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箱庭の君  作者: 鏡 龍彦
高校一年生 -冬-
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escort -magireru_akui-

別に推理したりとかはしません。

ビオプランタより東の小国クラクト。以前この大陸へと船で渡ったときにたどり着いた港街を含むところ。公式説明によると、他国から資源を輸入、加工し交易で生計を立てている商業国、とのこと。例えるなら、小金持ち。西でビオと接しているのも大きな要因だ。


その首都へとやってきた我が面々。街には多くの工房が軒を連ねていて、煙をもうもうとあげながら商品製作に勤しんでいる。並ぶ商品もアムセルで見たような平和な観光土産といった特産品とは違い、物騒なものが多い。剣とか鎧とか。


ビオプランタで獲れた素材もかなり流通しているようで、中々に高品質なものも少なくない。


皆で街の観光巡りをしつつも、何か情報を探すなら酒場かしらね、と思いぞろぞろと歩きそれっぽいところへと向かう。






「おじさん、ミルクとティー。」


注文を終え、すぐに出されたそれをみんなのテーブルへと持っていく。


途中周囲の様子を眺める。商人風の出で立ちの者が多い。


「コルンペーレの政変でだいぶ情勢が変わったな。」

「ああ。この春は大きく儲ける機会かもしれんな。」


どうやらかかわった騒動の影響がここまで伝わってきているようだ。こっち側の事情に詳しそうな人にでも話、聞けないかしらね。


席に着き、テーブルに飲み物を置いて椅子には座らず周囲をもう一度眺めてみる。


「ミラージュ。」


何かに気づいたのか、イクスが声をかけた。その視線の先を眺めると、男が一人こちらへとやってきた。


「あんたら、うまい儲け話があるんだが、乗らねぇか?」


私はピーンと硬貨を一枚はじいて男に渡し、続きを促した。


「へへ、話が早くて助かるぜ。いやな、あんたらみたいな腕利きを探してるっていう商人がいてな。でかい取引のための護衛を集めてるらしい。報酬たっぷりだぜ。組まねぇか?」


スケさんをチラ見して伝えてくる。でかい取引か。悪くないな。裏事情とか少しは見えるかもしれない。


「案内しなさい。」






連れられてその商人のお宅へ。庭にはびっしりの応募者。担当者より即行渡される不採用通知。


「く、不採用の切なさすら取り入れてくるとは、恐れ入ったわ、、、」


いや、違うだろ。あたしプレイヤー。プレイヤーなのよ。普通こういうときってとんとん拍子で上手くいくもんじゃない?


「ミラージュ、、、なんか、悲しいね。」

「そうね。それは、切なさ、よ。涙は出ないけど、悲しみ一杯。」

「うん。」


私と同じく即不採用の通知を渡されたイクスにそもそも参加しなかったセバス、ウドーと一緒に庭の木の傍で体育座り。切なく会話をしながら試験の模様を眺める。


まあスケさんは間違いなく受かるし、なぜかセリナは私と違って残ってるし。なんでや。


てか個別試験だったらあの情報くれた男意味なくね?手を組むとかそういうんじゃないじゃん。


あ、さっきの男。とぼとぼと庭を出て行く切ない後姿が目に入った。






結局スケセリの二名が無事護衛として合格。私たち他のメンツはその二人について一緒に行くと願い出た。報酬は二人分だが、それが目当てなわけじゃないから別にいい。


馬車も二人のための馬も自前で用意してついていくと言えば、快く受け入れられた。正直合格した二名は結構な危険物だ。他合格した護衛連と一緒にいさせたらどんなトラブルが起こるかわからん。


依頼人との追加の交渉を行ったため、他合格者より少し遅れてそのお宅を後にした。


明日の同時刻出発ということで、今日はどうしよう、時間、進めっかな、とイクスと相談しながら街中宿を求めて歩いていると、青年に声をかけられた。


「あんたたち、さっきあの商人の家から出てきたろ。関係者か?」


横柄に問だけ発したその青年。逞しい体格。凛々しい顔立ち。身に着けている装備品からも一端の戦士のように思える。採用試験に落ちた者だろうか。


「募集してた護衛依頼を受けたんだけど。何か用?」

「そうか。なら手を引いた方がいい。無駄に命を捨てたくはないだろ。」


特に敵意なく、そう言葉をつづけた青年。どうやら商人通しの物理的な足の引っ張り合いは日常茶飯事のようである。おそらく敵対する何者かが妨害工作でも企んでいるのだろう。


