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幕間④:花華さんは電話の彼が気になるみたいです

 今日は日曜で、ゴロゴロと部屋でしてるのもなんだし、

 外はすごい暑いけど、ステファニーさんと夕方になったら

 散歩に行こうねって約束して、

 午前中はテレビを見たり漫画を読んだりしてるつもりだったけど……。

「ステファニーさん、文字が読めなくても漫画って面白いですか?」

 花華の部屋の本棚の前でステファニーさんはONE PIECEの3巻目を手にとっている。

 花華の部屋はごく普通の中学二年女子の部屋という感じだったが、

 ここのところ可愛い小物などが増えてきていて女の子の部屋っぽくなってきていた。

「ええ、絵だけでだいたいお話は解りますから、

 それにこの漫画おもしろいですし、私は好きですよ」

 にっこりと笑うステファニーさんは、

 今日はベージュのノースリーブのトップスに、

 黒の短めのスカート。お母さんのセンスとは言えハイセンスだ。

 着るのがステファニーさんだからっていうのもあるけどやっぱり様になっている。

「わ、私もワンピは好きなんですけどね」

 ちょっとステファニーさんに見惚(みと)れつつ、私は進撃の巨人の19巻を取る、

 お兄ちゃんの影響で、私の本棚には男の子向けの漫画が多い。

 お兄ちゃんはといえば意外にも漫画は買って集めたりはしないタイプで、

 友達から借りて読むことが殆どみたい。

 私から借りていくこともあるんだけど。

「花華さん、花華さんの漫画のコレクションはほとんど男の子向けの作品なんですか?

 女の子向けの漫画も読んでみたいかなあって」

「そうなんですよね、私男の子向けの作品ばかり好きで、

 友達には少女漫画が好きな子もいるけど、

 私はちょっと苦手なんですよね、可愛い恋愛物とか」

 そんな話をするとどこか照れくさい感じがするから、

 苦手というわけではないし、読んでみたい気もするんだけど

 ちょっと、という感じである。

「そうなんですかー、忠さんが言ってましたけど、宇宙人が出てきてガー!

