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箱庭の君  作者: 鏡 龍彦
高校一年生 -秋-
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Bio Planta -hitome_mita_dakede-

ダンジョン。この手のゲームではおなじみの、探検ポイント。


一昨日、メオロとウリエージュの結婚式のあと、船で渡った先の大陸。その窓口の港町でみんなを一泊させておいて、昨日の夜、馬車でダンジョンを擁する街へと向かった。


こちらの大陸は、今までいたところとは違い農作に適した土壌はそれほど豊富ではなく、少ない資源を巡って小国家が争いを繰り広げ続ける危険地帯となっている。


モンスターはもちろん、道中盗賊の類も多数出没した。ネームレス、盗賊という役割のみ与えられ、一定期間で復活し続ける雑魚とはいえ、人の形をしたそれの命を絶つことに、忍びなさを感じた。


一種のトラウマだな、と自省しつつも、夜行を進め無事目的地まで到着。また明日、とログアウトした。


そして翌日の今日、軽い朝食を終え、再びみんなの下へ。






ビオプランタ。古代に建造された謎施設の中、様々な生物研究が行われる目的だったのであろうものの名残。その遺跡が、街の地下空間、広大な領域にまたがる大迷宮を作り上げ、今でもその機能の一部を停止させることなく、各所で日夜様々なモンスターの類を生み出し続けている。


「ここも久しぶりね。」

「そうですな。」


明るくなった朝の街並みを眺めながら、物思いにふける私とスケさん。


その大規模な研究施設が地下に広がるこのビオプランタの街は、古代においてもそれなりの規模の街で、争い事が絶えなかったのであろうか、紛争決着のためのアリーナがこの大陸内で唯一設置されている場所でもある。


その機能のおかげか、この街の近辺はある種緩衝地帯となっていて、その遺跡からとれる様々な資源でもって発展を遂げている。


ゲーム開始時、まずはダンジョンかしら?と思い立って高速馬車と船を乗り継ぎここへやってきた私。当時は中盤の階層まで行った辺りで飽きてしまい、そのままだった。


その期間にイベントで参加したデュエルで偶然スケさんと一緒になり、こいつは、、、と意気投合したのだ。


システム的には、スケさんにイクス、ウドーとセリナが私のバディで、おそらくそのバディのバディにセバス。ある程度の人数制限システム。プレイヤーは最大四人、付き従うNPCについてはよくわからん。一応、ソロでボッチのプレイヤーでもNPCを引き連れることで仲間とともに冒険を楽しめるその設定。


この私の世界でいまだにそれが有効かどうかはわからんが、もしセリナ以外の三人にさらにバディがつくようなことになったら、ゲスト含めて収拾つかんな。


ウドーの知り合いの木精とやら、そろそろ来そうなんだよなぁ。


嫌な予感、するんだよなぁ。ビッチっぽいんだよ、なぁ。






そんな何とも言えない不安を感じながらも、店で装備やら携行品やらを整えていく。イクスとセバスに動きを阻害しない程度の念のための防備。約三日分、余裕を持たせた食料。明かりにテント道具。荷物持ちはウドーの土魔法。ほんまウドー、便利やな。