「あんた、あの商人の同業者の身内か何か?」


商人には全く見えないその青年。けれどこうして忠告してきたということはそういう裏の情報をつかんでいるということだし、一応聞いてみた。


「だった、が正しいな。じゃあな。忠告はしたからな。」


そう告げて、足早に去っていった。


ふーむ。店を潰されたとかか。それもかなり理不尽な手法で。その恨みで有り金はたいて襲撃依頼でも出した、そんなところか。本人も腕に自信がありそうだったしな。


「スケさん。」

「うむ、中々の腕のようであったぞ。」

「そうですわね。」


外見からの実力判断チャンプ、スケさん。それに続いてセリナも感想をこぼした。


「ウドー。」

「そうじゃな。悪い奴には見えんかったがな。」

「そのようですね。わざわざ忠告してくださったわけですから。」


外見からの内面判断ウィザード、ウドー。それに続いてセバスも印象を語った。


「なんにせよ今回の護衛、相手は道中のモンスターや盗賊だけってわけじゃない、みたいね。」


目を見開いて、あれ、僕は?という顔を見せたイクス。あんたは判断する側よ、と告げて歩きながら情報の整理を二人で進めた。






スケさんが乗っても大丈夫な馬、ロスパーは私用、それ以外の馬車牽引用の馬をレンタルしてから翌日の集合時間まで進め、例の商人宅の庭に向かった。


既に運ばれる商品の積み込みは終わっていて、数台の馬車が並んでいた。護衛連中のための馬も用意されている。道中のんびり差異探ししながら、目的地のテナクス、ここクラクト北で隣接する国の首都まで。


「これ以上は待っておれん。出発する。」


取り仕切り役の商人さんが出発を宣言した。


どうやら昨日採用した護衛計十名、うちら以外のメンツ八名の内の一人が、予定の時間が過ぎても現れなかったようだ。試験の様子をちゃんと眺めていた私。リアル時間でついさっきの情景を思い出す。来なかったのはスケさんを除けば一番体格が良かった合格者だ。


あの紹介してくれた男が言っていた通り報酬は結構な額。こういうことを生業としているNPCが、みすみすそれを捨てる判断をするはずはない。


そういうことか、と何となく事情が見えて、馬にまたがる護衛連中を見回した。


この中に、入り込んでるな。敵の勝利条件はおそらく護衛対象の傍担当になること。それゆえ頭数を減らした。特に第一候補を。


そうして一番近距離で護衛する役になれば、夜営の際に騒ぎを起こすことなく暗殺してそのままおさらばすることができる。保険に外からの襲撃も用意しているかもしれない。それと同時に行えばより確実であるし、証人も消せる。


「ちょっと、待った!」


イクスを連れて傍担当に指名された屈強な男と握手を交わさせる。


瞬間、背に強い視線を感じた。即後ろを振り返る。だめだ、特定できない。軽率だった。あまりに唐突で不自然すぎた。


「もういいか?」


商人さんの言に頷き、自分たちの馬車へと戻る。


「イクス、どうだった?」

「真っ当な戦士。」

「そう。他の六人、名前から検索は?」

「全員問題なし。」

「そう。」


偽名、なりすまし、方法はいくらでもある。触れさせれば一発というのに、その手段はかなり取り辛くなった。凡ミスだ。


ごり押しでスケとセリナを商人さんに張りつかせるか?駄目だ、逆に疑われかねない。そういう誘導を紛れ込んだ奴がしてくるかもしれない。


スケセリ除いて八名の護衛。来なかった奴、イクスの確証で白確定者を除いて残り六名。確率六分の一。この先拾う情報をもとに、正解へとたどり着かねばならない。


馬車の小隊。一風変わったクローズド・サークルが出来上がった。






最初の襲撃があった。あっさりと白確定だった護衛が死んだ。商人の乗る馬車のすぐ隣を馬に乗り並走していた彼。明確にその場所をターゲットにしていたモンスター。やや見通しの悪い街道を進む中、完全な奇襲を受けた。