 みたいな漫画もあるんですよね~、見たいなぁ」

 テラフォーマーズとかのことだろうなぁ、

 宇宙人がゴキブリというビジュアルは、

 テラリアが地球に不時着してしまってから昨今は

 ものすごく違和感がぬぐえないけれど、作品としては好きだし、

 ステファニーさんは地球人がそれまで宇宙人に持っていたイメージに

 すごい興味があるみたいだから気になるのも解る気がする。

「あることはありますね、今度私も集めてみようかなぁ、あーオススメはGANTZとかかなぁ」

 そうだ、だったらまだGANTZの方がオススメかも。

 お兄ちゃんに言わせると中二には早いだろとか言うけど、

 普通に女の子でも読んでるよねぇ。

「そうですか、今度忠さんに本屋さんに連れて行って貰ったときに

 おねだりしちゃおうかしら」

 ふふふと微笑むステファニーさんはいっつも可愛い。

 こんな宇宙人さんが出てくる漫画はなかったなぁそう言えば。

 ケロロとかが近いんだろうか、いやちがうよね。

「お兄ちゃんステファニーさんのお願いだったら断れないだろうから良いと思いますよ~」

 私も笑って返した。

 私はベッドに転がって、ステファニーさんは座卓の隣にある

 特大のくまのプーさんのぬいぐるみに寄りかかって

 エアコンの効いた部屋で漫画を読んでいた。

 外では蝉が元気よく声を上げているし、

 今日も日差しはかんかん照りだった。

 夕立がくるとお散歩が涼しくなって良いかもしれない。

 しばらくしてピコリンと、私の携帯が鳴ってLINEの着信を告げた。誰だろう。

『よ、芹沢、今暇か?』

 クラスのほとんどの友達とは男女問わずアドレスは交換してあって、

 このあまり見ないツンツンした頭を形容するかのような

 ウニのアイコンなのは安達くんだった。

「げっ、安達……」

 意図せず声が出てしまう。

「ん? お友達からですか?」

 ステファニーさんも最近ずいぶんスマホの仕組みが解ってきたようで、

 LINEがどういう物かということも解っている。

「はい、まぁ、クラスの友達です」

 まぁ、友達だ、女の子の友達でも無いんだから直でLINEしてこないで欲しいなぁ。

「……男の子かな? その反応は」

 ステファニーさんにはお見通しだった。

「あ、はい」

 何故かトホホという感じになってしまう。

『安達! なに?』

 別に怒ってはいないんだけどこんな返信になってしまう。

「花華さんは男の子の友達も多そうですよね、私にも優しいし、人気あるんだろうなぁ」

 漫画を読みつつステファニーさんがそう言ってくれる。

「そんなこと、ぜんぜんありませんよ?」

 どうだかーという笑みをされて再び漫画を読んでいると、ピコリンと着信。

『あのさ、電話で話したいんだけど大丈夫?』

 ときた、

 珍しい。というかこんなメッセージを受け取ったのは初めてだった。

「あ、ステファニーさん、漫画読んでてください、私ちょっと電話してきます」

 正直慌てていただろう。

「うん、はーい。ごゆっくり」

 察してくれたステファニーさんは優しく応えてくれる。


 部屋を出てドアを閉めて、廊下のすこしむっとする空気の中、安達に通話で返す。

 すぐ安達は取った。

『あ、わり、忙しくなかったか?』

 妙にそわそわした声だし。

「ううん、ぜんぜん、あんたこそ、部活とかじゃないの?」

 今日日曜日なんだけど。

『ああ、今日は朝練だけだった、日中は暑いから熱中症対策でやらないんだ』

 そういうことか。

「ふぅん、で、何か用?」

 どうせテストの答案写し忘れたから見せろとかってんじゃ、

『あ、あのさ、それが、由比ヶ浜の花火大会、あるじゃん、来週? あ、再来週か』

 そういえば、8月1日だ。

「あるねぇ。それで?」

 スマホの向こうで、深く息をつく音と、こくんとそれを呑んだ音が聞こえた。

『芹沢、クラスの奴と行く約束とかしてる?』

 まだ、楓ちゃんとも、まどかちゃんとも、ステファニーさんとも約束してない。

「ううん、まだだけど」

 まさか……。察しの悪い私でもなにかピンと来るものがあって。

『もし、さ、もし良かったら俺と行かね?』

 やっぱりだ!

「……ちょっと、あんたそれ、どういうことか解ってるんでしょうね」

 気恥ずかしさよりも惚けて誘ってるんじゃないかと思ってしまう。

『うーん、要はデートの誘いなんだけど、俺とじゃやっぱダメか?』

 いきなりストレートにデートって言葉使わないでよ! 恥ずかしい。

「あ、あのね、ちょっと――」

 即答できる間柄じゃないよね。それに悩むし。

『ガッコで訊いたらサ、お前まともに取り合ってくれないと思ってさ、

 それで日曜に電話掛けたんだけど……』

 確かにそうだろう。

「まだ、斉藤さんとか鶯谷さんとかと行くかも相談してないから――」

 受話器の向こうでため息。

『いや、いいよ、まだ日にちあるからさ、

 お前の都合が良くって、俺とでも良かったらってんで。

 考えといてくれよ。んじゃ、明日学校でな』

 ツー、ツー。

 しばし通話終了の画面をみつめる。

 私、私、デートに誘われちゃった!?


