表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
箱庭の君  作者: 鏡 龍彦
高校一年生 -秋-
31/100

let's go -mata_susumu-

「でね、むこうで私凡ミス、、、違う、致命的なのをやっちゃったんだけど、それをきっちり止めてくれた、頼れる相棒がいるのよ。ニックネームは結構安直で、ほんとにあんちょーくな発想から決めたんだけど、とっても頼れる相棒。そう。そうなの。私には向こうに、間違った自分を、すんでのところで止めてくれた、頼れる相棒がいるんだ。あんたもそういうのを、私以外にも見つけるのよ。カリオーネ、、、はお気に召さないみたいだけど、恋愛感情とか関係なしに、そういうのは大事なのよ。」


イクスへと、切々と上から姉目線のアドバイスを送る。付きまとう悪いやつ。向こうじゃ暴力は駄目なんだけど、我慢できずに耐えられなくて止められて。そんな話をイクスへ伝える。あんたも人の嫌がることは、やっちゃダメなのよって。


ま、この子が外に出ても、力を振るったりはしないだろうし、そもそもできなそうだけど。メルクスみたいな運動性能は持てなそうだし。


「んー、、、スケさんとウドーじゃダメなの?」

「駄目じゃないわ。でもそういう相手は多けりゃ多いほどいいの。だからたくさん、仲間を作るのよ。ほら、カリオーネが来たわ。お付き合いはできないかもしれないけど、そういう良好な関係は続けたいって、相棒として頼りにするって、告げてあげなさい。肉食獣、それで納得するはずよ。」


話の流れのままやや自分勝手にイクスへと告げて、行動を促す。


果たして、気後れしながら、でもしっかりと自分の言葉で、私の告げた内容をカリオーネへと伝えたイクス。


それを聞いてまたぽろぽろ泣き出すかと思った狼さん。けれども誇り高き女狼、無事ようやく吹っ切れたようだ。満面の笑顔でイクスと再びの握手を交わした。


「ミラージュ姉さんも、もしこの先この街で何か騒動に巻き込まれるようなことがあったら、全力で協力するわ。本当に感謝する。うちらだけじゃ、どうしようもなかった。ありがとう。また訪れたときには、真っ先に声をかけてくれ。」


握手を交わす私とカリオーネ。


んー、なんかいい雰囲気でこのままバイバイな感じを醸し出しているんだが、違うかんな。


「いやいや、まだもう少しビオプランタに私たちはいるわよ?すっごいさよなら感出しちゃったけど、そのお言葉に甘えてご厄介になりますわよ。」

「え?」

「何と?」


はもるカリオーネとスケさん。


「いやいやスケよ、本来の目的、忘れちゃおらんかね?このダンジョンへ来た目的は、強化素材集めよ。まだ何にするかは決めてないけど、こう、これだ!っていうピンとくるものは見つかってないのよ。だからまだまだ狩り続けるわ。最下層付近なら、競合することもないし。」


既に次の戦場へと歩もうと意気満々のスケに、冷や水をぶっかける。


「ふむ、それがしウミヘビの皮やらなんやら、何のためのものか正しく理解しておらなんだ。説明してくださらんか?」


興味津々に、素直に疑問を提示してくるスケさん。セリナもさすが弟子。スケさんと同じくキラキラと期待で瞳を輝かせている。うむ、その期待を満足させる答えを与えてやろうではないか。


「袴という名の衣服を、作るのよ。」


まずはジャブ。


「その、、、ハカマとやらは、いかなるもので?」


想定通り、それを知る由もないスケから、問いかけられた。まあ名称なんてすぐに忘れるだろうけど、わかる単語で説明すれば、理解してくれよう。


ここで渾身のストレートを、くどいぐらいの全力で、畳みかけるのだ。


「袴。そうそれは、古より伝わるスピードタイプのための最強装備。そう、あんたのその鎧並みの、、、もちろん多少劣るけれども、十分な防護性能を持ち、それでいて高速の挙動を実現させる、神の御業に限りなく近い人工物。それをその身に纏えば、あんた並の剛力で地面の土を敵めがけて吹っ飛ばせるようになる、そんな至高の一品よ。」