あらゆる襲撃に対してセリナに察知したら即クイックンで斬り払うように言ってあったため、それ以上の被害は出なかった。


おそらくこの襲撃を事前に計っていたであろう犯人に手柄を渡すこともなかったが、防げなかったのは凡ミスだ。こんなに早く仕掛けてくるとは思わなかった。


「なぜこんな強力なモンスターが、、、」


驚く商人とその従者たち。おそらく暗殺者が用意した。テイマーか何か、そういう技能持ちの協力者がいるか、本人がそうか。それを言うべきか否か迷っていたところで、私より先に声を出す者がいた。


「疫病神を乗せちゃったようね。ほら、あの髪の白い子。こいつあの子と握手したじゃない。」


ジョセイという護衛の一人が、馬車から出て様子を眺めていたイクスを指してそう告げた。残った六人のうち唯一の女性。試験の時に見せていた腕前はたしかに合格水準。けれどかなり困惑した眼差しをイクスへと向けている。口元も少し震えているようだ。演技、には見えない。本気で大凶でも引いたような顔をしている、と感じる。


「そういうの、俺は信じねぇがな。けどあんましこっちに近づけさせんな。ガキは嫌いだ。」


オノモチという名の護衛。大きな斧を背負っているひげ面のおっさん。暗殺者って感じでは無い。そういうある種器用な仕事をこなすタイプには見えない。


「そうですね。護衛の役には立ちそうもなし。急遽追加のあなた方非戦闘員は馬車から出ないように、お願いできますか?その方が安全でしょう。」

「そうね。わかったわ。」


フツーという名の護衛その三。腕のいい普通の剣士、それ以上の印象はない。人もよさそうではある。その彼の言に素直に従うことにした。


敵の初手、意図していたかはどうか知らないが、速攻でこちらの確定勝利手札を封じられた。


ごり押しをすべきか悩むが、この話の流れではうまくいく気がしない。


「とりあえずこいつの後、誰が引き継ぐか決めねーか?もしかしたら貧乏くじかもしれんが、誰かがやらんといかんだろ。」


護衛その四、シキリン。投げナイフやらなにやら、いろんな装備をはっつけている。怪しいと言えば怪しいが。残り二人はというと、死体に群がろうとカァカァうるさいカラスを払いながら倒されたモンスターの検分を行っている。どうやらその素材に興味があるようで、倒したセリナの方をちらちらと眺めている。


「欲しかったら、どうぞ。」


私の言葉に対する同意の頷きをセリナにさせた。喜んで回収する二名。ゴーヨクとガメッツ、だったか。二人とも金に強欲で相当がめついようだ。


「で、どうする?立候補形式で、決めるか?」


シキリン。仕切りたがりのタイプのようだ。


「あたしは嫌。さっきのモンスター、明らかにこの馬車狙ってたじゃない?だから逆立候補。報酬上がるのは捨てがたいけど、命には代えられないわ。戦うのはいいけど、奇襲最初の標的になって戦う準備すら整わないままやられたくない。」


ジョセイが降りた。そうか、報酬が上乗せされんのか。だったらなりたがるやつがほとんどだ。これは困った。


「ま、確かに多少きなくせーがな。そういうのも含めての護衛だろうがよ。」


そのジョセイのスタンスに物申すオノモチ。彼は降りる気はないようだ。


「金は大事だ。それにこんなもん、ただの突発的な事故だ。裏を読みすぎてんぜ、あんたら。」


先ほど素材を手に入れたガメッツ。それに同意するジョセイとシキリン以外の面々。


「ふむ、降りたのは一人だけか。これじゃ決まらんな。かといって雇い主さんは馬車にこもっちまったしな。コイントスでもするか?」


シキリン。懐からコインを数枚取り出した。やはり仕切りたがりのよう。


「いいかしら?」

「なんだ?」


声を上げる。


「ちょっと、その子に発言権あげないでよ。契約した護衛でもないのについてきて、不幸を呼び込んだ張本人なんだから。連れてるお供、変なのばっかだし。」

「まあそうね。でも、試験の様子私ずっと見てたのよ。で、あんたら全員、弱すぎ。また無様に死なれて商人さんおびえさせちゃったら駄目っしょ。だから、スケさんで決まり。夜眠る必要もないしね。ぴったりじゃん。上乗せの報酬はまあ、、、欲しいっちゃ欲しいけど、それで揉めるんなら上乗せ分をあんたらで分けたら?失敗するほうが私は嫌だもの。セリナとスケさん二人分の元々の額でも十分だしね。」


