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箱庭の君  作者: 鏡 龍彦
高校一年生 -冬-
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yuzuruki_ha_naino_desu

二人で氷原を駆ける。そこそこの距離があったが、常夏の指輪による方向指示は的確で、数十分で見つけられた。氷に覆われ遥か地中に埋まっていないところが、ゲームのイベントらしさを感じさせる。


「これはこの指輪の効果が無かったら見つけられなかったわね。」

「そうだね。」

「クラペディアに感謝しないと。」

「ん?クラペディア?」

「物知りで聞いたら何でも教えてくれるもののことよ。クーラさんの別称。本人の前では言っちゃだめだかんね。」

「へー。」


視線を泳がし、いいことを聞いたといった感じで相槌を打つ。こいつ。


それはとてもいいことだと感じる。本当にすごく人間味あふれる振る舞いだった。次にもし、そう、本格的な反抗期にでも入ったら、どうしようかな。父さんみたく、竹刀で勝負ってのはイクス相手じゃ理不尽だ。かといって言葉で勝負は勝てる気せん。


「じゃあイクス、氷のおうちまで戻りましょうか。」


何で決着つけるべきかなと考えながら、声をかけた。


「うん。」


クイックンをかける。飛び出さ、、、ない二人。


「ちょっとイクス、行きなさいよ。」

「えっと、ちょっとどっちだったか忘れたなーと思って。」


何だって?


「ちょ、それどうすんのよ!?私はこの指輪の効果で大丈夫だけど、あんたは不味いかもしれないじゃない!」

「嘘嘘。座標はいつでもチェックできるから。」


一杯取られた。怒るかわりに、微笑みが出た。


「そう。そういう嘘は、嫌いじゃないわ。冗談とも、言うのよ。」


彼もにっこりと笑顔を返してくれた。






イクスの先導で問題なく氷の家まで戻った。例の騒音はまだ止んでいないようだ。


「様子を見に行くしかないか。」


音の発生源へと向かうと、巨大な氷龍がいた。まあそんなところだとは思ったわ。多数でタコ殴り、というには固い氷の防壁がその全身を覆っていて、さしてダメージは与えられないまま膠着している模様。


「ミラージュ、丁度よかった!あいつぶっ飛ばすの、手伝ってよ!あの一撃なら、ぶった切れるっしょ!尻尾辺りをこうスパーンって!」


戦いで高まった特有のテンションでそう私に告げてくる氷精。


「あの野郎このあたりの主気分で、前から鬱陶しかったのよ!一番強いやつをって言われたからさして期待せずにあいつを呼んだんだけど、あの二人、中々じゃん!これは懲らしめるチャンスよ!お願い!」


イクスと二人昨日に引き続いての二度目のシンクロを果たした。


なんかそう強いものでもないのだが嫌悪感、と呼ぶしかないものが沸き上がった。


「ミラージュ、確かそういうのって、同族嫌悪っていうんだよ。」


その意味不明なイクスのセリフを聞き流して、やや離れたところでセリナとスケさんの戦う様子を眺めていたセバスの下に歩みを進める。


「いつから?」

「こちらへと赴いてすぐに。攻撃が通りませんが、お二方への危険もなさそうです。」


先ほどからクイックンが切れるちょっと前に退避して、クールダウン待ちを行うセリナ。安全マージンをしっかりと取った、堅実な戦いだ。氷龍の方も、その行動を理解している様子は見せていて、そのうえでセリナの小休止に手を出そうとはしない。


ずずっと用意されていたお茶を飲む。


「冷めているでしょう。新しいものを用意いたします。」

「いいわ。冷めてもおいしいもの。全部飲むから。」


作業を始めようとしたセバスを手で止めて、カップ片手に観戦を気取る。頑丈なスケさんは尻尾の一撃すら耐え抜いておる。カメリアと行った木の棒での特訓が効いたな。


けれどもそのスケの繰り出す重い一撃も、氷の障壁に歯が立たないようだ。削ってはいるのだが次々再生され続けるせいで、その包んでいる肉を斬るところまでは至らない。鱗も固そうだし、ダメージを与えることは難しそうだ。


