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アマチュア詩人

作者: 前田剛力
掲載日:2016/06/14

 このところの社会基盤の確立、特に情報に関する仕組み構築の早さには驚くべきものがある。

 政府の明確な目標設定のもと、国内に素晴らしい交通網が整備され、中央の情報があっという間に地方まで届き、逆に地方の動向が即座に首都に繋がるようになってきた。この緊密な情報伝達機能は日本国内をより一体化させたと言える。このような体制の整備は昨今の不穏な国際情勢の中ではわが国の安全確保のためにも不可欠である。

さらに、この基盤を活用して著しく増加した公私にわたる情報交換により、個人思想のより自由なやり取りも可能になったことも評価できる。

今や自分の思想、意見、感情を表現するのは限られた専門家だけの特権ではなかった。才能ある個人が自分の思いのたけを自由に日本中に発信できるようになったのだ。

 これらは特に文化の面で顕著であり、多くの素人が自分の作品を公表するようになり、熱狂的な文芸活動、とくに作詩熱が日本中に巻き起こった。

創作の世界では誰もがある時は自分そのもの、またある時は別の人間になりきって感情を表現することが出来た。職業、性別、年齢、生い立ちまで自由に変え、新しい匿名性の上に自由な作品の創造が可能になったのだ。

誰が言うともなく、この盛り上がりをきちっとした形にまとめて評価しよう、ということになった。もちろん、この作品の取りまとめには専門家も参加した。漠然としたものではあったが、後世に残る歴史的な作品集になる予感があったのである。そして素人、玄人関係なく一同に会してこの新時代日本の息吹を残そうということになった。


そしてかくゆうこの私が指名され、編集にあたった。

編集の責任者として、私は優秀な作品を取捨選択し国を代表する歌集を作ることをめざした。

私への、いわゆる名人上手と自認する者からの売り込みは壮絶を究めた。どんなに公平に扱おうと頑張っても、有名人、社会的に地位の高い人から、自分の作品を何とか採用して欲しいという強請、あからさまな賄賂の申し込みがあとを絶たなかった。

しかし私はそれらの圧力に屈しなかった。私は名声に惑わされず、真に新しい日本を代表する作品だけを集めたかったのだ。そしておおむね、皆の期待に応えられたと思う。

聴いてみるがいい、この名もなき一兵士の歌の朗々たる胸を打つ響きを……。


こうした多くの人々の参加のもと、日本初の国民歌集、万葉集は編纂されたのである。


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