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箱庭の君  作者: 鏡 龍彦
高校一年生 -秋-
28/100

daughter -seki-

「セリナ、昨日の感覚、もう一度思い出すのよ!」


帰宅しログインして、早速セリナとスケさんを連れてダンジョンへと向かう。普段それほど見せない私のやる気あふれる姿にセリナは感無量のようで、にこやかな喜びの表情をたたえてついてくる。スケさんも同様に私のやる気に当てられて、足取りが軽い。


「ミラージュ殿、本日はやる気に満ち溢れておりますな。何か目標でも見つかりましたか?」


問われる。ずっと一緒に成長をともにしているおかげで、ディフェンダー職想定の練習相手としては十分なスケさん。おそらく本気時はリクに引けを取らないだろう。


「うん。だからスケさん、セリナがへばったら下層で手合わせ。前以上の、ガチの本気で。私は斬られても大丈夫だから。で、前と同じくこっちの刀なら、その鎧に傷つかないだろうし。ローブは脱いでね。あ、ポーション一応買って来るわ、ちょっと待ってて。」


超絶にやる気のみなぎっている私に、スケさんもまた感動したようだ。微笑んでるのか驚いているのか何とも言えない顔、けれども明らかな喜色のオーラを発している。






クイックンをセリナに覚えさせれば、対アタッカー想定の練習ができる。そしてスケさんを相手取って、ディフェンダーの弱みに的確に付け込める経験を積む。うむ、マギ役がいない。レオか。呼ぶか。今、呼ぶか。いや、むこうに行った方がいいな。回避できる痛みは、回避すべきだしな。


そんな風に今後の計画を練りながら店へと入りポーションをいくつか購入、二人の下へと戻った。したら何か三人目が、いた。


あれ、この人前にこっちを見つめてた美人さんじゃん。やっぱり私らの誰かに何ぞ用でもあったのだろうか。


「あーこれこれ、そこのあなた、うちのスケさんかセリっちが、何ぞ粗相でもしたのかね?」


ちょっととぼけて問いかける。反応はいかに。


「ミラージュ殿、紹介しよう。この者はそれがしの娘のセキだ。以前話したことがあったであろう。」

「いつも父がお世話になっております。娘の、セキと申します。」


は?スケさんの娘?スケさんのセリフに引き続いてお辞儀をし、自己紹介をしてきたその美人さん。状況に追いつけなくて、眼を見開いてその姿を見つめる。


「いや、そのボケ、面白くないわよ。だって前に、スケさんからなっがい自慢話で、父親の後をけなげにも追いかけてアンデッドへの道を進んだって。どー見ても生身じゃん。」


私のそんな反証に対して彼女は、言葉ではなくその手を顔にかざすことで返してきた。その手が離れ、再び現れたその顔は確かにスケルトンのそれだった。スケさんとよく似た骨格。目元がやや丸みを帯びている気がする。


再び顔を手で覆って、その手が退いた後には、記憶に刻んでいた女性の顔立ちに戻っていた。


「すみません、偽るつもりの細工ではないのですが、不用意に周囲の警戒心をあおってしまうのも気が引けるもので普段はこのような姿を取っているのです。父とは違い、立ち向かってくる輩を相手に武者修行、というのは私にはわずらわしくて。」


理知的に言葉を返してくるセキ。スケさんから聞いていた通り、彼に似ず、頭のきれるマギタイプのようだ。幻術系統の魔法をその身に常にまとっているのであろう。


確かに、街にいるとスケさんにぼろ雑巾にしてくれとお願いしてくるようなのが出ることもある。端からみえる体格や風貌のせいもあってかそう多くはないが、このセキさんだとそうでもないのかもしれない。背は私よりだいぶ高いが、スマートだ。


「なるほどね。聞いてた通りね。でも何か用でもあったの?スケさんを返してとかだったら、よっぽどのことでもないとちょっと聞けないわよ。」


私のその言に対して、一瞬驚いた顔を見せ、すぐさまその美しい顔をほころばせた。


「うちの父は愛されているのですね。安心いたしました。風の便りで大柄なスケルトンとトレントを引き連れた超絶的な腕前の少女剣士がいると以前聞いて、その噂通りの凄腕ならばうちの父が立ち合いを求めて付きまとっているだけなのでは、と思い心配していたのです。」