キラキラと輝く師弟の四つの瞳。


「そう!スケさん!全力全開で地面を削ってみなさい!エンハンス・ストレンクス、かけるから。」


やや苦手な他人への補助魔法を何とか頑張ってかけて、そうして言われた通り、試みるスケさん。何と、カ、ン、ペ、キ、だ!これぞ我が求めしそれよ。やはり筋力、そう、思考停止の物理強化は正義、完、全、正、義、なのだ。


「わかった?私とセリナじゃ、補助魔法効果がかかっててもそれは無理よ。だから、袴。動きやすくて、それでいて筋力増強効果を宿したそれ。二人分、必要なのよ!」


さっきから言葉も出ずに感動し続けている脳筋師弟。


「こちらを。以前の巨人の集団から、もたらされたものです。」


セバスから手渡されたそれ。うおう、これは、これはまさに、至高の一品。素の強化はもちろん、補助効果の上昇率すら高めるものだ。


「ようし、これと同水準を、もう一つね。さあみんな、行くわよ!」

「ついにこやつもあほの仲間入りか、、、まあそのうち、とは思っておったが。イクスよ、影響されるでないぞ。」

「うん。話半分で理解しておくよ。」


ウドーが目を細めて言葉を発した。それに乗るイクス。


「あん?何よウドー、文句あんの?袴、最強でしょうが!」

「ああ、そうじゃな。そうじゃろうな。そうなんじゃろうな。」


くっ、おじいちゃん、辛辣!


我が袴姿を見て、*孫にも衣装という言葉をはかせてやるんだから。


(注: 鏡さんのよくある勘違いです。誤字、誤用ですね。 玲央談)


意気揚々な面々と、イマイチやる気のない面々の真っ二つに分かれて、ダンジョン下層へと降り立った。






23層から、上層へと上がっていくことにした。22層。早速出てくるデカ物。獲物を見つけた、と襲い掛かってくるそれ。最高級の筋力強化素材よこせやゴルァと対抗する。






ちっ、外れか。


ゲシゲシと愚かにも私たちを取って食おうとしたそのモンスターの死体を自業自得だかんね、と蹴り飛ばしていると、倒れたそいつのすぐそばに、巨大狸?の死体があった。


これは儲けと近づいて漁ってみようとしたら、足に体当たりを受けた。


見ると、そのモンスターの子供らしき子狸?が必死に近づけさせまいと私に抵抗している模様。どうやらその親狸はかろうじてまだ息があるようだ。


これは、どうしよう。


ほんの一瞬逡巡して、私はこの間買って持っていたポーションをその親狸にかけた。


効力を発揮し、みるみる傷がふさがっていく。


頭はクエスチョンマークでいっぱい。なんでこんな弱そうなのがこんな下層にいるのか。遺跡の生成プラント?は成体だけを生み出すはず。今まで子供のモンスターなんていなかったもの。


「ミラージュ、この子たち、飼うの?」


近寄ってきたイクス。見れば親が元気になったことを感謝しているのか、体当たりではなくその身を我が足に擦り付けている。


状況が理解できた親狸の方も、私にその全身を擦り付けてくる。モフモフが、やべー。でかいんじゃ。


「んー、はからっぷ、ずも、テイムっぷ、してしまったみたいね。」


親の方の強烈な擦り付けに口元を何度か持ってかれつつ、両腕で抑えて返事をした。


イクスが恐る恐る親狸に触れる。その後子狸にも。


「ミラージュ!この子たち、ウォンバトゥーンっていうんだって。主神ネフペトス、その、スティーブンさんの愛する聖獣なんだって!」


ウォンバトゥーン、、、ウォンバットか。動物園で見たことがある。穴掘り好きなオーストラリアに棲息するやつ。私も結構かわいいと思ったが、どうやらスティーブンさんも同じ思いを抱いているようだ。


