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箱庭の君  作者: 鏡 龍彦
高校一年生 -秋-
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motivation -kyouraku_kane-

想定以上の高速とびかかりに何とか反応したものの、体勢を崩されたセリナ。


これはまずい、と、手を出そうとした瞬間、リュウのシールドがセリナの前に張られ、二撃目を防いだ。


こいつシールドなんて取ってたのか。


そのおかげで無事体勢を立て直すことができたようで、その後は防戦一方ではあるものの、先ほどのような隙をさらけ出すことなく冷静に防ぎに専念できているようだった。


やや安心してみていられるようになって、私はリュウに声をかけた。


「シールドなんて取ったのね。純正マギ系統でしょ、それ。」

「夏休みの間にな。いざって時に役に立つだろ。あの時みたくな。」


あの時。すでに遠い昔のように感じてしまう。


疲れ切るまでやらせてみるか。一瞬の物思いから立ち戻って、セリナの様子に再び注意を向ける。


やはり防御で手いっぱいで、攻撃には転じられないようだ。息も上がってきている。そうしてしばらく見ていると、キラキラと、彼女の周囲に粒子が舞い始めた。きっかけだ。一歩、何かをつかんだようだ。


そのきらめきはものの数秒でなくなり、ここまでか、と、私は彼女に近づきクイックンをかけた。速さを手にしたセリナは見事に獣を断ち切った。


「だめ、でしたわ。自身が情けないです。」


息を荒げながらこちらへと告げるセリナ。


「いいえ、きっかけ、あったわよ。集中しすぎてて、自分では気づかなかったのね。」

「うむ。ミラージュ殿を彷彿とさせるきらめきであった。」


無言で強くセリナを見つめるセバス。その目は潤んでいた。それを見て、私とスケさんの言葉が嘘ではないということを理解したようだ。


「まー、ちと早めだが今日はここで切り上げだな。セリナ、よくやった。」


すぐ近くの階層入口へと戻り、迷宮転移でビオプランタの街へと戻った。






「お、戻ったな。どこまで行った?」

「今日17階層を突破して、18階層まで。」


出口で待ち受けて?いたカリオーネに、進捗具合を伝える。彼女の様子はお仕事モードだ。表情も険しい。


「そうか、予想以上だな、ミラージュ姉。うちらじゃ17階層以降は危険すぎて、手が回らない。中層はこっちで詳細に調べておくから、何かあったら知らせる。そっちも何かあったら教えてくれ。受付のだれかに伝えてくれればいいから。」


姉になりそうにはないんだが、定着させる気満々のようだ。外堀から埋めようという魂胆か。さすが狼、仕事中とはいえ、狩りに関しては抜け目ねーな。


「わかったわ。被害とか、ひどいの?」

「ああ。本来あり得ないはずの格のモンスターが出現したり、今までなかった規模の集団でまとまってたり。重傷を負って帰ってくる者が既にかなりの数出てる。おまけに、アンデッドも出た。身に着けていた品などからおそらく、死亡者のなれの果て、、、と考えられる。」


そうか。これは、奴絡みのイベントだな。また悪趣味なやつの追加イベントを準備していたものだ。悠長にしてられないな。なるべく早く対処しておきたい。






みんなを泊まっている宿に押し込めて、私はリュウにまだ時間あるでしょ?と告げた。


その一言で察したようで、じゃあ行くか。と返してきた。


二人、18階層へと降り立つ。歩みを進めながら、会話を交わす。目標は23層。


「差異なら、イクスがいなくていいのか?」


データのかけらの回収に関して、意見してきたリュウ。それは確かにそうなのだが。


「海王の一件、メッセージがあったのよ。人様の娘さんをもらうには、困難があるのよ、てな感じの。イクスの親、口調からたぶん母親?だわ。原文のニュアンスはわからないけど。」