んー、父親の性格、正確に理解しておられる。それにしても噂、か。ルイナでやったデュエルの話でも伝わったか。ウドー加入後みたいだしな。大柄スケルトンってとこが引っ掛かったんだろう。


「その安心は間違っちゃいないわ。むしろこっちが助けられてるぐらいだから。」

「はい。本日聞いたのですが、ミラージュ殿は昨日たった二名で最下層へと至ったとか。そしてそこでプルスの仮身を発見、撃破したとか。噂以上の腕前、驚嘆いたします。父が付き従うのも納得です。」


めっちゃ褒められた。が、


「まあそれなりではあるとは思うけど。でも上には上がいるの。だから今はもっと強くなりたいのよ。」


そうしてあれやこれやと弾む会話。なんかこのセキさんとは、スケさん以上に馬が合った。


同じく高みを目指す者。そして同性。例のアンデッド騒動を聞きつけてこのビオプランタまでやってきて、偶然にもスケさん含む我ら一団を発見したようだ。


「そういえば、ただの挨拶だったら、この間してくれればよかったのに。先日私を見てたの、セキさんでしょ?」


その私の言葉を聞いて、シュッと顔を赤らめた。


「お恥ずかしい限りなのですが、、、」

「こやつはちっちゃいころから恥ずかしがりやでな。それがしの仲介なしに声をかけるのを臆したのであろう。」


そんな積み重ねた年月にそぐわない一面を見せる彼女を交えて、ダンジョンへと潜った。






18層で昨日と同じくスピードタイプとの訓練をセリナに積ませた後、7層に戻る。ここなら危険もないし、他の探索者の邪魔になることもそうないだろう。


「じゃ、スケさん。クイックンなし、他強化なし、で行くわ。そっちは本気でお願い。ポーション渡しとくから、斬ったら即効かけて。」


ポーションを一つ手渡す。


一旦距離を取る。やや控えめの威圧が来た。ま、あのレベルは激怒時限定か。それでも十分だ。私はすぐさま斬り込んだ。



まっすぐ突っ込んだ私に対し、素直に剣を合わせてくる。これは余裕でかわせる。が返しが早い。すぐに一歩踏み込んでの二振り目が来る。自身左上からの袈裟。こっちが本命だ。


そうにらんだ私はこれも回避を選択。刀で受けず、その方向に合わせて低姿勢で斜め前にかわしながら胴を払おうとした。よし入った、と思ったところで腹パンもらった。強烈な右ボディブロー。


利き手、開けてたんか。さすがやな。


その威力で後方へと飛ばされる。着地しそこからさらにバックステップ連打で距離を取る。ややカウンター気味にはいったそれで息が詰まりかけるのをスケさんの様子に注意しながら落ち着ける。


来ないな。徹底した待ち。やっぱディフェンダー想定では最高の相手だ。


さっきのじゃ駄目ね。安易に突っ込んでもリーチ差で後手。回避に合わせて拳で払いのけられる。


クイックンがあれば速さで圧倒していくらでも翻弄できるけど、対戦じゃそれなしでも圧倒できないと意味がない。あの時のブームのように。


どうしたもんか。


突きでリーチを、、、駄目、籠手で受けられて硬直をそのまま斬られる。耐久は向こうが上。それじゃだめだ。


刀で受け流す、、、いや、無理だ。何度もやったら折れる。それも駄目だ。


うーん、うーん。


じりじりと距離を詰める私。けれど特に妙案は思い浮かばない。こういう時は、確か古来より伝わる回想シーンなるもので師範からの教えを思い出し云々だったはず。






「師範、椿に最近負け越してるんですけど、こう、一歩超える何か、きっかけみたいなのってありませんか?」

「ん、素振り。訓練。続けるだけ。」


ですよね。納得した私は夏休みの通いを両親にお願いして増やしてもらったのだ。






よし、そうだな。


いろいろ考えながら、思いついたことをひたすら試して。トライアルアンドエラーをただひたすらに。


再び突っ込んだ。突きを放つ。うん、想定通り。予想していたので向こうの攻撃もかわすことができた。再びバックステップ。


そして間合いに入る。唸る黒剣。受け流、、、バックステップ。無理。ボーリング玉が向かって来るような感じ。かわすのは怖くないけど、受け止めようと待ち構えるのはちょっとやだわ