勿論有り余っている金などどうでもよく。強気のセリフを吐きながら全員の様子を眺める。表情に変化が現れたのは、オノモチと死骸漁りの二人、ゴーヨクとガメッツ。


「ほう、嬢ちゃん、言うじゃねーか。この斧で叩き潰されてーみてーだな!その腰の飾りで受けてみるか!?」


青筋を浮かべ背にした斧の柄に手をかけるオノモチ。にやけた表情を浮かべてまあまあと落ち着かせようとするゴーヨクとガメッツ。


「オノモチさんよ。何もしないで報酬増額だぜ?よく考えたほうがいい。最高の提案だろ?それにこの嬢ちゃん斬ったらあの二人が黙ってねーぜ。」


スケさんとセリナの方を促してなだめたゴーヨク。オノモチはそちらを一瞥して、柄から手を放した。


「ふん。まあいいさ。」

「よし、これで決まりだな。この嬢ちゃんの票はあの二人分として、ゴーヨクとガメッツで四票。俺も異論はないから一票、で計五票の過半数だ。文句のあるやつ、いるか?」


シキリンのまとめる言葉。反対意見は出なかった。






「さて、とりあえず余裕はできたわね。」


再び進み始めた隊列。その後ろをついていく私たちの馬車。御者はセバスに任せて、その隣にウドーを配置させている。私はイクスと馬車の中で情報を整理することにした。


「ジョセイは怪しいわね。速攻あんたのこと切り出したし。」

「そうだね。けど単純に運とかそういうのに思い入れが深いだけって可能性もあるよ。」

「そうね。速攻降りたのも彼女だしね。でもそれが逆に怪しい。運とかお決まりとかで言えば、言い出しっぺって大体不利を背負うものよ。なのに降りるの一番乗りだったじゃない。」

「うーん、そう、かも。じゃあオノモチは?」

「あいつは、無いと思うわ。暗殺者にしては短気すぎ。向いてないってやつね。」

「演技かもよ。」

「そうね。したらま、保留か。」

「フツー。」

「ほぼ情報ゼロ。」

「でも僕を気遣う感じでさりげなく馬車に押し込んだのは彼だね。」

「ふむ、そうだったわね。でもそれだけね。」

「シキリンは、スケさんが張り付くのに賛成したね。あとの二人も。」

「ゴーヨクとガメッツは金が全て、って感じね。その信念は暗殺者っぽいけど。シキリンは、そうね、頭が回りそうな感じはしたわね。」

「細工済みのコインで自分が就くつもりだったのかも。」

「なるほど。」


ま、どんな名探偵だろうとここまでの流れで特定するのは無理だろう。けれど予想される敵の勝利条件の一つはつぶした。如何に仕掛けようとも、スケの突破は不可能だ。目標へと至る周り道を再度作るには、何らかのアクションをさらけ出す必要がある。


そこを逃さなければ、勝てる。


そしてさらに、敵は知らない。不幸にも同道してしまった、そいつにとってはまごうことなき疫病神たち。その中で、最強の戦力が私だということを。この腰の刀が飾りではないということを。


目的地到着は三日後。夜をあと二回。しびれを切らして外から襲撃したら、それは向こうのゲームオーバーだ。


暗殺一味かなんか知らんが、真っ向仕掛けてくるようならつぶしてやる。もはや私に、迷いはない。こちらの世界では、容赦しない。売られたら、買う。優しさと優柔を、混同したりはしない