「ああ、やっとこの、父に必死でお願いして買っていただいた名剣の本領を発揮できる機会がやってきたのですね。」


うん、超優しいセリナの父ちゃん、投資先間違えたね。結婚もせずに家元離れて、高価そうな業物の剣を手に、ガッツポーズかましとるよ。


「それがしのあつらえたこの剣も、期待にうなり猛っておるようだ。ここまでの道中、さぞつまらぬ思いをさせてしまい、すまなんだな。よしよし。」


剣に語りかけとるし。さすがに痛いわ。それにそれ、あたしの獲った物だけどね。まあいいけど。ウミヘビ狩ってきてもらったし。


そんな風に緊張感のかけらもなく、ダンジョン前の受付まで向かう。


周囲から刺さる、なんだ、あの集団、という視線が痛々しい。


おう、冷たい視線の痛みまで再現してくるとは。恐れ入ったわ。






「ええと、その、本当によろしいでしょうか?五階層までたどり着くのも、それなりの腕前が必要なのですが。」


受付の人が、私の持って来た金稼ぎ用の素材受注依頼の受理を渋り続けている。まだそれなりに余裕はあるものの、できる時に蓄えておかないといけないのだが。


「もう、だから大丈夫だって言ってんのに。」

「ですが、、、」


むう、この人融通きかねぇ。こういうのって自己責任やろ。


「別に大けがして戻ったって、あんたに文句とか言わないわ。だからいいでしょ?」

「その大けがを心配しているのですが。」


なるほど、優しい気づかいであったか。


「わかったわよ。もし無理そうならちゃんと戻って、違約金を素直に払うわ。ほら、これなら文句ないでしょ。」


そうしてゲーム内通貨のたっぷり入った袋の中身を見せ、渋い顔を続けていた受付を無理やり納得させる。


うちのゆかいな面々。強力な二枚に、それなりのセリナで構成された前衛。後衛も、ウドーの魔法の成長により、懸念だった防御に余裕ができた。そこへ執事のお茶淹れスキルにイクスの会話スキルの効果で、精神疲労までをも潤せるため、ある意味最強の布陣になったといえる。


とはいえ、大柄な体躯のスケさん以外、その見た目は外面からでは強そうに見えないのだろう。こうして心配されるのも無理からぬことかもしれない。


そんな受付との一連のやり取りを終わらせた私たち。振り返ると、その私たちの様子を見つめていた、いかにもな集団が目に入った。ガラの悪そうな、女獣人がリーダーのようだ。ぱっと見の印象から、その本質が透けて見えてしまう。


(さっきのお金、見られたか。ま、最初のジャブとしてはいい勉強かもしれないわね。気は引けるけど、そういうことも知ってもらわないといけないんだから。)


再び振り返り、受付の人の未だに心配そうな目へ向けて、


「ありがと。頑張ってくるわ。」


と告げ、みんなでダンジョンへと入っていった。






第一階層、散発的に現れるゴブリンたち。


やはり最初の本拠地としてプレイヤーに選ばれる比率が高いのか、この第一階層はある種、戦い方のゲームチュートリアル的な構成になっている。


それほど成長はしていないものの、セリナと一緒に鍛えていたイクスの剣が、ゴブリンたちを屠っていく。ある程度は自衛できる実力は必要、こういう経験も大事だ。万が一に備え、セリナも張り付かせている。どさくさで、こう、どかーんと、とはいかないか。


やや呑気にその様子を眺めながらも、後方への警戒を、ウドーとスケさんとともに続ける。


「ま、こんな人目に触れやすいところで仕掛けてはこないわよね。」

「そうじゃな。まあ、安心せい。たとえやってきても、わしが土壁で遮ってやるのじゃ。」


ウドーの言。割とマジでその水準まで達した彼の技量。


「次またなんかデュエルがあったら、マギ役は任せられそうね。」

「うむ、任されよ。そうなると今度はお主が補欠かの?」

「ちゃうわい!スケさんがディフェンダーで、セリナがアタッカー。そして私がコマンダーよ!いつまでもクーラさんやリクたちの力を借りるわけにはいかないわ。そして、我が巧みな戦術に、驚愕するのね!」

「力押しは最強だもんね。」


一区切りついたイクスが、剣を鞘に納めながらそう言い放った。


ぐぬぬ、イクスの奴。私だってそれなりに頭は働くんだから。


「まあ、私はむしろ補欠でも、皆さまの活躍をこの目に焼き付けられれば満足ですわ。スケ殿の戦い、前回はミラージュ様にくぎ付けで逃してしまいましたもの。我が師匠の本気の技前、拝見しとうございますわ。」


残念な美少女と、それに鷹揚に同意を示すセバス。


「ミラージュ殿と比べられると気が引けるが。それより彼奴らはおそらく迷宮内転移を利用して、先で待ち構えているのではなかろうか。」

「その可能性は高いわね。二階層からは、予定通り前衛3、後衛3で行くわよ。ウドー、後方の防御は任せたわ。」

「うむ、任された。」


そうして二階層へと降り立つ六人。ここからが、迷宮の本番だ。






「いん、ぱくとぉぉぉーーー。」


ずずーん、巨人が崩れ落ちる。この迷宮、二階層からは情け容赦ないランダムエンカウントで、時折こうしてかなり強力なモンスターが現れる。もっともこの巨人は耐久だけが取り柄で動きの遅い、見た目だけの張りぼてなのだが。それにしたって二階層でいきなりこれとは。初心者、大丈夫か?