次は正面ではなく、スケさんの場所よりやや右へ向かって。彼の剣の間合いぎりぎり。そこでいったん対峙。


入り込んだらまた殴られる。でもそれを気にせず斬りかかろう。行くぞ、スケよ。


明らかに距離を取りたそうに後ずさろうとしたがるスケさんに向かって、全力で踏み込んだ。


すぐさま唸る剣。左から押し寄せてくるそれ。この場で私も攻撃すれば痛み分け。だからさらに近づく。至近距離。


恐怖は、乗り越える。二者の距離が近すぎて、スケさんの剣の効果はうまく発揮できなかった。腕に付けた防具でさほどスピードの乗らない根元あたりをなんとか受け止め切った。


衝撃で少し体が押される。これで大剣は大丈夫。でも私も刀だから、この距離じゃうまく振れない。わずかな時間差で、彼の左拳がやってくる。予想外だったが、反応できた。


「おっらぁぁーーーー!」


そうして再び殴って私を沈めようと向けられたスケさんの左腕を、窮屈な姿勢ながらも体をひねって縦切った。ギィーンと重装甲の籠手と刀がぶつかる金属音が響き、はじかれるスケさんの左腕。


そのまま私は刃を返して体のひねりだけで逆袈裟で彼の鎧に刀の刃を全力でぶつけた。


パキーンと、刀が折れる。


「ふう。」


まあさっきよりはましだったな。でも対戦じゃ籠手越しでもダメージ食らうし、まだまだだな。


踏み込んでからのスケさんの薙ぎを、補助に頼らず超反応でその軌道に沿った最適の回避選択、そこからの無理のない攻撃。


あいつはそれができた。全力で振った私の攻撃を的確にかわし、そのままこちらにダメージを与え続けてくるあいつ。私も、そうなって見せるんだ。


「見事であった。」

「ありがと。最後膝が来ると思ってたけど。」

「ふむ、なるほど。しかしそれでは一拍遅れてしまい、こちらへかわされて終わりであろう。」


自身の左方を示して、説明するスケさん。


「そうね。そのつもりだったわ。」


予備の刀が折れたことで立ち合いが一段落し、一息つきながらスケさんと感想戦。見学していたセキがやってきた。


「実際見ると、すごいわね、、、父さんの成長にも驚いたけど、そんなことより、、、」

「であろう。補助があれば、こんなものではすまんぞ。ミラージュ殿にそれがしが必死で付き従う理由がわかったであろうな。」

「ええ、本当に、十分すぎるほどに。」


そのまま親子で久しぶりの会話が弾んでいるようだ。やっぱ似た者同士だな。戦いの話ばかり。それに水差さないようにでもしているのか、セリナがやってこない。私は彼女の立っていた場所へと目を向けた。早速私のさっきの動きをいろいろ模倣していて、忙しいようだった。


「セリナ。」


いつまでも終わりそうになかったので、声をかけた。


「ミラージュ様。先日とは違い、鬼気とした迫力がありましたわ。私もクイックンが習得できれば、と愚かにも考えておりましたが、それだけでは届かないのですね。実感いたしました。」

「あんたもクイックンを習得したら、さっきみたく付き合ってもらうからね。木剣、用意しとくから。」

「はい。お任せください。」


んんーっと伸びをして、先ほどの立ち合いを思い返す。集中しきったわずかな時間。今日はあれ以上の集中は無理だな。ここまでか。この後、どうすっかな。


「ところでミラージュ殿は、どうしてそこまで強くなりたいのですか?父によると普段はそこまでではなかったと伺いましたが。」


そんな風に今日のこれからを考えていると、セキが声をかけてきた。


「デュエルで負けない実力がほしいのよ。」


端的に説明をする。まあ知ってもらってもいいだろうな。私はある程度伝わるようにかみ砕いて彼らに説明を始めた。






「なるほど、そのような催しが。」

「うん。それで勝てば、もしかしたら主神にお願い聞いてもらえるかもしれないでしょ?あのゴキブリ野郎を滅する何か、用意してもらえたりするかもしれないわ。」


真の目的はもちろん金だが。


「なるほど。よくわかりました。でもデュエルでしたら、1v1にこだわる必要もないのではないでしょうか。2v1、3v2、有利な状況に持ち込むのも一つの戦法ですし、2v2ならまた話も変わってくるのでは?」