「そんなお茶目な人だから、こんな死者が出るような悪趣味なイベントをわざわざ作らないってことか?」


私の考えをかなり正確にくみ取って、返してきた。


「そう。死体をアンデッド化するやつ。あいつよ。ゴキブリよ。そのイベント追加で間違いないわ。だからイクスがいなくてもいい。おそらく根源は追加階層そのものだろうし。事が終わった後で連れてくればいいわ。」

「ふむ。あいつか。確かに、状況証拠は揃ってるな。しょうもない話を聞くのは億劫だが、まあ、付き合ってやるよ。」

「ありがと。」


最低難易度ではダンジョン下層といえども成長したプレイヤーに比するものがいないことをつい先ほど実感した私とリュウは、ただ次の層へと向けて最短の歩みを進めた。






果たして、下層への入口を見つける度にさっさと降りて進んだ先、本来終わりのはずの23層にて、次の階層への入口を見つけた。


二人して下る。予想通り、奴がいた。


コントロールパネルのようなものを操作して、この遺跡の生物生成機能をいろいろといじくっていた。ゴキブリの愛称でプレイヤーに疎まれつつも愛される、邪神の一柱、プルス。度を越したいたずら好き。


「やあ、ようこそ。ここまでたどり着く人がいたなんて、驚きだね。ん?おや、君、あの忌々しいスケルトンのくそ生意気野郎と一緒にいた子じゃないか?そう、そうだね。あの時はどうも。痛くなかったけど、痛かったよ。せっかくの遊びを邪魔されてね。それで、あいつとはもう別れたのかい?そうだね、あいつは嫌な奴だからね。それがいい、いい判断だよ。」


一気に早口でまくし立ててくるゴキブリ。切っても切ってもその実存を滅することはできないこいつ。ほんと、うっとうしい。可愛らしい顔をしているのが、またうっとうしい。


「おあいにく。スケさんには弟子ができてね。あんたなんかに構ってる暇がないんだって。」

「そ。まあいいや。あいつほんと頑固なんだもん。もうあきらめた。そういえば、この間あいつの娘に会ったよ。相変わらず出会って速攻瞬殺されちゃった。はは。親子そろって、むかつくやつらだよねー。まあ別にいいんだけど。そのおかげで、新しく器を作り直してる間にいろいろ眺めてたら、ここ、みつけちゃったんだよねー。おもちゃ箱。いやー、何が幸いするかわかんないよね、ほんと。そう思わない?」


おそらくこの遺跡全体の機能を操作するコントロールルームなのだろうここ。それをいじって探索者たちに被害を与えて楽しんでいたのだろう。その機能、おもちゃ箱と表現するか。


「まったく、何であんたは、そういたずらに人を苦しませるのよ?」


んー、と考え込むゴキブリ。そのしぐさもまた愛らしいのがむかつく。


「暇つぶし?」


ビキッときて、速攻斬り伏せる。粒子となって消えるプルス。ちぇっ、楽しかったのになぁ、と最後の捨て台詞が虚空に響いた。叩けばすぐにつぶれる。でもまた各所で現れるそれ。


「うぜーーーー!」

「だな。」

「暇つぶしって、何よ!この世界のNPCも、必死で生きてんのよ!それを、それを!」

「だな。」

「リュウ!あいつ滅する方法、ないの?」

「今んとこ、ないみたいだな。」

「なんでよ?」


用意されていたって、いいと思う。他のイベント登場神の中には、そのイベントの流れで討滅されるものもいたはず。


「あいつをバディにして、楽しむプレイヤーもいるしなぁ。不人気と人気、両ランキングで上位に占めてるし。なかなか公式側から否定はできないんじゃないか?」

「世の中、悪趣味な奴もいるのね。」


それも相当数。不人気は当然だが、人気上位て。


「まあゲームだしな。そうして日ごろのうっ憤を晴らす目的で遊んだとしても、否定はできんだろ。」

「そう、、、ね。人の遊び方まで、ケチはつけられないわね。」

「お、珍しいな。きれいじゃないとか、言うかと思ったが。」

「私もいろいろ、思うところがあるのよ。」

「そうか。」

「そうよ。」






「ゴキブリだったかー。それも奴側が楽しめる方向かー。ま、遊び尽くしたプレイヤーにとっての死にコンテンツを再利用って考えるといい案、か。次あたりに用意してたやつの一つっぽいねぇ。ま、他で期待か。」


