表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
箱庭の君  作者: 鏡 龍彦
高校一年生 -冬-
47/100

detective mirrorge -gouinn_ni_buchikamasu-

ロスパーにまたがって休憩地点へと戻る。時間の進行は、数分程度だろう。


「ちっ、呑気なもんだな。召使二人に命懸けで戦わせといて、自分は馬車の中で遊んだり馬で駆けたり好き勝手かよ。命賭けてる俺らにも、従者の二人にも、失礼過ぎんだろ。」


戻ったところでオノモチから文句を言われた。休憩所の傍、昼休憩で出ていくときにはなかった数体のモンスターの死骸。それを見つけて早速群がるカラスの群れ。


「あんたらみたく命をベットして金を稼いでることに文句はないし根性あると思うけどね、その価値観を押し付けてほしくはないわ。少なくともうちらは、あの二人は、あんたら弱っちいのと違ってベットしたのは期限の三日間だけだからね。」


我が口からすらすらと出る嫌味な言葉。なんだろう、オノモチとは相性が悪いんだろうか。


「クソガキが、、、」

「あーはいはい、オノモチ、そこまで。こんな子いじめてどうすんのよ。それに逆に言い負けてるし。」


再び斧の柄に手をかけかけたオノモチ。その彼と私の間にジョセイが割り込んできた。


「実際あの子、すごかったわよ。おまけにあのスケルトン、あの子の師匠なんだって。危険依頼すぎて選択失敗したと思ったけど、むしろ幸運だったわ。ほとんどタダ働きで高額報酬。」

「ちっ。」


納得したのか怖気づいたのか、オノモチは舌打ちをして去っていった。


「気にしちゃ駄目よ。あのおっさんどうやらただの馬鹿みたいだから。」


彼とは違い午前とは正反対の態度で気安く声をかけてくるジョセイ。つい売り言葉に買い言葉でああは言ってしまったが。


「あれぐらい警戒心とか敵対心があったほうが、仕事はできるのかもね。あんたはプライドなさすぎ。今日の夜、生き残れないかもね。」

「え、どゆこと?」


答えを返さず、馬車の傍へと向かった。驚き顔ではなく、無表情だったのが印象的だった。


「さて、情報分析第三回、ね。」

「うん。」


先ほどの会話の端々をイクスへと伝える。私がいない間にちょうど起こったモンスターの襲撃の様子も聞いた。


「馬車から覗ける範囲を見てたけど、普通の襲撃だね。ここ結構見通し良いから、遠くから僕らを見つけたモンスターが数体、で、襲ってきただけって感じだったよ。」

「そう。わかったわ。」


午後の部、開演。今回はロスパーにまたがって外の面々の様子を後ろからしっかり眺めつつ進むことにした。私たちの馬車は最後尾。全体がそれなりに見渡せる。






カパカパと蹄の音を立てながら進む馬たち。観察を続けたものの、そう不審な様子を見せる者もいない。私と同様周囲をきょろきょろと見ているのはフツー、ゴーヨク、ガメッツの三名。同順で隊列の左中央と右中央にそこから少し後方。左後方はオノモチ。私に対するイライラが募っているのか、チラチラと眉間にしわを寄せてこちらの様子をうかがって来る。


最前の左方スケさんのすぐ後ろにジョセイ。右はセリナ最前列からのシキリンだ。彼らは前方注視。


一刻ごとに、午前と同じくシキリンが各護衛メンバーの所へと横付けして、短い会話を交わしていく。昼に私に向けて言ったことに関して探る目的か、あるいは単に全体の取りまとめ役気取りなのか。


