二話:与えられた役職と釘バット
「よし。ならば汝も加えよう。倒すものは一人でも多い方が安心じゃて」
「んで、何すればいいの?」
私達の……っていうよりアイリスさんのかな。彼女の決意を聞いた幼女はあっさりと自らの計画を変更する。
両者ともにあまりにもあっさりとこれからのことを決めてるんだけど大丈夫なんだろうか。……まあ、アイリスさんに関しては今更文句を言ってもしょうがあるまい。散々こちらが言ったというのにそれを笑うようなやつなんだから。理由は何か消却法的なものを感じたけどね。新天地で一人放り出されるよりかはかなり心強いのは確かだし。
けれど、あれだ。何をしたらいいのか、これからどんなところに行くのか。全然知らされていない。尋ねたのは切り替えも順応も早いアイリスさんの方だった。
「そうじゃな。『敵対せし黒』と呼ばれる存在を倒せばいい。名前の通り汝に敵対したりするからわかるだろうよ。最終的には魔王的な存在を討伐してくれればよい」
さて、それに対しカミサマ(自称)のなんかざっくりした説明である。魔王、ではなく魔王的存在、というところにも何か隠してることがありそうだ。
その不安が顔に出ていたのだろうか。幼女が笑う。
「安心せい。その為にチカラを授けようぞ」
「うわ、なにこれ」
言い終わるやいなや、アイリスさんを光が包み込む。神々しい光は彼女の体の中に収束して、消えていった。
「ではまだ我は鈴と話があるでな。先に行ってまっておいてくれ」
「え?」
幼女は勝手にそういうとアイリスさんに軽く触れる。
そうすれば彼女は空間から消えてしまった。
あたりを見回す。やっぱり白い空間に浮かぶ幼女しかいない。
「驚かなくてもよい。言葉通り先に行ってもろうただけじゃからの」
もうなんか色々麻痺してたし、あっというまだったから驚くどころの話じゃなかったんだけど頷いておく。
「さて。汝を残したのは頼みたいことが他には聞かせられぬ話だからじゃ」
そこで一旦溜めた幼女は意を決した顔でこう言った。
「大河鈴。汝を『管理人』兼『観測者』へ任命する」
「『管理人』に『観測者』……」
私がそれを聞いて思ったのは「あ、そこは平仮名発音じゃないんだ」って事だった。
だけど何かを勘違いした様子の幼女は一人頷く。
「『管理人』や『観測者』ついて気になるじゃろう。じゃが話は長うなる。先にやれる事だけやっておくぞ」
またもや言うや否やのタイミングだ。今度は私の体が光る。
体の奥底からチカラがわきあがってくる感じ。今ならなんでもできるって気分。髪が逆立ち金色になりそうな勢いだ。
「いろいろ与えておいたでの。これで汝は強い! なんでもできる! すーぱーうーまんじゃ!」
「……とりあえずチートってことかな」
「更に武器じゃ」
こう、なんか平仮名発音かどうかの違いはどこにあるのか。私の呆れ顔をスルーして幼女の右手が光る。それは私達の中に収束したのとは違って広がり、質量を持ち始め、そこにあらわれたのは……。
「釘バット?」
木製の棒。持ち手はくびれ、小さな手にもよくなじんでいるようだ。しかし、そこにヤマアラシのように生える銀色。どう考えても凶器にしかなりえないアイテムだ。
「『エデンバルグ』じゃ。ある世界では聖剣と呼ばれるものでな。まあ、これは複製なのじゃがチカラは遜色ない」
「いや、聖剣っていうかどうみても釘バッ」
「エデンバルグ、じゃ」
「釘」
「聖剣、エデンバルグ」
「…………」
「…………」
睨みあう。どうしても言わせてもらえないようだ。
嘆息。しょうがない。幼女はあくまでも聖剣エデンバルグだと言い張るらしいし。
「聖剣エデンバルグと書いてルビが釘バットなんですねわかりました」
「逆じゃと思うが」
「釘バットって認めたな」
「あ」
やーいひっかかったひっかかった。
何の勝負でもなかったけどちょっとした優越感。なにやってるんだろう。
棒読みで嘲笑ってやればぶー、とむくれた様子の幼女がそのエデンバルグとやらを押し付けてきた。
こういうところは子供なんだなーと思っていた途端、胸の奥に沈み込むように消える。
ペタペタしても何も異常はないようだ。……でもなんかキモい。
胸から武器とか出す奴を漫画等で見るけど、あれ、こういう感じなのかな。かっこいいと思ってたけど、体の内部に異物いれてるんだもんな。もしくは体が異次元的なのにつながってるんだもんな。そりゃ違和感あるよな。
「必要ならば呼び出すがよい」
「へーい」
やる気なく頷いたところで、幼女は再び真剣な顔をした。
「さて、本題じゃ。アドミとオブザーバーについて説明してやろう……」
ぶーたれた先程とは違うその顔に私は唾をのみこむ。
「まず、『敵対せし黒』じゃの。世界の歪みからできておる故に『バグ』と呼ばれる」
なんでも世界の中で発生した悪意、矛盾、強い思い。それらが具現した力であるそうだ。
「はっきり見える幽霊みたい」
「いや、見える超能力かの。割と使おうと思えば使用範囲は広い。使えるものが『管理人』しかおらぬがな」
なるほど。
「『観測者』それから『管理人』……は文字通りじゃの。『観測者』は本来『管理人』の補佐的存在なのじゃが一人で兼任する例も多々ありよる」
「何を管理するの?」
「『観測者』の任命、それからバグを操る事かの」
「え」
世界の歪みを操る?
