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箱庭の君  作者: 鏡 龍彦
高校一年生 -秋-
22/100

school fes day 2

「かがみー。次、ジャスミンティーとブレンドー。」

「ほーい。」


文化祭二日目。クラスの出し物の喫茶店で、割り当てられた役割であるキッチン業に勤しんでいる。各家庭から持ち寄られた茶道具で、注文のものを淹れていく。コーヒーの方は数台のコーヒーメーカーをまわしてある程度作り置きしたもの。


お客さんに出す用のカップに、丁寧に注いでいく。


「できたよー。」


準備ができ、すぐに知らせる。


「うい。もう一丁、次はアールグレイとブレンドね。」

「りょうかーい。」


高校の学園祭とはいえ、そこそこの人が訪れる。おかげでド定番の喫茶、特に工夫も見られぬそんな模擬店でも、見学に疲れて腰をいったん落ち着けようという意図のお客さんがそれなりの数おり、私は先ほどから次々と注文をさばいていた。






「かがみー、昨日の演劇、よかったよねー。私今日もう一回見に行こうかなー。」


客足が一時はけて、隙間が空いた時間。恋に恋する乙女って感じの我が親友のなっちゃんが、昨日一緒に見に行ったロミオとジュリエットのことを淡いため息とともに語った。


「主演の三年生、綺麗だったね。」

「そう!そうなの!なんであんな美人が、うちの学校に?って思っちゃうわ。演技も素敵だったし。天は二物も三物も与えるなんて、うらやましい。でも、素敵、、、」


一人妄想の世界へとつかり始めるなっちゃん。


「おつかれー。」


その時ちょうどタイミングよく交代のメンバーが現れたので、乙女パワー全開で想像の世界に浸り続けている彼女をそっと放置して、私は今日の自由時間を一人満喫しに行くことにした。


昨日は二人で一緒に定番系の出し物を見て回った。もちろん定番は定番、目新しいものなどなく、さして面白いわけではないのだが、ザ・学園祭という感じの普通のそれらのラインナップ、なっちゃんと二人というだけで楽しむことができた。


けれども今日は単独ソロ。気を使う必要もなく、どこへ行くかを選べてしまう。彼女が好きそうじゃなくて昨日回れなかったキワモノ系の出し物、目いっぱい楽しむぞ!






まずは定番にもかかわらず、昨日なっちゃんに超絶拒否されたお化け屋敷。第二体育館全域を使ったそれ。準備のときにちらと視界に入ることがあったのだが、かなりの力の入れ具合であった。今も中から、叫び声が届いてきた。これは、やばそうだ。


しばらく並んで待ち、ようやく順番が来て中へと入る。どうやら厳密なルール設定で一人ずつしか入れなくしているようで、私の前に並んでいたカップルが、じゃあいい、といって順番を放棄した。もったいない。


中に用意されていた受付でワクワクしながら100円払うと、なぜか何も言わずにハリセンを手渡された。


「えっと、、、説明とか、、、は?」

「?頭に、お願いします。あとできればあまり本気で叩かないように。触れられたら終わりで合図をいたします。不要な被害を与えないためにも、そのルールは厳守で。じゃーどうぞ。、、、次のチャレンジャー、入りまーす。」


明らかに頭上にクエスチョンマークを浮かべて、その後事務的にではあるが、少し期待のこもった声色でその受付の人は説明を告げ、仕切りの向こうに呼びかけた。そのまま促されて先へ進む。


仕切りで覆われた先へとたどり着く。


広い空間、ゾンビの集団、全力疾走。固まるわたし。


「うぎゃーーーー!」


思わず喉から出た叫びで金縛りが解けて、そこから全力でハリセンを手に戦った。必死に距離を取り、隙を見て叩く。






「昨日に引き続き、素晴らしいですね。触れられるまでの撃墜スコア、24です。今のところ二位記録。本日18時に校内放送で優勝者のお知らせをします。ほぼ決まりですので、ぜひその時間にこちらへお越しください。粗品をお渡ししますので。」