セリナの軽い剣は言わずもがな。速さだけではどうしようもない。せいぜい気を散らす程度だ。


あ、鼻息。さっきから氷龍の顔を攻撃しようと近づいてそうして吹っ飛ばされている。スケさんに対する攻撃とは違い、直接損傷を与えかねない攻撃は控えてくれている。


次はエンストを覚えさせるべきかしらね、それがあったらもうちょっと食いつけるかな、と今後のセリナの成長計画を考えながら、どうやら本気ではない氷龍と二人の戦いを眺める。


「ちょっとちょっと!そんな悠長に構えてないで、助太刀しなさいよ!あんたが手を貸せばあんな奴、余裕でしょー!」

「その可能性はあるかもだけどね。それじゃ、あの二人はどう思うのかしら。あの目の輝き、見えないの?」


指差し示す。ギラギラ輝く黒い眼窩にほとばしる炎。何度飛ばされても負けじと輝く瞳。


もしこの世界にカメラがあったら、パシャパシャとそれを抱えていろんな角度から撮影していたであろう。もちろん、限定的にではあるがそれはある。さっきからゲーム内機能でスクショを取りまくっているのだ。


少なくとも、彼らの方から助けを求めない限りは手を出すことはあり得ない。私抜きで始めた戦い、その後始末をかっさらうわけにはいかない。


「ううー、なんでよぉ!」


その氷精の一言の直後、セリナが私の傍にやってきた。


「ミラージュ、様、あの、筋力、を、増強する、魔法を、お教えください!」


息せききってそう告げたセリナ。うむ。今回は自ら進む先を選んだか。


「よかろう。マナの流れをくみ取るがよい。しかと見よ。」


おそらく確変入っているであろうセリナ。一目で習得するに違いない。ゆっくりと、普段使いとは違ってプロセスがわかるように使用する。


(エン、ハンス、ストレン、クス)


緩やかに全身を駆け巡る効果光。続いてイクスに向けて同じ効果のそれをかける。一連の流れをなぞるセリナ。予想通り、問題なく習得できたようだ。私のそれより効果の灯は薄いが、スケさんにかければ巻き返せよう。






ほどなくして、撤退を始めた氷龍。防壁を破られ、繰り出した障壁も次々割られ、怪我を負うのを嫌がったのであろう。二人も相当に満足したようで、その様子を見て剣を納めた。


私はその龍の目前に向かった。声をかけてみる。


「あなた、この辺りの主らしいわね。二人に付き合ってくれてありがと。すごくいい経験になったと思うわ。」

「途中から我が防護を突き破るようになった。そなたの入れ知恵か?」


予想通り、人語を解するタイプのようだった。


「エンハンス・ストレンクス、あの子に教えてみたの。ここできっちり習得したのは、あの子の実力よ。」


そう。それはたしかに、セリナの実力。あの動物園を巡る戦いの時もそう。相手が強力なほど、彼女は輝きを増す。


「そうか。久しぶりに楽しき戦いであった。そなたたちも、南の住人であるか?」


こくり頷く。が、なんだか嫌な予感がするぞ。


「以前たまたま立ち寄った木精が話すのを聞いてな。それが偽りではないことが今、わかった。是非引っ越し先を紹介していただきたい。氷精と二人この地で寂しく過ごしておったが、この外にそのような世界が広がっているのならば、な。この良き機会を逃したくない。」


置き土産三つ目、来てしまったようだ。しかしこんなデカ物がついてくるとか、邪魔以外の何物でもないぞ。


そうして眉間にしわを寄せた私の表情を見て取ったのか、その氷龍からまばゆい光がほとばしった。一瞬目がくらみ閉じる。再び目を開けると壮年の男性へと姿を変えていた。外装その他、多大にスケさんの影響を受けているようだ。そっくりの鎧姿に擬態している。


