表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
箱庭の君  作者: 鏡 龍彦
高校一年生 -秋-
32/100

let's fight -tsukurou_doubutsuen-

「さてと、無事予定通り事が運んだわね。」


宿へと戻り、作戦会議の始まりの第一声を告げる。


「そうですな。それがしはディフェンダーで、問題なかろう。」


スケさんの申告役職なんて、アタディフェどっちでも変わらん。スキル構成とかいじれるわけじゃないしな。


「そうね。中央で、1v2で耐えてもらうわ。で、左にウドーとセリナ。ウドーはやや防御寄りだし、相性はいいはずよ。」

「うむ。敵の攻撃をわしがしっかり防ぎ、セリナが攻撃じゃな。」

「そうよ。それで最初の2v1は勝てると思うわ。」


この二人でマギとアタッカー。私がコマンダーで、アリーナ機能でイクス以外とも遠距離連絡指示ができるようになる。


「右は?」


イクスが問いかける。


「もちろん私。で、前言った通りコマンダーね。だから最初駆けつける順は中央が先。スケさんなら余裕でもつでしょ。」


だいじょーぶぅ?という表情をこちらへ向けるイクス。


「何が?スケさんが心配?」

「そこじゃなくてさ、夢中になって、兵の操作とか、忘れちゃうんじゃない?」


ふむ、すでに結構な時間を共に過ごし、私の性格、性質をつかんできているようである。しかしそれは杞憂だ。


「大丈夫。考えてるわ。イクス、自軍の兵配分は全部あんたに任せた。連絡くれればその通りにするから。私は基本戦場を駆け巡って、みんなのフォローに回るわ。適材適所よ。」

「そっか、広域視界があれば、危険になりそうなところを探れるもんね。ダンジョン探索、リュウがいたときすごい楽だったもんね。」

「ああ、そんなもん無いわ。私習得してないの。それはロードと違ってアリーナの機能じゃできないの。だから勘よ。スピードは速いし、それで十分いけるわ。」


向けられた視線は、失望だった。残念な感じで、見つめられた。






「ま、あんま心配はしてないが、負けんなよ、ミラージュ姉。」

「うん、ありがと。」


カリオーネからの最後の応援を受け、アリーナへと入る。



Welcome, to the arena.

The duel is to start 2 minutes later…


「前情報によると、向こうは金に物を言わせて凄腕を片っ端から高額で雇ったみたいね。もちろん勝てばその賭け金の数十倍がうちらから払い戻されるんだけど、その思惑、儚い夢にさせてあげましょう。」

「そうであるな。」

「そうじゃな。」


特に緊張の無い年寄り連中。イクスも二度目ということもあり、そして私たちへの信頼からか、緊張は見られない。今回の緊張役はセリナだった。意外だ。喜色満面で戦いに赴くと思っていたのだが。


「肩の力を抜きなさい。セバスやご両親に、成長した姿を見せつけるのよ。」

「そ、それがミラージュ様、、、それが問題なのです、、、」

「ご両親、連れてきちゃダメだった?」


お嬢様の晴れ姿を是非に、とセバスにお願いされて、彼とルイナまで転移で赴き、セリナ邸にてご両親に娘の参戦の報を告げた。


セバスの目論見通り、お優しい親バカ二人は即反応で見たい、連れて行って欲しいと言ってきたので、そこから再び転移で親御さん二名とその世話人数名をビオプランタへと連れてきたのだが。


「はい、、、」


そうか。まあそりゃ緊張もするか。


「むしろ親孝行じゃない。迷惑かけまくってる分、ここで素晴らしい活躍を見せて、取り返すのよ。」

「そう、、、ですね。そうですね!ミラージュ様、ありがとうございます。」


うむ、簡単にほぐれた。


「さて、じゃあみんな、作戦の通り。最初のコンタクト時、少しでも相手が厳しいと感じるようなら、私が駆け付けるまでは無理せず時間を稼ぎなさい。」


了解の意を示して、皆指定のレーンゲートへと向かった。



The duel will start at 10, 9, 8, 7,,,


2, 1, Gate open!


いつもの様式美を今回もなぞって、駆けだした。






第一障壁、コアをぶっ壊したその瞬間、敵陣営がたどり着いた。


(クイックンを使えるレベルか。)



「兵置き去りでコアをつぶして、そんで速いだけじゃない、か。その身のこなし。いや、つまんねーデュエル、高額を積まれたから渋々参加したが、こりゃー予想外に楽しめそうだな。」


ぶつかってきた兵の相手をしていた私を、距離を保って観察しながら冷静に分析してきた。できる、だろうな。他もこのクラスだと、セリナにはきついかもしれない。


「あんた、チーム内で一番強いやつ?」


兵を斬り捨てながら、問いかける。自軍の兵たちがようやく到着した。返事はなく、私は一旦後方へと下がり距離を取る。無事私から敵兵のターゲットが外れる。


その瞬間、側面から来た。高速の突き。


しっかりと反応して、スッとその斜め前方へ危なげなくかわし、返しが追いつかず前傾姿勢のそいつをそのまま斬り払った。


残念。突きにはかなり慣れてるの。






速攻その場を放棄し、中央へと向かう。兵配分は、右を少し厚くしとくか、、、いや、変えなくていいか。


遠目に様子がうかがえる位置までたどり着く。予想外に、そこには敵の役職が一人しかおらず。すでに一人倒した、という感じはしない。一般兵も混じっての乱戦が繰り広げられている。果敢に敵に斬りかかろうとするスケさんだが、兵にいいタイミングで邪魔されて上手くいかない。


