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箱庭の君  作者: 鏡 龍彦
高校一年生 -秋-
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1v1 -kuyashii_no-

速度上昇と筋力上昇効果のかかったその身で、全力で刀を振るう。斜めからの袈裟切り。


可能な限りの全力全開で振るったそれを、軽くその手にしたトライデントで払われた。


距離を取る。奇襲気味に仕掛けたそれで、この対処。奇襲でなかったら、その三又の槍で捉えられ絡み取られて、刀がこの手を離れてしまっていただろう。


ピリピリと、容赦のないコアーシブゲイズ。環境は不利。海の中、敵はそれに適応した身。


一方の私は、陸地に順応した姿。


でも、変化に頼るわけにはいかなかった。思考は決着がつかなくとも、その意地は、貫き通す必要があると感じた。


一瞬のにらみ合い

そして突き、鋭く、放たれる

かわす。けれど肩先、掠る

出血効果の赤色が、周囲へと

痛い。でも、痛く無い

痛覚すら、思考とともに、麻痺へと向かわせ

次々くる突き、必死でかわし、払いのける


負けても勝っても、意味はない

だから今は、無心に動く

月の明かりを照明に

ただ殺し合う、陸人魚人


ハッピーエンドは、優しくない

気軽に近づき、振り払われる

だから私も、振り払う

お前なんかいらねーよって、切り捨てる


振る、交わす、振る、かわす。全力の突き、また来た。ステップ、再びギリギリ、避け、られなかった。


致命傷。利き手、その肩を刺された。


バックステップ、バックステップ、距離を取る。クイックンが、切れていた。


息、整える。無情に長い、クールダウン。


これは、勝てない。そう、実感した。


前ステップ、前ステップ。全力で、再度の袈裟切り。予想通り、挟まれる。


捲き込まれ、刀とられる。両手いっぱい、その回転に抗って、力を籠めて。


「モォォォォメントォォォォォーーーーーー!」


思いも何もなく、ただ無心に力を込め、抗う。痛みも気にせず、ぶっちぎれても気にしない。






刹那、体勢が崩れる。抗力が、無くなった。すっぽ抜けたトライデント。


ふんわりと、その慣性に従って海中を浮遊していく。


どうして、なぜ。私は勝てなかった。始まる前から、負けていた。


「わかったよ。少女よ。私の、負けだ。心を、斬られてしまった。」






「悔しい、悔しい、よ。くやしい、んだ。」


リュウとレオに、イクスにウドー。ことの顛末を知る彼らに背をさすられ、浜辺に体育座りでその顔を膝に乗せ、泣いていた。


幸せそうに、抱き合っていたメオロとウリエージュ。その彼女の身は、アイテム効果で、素朴な見た目の陸人種へと変えていた。


「鏡さんは、よくやりました。悲観してはいけません。」

「そうだ。結果だけ見りゃ、和解の仲立ち。最高の結果と言っていい。」


そうだろうか。私には、何もなかった。あの父親の、強い思いに返す答えを、持っていなかった。ただ無心で、思考放棄して、斬りあっただけだ。そして勝ちを、無様にも譲られた。


「ミラージュ。まずはウドーに、ありがとう、じゃない?」


イクスがそう告げた。そうか、そうだな。


「ウドー、あんたも、たまには役に立つ、じゃない。しぶしぶ、拾ってあげて、よかった、わ。」


意志に抗うあまのじゃくな私の口は、涙声でつっかえつっかえで、間違ったセリフを吐いてしまった。


「そうじゃな。お主の役にようやく立てて、わしも鼻が高いわい。」


彼の返しは、そんな私のままならない心を察したようで、とても、とても優しかった。おじいちゃん、ほんとに、おじいちゃんなんだな。






文化祭一日目。見た目を変えた、校舎。それと一緒に、普段とは違う内面を見せる学校。


私は涼子先輩が衣装その他監修した、演劇部の出し物を見に行った。


定番の、ロミオとジュリエットだった。悲恋、思い届かぬ結末。私は彼らの、二人の姿を脳裏に描いて、その演劇を見つめていた。


んー、やっぱ見た目って大事よね。


ジュリエット役の三年生。女の私から見ても美人と評するしかないほど、その持って生まれた容貌と磨きぬいた演技力を生かし、人気女優になるために生まれたような、そんな輝きを放つ彼女。