「それも、そうね。」






「みんな、デュエル、戦法とか、ある?」


翌日早速部室で皆に相談する。ニコニコ顔の涼子先輩にあきれ顔の龍。玲央はふーむ、と素直に考えてくれているようだ。


「お前、現金な奴だな。昨日の今日でこれか。」

「昨日の今日だからよ。」

「そうですね。鏡さんの言うとおりです。」


玲央も人の子、多額の現金が手に入る可能性のある競技に知らずのうちに参加していたことに、そしておまけに頑張れば狙えるかもしれないという事実に、私と同じく高まりを押さえられないようだ。


そう、私は知っている。昨日、夜。珍しく龍はログインしておらず。涼子先輩と玲央はここ数日試験勉強のためかログインしていなかった。


だが、そんな時期にもかかわらず、この玲央もまた自分の世界でおそらくコソ練をしていたのである。ホーム画面で表示されたレオンハルトのログイン表記。


「そうなのよ。玲央ですらこうなんだから。むしろなんであんたがそんなにやる気ないのか理解できないわ。あたしらのケツひっぱたいてでも対戦させるのがあんたの仕事でしょうが。」

「まあ、楽しめなきゃ強くなれんからな。無理やりじゃ、駄目だ。」

「そうさねぇ。」


む、なるほど、一理ある。好きな科目はいくらでも勉強できるし、そんでできるようになるしなぁ。


「そういや、陸はこのこと知ってるの?」

「あいつは知ってるよ。そういうゲーム大会とかたまに見てるらしいし。昨日聞いたらまあ、そうなったらすごいよね、っていつもどーりのんびり返してくれたさ。」


そうか、知ってる人は軒並みやる気がそれほどでもないのか。なんでだ?


「なんでわかってる方がやる気が低いんですかね。」

「生半可じゃたどり着けないってこともわかってるからだろ。そんなもんだ。」

「そんなもんか。」

「そうかもしれませんね。」


ひとまず話が落ち着いたと見たのか、このタイミングでメルクスが皆にお茶を出し始めた。


「ふっー、ありがと。」

「いえ、お気になさらず。」


チラとメルクスの方を見ると、めちゃくちゃ何か言いたそうな顔を必死で押し隠しているようだった。


「どした?メルクス、なんかあんたも思うところあるの?」

「いえっ!ありません!」


バレバレの即答。まあ何かを隠してはいるんだろうな。特に根拠もないはずなのに私たちが無事親元にイクスを届ける未来を確信してるみたいだし。


「世界大会に、親が見に来る、か。」


龍が以前に挙げたアイディアを再び引っ張り出してきた。


「、、、はい。その可能性は高いかと。」

「一石二鳥じゃない。やったろうじゃないの。」

「参加資格が日本のチームでも取得できれば。そっからだな。」

「ハードルが高い、というより自力で飛べる高さではないですね。」

「そうさねぇ。ま、来年は期待せず、のんびり差異探しでもしながら、再来年をめどに頑張るのがいいさ。」

「ですね。鏡、お前も毎晩ログインしてないで、勉強しろ。玲央、お前も。余計な雑念で本分を忘れんな。」


あちゃー、龍、私に遅れてホームに入ったのかぁ。玲央、見られちゃたかー。それをばらすとは、龍も大人げないのう。


「なはは。玲央っちもか。まあでもそんなもんよねぇ。焦らずのんびり強くなりなさいな。イクスをほったらかして対戦ばっかりじゃ、かわいそうっしょ。」


そうね。せっかく預かった子。何年先かわからないけど、再会させたときに、この子グレちゃいまして、、、じゃ悲しまれちゃうものね。


「じゃ、今日は漢文だな。玲央、いいだろ。」

「はい、任せてください。」


中間試験の勉強が始まった。






「この隗ってやつ、腹黒よねー。王様を言葉巧みにだまして、良い待遇をもらったんだから。そう思わない?何にしても、やっぱり落ちがないのはいただけないわ。うん。こいつの末路ってどうなったの?」

「鏡、その、落ちを求める発想をやめないか?」

「え?何で?大切でしょ?」

「まぁ確かにあったほうがいいけどねぇ。」


涼子先輩からの一票。


「その話の後、実際に有能な人物が集まったのですよ。いい話、のくくりのはずです。」

「ううーむ、まじか。どう考えても腹黒策士なんだが。たまたま上手くいったとか?」

「弁舌の巧みさってのが政治家の本領だろ。だからそいつは優秀な奴だ。そういうことだ。」

「そうなんだ。」


そうして今日も、下校時間ぎりぎりまで、皆で勉強をした。


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