これ、違くね?確かに怖かったが、そうじゃ、無くね?でも、昨日?二位記録なのに優勝?何のこっちゃ。


出口で中の様子の秘密厳守などの説明を受けていると、涼子先輩の姿が見えた。


「がーみー、さすがだね。」

「どうも。」


誉められて少し誇らしくなり、照れて頭をポリポリしながら返す。どうやらゾンビ衣装その他にも手を貸していたらしく、それが崩れたものの補修などで大忙しのようだった。


作業を邪魔するわけにもいかず、私はひとまず部室へと向かった。






予想通り、今はだれもいなかった。他の二人も思い思いに学園祭を楽しんでいるのだろう。私は部室の扉を閉め、虚空に問いかける。


「メルクス、いるでしょ。」

「はい、鏡様。」


すーっと迷彩効果を解いて、可視化するメルクス。


「あんた昨日、さっきのゾンビアタックやった?」

「はい。中から悲鳴が何度も聞こえてきておりましたので、危険確認のためにも。鏡様が演劇を見ておられる間に、行ってまいりました。」

「やっぱりね。んー、まあいい、か。ん?そういやあんた、入場料の100円はどーしたの?」

「涼子様に、いただきました。」


あー、なんか満面の笑みで渡す涼子先輩の顔が脳裏をよぎった。


「そ。まあいいわ。で、あんたは何点?」

「25でした。全力を禁止されましたので、鏡様の運動性能に合わせさせていただきました。」


う、自分?に負けた、か。


「粗品、もらえるみたいだし、一位だったら受け取り、行こっか?」

「はい。」

「じゃー次、行きましょっか。」


私の傍で、楽しめるかどうかはわからんが、この学園祭のいろいろ、見せてあげないとね。






コンピュータ研の部室。並んだ自作のゲーム試遊台の前で、そこそこの人数がその遊びに興じている。


レトロクラシック。そんな見た目のシューティングだが、作りはかなり凝っている。難易度が相当高く設定されているためか、皆ステージ1の途中で終わっている。時たまボスへとたどり着くものもいるが、そこもまた超絶難易度で、突破の道は険しいようだ。


私の番が来た。


(後ろで見ててある程度パターンは覚えたわ。)


危なげなくステージを進めていく。


そうしてボスまでたどり着く。長い激戦。敵弾をかわす方へ全力で専念し、攻撃は勝手に当たるままに任せて、玉撃ちを続けながら必死で操作する。


まだか、まだか、集中がすり切れ始めてきたところで、ようやくボゴーーン、とボス撃破の効果音が鳴った。


おおー、と私の奮闘に後ろの方で小規模なギャラリーができていたようで、控えめな歓声が上がった。


表示されるステージ2。操作可能になった瞬間現れる、一面敵の群れ。画面のすべてを覆う弾幕が張られ、回避の術は設計上用意されておらず、そのまま撃墜された。


「見事なクリアおめでとう。このゲームはこのように、頑張った先にもどうしようもないこともある、という教訓をメッセージとして持たせた作品なんだ。」


これは、どーなん?と、製作者の方に顔を向けたら、私に目を合わせずにそう言い放った。






「鏡様。あのような弾幕、本来ならば上空か下方へ回避可能です。お気を落とさずに。」


虚空から小声でメルクスが告げてくる。


「ああ、うん。」


さしたる達成感もなく、ただ疲労だけが残った私は、ミステリー研の不思議展示でも見て癒されようと考え、その部室へと向かった。


んー、やはりこれはよい。飾られた不思議写真や図面をじっくりと一つ一つ眺めていく。むむ、この詳細な資料は、、、モアイ像の製作輸送に関する考察研究のまとめレポート、、、だと!?


