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第26話 キセキの告白 1

 シャトルに行き先をインプットする作業が一区切りついた所で、交代で休憩を取ることになり、一番下っ端のセイヤが食料の備蓄をしてあるという倉庫室から飲み物その他諸々のリクエスト品を取りに行くという役を仰せつかった。


 船内は無重力ではないが、コロニーの中に比べれば重力はだいぶ弱い。だから、歩くというよりも宙を泳ぐという感じで、どうしてもへっぴり腰になりながら、壁伝いをそろそろと進むしかなく、慣れない動作に自分でももどかしさを覚える。先輩たちの大量のリクエストに、ナナミが心配して荷物持ちに付いてくると言ったのを、重力が弱いなら大丈夫だと断っておいて良かったと心底思う。どう見ても、この格好は情けない方に分類されるよな、と思う訳で……。ナナミに対して少しでも点数を稼ぎたい自分は、こんな些細なことにも見栄を張らずにいられないのだ。結局、例の弟発言についても、その真意を確認することは出来ず、おあずけ状態は、絶賛継続中なのである。


――俺ってそんなに頼りないのかなぁ……


そんなことを考えて、ふうとため息をつく。その隙を見計らったように……。

「うお~い、セイヤァ……」

いきなりキセキの浮かれた声がしたと思ったら、その姿を確認する間もなく背後からまた羽交じめにされた。


――くっそ~身長差かっ。


 自分とキセキの身長の差が、こういう暴挙を許しているのだと気づいて憮然とする。その間にも、飛び付かれた勢いのせいで、二人の体は半分もつれたままで否応なしに廊下を流されて行く。

「……キセキさんてば、いきなり何すんですか、も~」

 抗議の声を上げたところでセイヤの体が壁に接触して、キセキの体と壁の間でむぎゅっと押し潰された。

「んぎゃがっ……」


 セイヤの口から、どうにも形容のしがたい情けない声が漏れる。

――ホント、ナナミ先輩がここにいなくて良かったっていうか~~


 カッコ悪いを通り越して、これはもう立派に無様。

「離して下さい、キセキさん…… てか、まさか酔っぱらってませんよね?」

 祝杯の酒類は、自分がこれから倉庫に取りに行く訳だから、さすがにそれはないだろうと思うが、念のため聞いておく。

「え? ああ…… さっき鎮静剤代わりに2、3口飲んだだけだから、ぜ~んぜんっ平気ぃ」


――って、飲んだんかい。全くこの人はぁ~いつのまにぃぃ~


 そう思うセイヤの目の前で、キセキは懐からフラスコ(携帯酒瓶)を取り出して、それを軽く振って見せる。パシャパシャという音の具合からすると、残量はかなりあるようだから、本当に数口飲んだだけなのだろう。今日キセキがしでかしたことを思えば、それは明らかにオーバーワークであり、精神的な負荷も大きかったのだということは想像に難くない。その緊張を緩めてやるための薬だというのも、理解でないことはない。が……。

「大丈夫、酔ってはないからっ」


――酔ってる人はたいていそう言いますよね~ 呂律も何だかアヤシイですよ?


「はいはい」

 適当に相槌を打ちながら、セイヤは妙にしつこく絡んで来るキセキの腕を地道に引き剥がしにかかる。

「でね、僕はキミにね、話があるんだよね……」

「はいはいはい」

 ようやく首のあたりに絡み付いていた腕を押し退けた。が、その途端に、今度は両の肩をがしっと掴まれて、少し乱暴に体を壁に押し付けられた。そこには力の加減も何もなく、セイヤは肩に食い込む指の痛みに顔を顰める。

