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第11話 終わりの始まり

――この世界の理を解き明かすために。


「……え……」

 キセキの言葉に、セイヤは混乱する。

「だって、それは……ユノを探すために必要だからって……使命なんて話、ぜんぜん……知らな……」

「ユノ?」

「え、ああ。ユノって俺の妹です。この絵のモデル……五年前の事故で、行方不明になってて……」

「え~ この絵って、キミの妹がモデルなの? じゃあ、全く架空の人物って訳じゃないの? 実在するの?」

「ええ、まあ」

「ほんとに?」

「ほんとですよ。これ、俺が描いたんですから」

 言った途端、セイヤはキセキに思い切り抱き締められた。


「なっ、なにすんですか、キセキさんっ」

「お兄ちゃんっ、と呼ばせてくれ」

「はぁっ?」

「キミ、今、自分が何言ったか分かってる?」

「俺、何か変なこと言いましたかっ?」

「闇に閉じ込められていた僕の恋に、キミは希望の光を与えてくれたんだ」

「は? 意味不明なんですがっ……つ~か、離して下さいってば」

 セイヤがキセキの体を強引に引き離すと、そこに現れたキセキの顔はすっかり緩みきっていた。


「この恋には、叶う可能性が出て来た、ということさ~」

「だから、ユノは行方不明なんですってば」

「ならば、共に探そう。僕らは、たった今から同志だ。この世の理を解き明かし、闇に囚われた僕の天使を救い出そう」

「……ていうか、もし、ユノが見つかっても、ユノがキセキさんの彼女になるとは限らないですからっ」

「キミは、僕たちの純愛を応援してくれないというのか」

「断固、しません。ユノは俺の妹、ですから」

「お兄ちゃんっ、妹さんを僕に下さい」

 キセキがうるうるしながら、セイヤに縋りつく。

「あげませんっっ!! それに、そのお兄ちゃんっていうのは止めて下さいって」

「じゃあ、お兄さんっ、じゃなきゃ、お兄様?兄上、兄者、あんちゃんっ……」

「あの、ですねぇ、言い回しの問題じゃないんですがっ」




 酔っ払いに絡まれる、というのは、ああいうことを言うのだなと、セイヤがそう思ったのは、朝の陽の光の中で、意識を取り戻した後だった。


 肩を揺すられて目を開けると、そこには呆れ顔のハジメがいた。

「何やってんの、お前……こんなとこで」

 言われてみれば、セイヤは空のワインボトルを抱えて、柱に寄り掛かって爆睡していたらしかった。すぐそばの床には、ワイングラスが二個と、すでに電池の切れた懐中電灯が転がっていた。四宮キセキの姿は、どこにもなかった。


「師官昇進で嬉しかったのは分かるけど、たいして飲めもしないのに、ひとりでボトル1本空けるって、いくらなんでも浮かれ過ぎだろう。館長が来る前に、この辺、片付けておけよ」

 ハジメはいつもの様に、神経質そうな口調でそう告げると、事務室の方へ歩き去っていく。ぼんやりした頭で、その姿を見送ってから、セイヤはのろのろと立ち上がる。

「……つっ」

 ゴン、と何かで殴られたような痛みが、頭部に走る。


――二日酔い、とかいう奴か、これ。


 足を踏み出す度に、その振動がガンガンと頭に響く。


――師官初日から、二日酔いって、最悪じゃん。


 あの人は、無事に家まで帰り着いたのだろうか。そんなことを思いながら、キセキとの不思議な夜を思い起こす。


――世界の理を解き明かす、使命。そして……


「ワイズマンコート……」


――だめだ、いたくて、頭まわんねぇし。


 何か、とても重要なことを聞かされた気がするのに、今は、何も考えられなかった。

セイヤが、生まれて初めて二日酔いというものを経験したその日、行政府庁では、ひとつの大きな問題が持ち上がっていた。







 軌道予報師長である鏑木ユウキが戻る刻限に合わせて、ポーラエーカ行政府庁では、最高幹部会議が招集された。


 その知らせをユウキは、病院での煩わしい検査を終えて、少し早い昼食を取っていたカフェで受け取った。予報日の後には、必ずその報告も兼ねた会議が開かれるから、会議それ自体は特別なことではなかった。だが、通常開かれるのは、師長だけが集まる師長会議である。それ対し、今回は、行政府顧問や司法府の最高責任者も含む、最高幹部会議である。


「やれやれ、戻った早々、何事だよ」

 ユウキは、マドカがパソコンに送信してきた報告書のファイルに目を通しながら、異例の招集が掛けられた理由を考える。今回の予報のズレは、まあ、何時もよりは大きかったが、それでも想定の範囲内だ。

 四宮キセキのお陰で、被害もさほど大きくはならなかった。こちらが例の秘密兵器を使ったことに対して、刻印師室の方で含むところがあるのだとしても、それだけで、こんなに大ごとになるとも思えない。だとすれば、それ以外に、もっと面倒な案件が発生したということになるのか。


――例えば、オクトグラン全体に関わる様な……大ごと、とか。


「まさかな」

 例えば、いつかこの世界は立ち行かなくなる、といった類の話は、オクトグランの有史以来、ずっと、一部の学者によって唱え続けられていたし、いつかいつかと言われ続けていることに関しては、まさかそれが今日明日起こるとは、人は、なかなか考えないものである。


 果たしてその数時間後、最高幹部会議の冒頭で、ポーラエーカ行政府最高顧問である二妃にひカレンが、口にした言葉によって、ユウキはこの世界で起こり得ないことが起こったのだと、知ることになった。



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