(なるほど、このやり方なら確かにできそうね。)


すっかり夢中になって読みふけっていると、入ったときには数名いた他の観覧客も既にいなくなっていて、室内は私と、入口近くの椅子に座って待機していた、おそらくミス研の部員であろう女性の二人のみとなっていた。


その、雰囲気を出すためか黒いローブを制服の上からまとった女生徒に、声をかけられた。


「もしお時間がおありでしたら、占いでもいかがですか?」

「お願いします。」


即答。星占いだのなんだの、そうあてにならないとはわかってても、気になっちゃうのよね。


「では。」


机に次々タロットカードが配置されていく。なんか結構本格的だ。これ、無料でいいのか?


ペラリ、最後の一枚がめくられる。それは、骸骨、死神だった。占い師さんはそのカードが目に入った瞬間、強引にカードをつまんでいた右手の手首をひねって、机に置いた。


「お、お喜びください。このカードはこのように逆位置ですと、再生と誕生の意味を持ちます、ええ。あなたの未来は安泰です。」


二人だけの、静かな部室内。占い師のそれほど声量のない取り繕った声が耳に届く。


「えーと、、、ちなみに、聞きますが、元の位置だとどうなるんですか?」

「死にます。」

「え?」

「死にます。」


そ、そうなんだ。私、もうすぐ死んじゃうんだ。父さん、母さん、先立つ娘を、許してください。


「どうやら先ほどの私の巧みなカードさばきに気づかれてしまったようですね。」


すっかり雰囲気にのまれて悲観してしまった私に、占い師さんはその乏しい声量で言葉を告げ、はぁ、とため息をはいた。


巧みって、むしろ明るみだったけどな。見え見えだったけどな。


「大丈夫です。先ほど私がやったように、強引に捻じ曲げてしまえばよいのです。それが、できるのです。運命とは、そういうものです。」


口先の方は巧みだった。






「鏡様、捻じ曲げる役割ならば、私が。あのような骸骨、一ひねりです。」


あんましタロット占いのことをよくわかってないメルクスが、再び虚空から小声で声をかけてきた。


「ああ、うん。」


なんだかなぁ。お土産にもらったほかの題材のレポート集を抱えながら、すっかり他の出し物を見に行く気力がなくなった私は、このまま部室でこのレポートを読んで過ごすことにしようと決めた。