散発的にモンスターや盗賊たちの襲撃を受けたが、大きな問題なく一団は進んだ。






夕方に差し掛かった。つい先ほども雑魚に襲撃され、その死体へと群がろうと上空を飛ぶカラスの鳴き声がうるさい。かあかあと、この世界でも騒音被害を与えてくる黒い鳥。


その鳴き声を耳にしながら、少し浮かぶ違和感、いや、逆だ。符合感、とでも呼ぶべきもの。なんだろう、何か引っかかる。


「ねえウドー、セバス。」


御者台にいる二人の傍に横付けして聞いてみる。


「なんじゃ?」

「午前の配置って、今と同じだったよね?」

「そうじゃな、、、確か、ほとんど同じじゃったと思うが。」


記憶が確かなら、オノモチとジョセイが入れ替わっただけ。改めて確認をする。


「最初の襲撃まではかなり違いましたよ。」


セバスが教えてくれた。


最初の襲撃前、右に前から順にシキリン、ジョセイ、オノモチ、フツーの四人だったらしい。で、左うちらの馬車付近にスケさんとセリナ、やや前方にゴーヨクとガメッツ。一番前が、その襲撃で殺された男。そこから二度目の襲撃前までは今のオノモチとジョセイの位置が逆だった以外は、記憶の通り今の配置と同じ。


「ふむ、それは結構大事な情報な気がするわね。」


配置なんて、いつどの方向から襲われるかわからなければどこであっても危険は等確率。そうコロコロ変えるものでもないが、変えたって問題もない。が、もし情報があれば確率の前提は変わってくる。


証拠はないが、決まりだな。決着は今夜だ。余計な被害を出さないためにも、やっぱり強引にぶちかますしかない。間違ってたら、謝ればいい。






夜。重大事は拍子抜けするほど何も起こらず経過した午後の時間。のんびりペースで進んだ所は目的地まで五分の二といったところだろうか。この経路を通る商人向けに適した野営地点があった。


それが遠めに見えた段階で夕飯を食べにロスパーを駆け一団から抜け出す。ゲーム時間を停止してログアウトした。


すぐに端末で連絡を取ってみる。つながった。


「え?演技の見破り方?」

「はい。何かあるでしょうか。」


頼んだのは早ペディア。演技ならばこの人の領分だろう。


「うーん、そうね、、、とっさの反応って、だいたい皆一様なの。でも事前に用意してたら別。よく、あるじゃない?そこ、驚きで言葉も出ないだろ、って場面で普通にセリフを言い出すこととか。」

「あー、成程。」

「そういうシチュエーションを用意すればいいと思うわ。」

「ありがとうございます。すごく助かりました。」

「ううん。役に立てたならうれしいわ。今度お茶でも一緒に、行きましょう。」

「はい。いつでも!」






夕飯を済ませて、ゲーム内時間のすぐで戻って、カネモチさんたち雇い主の面々と護衛の連中を一か所に集める。


セリナにロープを渡し、スケさんを前に出して、集った面々に声をかけた。


「えー、これから名前を呼ぶ方、こちらまでお越しください。」


不思議顔を浮かべる面々。


「ジョセイさん。」

「なにー?何かの余興?」


特に疑うことなく近づいてくるジョセイ。


「ほいセリっち確保―。」


淡いエンストの効果光をともして即座にジョセイを取り押さえるセリナ。


「ちょ、何よ!いきなり何なのよ!」


そのまましっかりとロープで縛ったようだ。おーけー。よくやった。


呆気に取られてその一連の行動を眺めていた面々。その中から二人、別の反応を見せるものがいた。


「おい、嬢ちゃん、この悪ふざけはやりすぎだ。さすがに我慢も限界だぜ。」

「そうだな。そいつがそうっていう証拠はあるのか?」


オノモチとシキリン。どうやら六のうち三つは白濃厚のようだ。


「大丈夫。今ちゃんと見せるから。」


ごそごそとジョセイのポケットを探る。途中難しい顔を一瞬見せる。一体何だと驚き言葉も出ない面々の中、ふふん、と一瞬勝ち誇った表情を二人が浮かべたのを見逃さない。抵抗することなく探らせているジョセイの余裕も見逃さない。