「これならば迷惑にもならぬだろう。しばし、案内を頼む。」

「そうね。同族のたくさんいる場所になら、心当たりがあるけど、、、」


氷精よりもずっとウドーっぽい、つまり分別がついている、このドラゴンのお願いは聞いてあげることに抵抗が生まれない。人徳ってやつかしら。こっちも二人のお願いを聞いてもらってる分もあるしな。けどなんにせよ。


「あんた暖かいところ、大丈夫?」






今回は天丼なく、さすが龍種という感じでストーブ前にて平気そうに佇む氷龍の変身姿。


「ま、これで一件落着ね。」


どうやらこの氷精と氷龍、腐れ縁というやつで仲が悪いようでいて良いのだそう。暖かさに耐えられない氷精には常冬の指輪を装着させ、アムセルへと連れていく。無事、溶けることなく常夏の街の観光を楽しんだ。


何でこんな奴と一緒に、とプンプン顔で文句を言っていた氷精だったが、アムセル観光の誘惑には勝てなかった模様。氷龍と二人連れだってあちこち眺める様子は親子のようだった。


そうして龍の里やらなんやらの情報を書き込んだ地図を渡し、二人と別れた。


「問題児がいなくなって、良かったわい。」

「そうね。でもなんだかんだ、楽しめたいいイベントだったわ。」


本当に。差異じゃなくオリジナルで用意されたそれだけど、イクスにもスケさんにもセリナにも。みんなにいい成長を促す経験になったと思う。


一人一人の遊び方で、その時々の状況で様々変わるイベント詳細。


「次はどこに行ってみる?」

「そうね、、、春までは特に、これかな?って予定もないけど。」

「春、トランキ達の手助け?」

「思い入れのある国が亡んじゃうのは、嫌じゃない?」


そうなったとき、手を貸さなかったことを後悔するのは間違いない。なのでみんなが同意してくれるならそうしようかなと思っていたのだ。


「んー、だったら他国の様子、眺めてみない?」

「そうね。それはいい案ね。」

「ふむ。どこに肩入れするか、事前調査であるか。それがしは劣勢に追い込まれているところが良いと思うが。」

「でしたらおそらく、コルンペーレで決まりですわよ、師匠。」

「そうであるか。」


そーなんです。どっか心根のいい国があって同盟とかしてくれたりすればいいんだけど。少なくとも鉱物資源は豊富だしねい。それを、探しに行きますか。


「じゃあ一旦ビオプランタね。今日はそこで宿。明日からは毎日観光よ。午前中には顔、出すからね。」


明日からは冬休み。次はどんなイベントが待っているのか、楽しみね。






「鏡ちゃん、何かいいことあった?この間調子崩した時あったじゃない?あの次の日から、すごく機嫌よさそうよ。」


いいことのはずなのに、恐る恐る聞いてくる母さん。今日は珍しく隣に父さんが座っていて、すごく気になります、という顔を必死に押し隠してみそ汁をすすっていた。


「うん、なんかこう、刺さってたとげが抜けたみたいな感じでね、この間、師範からも一本とれたんだ。」

「ほう、それはすごいな。」

「でしょ?でも師範曰く、そういうことって時折あったらしくて。今、それを自発的に再現できないかいろいろ試行錯誤中。もしできたら、父さんにも勝てるわ。」

「どうだろうな。ま、いつでも挑んで来い。庭先で相手してやる。」

「うん。」


ぐっとガッツポーズを見せ、夕飯の続きに取り掛かった。






現在は勝率3パーセント程度かもしれない。でもあの時みたいな冴えがあれば。最初の一を引くのは無理じゃない。そう歯磨きしながら思った。


一緒に歩む存在。でもいつか乗り越えて、踏み越えて。


父さんもそうやすやすと、踏み越えられる気はないだろう。私も。親もとへ届けた後だって、あと80年は前に立ち続けてやるんだから。あの氷精と氷龍のように仲良くここを観光できたらいいな。アメリカだったら、イクスの親御さんに案内してもらえばいいな。


そんな未来を思いながら、私は少量の冬課題に取り掛かった。


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