半魚人姿の彼女が脳裏に浮かぶ。


やっぱ、ねーよな。人種、は最低限だろ。龍、陸の二人からは、強い賛同を得られたその結論。


残酷なまでに見た目の及ぼす影響は強く。私がモテないのも、その影響はきっと強く。


負けないわ。何かで稼げる女になるのよ。


そうして、自身の得意な、負けないスキルをより一層磨くことを新たに決意した。






その日の夜。


ノースショアへと降り立ち、多少なりとも関わりあったみんなを呼ぶ。ちょうど明日、彼ら二人の結婚式が執り行われるのだ。


時間を進め、今、みんなでその模様を眺めている。幸せいっぱいの二人。参列者の片隅には、セバスが用意したアイテムを使って参加した、あの父親の姿がある。


「彼ら、大丈夫かな?」


イクスが、予測されるもろもろを思考しながら、問いかけた。


「ま、ハッピーエンドのその先は、語られないのが道理だな。」

「そうね。そういうものよね。」


私のその返しで、イクスは無粋な予測をやめたようだ。閉じていた目を開け、二人の姿をその空色の瞳に焼き付けている。


「私も、負けていられませんね。」

「ああ、玲央は、涼子が好きなんだよね。」

「な、なぜ、それを、、、」


リクの言葉が、レオに衝撃を与える。


「いやー、この前の映画見ようの流れ?そっからの龍の部屋での様子?本人が気づかないのが逆に不思議、ってくらい、わかりやすかったよ。」

「姐さんも、このセリナみたく、変な方向にぶっこんでるからな。」

「そうだね。涼子かぁ、僕にはどこがいいのか全くわかんないなぁ。」

「すべて、全てですよ!」


雰囲気を壊さないように控えめながらも、激高するレオ。私も涼子先輩はきれいだし素敵だと思うんだけど、リクはそう思わないみたい。


見た目も内面も、その感じ方は千差万別。ほんとにこの世界は不思議ね。






「いやー、良い結婚式でした。」

「そうね。」

「そんで、袴の素材はどうなったんだ?」


リュウが、本来私たちがここに来た目的を確認する。


「一応ウミヘビの皮はスケさんたちにお願いして手に入ってるけど、特殊効果をどうするか、いまちょっと迷ってんのよね。」

「ふーん。だったらいろいろランダムに手に入る、魔窟かダンジョンがいいんじゃない?ちょうどここから、向こうへ渡れるし。」


リクの献策。どうしたもんか。


「それがし、リク殿の意見にもろ手を挙げて賛成である。露払い全てもろもろ、任されよ。セリナも、イクスの護衛くらいは勤められるようになったであろう。」


今回出番のなかったスケさんが、目を輝かせてそう告げた。


セリナの方に目を向けると、彼女も危険飛び交う別大陸で経験するかもしれないあれやこれやを期待して、目を輝かせている。


セバスは、お嬢様の心の赴くままに、といった強い視線で、こちらを見つめ返してきた。おまえ、戦闘はできんが眼力は半端ねーな。あの父親のコアーシブゲイズ並に押されたわ。


「あそこ、戦争だのなんだの、イクスに悪影響を与えかねないのよね。」


私のそんな思いもむなしく、イクス本人はそれもまた知りたい、と、好奇心をむき出しに私へとそのきれいな瞳を向けていた。


私程度でも、諍いだらけのこの世を理解できる。もし彼がそうなってしまったら。どこぞのスパコンみたいな結論に達しないだろうか。


「鏡。それもまた、真理だ。なるようにしかならん。少なくともこいつは、あいつをお前の下へ送ってくれた。」

「そう、ね。」


一歩、踏み出すことにした。






漕ぎ出す船旅。


「そういえば、ミラージュ。今回はあのお父さんが、中心だったみたい。」


船体にぶつかる波頭を飽きもせずに見つめながら、イクスが告げた。


「ん、そういえばそのこと、すっかり忘れてたわ。データ、いつもと変わらず?」

「今回は、メッセージ、あった。」


おっと、重大発言ではないか、心して聞かねば。


「で、、、なんて?」


極度の緊張を宿して、問いかける。


「人様の娘さんをもらうには、これぐらいの苦難が待ち構えてるのよ、だって。ミラージュ、何のことかわかる?」


私のあの戦い、あの迷い、何だったんや。


「ふーむ、自由に泳ぐ海の人も、この船とやらで海を渡る陸の人も、どちらもやはり不可解で、面白いのじゃ。わし、感動じゃ。」


がっくりとうなだれた私を気にすることもなく、まだまだ元気なおじいちゃんの、お気楽な一言が耳をよぎった。


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