「強い思いを一か所に集め、それを何かしらの形で消させるのじゃ」
「『管理人』の力では消せないの?」
「バグ自体が強いチカラを持っているからの、余計大きな歪になる事がある。ちょっと払う事は出来るが、場所を移動させる程度の事しか出来ん。だから『管理人』が適切な場所と方向性へと派遣するのじゃ」
「神様の仕事じゃないの、それ」
「一つの世界だけを別に管理しておるわけじゃないからの、そういうのがおらんと手が回らんのじゃ。我が本社社長、汝が支社の社長といったところか」
例えで規模が一気に小さくなった。
「『観測者』はそんな『管理人』の仕事を見届け我に伝え、時には口を出す……というところじゃ」
聞けば聞くほど面倒くさいものを押し付けられていっているような気がする。ううん、気のせいじゃない。確実にだ。
「でも汝には断ることはできぬ。何故なら」
そこで幼女は一度区切った。赤い瞳が真剣な調子できらめく。
「『バグ』には汝に操れないという一つの例外はあるが……転生者……異世界からの移住者の存在も含まれるからじゃ」
転生者、アイリスさんの事だ。その世界に『存在しなかったはずの存在』、それが歪にならないわけがない。
「じゃ、じゃあ、その世界の人に任せる事はできないの?」
「今回のやつは……いや、なんでもない」
気になる事を言っていたが、幼女は首をふってその先を飲み込んだ。付け加えられたのは言い訳のようなもので、なんでもそろそろ新しいチカラをいれなければ、いたちごっこのようにこのままずっとバグを見つけては倒し見つけては倒しが何千年も続いてしまうそうだ。そして追いつかなくなって壊れる。ここで一気に片づけられるチカラを持っているのが異世界の人間で、しかも私なんだそうな。
「バグをうまく使え。世界からなくせ。一番その力を持っているのがその移住者じゃ。あれもいうたじゃろう。バグのようなものだから毒をもって毒を制す、というところか……」
呵々、と幼女は笑った。
「まあ、一気に片づける為には悪意を引き付ける必要もあるじゃろう。魔王的存在を倒せ、と我は采明に言うた。何故そう曖昧じゃったかと言えば、それを汝が作らなくてはならんからじゃ」
「は……?」
「そうじゃの、げーむで言えば魔王ともんすたぁと作れという事じゃ」
何か隠してると思ったらそういうことか。
バグをつくり、小さな歪みを抜き出して固め、世界のバランスをとりながら、それを勇者にぶつけ、レベルアップさせていく、制作者の役目。それをしろと言うのだ。
そんな大役を、私みたいな人間にやれと。この身に重すぎる荷物だ。
「そんなの、どうやって」
「そこは自分で考えい。そのためのチカラは与えた……よいか。汝がそれらの役職にあるのは内緒じゃ。誰にも言ってはならぬ。そしてバグを発生させないという道は選べない。そうしても自然にバグは発生するからじゃ。
それを管理し、世界を運営していかなければ……言うたじゃろ。世界は歪みをためたまま、壊れてしまうぞ」
最後に忠告でもするかのように幼女は言った。
自然に壊れるのを見届けるか、人為的に今の世代で脅威にさらして一気にこれから先のバグを消すかだ。私にどうしろって言うんだよ。
なんでそんな選択を私にさせるんだよ。
「……断ったら?」
「さて、困ったのう。これじゃ一択で選択肢にもならん」
つまり自然に壊れるのを待つだけになると。私は幼女に文句を言う事もできなくて、重い溜息とともに、アイリスさんの元へと送られる。