イクスとの話し合いを終え馬車から出て、ロスパーにまたがり護衛各々の下へ様子をうかがいに行くことにした。






「調子はどう?」


進行方向に対して自馬車の右側一番近くにいたガメッツに声をかけた。


「おう、嬢ちゃん、さっきはありがとうな。おかげで儲けが増えたぜ。」

「いいのよ。うちも大所帯で宿代だのなんだのかかるんだけど、今回の報酬は基本の額でも十分だわ。」

「まあそうだろうがな。もらえるもんはもらった方がいいさ。貪欲にな。」

「否定はしないわね。でもそこまでしてどうして必要なの?」


気軽な感じで聞いてみた。少しいいにくそうに口を閉ざしたガメッツだったが、答えを返してきた。


「俺んちは貧乏でな。俺はたまたま興味を持った武芸で芽が出ちまったのよ。だから稼ぎ頭だ。」

「なるほど。立派ね。」

「そうでもねぇ。泥臭い仕事をしちまうこともある。それでも今回のは隠し事なく持ち帰れる金だ。気前のいい嬢ちゃんがいたってな。」

「そりゃどうも。でも無事生き残れるかどうかは決まってないわよ。」


そう。また前のような危険な襲撃があるかもしれないのだから。


「大丈夫だ。もう出ないはずの出目は出た。すぐにもう一回ってのは中々ないもんさ。」

「そう、かもね。」


決して根拠のある話ではない。ただのオカルトだ。おまけに今回おそらく、ランダムではない。操作している奴がいる。もっともこのガメッツがそれならば自分は安全だし、そう言い切るのも正しいのだろうが。






そこから前方へと進みゴーヨクの下へ。同様に声をかける。


「おう、嬢ちゃんか。危ないし、あの坊主と一緒に馬車に隠れてた方がいいんじゃねーか?好奇心旺盛なのは結構だがよ。」

「ありがと。でも心配しないで。何かあっても回避してスケさんかセリナの下へ逃げるくらいのことは日常茶飯事よ。」

「へー。裕福そうな形して結構な修羅場をくぐってるもんなんだな。意外だぜ。」

「まあ、ね。」


くぐるどころか自ら修羅場へとぶち当たりに行ったことの方が多かったのだが。むしろそういうケースしかない気がするのだが。


「そんな年で苦労してんだな。けど金は譲らねーからな。さっきのやっぱり無し、とか、そういうのは認めねーぜ。」

「言わないわよ。でもさっきガメッツにも聞いたけど、どうしてそんなにこだわるの?」


ガメッツとは違い、よくぞ聞いてくれました、といった感じのにやけ顔を浮かべて、問いに対する答えを早口で述べ始めた。


「いやー実はこの間街でふと短刀が目に入ったのよ。なんかこう吸い込まれるように近づいて手に取ってみたらな、吸い付くように手に馴染むっつーかそう、まさに運命の出会い。で、買おうと値段見たらだ、、、」


相槌がほしいのか、間を置くゴーヨク。


「めちゃ高価だった?」


再びにやりと、予想通りの返答ありがとうという感じの顔をして、早口で述べ始めた。


「いや、それ自体は買えたんだがな。俺別に短剣使いじゃねーしなと思ってその店のおやじに聞いたんだ。したら同じ職人の打った長剣が置いてあるっていうじゃねーか。そりゃ買うだろ。即買いだろ。したらそっちの方がまあ、嬢ちゃんの言う通りでな。」

「なるほど。」


わからんでもない。


「この仕事がおわりゃあ、、、」


そのタイミングでモンスターの集団が現れた。自身に課したロールプレイを演じようと即最前列のセリナの下へと向かう。現れたのは先ほどとは違い雑魚だ。間を置かず彼女の手により斬り払われる。


「助かったわ。」


セリナにウインクとともにそう伝える。こくり頷く彼女。頭は良いのだ。興味の矛先は残念だけどな。


一旦自馬車の下へと戻り、反対側の警護最後尾だったジョセイに声をかけた。


「何よ、話しかけないでよ。悪い運気が寄ってくるかもしれないじゃない。」


そういうキャラで押し通しているのだろうか、素なのだろうか、あっちいけしっしと追い返された。


「何よ。さっきの襲撃、うちのセリナが頑張ったのよ。」

「あーそうね。でもあれくらいなら別に誰だって対処できるわよ。確かに、最初の時の動きはすごかったけど、、、ん?もしかしてあの骸骨もあれぐらいすごいの?」

「骸骨じゃなくて、いや、骸骨だけど、あいつはスケさん。で、セリナはスケさんの弟子よ。」

「はあ?じゃああれよりすごいってこと!?」

「タイプは違うけど、まあセリナ相手じゃ負けなんて一度もないわね。」


返事は来ず、馬の速度を速めていったジョセイ。スケさんの傍へと向かい、そこを担当していたオノモチと何やら会話をし始めた。まとまったのか、後ろへ下がるオノモチ。そのまま私の方へ。