「はい、これ。」


空っぽの手を広げて手のひらを上にして皆に差し出し見せる。


「何よ!何も入ってなかったでしょーが!」


わめくジョセイ。六分の三が黒で確定、だろうな。間違ってたらもちろん謝るけどね。


「なんですか、何もないではないですか。一体全体、何がどういうことで?」


手のひらに何もないことを見たフツーが普通に疑問をぶつけてきた。同じく首をかしげるゴーヨクとガメッツ。


すぐさまはぁーと嘆息する様子をみせる先ほど突っかかってきた二名。そうして私から目をそらしたその瞬間、クイックン。峰で気絶させる。


「セリナ、この二人も縛っといて。で、そうね、、、あの樹に括りつけましょうか。じゃあカネモチさん、私たちは先を急ぎましょう。もう少し行った先にも夜営によさげなところがあるんです。そこにしましょう。さあそうしましょう。なんかここ、嫌な予感がするんですよ。」


ケツを叩いて移動を促す。私の振る舞いに真っ青になりながらも、当然、声を出すジョセイ。おそらくこいつが一番口が軽いというのは、さっき感じた勘だったが間違いじゃなかったようだ。


「ちょ、ちょっと、もうわかったから、いや、よくわかんないけど縛られたままでもとりあえずいいから、私たち連れてってくんない?ね、ね?これじゃ満足に戦えずに食べられちゃうわ。」


一体何に食べられるというのでしょうか。カラスでしょうか。


「そうね。置き去りにするのも悪いわね。じゃあやっぱり一晩ここで様子を見ましょう。そうしましょう。ね、カネモチさん。もちろん、強力なモンスターの襲撃があったら全力で逃げましょう。戦闘の余波で荷物、壊れたらいけませんもんね。三人には悪いけど、護衛って、そういうもんですよね?命、ベットしてんだもんね。悪いけど、カネモチさんとその商品を守るために、そのチップ使わせてもらうわ。」


酷薄な私の言葉。状況が理解できず私の言葉に超絶な引きを見せるカネモチさんに従者たち。そう、それが普通の反応だ。おどおどと、疑問と恐怖で混じった表情をやめない。


多少荒事に場慣れしているであろうフツーとゴーヨクとガメッツの三人も思考が回らずどうしたものかと戸惑っている。


これほど冷酷に他人の命をチップとして支払える少女、傍には強力な飛車角。弱いと思ったその玉も想定以上。抗うべきか従うべきか。そんなの数秒で判断つくはずもない。思考停止だ。それはヘルシーな、健全な反応だ。


沈黙が落ちる休憩所。カア、とカラスが鳴いた。


「いや、移動、しましょう。そう、しましょう。その二人も連れて行って、置き去りじゃ、かわいそうじゃない?」


再びカアカアと鳴くカラス。


「うるさいわね。」


道端に転がっていた小石を拾う。エンスト一回、これで十分。とりゃっと樹に乗っていた一羽のカラスめがけて投げる。命中し、地面に落ちるそれ。


「イクス君やーい!でばーん!」


ウドーの土魔法で運んできたそのカラスを馬車から出てきたイクスに触れさせ、情報を直接読み取らせる。


「予定通り半刻後、襲撃。だそうだよ。」

「はい、ありがとう。ではここでもう一度、同じ言葉を繰り返しましょう。これから名前を呼ぶ方、こちらまでお越しください。後ろ暗いことが無いならば、この子とレッツ握手。フツーさん。」


話が読めた、という顔でやって来て、普通に握手を交わした。


「ゴーヨクさん。」


こちらもこりゃお手柄で金がうまいぜ、なんて一言をこぼしながら握手を交わした。


「ガメッツさん。」


幸運の手だ。この仕事選んでよかった、なんて言葉を発して握手を交わした。


「ということで、こっちの三人は白。まずあの二人は黒確だろうけど、一応触れてみて。ウドー。」


顔以外を土で覆って、気絶のふりして体当たりでもされないようにした後、イクスに触れさせた。


「二人とも暗殺組織の構成員。間違いないよ。そっちのジョセイさんも、仲間みたいだね。」

「ちっきしょーーーーー!」


ジョセイの大きな雄たけびが響いた。


「あの出発前の握手を見た瞬間、すげー嫌な予感がしたんだ。すぐやめようぜって言ったのに、言ったのに!くそ、くそぉぉぉ!」

「安心しなさいな。ここで斬り捨てたりしないし、多少の労役を済ませたら出られるわ。あんたなら多少稼ぎは悪くなるけど、真っ当な仕事でも生きていけるでしょ。これを機に、改心しなさいな。」