翌日の放課後、昨日のあらましを涼子先輩に告げると、そう返してきた。


「次のアップデート、スケジュール出たんですか?」

「うん。11月の中旬だって。対戦の調整とかで労力割かれて、だいぶ遅れたみたいだねぇ。実に4か月半ぶり。」


んー、現状見つけた中で、入ってそうなのはゴキブリ、セリナ関連、樹林、の三つか。アップデートしたら、セリナが双子になったりしないだろうか。そのあたり、どうなるんだろ。


「システム的な変更はあるんですか?」


龍からの質問。


「ん、魔窟アタックが最近下火だから、強化するために補助魔法の効果もろもろについて検証中だってさ。あとはいつも通り製作関連の追加要素がいくつか。この辺りはみんなさほど興味ない分野だね。」

「なるほど。まあメンバーが揃えられるなら、今はまずは対戦に向かうでしょうしね。」

「そうさねぇ。そういやあんたら、夏休み含めて、ちょこちょこやってるんしょ?どうなん?」

「んー、どうなんでしょう。龍、どう思います?」


玲央が相槌を打つ。彼の言うとおり、私もよくわからん。現状ランキングとかそういった類はなく、実力を表すような表の数値もなく、内部のみである程度のレートを計っているだけのようなのである。


そのあたり、基本一人プラスアルファプレイの冒険もので、対戦導入など想定していなかった開発の、それ方面に関する不慣れが感じられる。


龍に視線が集まる。


「そうですね、、、正直、そこそこ上の方、、、なんじゃないかと思うんですが。最上位、てわけじゃあないとは思いますが。」


こいつには珍しく、さほど自信なさげな口調で答えを返した。


「へー、なかなかじゃん。その根拠は?」


その返答に多少興味を持ったのか、涼子先輩がさらに問いただす。


「勝率、94パーセント。現状112戦で105勝です。対戦数自体をそれほどこなせてないので、何とも言えません。」

「え?マジで?」


驚愕の表情に変わる涼子先輩。ま、数字だけなら結構なもんよね。サッカーならリーグ優勝確定だわ。


「それやばくね?最上位だろ、どう考えても。あたしの製作仲間たちも、結構うまいやつらでメンバー組んでやってるのがいるけど、勝率6割ちょっとよ。マジ、驚いたわ。それでなんで最上位じゃないのよ?」


やっぱ数字は語るな。でもまあ、私も最上位はあり得ないと思う。ここは龍に同意だ。


「おそらく最上位にいるだろうチーム連中とは当たってないですからね。対戦始めてすぐにそれらしい1チームと当たっただけで。」


そう、あれ以来夏休みの間も二学期が始まって以降も、ちょこちょこ対戦を繰り返したのだが、ブーム野郎のチームと当たることはなかった。それ以外の負けは個人差というより、凡ミスが響いたものばかり。あの時のように、明確にこれ無理、という相手ではなかったものだった。


「まーじか、お姉さん、びっくりだわ。何にせよ、今すぐ韓国行って、リーグ参加権を取ってくるべきよ。確かあと一枠、今週末に開かれるトーナメントで決めるはずよ。」


相当に衝撃を受けたのか、ものすごい買い被りを受けた。


「その、開始すぐに当たった相手が、韓国のトップ層のチームらしいんですよ。ブームブームって変な名前のアタッカーがいるところ。見事にフルボッコでした。」

「でしたね。」


そう、あんなのがごろごろいる中で、今の実力では張り合えない。もっと研鑽を積まないと。


「だな。まあ対戦導入すぐにもかかわらずリーグ開幕告知からの参加資格を決める最初の大会で、なぜかすでに強豪ひしめいている中、全く問題なく参加権を得たとこだからな。当たり前っちゃ当たり前だな。」