渋い顔を浮かべにらんでくるオノモチ。こりゃ会話なんてできなそうだ。私は彼とは逆に前へと進み、フツーへと声をかけた。


「ああ、お嬢さん。危ないのであまり外には来ない方がよろしいのでは?」

「さっきみたいなことがあったら怖いわね。でもすぐに前のスケさんの傍に逃げるから、大丈夫よ。危機察知能力は高いの。」

「ふむ、女性特有の勘というやつですか?ジョセイさんも、そういう鋭い感覚を持っているようですし。興味深いですね。」

「どうかしらね。言ってるだけかもしれないわよ。」


そう、その線はある。言い出しっぺは怪しいのだ。


「しかし達人がぼそりと述べた無根拠な言葉が、真理と思えることもあります。ジョセイさんがどのような経験を積んでいるかは知りませんが、そう切って捨てることもないのでは?」

「そういう経験、あるの?」


達人という言葉に引っかかって、問いを問いで返す。


「ええ。私の師は達人と呼んでよいお方だと思います。その教えの一つ一つが、止まぬ戦いの日々の中こうして歩み進み続ける拠り所となっています。運悪く亡くなられた彼には申し訳ないですが、運もまた実力の一つでありましょう。」

「それは、そうでしょうね。」

「ええ。先ほどおっしゃっていた通り、依頼の方はあなたのお供二人で十分でしょう。しかしあなた方追加の非戦闘員の乗る馬車は後方。そこは私がお守りいたします。弱きを助けよとは、わが師の教えの一つですから。」

「ありがと。」


可能な限り心がこもっているように見える笑顔を向けて、その言葉への返礼とした。話だけ聞くと普通にいい人、だな。


前方は先ほど話したジョセイとスケさん。右側ゴーヨクの前はシキリンだ。彼も私と同様、各護衛に声をかけているようだ。


そこに入り込むのも違うと思い、自分たちの馬車内へと戻った。


「話、聞いてきたわ。」


イクスと再び情報共有。ラメーレの時は目が合った瞬間情報が伝わったとイクスは教えてくれた。それは彼の成長だ。そうして伝わることは、ままあるのだ。そんなことを彼に切々と話しながら、馬車内で揺れる。暇になった。


「昼まで、カードで遊んでましょうか。」

「そうだね。」






昼休憩。雇い主の名前はなんか長ったらしいのだったので、カネモチで統一することにした。


カネモチの傍で佇むスケさん。その隣で従者の面々が食事を用意するのを観察する私。シキリンが近寄ってきて、声をかけた。


「嬢ちゃん、ミラージュ、だったか。あんたの提案で、ピンと来たぜ。中に、いんのか?」

「たぶんね。毒でも入れられたら終わりでしょ?だからこうして、ね。」


どうやら彼は私たちの意図を察したようだ。予想通り鋭い、のか、彼自身がそうで警戒心を緩めるブラフなのか。


「なるほどな。でも毒殺だったら街中でも狙えるだろ。わざわざ外でやるか?」

「保険で準備しててもおかしくないわ。夜襲の目は現状ほぼつぶしたからね。そういう想定を用意周到にしてたっておかしくないわ。スケさんを抜こうとしたって間違いなく返り討ちだから、心配すべきはそういう方面よ。」


そうセリフを述べながら、言われてみればそうだな、と考える。タイミング、モンスターの利用。事故に見せかけたいのか。そう依頼されているのかもしれない。


「身体検査でもしてみるか?」

「手の内、さらしてもいいの?言いふらされるかもよ。」

「そりゃごめんだな。」


肩をすくめてそうこぼし、その場を後にした。


「どう思う?」

「ピンとはきませんな。さほど凄腕には見えなんだ。」

「死臭漂わせてるやつとかは?」

「おりませんな。」


ふむ、スケセンサーに引っかかるほどでもないのか。


「何かここまでの道中、気になったこととかある?」

「そうですな。襲撃は二度。一度目は例のものですな。二度目は、雑魚の集団であった。そうかからずにセリナが処理いたしたが、狙いはそれがしの所ではなかったな。他の者の様子を観察したが、不審な動きを見せるものはおらなんだ。以降、ジョセイがそれがしの近くに場所を移しておったが。それぐらい、であるな。」

「ありがとう。」


私が目撃した通り。襲撃時の後ろの様子は新情報だが、特に新たに判明することもない。その後騒動なく昼休憩が終わった。


「じゃあイクス、いったん出る。時間停止にするから。ごめん。」

「わかった。」


セリナにクイックンをかけてもらい、ロスパーにまたがって高速で休憩所から離れた。


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