そうね。」


今回の件は通常期間を超えるレベルで顔が割れてしまった可能性はある。向こうの出方を様子見するにも、敵の領域内にいたほうがわかりやすいか。


「皆警戒厳に。隙を見せちゃだめよ。」


マリティアへと再び。今度はフルメンバーで向かった。






拍子抜けするほど何もなくて、街を見回ったあと宿で皆と別れ、一人転移ポイントへと向かった。


そしてその歩みの途中、囲まれた。売った喧嘩は買われたようだ。うーむ。ここで暴れるのは下策か。抵抗せず素直に捕縛され、連行された。


連れていかれたところは専用の収容施設のような場所。厳重に閉じられた扉を通ってその屋内へと連れられる。入り口からしばらく歩いたところの扉が開かれ、その先には階段。そこを下りると、字義通りのダンジョンだった。中央通路の両側に牢屋が並んでいる。その奥の方の一つに入れられた。ここに収容されているものは他にはいないようで、途中通り過ぎた牢はすべて空だった。


狭い牢屋の片隅、まああるよね。入ってすぐに目についた転移ポイント。ひとまずログアウトした。おそらく次に入るときは、強制的にあの場所からだわ。じゃないと転移で脱獄できちゃうものね。


結構燃えるシチュエーション。誰か気付いて助けに来てくれるかしら。牢に捕らわれたお姫様を救い出しに来てくれるかしら。


(・・・)


ねーな。二つの意味で、ねーな。


姫じゃないし、気付かない。


そんなことを思いつつ、夕飯を堪能した。


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