そうして敵役職持ちを観察しながら近づく。盗賊タイプのよう。スピードを生かしてスケさんの間合いに入らないようにしながら、隙を見て攻撃を加えている。上手い、な。


一撃掠りでもすれば終わりなんだろうが、どうやら私とは違いちゃんとしたコマンダーのようで、近場の兵への指示を細かく行い、対抗している。真っ当な1v1に持ち込めず、上手くいなされてスケさんも非常にやりづらそう。こりゃ相性最悪だな。そしてまだかなり遠方というのに、やってきた私に気づいた。


復活したアタッカーと連絡でも取ったか。右レーンから私がやって来るのを予測して、クールダウンが終わる度にこちらを視界スキルで見ていたのだろう。


私が姿を現したのを見て、すぐさまここを捨てての撤退を選んだよう。左レーンへと駆け始めた。判断が早い。やっぱり、前とは違ってかなり強いチームだ。


「スケさん、クイックンかけるから、高速で敵兵全部なぎ倒して、ここのコアを破壊。そのまままっすぐ突き進んで!」

「承った。」


クイックンをかけ、その高速でもって敵コマンダーを追いかけ、無事屠る。


「イクス、左の状況は!?」

「障壁手前まで押し込まれてる。ミラージュに言われた通り、分が悪そうだったから安全策を命令しといた。」

「よくやったわ。」


イクスの判断をほめながら、セリナとウドーに会話をつなぐ。


「二人とも、大丈夫?」

「予想外の2v2でのう、セリナの攻撃はディフェンダーに抑えられ、マギの攻撃はわしが何とか防いどるが、つらいのう。」

「すみません、ミラージュ様。」

「構わないわ。もうすぐそっちに着くから。安心して待ってなさい。」


全力で向かう。私が到着するのとほぼ同時に、敵、間違いなくアタッカーの先ほど斬ったあいつもここへ来た。


すぐさま私へと向けられるマギの魔法。マナ消費などお構いなく、全開でぶつけてくる。その敵二名の下へと近づくアタッカー、ほとばしった特徴的な効果光。


(不味い!)


回避で手いっぱいになった私をほっぽって、そのアタッカーはセリナとウドーへと向けて突き進み、抗う二人を10秒でリスポーン状態にした。


(くそ、早く切れろ、クイックン!)


必死でディフェンダーとマギ、そしてさらに加わったアタッカーからの攻勢をかわし続け払いのけながら、秒数を数える。


(21、22、23、24)


必死であしらい、数え続ける。セリナとウドーが稼いでくれた10秒を、無駄にはしない。あと五秒。


(3、2、1)


マギが、そのタイミングでちょうど魔法の狙いを誤って隙をさらした。


全力で突進した。読まれた。最後の一秒、わざと外したんだ。そのマギの様子を見て取って突っ込んだ私の胸に、深々とアタッカーの剣が突き刺さった。くそ、視野が狭くなってた。




左、右、中央、どこだ、次はどこに行けばいい?左をこのまま三人で進まれたらもたない。そこをケアすべきだ。まずは、そうだろう。完全に後手に回されてしまっていることに焦りを感じながら、待機時間を待つ。




「ミラージュ、やり返そう。」


リスポーンを果たした私に、イクスが声をかけた。


「左レーン、コア壊される直前確認したけど、ディフェンダー一枚だけ残して、他二人は敵側に戻ってた、、、うん、やっぱりいない。ブラフで潜まれてたとしたらどうしようもないけど、たぶん、中央に流れてコマンダーと合流。スケさんを取ってから、右に流れるよ。このまま左でもう一度3v3は分が悪いと判断したんだと思う。だからこっちは左に兵を集中、みんなは右。」


ロードの視界確保での状況確認から戦術を組み立てるイクス。右、か。


「スケ!」

「目の前先ほどのすばしっこいやつ。仕掛けてこず、やりきれん。増援を願いたい。」


まだ他二名はやって来ていないようだ。結構深くまで進んだのか。


「今すぐ引きなさい!すぐに二人追加が来るわ。あんたなら耐えきって逃げれるでしょ?どっかで一旦リターンして、左。ディフェンダー同士、つぶしてきなさい!」



イクスでは届かない敵側陣地へと入り込んでいるスケに連絡を伝えながら、右レーンへと向かう。途中兵配分をいじりながら進んでいると、すでにイクスの指示でこちらへと向かっていた二人と合流した。






イクスの予想通り、いやそれより状況よく、スケさんのいなくなった中央の取返しにコマンダーは残して、アタッカーとマギの二人でここへときたようだ。相手コマンダーはスケさんの戻った先に注意を向けていたのか、こちらの動きはばれず、無事裏をかけたようだ。