ほへー、と、まだまだ驚愕冷めやらない涼子先輩。


「まーじか、あそこと当たったとか、、、ちょっとごめん、クラっと来た。ちょっと、落ちつかせて。」


対戦への参加にあまり興味を示さなかった涼子先輩だが、見る側としては興味を持っていたようだ。例のチームをご存知のようだった。


「ふっー、ごめん、ありがと。」


いまいち実感のわかない私とは違い、涼子先輩はかなり興奮しているようだ。


「来年の夏、大方の予想通り、世界大会が開かれるみたいなのよ。アフリカ、ヨーロッパ、アジア、アメリカ南北。どこも当初の想定以上に盛り上がってるみたいで、春前ぐらいから各地でリーグ開幕、そっから夏に世界大会。開発側も乗り気みたい。日本も、その様子を見て参入を考えてるとこもあるみたいでさ。したら絶対参加すべきよ。ほんと。」

「そうっすね。その世界大会の盛り上がりを見て、日本でもリーグが開かれるかもしれませんね。」


んー、そんなすごいことなんか?世界大会つったって、所詮ゲームだろ?


「どーしてゲームの世界大会でそこまで大げさなんですか?」

「そうですね。私もその方面は詳しくないのですが。」


その私と玲央の質問に、龍と涼子先輩はやれやれ、といった表情を向けた。


「がーみー、今一番盛り上がってる対戦ゲームの世界大会、その賞金総額、いくらぐらいだと思う?」


んー、さっぱりわからん。確かコンテストの最優秀賞には1万ドル、100万円ぐらいだっけか。


それぐらい?いや、対戦だと観客とかもいて盛り上がるだろうし、倍、多く見積もって五倍ぐらいか?総額ってくらいだし、優勝準優勝とか合わせると、、、


「一千万円ぐらいでしょうか?」

「そうですね。それぐらいが妥当でしょう。」


私の少し高めの見積もりに、玲央が同意を返した。答えを知っているであろう二人はというと、まあそういうもんか、とあきらめの雰囲気を発していた。


「やっぱまだまだ日本は後進国だねぇ。ゲームにドはまりしてるこいつらですらこの程度の認識なんだから。」

「そうっすね。」


何か二人でわかりあっている様子。答え教えてくれんのかいな。いくらや、いくらなんや。


「Twenty million bucks.」


先ほどから私たちの会話を静かに眺めていたメルクスが、脳内端末で調べていたのか、流ちょうな発音で告げてきた。


えっと、確かバックスって、ドルの別称よね。したら、20かける百万ドルか。つまり二千万ドル。日本円だと、そこからさらに約百倍だから、お、、、く、じゅ、、、じゅう、、、、、、


「ええーーーーーーーーーーーーー!」


驚愕で思わず立ち上がる。


「に、にじゅ、にじゅうおくって、それ何?千人規模の戦争ゲーム?それでめっちゃプレイヤー多くて継続課金ゲーとか?いや、そんなゲーム話題になってるなんて、聞いたこともないんだけど!」

「5v5の真っ当な対戦ゲーだよ、がーみー。」


五人、だと?優勝したらそのうちの、、、五割ぐらいか?したら頭割りで一人二億、何だそれ、ゴルフじゃねーんだぞ。


「マジっすか?」

「マジだな。」


ほへー、と玲央と二人、あほズラをさらした。


「だからさ、このゲームも、そこまでとはいかなくてもそれなりになる可能性があんのさ。あたしがあんたらの成績に驚く理由、わかった?」


完璧なまでに理解した。その十分の一でも、相当だ。あのブーム野郎並みに強くなれば。


稼げる女への道が予想外の所から開けて、やる気に満ち溢れた。


賞金額は今年(2016年)のThe International(Dota 2)の実際の額を流用させていただきました。

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