 部屋に戻ると、

「花華さん、早かったですね、電話、大丈夫でしたか? あら?」

 ステファニーさんはいち早く花華の異常に気付く。

 廊下の暑さ以上に顔が赤くなっていたからだ。

「うう。す、ステファニーさんに隠してもしょうがないですよね、

 あの、ステファニーさん、私、クラスの男の子に

 花火大会に誘われちゃったんです……どうしたらいいんでしょう」

 改めて口にすると、

 ものすごい事になってしまったと実感が湧く。

 通話終了のまま握りしめたスマホは手の汗で画面が曇っていた。

「まぁ、素敵じゃないですか」

 にこやかに本を座卓にぱたりと閉じて置いて、

 私の方に向き合って「お話は聞きますよ」と言ってくれた。

「あの、私、その子とあんまり仲良くもなくって、それでその……」

 ステファニーさんの隣によろよろと座って

 スマホの画面が曇るほど握りしめてた事に気付いて、

 スカートで拭いてポケットにしまった。

「ふふふ、花華さん、男性にそういうお誘いを受けたのは初めてなのかしら?」

 ステファニーさんは絶対こういうこと得意そう。

 経験も豊富そうだし。

 すごい優しい鈴のような声音で訊いてくれた。

「はい、そうなんです」

 これは緊張というかパニックというか、

 どうしたらいいのかが解らないせいだ。

「花火大会には花華さんとその男性だけで行くことになるお誘いなのかしら?」

 二人きりでってことか、たぶん、安達の様子からだとそうだろう。

 向こうも慌ててそこまで言ってくれなかったな。

「はい、たぶんそうだと思います」

 だんだん恥ずかしい気持ちの方が強くなってくる。

「そう、花華さんは彼のことをどう思っているのかしら?」

「うーんと今まではただのクラスメイトとしか、でもいきなりデートの誘いなんて」

 仲は良くないけど、ただのクラスメイトの一員としか

 私は安達のこと思ってなかっただろうか。

 彼、格好いいしチャラいけど、サッカー部のエースだし、

 人気ありそうだし、まさか私にこんな誘いしてくるなんて思ってもなかったし、

 もしかしてただのいたずら?

「そっか。でも彼も今日電話しようって思うまできっとずいぶん悩んだはずよね?」

 そうだろうか、彼の仲間にそそのかされて私に

 いたずらしてみようってそそのかされただけじゃないんだろうか。

「そうでしょうか……、私、いたずらとかだったらどうしよう」

 ステファニーさんはふるふると首を横に振り、

 赤い髪が合わせてさらさらと音を奏でる。

「そんなことはないわ。うーん、これは私の勘かな?

 花華さん、男性からでもそういうアプローチをするのって

 ものすごーく緊張するものよ、

 それに彼も断られたらどうしようってすごく考えていると思う」

 そうなのかな。

「花華さん、ゆっくり考えて決めれば良いわ。

 私はじっくり悩んで考えれば、花華さんにも彼にもいい答えがでると思う。

 焦らなくていいわ。ゆっくりゆっくり、ね?」

 ステファニーさんはやはり大人の女性だった。

 私の焦りや気持ちもきっと解ってくれている。

「はい。そうします、

 でも、私、そうだな、ちょっとだけだけど、彼と行ってみてもいいかなって思います」

 安達くんの笑顔が胸の中をよぎった気がした。

「ふふ、電話の彼は、花華さんの大切な人なのかしら?

 焦らず決めてみて。

 そうねー、折角だから私の初恋の話でもしましょっか?」

 ステファニーさんは優しく微笑んでから、

 少し恥ずかしがりながら、彼女の初恋の話をしてくれた、

 それはどんな恋愛小説なんかよりもリアルで、

 すこし甘くて、とても参考になるお話だった。

 ステファニーさんの初恋の話はとてもキラキラしていて素敵な話だった。

 私もこんな初恋が出来るんだろうか、

 そして相手は、もしかして彼なんだろうか。

 心がとくんとうずく気がした。

 彼女の話を聞くうち、

 唐突な安達からのデートの誘いにはオーケーを出してあげようかな、

 と思った花華だった。


 もちろん、お兄ちゃんとお母さんには秘密にして下さいね!

 ってお願いするのは忘れなかった。

 ステファニーさんも、はいもちろん、女の子同士のヒミツです。と言ってくれた。

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