「ふむ、愛らしいやつらじゃ。わしは賛成じゃ。」


ウドーの一票。イクスは明らかにそれに賛成の目。


他三名に目を向ける。


「あれ、セバス。スケさんとセリナは?」

「先ほどあちらの方へ駆けていかれました。」


指し示す先。巨大モンスターがのそのそと歩いていた。結構離れたここからでもその周囲の樹木よりも高い姿が視界に入る。


「そう、欠席票ね。じゃあセバス、あんた、どう?」

「ふむ、そうですね。いざというときの食糧にもなるでしょうし、構わないのではないでしょうか。」


食糧って、お前。リアリストだな。まあどうしようもない時には確かにそういう判断も必要なんだろうけど。


彼の昔がどういう設定になっているのか、ちょっと気になった。


「じゃあまあ、私の票の如何によらず過半数で可決ね。よし、決まり。あんたたち、これからは私が守ってあげるわ。少なくとも、安全なところまではね。」


その言葉を理解したのだろうか、親ウォンバトゥーンが、乗れ、という明確な意図を感じさせて背を向けてきた。


「そうねぇ、イクス、セバス、あんたら乗りなさい。で、あんたはここ。」


子ウォンバトゥーンをウドーの頭の枝にひっかけて、スケさんたちの向かった方へとみんなを先導しながら進んだ。






先ほど見かけた巨大モンスターの倒れ伏した死体。その周りに、大量のウォンバトゥーン。まとわりつかれるスケさんとセリナ。頭を抱える私。


「ミラージュ、すごいよ。43匹。あ、あの一団が多分親たちだね。あ、あの片割れがいないのが、この子たちのもう一人の家族かな?」


テンション高く、数え上げるイクス。何家族おるんや。10、はいるな。でかいのが20ぐらい。どうすんだこれ。






「で、こうなったと。ミラージュ姉。たとえ遺跡から生み出された人工物とはいえ、自然の摂理に手を加えたら、しっぺ返しが待っているんだぞ。」


厳しい自然を生き抜いてきた設定でも持っているのであろう狼さん、カリオーネから、ごもっともな説教を受けた。


「その、街の区画を借りて、癒しスポットに、とか、どうでしょう?」


思いつく最大の提案をしてみる。


「維持費は?エサ、タダじゃないだろ。こいつら何食うの?どんどん繁殖したら?どうすんの?」

「うう、、、」


なんで私が連れてきた野良猫を捨ててきなさいの子供役を演じているんだろう。何も悪いことはしていない。死にかけた獣とその子供、二匹を救い上げただけ。そのぐらいなら何とかなる。そのはずだった。


あとの43匹は、私じゃねーのに。


ちらと後ろを見る。さっきからモフモフモフモフと、その感触を楽しんでいる面々。おい、サニタ、おめー金払え。そのモフモフは、遺跡転移の効かないこいつらのために超強行軍で最下層からここまで直上したうちらの働きの賜物やぞ。


「スケ様、一家族、私に下さいませんか?」

「ふむ、まあ数が多くて困っておるし、構わぬのではないか?」


どうやら助けた私たちに友好的な人物には気軽に心を許すようで、すでにサニタにも十分に懐いている。


私はそこへ歩み寄り、声をかけた。


「10万金。」

「え?」

「10万金で売ってあげるわ。」


区画の購入、維持費もろもろの出費。私の思考は金の工面で占有された。






「おうおう、あんさんら、阿漕な商売で銭ぃたくさん儲けとるらしいのう、わし知っとるんよ。いやー明日をも知れぬスラム地区の人たちの弱みに付け込んで、この辺りを格安で手に入れたそうで。何ともうらやましい限りですなぁ。ほんと。」

「なんやおめーら、なんぞ文句でもあるんかいな?」


このビオプランタの街にはびこる裏社会、マフィア。三つの団体が、三すくみ状態で存在しているらしいのだが、そのうちの一つ、スラム街の一体を治める比較的善良なタイプのそれが、他団体の経済圧力でかなり追い込まれているらしいのだ。