「ふう、みんな、怪我はない?」

「最初は戸惑いましたが、クイックン、すさまじいですね。わが身が羽根のように軽くなった気がいたしますわ。」


前衛三人の中で、現状一段落ちるセリナが一切の不調を感じさせずに告げてきた。


「そう、よかった。この程度の相手なら、全部任せちゃってよさそうね。」


小休止を挟んで、歩みを進める。お茶、うめー。


そうして三階層、四階層とのんびり進み、私たちはそれほど疲れることなく五階層前の入口へとたどり着いた。


懸念の障害は、まだ現れていない。


「ここでいったん休憩にしましょ。ウドー、ここ、壁覆える?」


私の言葉を聞き、即座に周囲に頑丈な土壁を巡らせたのを見届けて、私はログアウトした。






ちゅるちゅると、焼きそばをすする。んー、おいしい。豚肉のうまみが麺に広がり、その味わい深さを底上げする。


手早く昼食を済ませ、そそくさと自室へ戻り、ログインしなおす。


「どう?」

「何も。杞憂だといいけど。」

「そう。」


ひとまず安心する。私と同じく、こちらでもみんな呑気にお茶と食事の時間を楽しんでいたようだ。よかった。


「ミラージュ殿、もし襲撃されたら、いかがなさる?」

「殺す、わ。」


やや詰まりながらも、即答した。


「無理はせんでええんじゃぞ?」


ウドーが優しく言葉をかけてくる。


「違うもの。あの海王とは、魚人たちとは、違う。欲望だけで、金目当てで誰かを襲うような輩だもの。斬って捨てて、問題ないでしょ。」


その言葉は、自身のため。


「であるな。」


同意するスケさん。


「イクス、悲観しちゃ、駄目よ。あの結婚式のように、素敵な光景を繰り広げられるのもまた人なんだから。」

「うん、大丈夫。」


緊張を押し隠しながら、五階層への道を先頭きって進んだ。






はたして、そこには例のいかがわしい集団が待ち構えていた。


そのうちの一人の、例のリーダーらしき獣人族の女が、耳をぴくぴく震わせながら、その強面な表情を平素以上に強張らせながら、一人こちらに向かってきた。


おや?道中の盗賊みたく問答無用で襲ってくると思ったが、金だけ置いていけ的なパターンか?それにしてはかなり緊張しているようだが、意外とこういうことに慣れてないのか?


警戒マックスの我ら愉快なメンツの目前まで、たった一人やってきた彼女。その表情は、さらにさらに、強張っている。


「その、、、」


何やねん、用があるならはっきりせーや。ぶちかましてこいや。


「そちらの、その、白い髪の、素敵な殿方の、お名前を、聞かせてくれまいか、、、」


真っ赤な顔で、問いかけてくるその女性。後ろの面々は、姉御、ガンバ、と、必死に目で応援を繰り広げていた。


「はぁぁぁぁー、まったく、あんた、あんたったら、、、こいつはイクスよ。私の弟。いい男よね。で、あんたの名前は?」

「!カリオーネ!カリオーネよ!」


見事なぶちかましで警戒が一切なくなり、私は嘆息とともに、要求通り自己紹介を行った。イクスとあいさつを交わさせ、初対面の握手。


カリオーネの表情は、恋する乙女の様相。ま、結果オーライか。だいぶ年上みたいだけど、中々引き締まったボディーライン。そしてガラの悪さはあるものの、近くでよく見てみるとかなりの美人ね。格好いいタイプの。ほわわんなイクスと足して割って、ちょうどいいわ。


脳内でイクスとこの人が二人お茶を楽しんでいる姿を描いて、結構お似合いかも、なんて私が考えている中、んー?と首をかしげるイクス。前回既にその概念に出会ったとはいえ、まだ恋愛感情というものは完全には育ちきっていないみたいだ。


ややカリオーネには残酷な未来になるかもしれぬが、それもまたこの世の真理。できる限り彼女の力になってあげることを心に誓い、各メンバーの紹介を続けた。






「その、スケさんがいたから、監視にとどめてたけど、最初の探索でここまでニュービーが来るなんて本来許されないからな。速攻うちらに止められても仕方ないところだったんだ。」