「お。」

「何、龍。ぼっちで読書とか。」


扉を開くと、龍が一人いつものように読書にふけっていた。


「昨日気になるやつはあらかた見回ったからな。今日は昨日残したいくつかを見に行って、それで終わりだ。」

「ま、そんなもんよね。」

「だな。」


メルクスがお茶を淹れ始めたようだ。


「何かいいやつ、あった?」

「お化け屋敷。」

「えー、あれ、違くない?」

「本能的にこみ上げてくる恐怖を感じられた。あれは、いい。」

「まあ、それには同意だけど。でも、別にゾンビじゃなくても、集団に突っ込まれたら怖いわよ。ああ、そんであんた、何点だったの?」

「3点。ああいうタイプではお前には敵わねーよ。」


ふっ。雑魚よのう。こちらの点数を告げるまでもなく負けを認めてきおった。


「あとは玲央のクラスのタコ焼き。模擬店のレベルを超えてたな。コンピュータ研のゲームもかなり楽しめた。作りかけだったのが惜しいな。」

「そうね。私もさっき、ステージ2で終わらせられたわ。タコ焼きは昨日なっちゃんと食べた。あれ、絶対玲央のこだわりよね。」

「あいつがやる気を見せたら、周りの女どもも張り切るだろうしな。」

「かもねー。あいつ性格もいいし、何で望み薄?なところに向かうんかねー。ほんと。」

「まあそういうもんだろ。そういやそのレポート、ミス研見に行ったのか。」


私が机に置いたレポート集に、言及してくる。


「そう!聞いてよ。そこで占い、してもらったらね、死神、出たのよ!」

「ああ、そういうことか。」


龍が私のセリフを聞いて、妙に納得したように返し、そして次の句を告げた。






「手先もめちゃくちゃ器用だったのね。すっかり騙されて、納得しちゃったわ。」


龍からの種明かし予測を聞いて、逆に感心させられてしまった。


「みんないろいろ考えるものね。来年は私たちも、何か。考えよ。」


コンコン、ガチャリ。扉が開き、玲央が現れた。中にいた私たちを見て、少しがっかりしたようだ。わかりやすい。


「玲央、たこ焼きの方は、もういいの?」

「はい。無事、用意していたものすべて売り切りました。」

「涼子先輩ならお化け屋敷の先にいるわよ。勇者玲央、お姫様をお化けの群れから助けに行くのよ。」


クラスの仕事を終えてすぐさまここへやってきた玲央の目的を勘案して、適切な一言を告げてあげる。


「そ、それは、、、そうですか。衣装関係のお手伝いでしょうか。それでは、邪魔をするわけにはいきませんね。」


あっさりと引いた。奥手な日本人の気質まで持ち合わせなくてもよいのに。いや、まてよ、こいつ実は、ビビりなんじゃないか?それも相当な。


その時キュピーン、と、それを確かめる手段を閃いた。あの粗品。間違いない。あれだ。






メルクスのお茶を楽しみながら、いつもより長めの会話を三人と一体で楽しむ。さっきからそわそわが止まらない私の気配から、龍もおおよそ察しがついたようだ。


「えー、皆さま。これより二日間にわたり行われた、ゾンビアタック優勝者をお知らせいたします。延べ五百名近くにわたる参加者の中、優勝は得点なんと、25点。一日目に挑戦されたメルクス様でした。二位は同じくメルクス様で本日再びの挑戦での24点。3位以降はほとんど2桁にすら届かない中、二度とも素晴らしい戦いを繰り広げていただきました。粗品をお渡しいたしますので、第二体育館までお越しください。」


18時。アナウンスが校内に響いた。よっし、まずは第一関門突破。


「じゃ、行ってくるわ。戻るまで待ってて。」


二人に待っているようにくぎを刺す。龍はにやにやと、予想通りの粗品であることを期待している。






「がーみー、おめでと。」


涼子先輩から渡された。特に出来の抜群なそれ。完璧だ。計画通り。そう、私はこれをかぶり、ここで死ぬのよ。ゾンビになるの。あの占い、手品とはいえ的中してたわね。


その後部室へ戻り、ガァーンと扉を勢いよく開け放って、玲央の所へ突っ込んだ。固まる玲央。笑い転げる龍。






「うう、鏡さん、ひどいです。」

「あんたが見た目は本質じゃないなんて言うからよ。中身が私でも、見た目がゾンビならそうなるってことは、そういうことよ。少なくとも、影響はあるのよ。」

「うーむ、そう、かもしれませんね。」


ネタ晴らし後の穏やかな歓談。それは、そう。一つの判断基準、判別機構。それが全てじゃないけど、それで決まることもある。


祭りの後の余韻でまだ騒がしさが治まっていない校内に後ろ髪をひかれながら、私たちは帰宅の途へとついた。






帰宅し、夕飯を食べた。珍しく父さんも一緒だった。


「父さん、私が反抗期とか?になったらどうする?」

「竹刀で語り合おうか。」


わかりやすい即答。


「私が勝ったら、私の思い通りにするってこと?」

「あり得ん話だがな。だが、大事なのはその心意気、思いの強さだ。そういうものは、伝わるものだ。」

「そっかー。」


あの海王も、そうだったのかな。だから、トライデント、手放したのかな。私には、そんなもの、無かったんだけどな。


「ま、明らかに間違ったこと抜かすようなら、遠慮なくぼこぼこにしてやるがな。数日は満足に立てないぐらいを、覚悟しておけ。」

「もう、父さんったら。女の子の体に、傷なんてつけちゃだめよ。」






歯を磨き、二階へと上がる日曜の夜。明日は代休だ。


今日はダンジョンの街までのんびり進んで、明日一日中、素材探しに勤しもうかな。


ヘッドギアをつける。


イクスに今日の玲央の様子を教えてあげよう。笑ってくれるかな。


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