そうして短いスキットを終えてしばらくしたところで、威圧が周囲に広がった。お、こりゃ中々、かな。スケさんを見る。頷く彼。つまらん仕事、と思っていたのだろうが最後に最大級のプレゼントが来たようだ。


「に、逃げないと!ありゃ駄目だ。うちの一番の奴だ!食われちまう!」


必死に叫ぶジョセイ。ぽんぽんとその肩を叩き、スケさんとそれの1v1が見えるように体勢を立て直してやる。


「ま、見てなさいって。」


現れたのはオーガ種。大きな剣を肩に構えている。詳細はわからん。スケさんの鬱陶しさを多少なりとも和らげるために、最上級のレジェンダリーであることを祈る。


残念、違ったようだ。一太刀敵の攻撃をその剣で受けて、興味を無くした模様。一気にテンションが冷めるのがわかった。


まあ一つ前があの氷龍だしな。あれと比べちゃうとなぁ。


「セリっち、師匠が不味いってさ。」

「私も、食指が動きませんわ。」


おう、こやつも言うようになった。まあ一つ前があの氷龍だしな。仕方ない。連れのお残しは主の私が拾って邪魔にならないようにすべきか。


「そう。しょうがないわね。あんたたち強く、なりすぎたのよ。相手探すのもこれじゃ苦労するわ。」


一振りで片付けて血振るいして、鞘に納めた。難易度最弱。通常イベントの敵など、物の数ではない。


「見取り稽古で十分ですわ。」


再び広がる威圧。お、これ前の激オコ時とほとんど同じくらいじゃないか?


私も補助を満載にする。重ね掛けなし。クイックンは、切り札だな。


そうして消化不良のスケさんとともに、セリナの見取り稽古に付き合ってあげた。






数の少なくなった護衛のまま予定取りの行程を辿って、無事目的地までたどり着き護衛依頼を果たした。非常に感謝された。お礼代わりにいろいろと情報をもらったが、このテナクスは北との折り合いが非常に悪いものの、基本専守防衛で攻めっ気はないらしい。運んだ商品も武器類と医薬品類。春の開戦前にいつもこうして大量注文が続くのだとか。


真っ当な商売人に見えるカネモチさん。例のクラクトで声をかけて危険を知らせてきた青年のことを聞いてみるも、心当たりがないとのこと。


どういうこっちゃ。一つ解決したが、一つ謎が残ったな。


その謎は一旦置いておいて、皆と数日後の予定の打ち合わせをするための約束時間になったのでゲームホームへと戻った。






「大活躍だったそうじゃないか。」


宿の食堂で過ごしていた僕たちに声をかけてきた人がいた。以前クラクトで注意をしてくれた人だった。


「うん?今はあの嬢ちゃんはいないのか?」

「そうだよ。」

「何の用じゃ?」


やや警戒値を上昇させる皆。


「いや、何、また警告しとこうと思ってな。今回の一件であんたら目をつけられたぜ。間違いなくな。」


じっと目を見る。その抱えた奥底の思考を読み取ろうと試行する。けれどあの時のようにはできない。まだ、対象に接触する必要がある。何が原因なのだろうか。


「触れてみるか?」


そう言って男は手を差し出してきた。その差し出された手と握手をする。流れ込むデータ。


ヴィンディカー。クラクティアン。武器商人の息子。幼いころより武具に囲まれ育ち、売る側ではなく振るう側に興味を惹かれ、その道を志す。ビオプランタにて探索者稼業に勤しむも、父の訃報を聞きクラクトへと帰郷、その死の原因が暗殺組織の仕業と睨み、調査を・・・


それで、か。理由が判明した。


「ヴィンディカーだ。もっとも、もうわかってるのかもしれんが。」

「イクスだよ。ミラージュは多分協力すると、思う。」


関わった暗殺組織のデータも検索。彼女が賛同するであろう介入要件は十分に揃っている。


彼とともに、またあとで顔を出すと言っていたミラージュを待つことにした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