カリオーネに受付での行動をとがめられる。


彼女たちは、いわゆるダンジョン初心者救済の仕事をしているらしく、見た目上いかにも頼りなさそうな私たちが五階層まで挑むらしいとの報告を受け、すぐに様子を見に来たようだ。


そしてそこで稲妻、走る。


スケさんの放つ凄腕の佇まいを、はやる気持ちを抑えて冷静に判断し、五階層までは何とかたどり着くかも、と思ったらしく、後方監視員の派遣にとどめた上で、カリオーネ達本隊はここで待っていたようなのだ。


そうして今、カリオーネは無事それなりのファーストインプレッションを与えて満足したのか、本来の仕事へと戻りその斥候達の報告を聞いている。


1、2、3、、、、、、監視員、多くね?それほど注力するほど一目で惚れ込んじまったか。私らのせいで他の初心者NPC、被害受けてないかしら。


しかしそれに全く気付かなかったうちのポンコツメンバーたち。前言撤回ね。みんな、まだまだよ。


「へー、予想外に相当やるみたいね、ミラージュお姉さん。」


おおう、こんな年上の妹できてしまうんか。いや、いいな。うん。


「まあね。んじゃ、私たちは依頼のモンスターを討伐してくるわ。いろいろ積もる話は一時間後くらい。入口すぐ傍の酒場でいい?」

「おっけー、気を付けてな。」

「傷一つつけさせないから。安心して。」


がっしりと握手を交わし、別れ、そのまま皆で依頼のモンスターを探しに向かった。






「ぬおりゃ。」

「師匠、右からまた、来ます。」


依頼を果たそうと、現れたモンスターと戦うスケさんにセリナ。特にセリナの方は実戦経験の不足が響いていて、数の多さにやや翻弄されている。さっき何とか一匹斬り払ったところで、すぐまたもう一匹にとびかかられ、落ち着ける暇がなさそうだ。


イクスがはらはらとその様子を眺めている。


「でー、そうなっちゃったんですけど。」

「なはは、まじか。あの誇り高き狼カリオーネが、ねえ。」

「そうなんですよ。すごいカッコイイお姉さんで、それが妹になるかもとか、もう。」

「なはは、まじか、まじか。いや、カリオーネ自体は人気で有名なキャラよ。丁度ミラっちがベントに本拠地を移ってすぐくらいにさ、」

「導入された?」

「そうそう。」


「ミラージュ様、すみません、ご助力を!」


あ、セリナぴーんち。クイックンをかけ、飛び込み、彼女を挟もうとしていたモンスターの内の片側集団をバスバス斬る。


「で、どうなんでしょ?こういうタイプの差異は、ありえるんでしょうか?」

「うーん、どうだろうねぇ。ぶっちゃけ言ってしまえばイクスっちの存在自体が差異っちゃあ差異だしねぇ。でもミラっち、必ず私を呼ぶのよ。呼ばずに進めたら、マジ許さないさ。」

「わかりましたー。」


コールを切る。


どうやらさっきの挟撃を除き、無事二人でほとんど処理したようだ。そのまま残りの掃討も任せる。






「ふぅ、やはり実戦というものは、訓練とは違いますわね。一段と腕が上がった気がしますわ。」


満足そうに額の汗をぬぐい、感想をこぼすセリナ。


「ミラージュ、ネコさんとの会話、タイミング悪くない?」

「仕方ないのよ。つながった瞬間、モンスターが向こうからやってきちゃったんだから。それにこの辺りじゃまだまだ余裕だしね。」

「そうですわイクス殿。私を信頼して任されたのです。そしてピンチの時にはさっそうと駆け、切り払うあの剣閃。いつか私もその域まで、たどり着いて見せますわ。」

「その意気だ、セリナよ。修練の道は険しくとも、目標があれば、進めよう。」

「はい、師匠!」


うむ、相変わらずの脳筋である。


「こやつら、やっぱあほじゃな。」

「まあ、そうかもね。」


再びウドーと意見を同じくして、そう返した。


イクスの言うとおり、多少の罰の悪さを感じてはいたのだが、さして必要なかったようだ。


敵性勢力がいなくなり、忘れないうちにと早速クーラさんを呼ぶ。にんまりとした表情を隠さず現れた彼女とともに、転移でダンジョンを後にした。


向かうは戦場。恋の真っ向勝負。


山場が、そう、最大級の山場が、これから向かう酒場には待ち構えているのだ。


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