興味もなく、たとえ知ったとしてもどこに肩入れするわけでもなかっただろうが、事情ができた。


そうしてさっそくカチコミにやってきた我が面々。雰囲気を出すために、全員グラサン装備だ。


「ええ、そりゃあ、ありますとも。ありますともさ。ここはね、以前この辺りを治めていたショウク一家から、うちらが適正額で譲り受けるっつー商談を交わしていた場所なんですわ。それをあんさんたち、ギィ・ファミリーが横から断りもなくかっさらっていったんですけーなぁ!」


すでにショウク一家と裏は合わせている。


「ああん?んなもん、早いもん勝ちやろが!いらんいちゃもんつけるようなら、ここでその身ぃ、二つに分けたろかい!」


剣に手をかけての、安い脅し。ビビらせようと、理知的に思考して選んだ言葉。もはやそんなものに心惑わされる私ではない。精神修養も続けている。


ふふん、と鼻で笑ってやる。


「ミラージュねえぃ、こいつらどうやら、勘違いしとるようでっせぇ。うちらが交渉に来たー、思うとりますわ。」


超ノリノリのカリオーネ。めちゃめちゃサングラスが似合っておる。






善後策を彼女と二人、無い知恵絞って相談していた。


「そういや最近スラムが厄介な地上げ屋の被害を受けててな。」


地上げ屋。土地を不当に?奪い取っていく輩か。なるほど、それをさらに奪っちまえば、区画については解決するわね。


「詳しく。」

「スラムの一帯を治めてるとこ、ショウク・ファミリーっていうんだが、そこは団結力と武力がある。けどそれもそこまで突出しているわけではなくて、そんで貧乏。金に物を言わせたギィ・ファミリーの攻勢に押されててな。少しずつ支配域を奪われてんだ。」

「なるほど。でもマフィアの一派に肩入れするのは、感心しないけど。」

「まあ、そうなんだが、ショウクは別だ。ダンジョン探索で再起不能の怪我を負ったり、親を亡くした孤児なんかの面倒をしっかり見る、言って見りゃ、この街の裏側の良心。ちょうどうちらの裏バージョンみたいなもんだ。このところのダンジョン騒動で、出費もかなりあってな。そこに目をつけられたんだ。」


篤い。それは、味方すべきかもしれない。


「でもそんな優良団体なら、何でマフィア?武力?」

「必要だからだ。それがなけりゃ、なめられてつぶされる。構成員は主にダンジョンを引退した元探索者。だから武力は他より高いんだが。」

「なるほど、、、イクス!」

「何、ミラージュ?」

「ウォンバトゥーン園の清掃やら世話やらからの入場客、経済効果はいかに?」


思考するイクス。


「ほかに該当事例なし。」

「そう。適当に給料決めてスラムの人を雇えば、何とかプラマイゼロで抑えられる?」


再び思考するイクス。


「ん、給料は結構安くても大丈夫みたい。エサはわかんない。」


大量のウォンバトゥーンの方に目を向ける。サニタが、その手からマナを少量取り出し、与えていた。


「ちょ、ちょっと、サニタ、それ、何してんの?」

「どうやらマナが主食のようです。普段は空気中に漂うそれで過ごしているのでしょう。私が妙に懐かれたのは、そのためのようです。」


なん、だと、、、つまり、、、


「つまり、、、食費、タダってこと?」

「有体に言えば、そうですね。」


聖獣、ガチ聖獣だったか。強そうには見えんが、霞を食って生きる、を地で行く存在だったか。


「すべて解決ね。カリオーネ。」

「そうらしいな。」


その後ショウクへと赴き話をしてから、人数分のグラサンを用意しカチコミのシーンへと至る。






合図を送る。ズズンッ、と、現在の所持金全額を包んだ土球をウドーに机にぶつけさせる。


そこから彼の魔法操作で、上面の土を広げさせ、中身を見せる。


大量の金。最下層で手に入る希少な素材その他もろもろ、この数日のダンジョン探索で手に入れた品々を、真っ当な商人たちに手ごろな値段で売りさばいてたまった巨額。


「デュエルよ。うちらの掛け金はこれ。あんたらはこの区画一帯。」


それを目にしてくらんでいたギィ・ファミリーの幹部らしき男が、にやりと笑った。


「いいだろう。証文を用意する。」


狼煙が上がりきった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