クイックン。セリナとウドーの傍でかける。3v2。さっきやられたことを、より手ひどくやり返す。負けるわけがない。意気あらわに、きらめきを放つセリナ。


ごめんね、さっきもらった10秒、生かせなかった。


背中に羽根が、見えた気がした。さっそうと駆け、マギの攻撃への防御にウドーが作った土壁の群れを足場にして、飛翔するセリナ。


私が手を出すまでもなく、敵二人を斬り払った。






そのまま三人で直進。兵配分は前と同じく、役職持ちのいなくなった中央に多めに割り振り、右に障壁突破に使えるだけを残す。コマンダー単独で突き進まれても、そうすぐには本陣まで抜かれない。


「スケさん?」

「無事左は対処いたした。今コアを再稼働中。敵の方は、そろそろ復活してくる頃合いかと思われる。」

「よくやったわ。そのまま一旦本陣待機。イクス?」

「敵コマンダー、中央には見えず。リターンしたんじゃないかな?兵数差でそのまま押してる。どーする?」


ふむ、そうね、仕掛けて負けても、せいぜい五分に戻るだけかな。


「力押しは?」

「最強だね。」


イクスも賛成のようだ。






敵本陣前で、想定通りディフェンダーとコマンダーを含む敵のフルメンバーが控えていた。


クイックンの効果が両陣営にかかる。これは、うちの分は、私じゃない。


三度目のぶつかり合い。速度の有利は互いになく、高速で繰り広げられる30秒間の攻防。防御はすべてウドーに任せ、私はセリナとともに縦横無尽に駆け巡った。



飛び跳ねる、飛び跳ねる。

空に浮かぶ、ウドーの土壁。

それを蹴っての、空中機動。

打ち合わせなく、合わさる連携。

蝶と蜂。パタパタブンブン飛び跳ねる。


セリナ、撫でるように。

私、針のように鋭く。

刺し貫かれ、崩れるマギ。

撫でられ消える、アタッカー。

土塊、ディフェンダーを押しやって。

コマンダー、回避やむなく針の餌食。

ロードの前へと、ふわり降り立つ。


王手。既に三手の詰み。

一手優しくこつんと落ちる、セリナの剣。

二手ウドー、上空造る、巨大たらい。

逃げ場なく、その頭へとゴッツーン。

そうして三手目、とどめ刺し。


ルール破りの連続三手で、敵ロードが倒された。



ボヒューーーーー、パアァァーーーーン。


お決まりの花火。


The duel was over.

Won by Mirrorge_Syouku_Rengou






「これはいいものだ、ねぇ。」


出来上がったウォンバトゥーン園を前に、感想をこぼすクーラさん。


「あーあ、これが差異じゃなきゃ、癒し部門で狙えるかもなのになぁ。」


コンテストか。そんな部門もあんのか。


「モフモフは一律5分100金ですよ。いかがです?」

「ほい。」


速攻支払うクーラさん。


開園初日、すでに相当数のリピーターが期待できそうなぐらい賑わっている。私が離れても、問題ないだろう。後のことは、ショウク・ファミリーがやってくれる。


「ミラージュ姉、ほんとお手柄。ゴォ・ファミリーの仕切りで賭けが行われて、私もサニタもウハウハよ。ショウクの面々も、かなりの儲けを手にしたらしい。ギィ・ファミリーに対抗できるレベルのまとまった資金が手に入ったみたい。ゴォも元締めとして相当儲けたみたいで、しばらく友好な関係が続きそうよ。」


ギィ、ゴォ、ショウクって、それあれやん。いや、スティーブンさん、中々に良き趣味をお持ちのようで。ん?したらあの橋の件も、わかってて用意したんか?侮れんな、スティーブン。


春秋で手痛い目にあって以来、そのあたりの歴史を多少とも知っておこうと、玲央に勧められて読んだ三国志やらなんやらの古代中国史にまつわる文献色々。


うん、ドはまり。小説はもちろん、傑作古典漫画のコレクションも増えた。


「カンウーとかチョーヒィとかコーメイとか、そういう名前の人、いる?」


おるやろ。これは間違いないやろ。スティーブンさんや。


「んー、いないみたい。」


イクスの返答。なんでや。そこ、そここだわるべきやろ。


そんなことを考えていると、長身扇子持ちと腕と耳の異様に長い二人連れが、私に声をかけてきた。どうやらファミリーのトップ二人のようで、丁寧にお礼を述べられた。






「イクス!あの、腕と耳の長いの、リュービィとかリウベイとか、そういう名前でしょ!」

「ん、違うよ。」


がっくりとうなだれる。名は体を表すかもしれんが、その逆は違うんか。


まあ私も鏡じゃないのに鏡だしな。そういうもんなんだろう。


「そういうもんさね。」

「ですよね。クーラさんだって、全然クールじゃないですもんね。」


不用意に口が滑った。なんか、高級リップクリームをつけた後みたいに、つるつると唇が動いた。


「あん!?」


鋭い眼光。即正座。


「なはは、ミラっちの直球ストレート、本日も健在ねぇ。」


お優しき猫神様。私は最敬礼で、そのご神体を仰いだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