「……やっぱ、酔ってますよね?」


――お酒って、確か重力弱いと、回りやすかったんじゃなかったっけ……


「……頼むから……話、聞いてくれる? 大事な話だから……」

 至近距離で懇願するようにそう言ったキセキの表情は、あまり見せたことのない真面目な顔で、セイヤの中に戸惑いが広がる。

「いや、そりゃ聞きますけど……そんなに大事な話なら、出来ればシラフの時にした方がいいんじゃないかと……」

「……うん。それはね、そうなんだけど……シラフだとどうにも勇気が足りなかったっていうか……僕はキミが思ってるほど、立派な人間じゃないからさ……」

 そこでキセキが軽く唇を噛んで目を伏せた。


「……キセキさん?」

「セイヤ……。僕は、キミに許して欲しくて頑張った訳じゃないし、こんなに頑張ったんだから許せとか、そんなたわごとを言うつもりもない。ただ、もし世界を変えることが出来たら、キミに言おうって決めてたから……言わなきゃって思って言うんだけど。ああ、でも……それってもしかして凄くズルイこと……だったりするのかな……僕はやっぱり、キミに許して欲しくて頑張っちゃったのかも知れないや。世界を変える……そのぐらいのことをしないと償えないって思ってたのは、キミに許して欲しかったから……なのかも知れないね。だって僕は、キミが大好きだから。キミに憎まれたら、きっと辛いと思うから」

「……ええと……許すとか許さないとか、微妙に話が分からないんですけど……何を……」


 そこでキセキが意を決したように顔を上げて、セイヤを見据えた。その瞳にはいつもの陽気な光は微塵も無くて、どこか不安そうな影が揺らめいていた。キセキはセイヤの肩に乗せていた手を離すと、少し距離を取るようにして立ち、そして言った。

「キミが霧月博士の息子だって知った時、僕は、これは運命なんだって思った」


――運命。


 その言葉がことのほか重く響いて、セイヤの心に不安を広げる。

「今まで目を背けてきたことに向き合わなくちゃいけないんだと、神様にそう宣告された気がした。……もう逃げちゃいけない……罪を償うために、ワイズマンコートの人間として、四宮キセキである僕が、世界を変える。そうしなければならないんだってね」


――この人はいったい何の話をしようとしているのか。


 戸惑いと不安が混ざり合って、心臓が早鐘を打つ。

「セイヤ……」

 そして、そこで一呼吸おいて、キセキが告げた。

「キミのご両親を殺したのは、僕の父だ」

「……え……っと……え……?って……」

 告げられた言葉の意味が飲み込めない。

「……それって……どういう……」


「……僕の父は、ワイズマンコートという組織を資金面でバックアップしている。でもその事実は、行政府に知られてはならない極秘事項だ。もしそれが表沙汰になれば、この世界での四宮家の地位も、市長としての立場も危ういものになるから。だから、自分とワイズマンコートとの関係が漏れるような事態が起こっては困るんだ。でも、その憂慮すべき事態が五年前のあの日起こってしまったんだ」

「憂慮すべき事態……?」

「霧月博士が司法府に拘束された」

「……拘束された? 父さんたちが司法府に……?」

 告げられた事実にセイヤの心は大きく波立つ。

「父さんの研究は、この世界を変えるため、人々の暮らしをより豊かにするためのものだった筈なのに、何でそういうことになるんだよっ」

「変えるという思想そのものが、この世界では罪に問われる。それはキミだって、身を持って体験したじゃないか」

「そう……ですけど……でも、それで四宮市長が父さんを?」

「たぶん……」

「……たぶん?」

 セイヤが訊き返すと、キセキが辛そうな顔で視線を外し俯いた。


「……父にはっきりと問い質すことは出来なかった。……恐ろしくて……訊けなかった。本当のことを知るのが怖くて……でも、父ほどの力があれば、司法府に手を回して博士を助けることだって出来た筈なんだ。あの人は自己保身のために博士を見捨てて、切り捨てたんだよ」

「でも……それでもそれは、たぶん、なんですよね?」

「……じゃあ、うちの父が、あの日事故が起こることを知っていたって言ったら?」

「え……」

 告げられた言葉は、否応なしにセイヤの心をぐっと締めつけ、その全身を緊張感で包みこむ。

「僕もね、セイヤ。あの日、シャトゥラーラにいたんだよ。そしてあのゲートで、ポーラエーカ行きのコンテナに乗ろうとしていた」


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