通貨循環の視点から考える2014年9月現在に起こっているスタグフレーションについて
2014年9月現在。
アベノミクスと呼ばれる自民党、安倍政権による経済政策が始まってから二年近くが経過しました。
様々な不安点が指摘されながらも、とにもかくにも、この経済政策は、ある一定の成果を出したと言われています。確かに、それまでは難しいと言われていた円高の是正にも成功しましたし、株価だって上がっています。この点は評価せざるを得ないでしょう。
ただし、その一方で実体経済の方がどうなっているかと言うと、決して楽観視できるような状況ではありません。円高を是正さえすれば回復するように言われれていた輸出はそれほど回復していませんし、国民の生活はむしろ苦しくなっているとすら言われています。そして、それが現実だと突きつけるように、経済に関する数字は日本社会に『スタグフレーション』が既に起こっている事を指し示してもいるのです。
『スタグフレーション』というのは、経済成長が伴わない物価上昇の事で、早い話が、景気が良くなっていない(或いは悪くなっている)のに、物価が高くなってしまうのです。通常、商品が売れなければ、企業はその商品を売る為に物価を下げるはずですが、何故か逆に物価が上昇してしまうのですね。
これが起こってしまった主な原因は、当然の事ながら、安倍政権が執っている政策及びに(アベノミクスだけではありません)歴代政権の政策に求められるのですが、それを説明する前に、簡単にですが、どのように物価が決定されているのかその基本的な仕組みの説明をしたいと思います。
まず、物価を決める要因には『需要』と『供給』があります。
『需要』が増えれば増える程、つまり、商品を欲しがる人が増えれば増える程、物価は高くなります。逆に、『需要』が減れば減る程、つまり、商品を欲しがる人が減れば減る程、物価は低くなります。
この『需要』に関連して『供給』も考慮しなくてはなりません。
『供給』が増えれば増える程、つまり商品の数が増えれば増える程、物価は低くなります。逆に、『供給』が減れば減る程、つまり商品の数が減れば減る程、物価は高くなります。
この二つ、『需要』と『供給』のバランスで、物価は決定されます。
ただし、これだけではまだ不充分です。ここに商品を生産する為の『コスト』の概念を加えなければ、物価は説明し切れません。需要と供給が同じでも、生産コストが高いのであればその商品の価格は高くなります。利益を得る為には、生産コストに付加価値分、金額を上乗せする必要があるのですから、当然ですね。
また、通貨の供給量を増やすなどして、通貨価値を下落させた場合にも、物価上昇は起こってしまいます。
では、これらを踏まえた上で、『スタグフレーション』が起こる要因を、現実の経済の現状に照らして考えてみましょう。
さて。
『スタグフレーション』が起こる要因を説明する前に、もう一度おさらいしますが『スタグフレーション』とは経済成長を伴わずに物価上昇が起こる事です。そして、経済成長とは、簡単に言ってしまえば、“通貨の循環”量が増える事です。
例えば、あなたがパソコンを需要して、企業がそれを生産供給し、あなたがお金を出してそれを買えば、パソコンについて“通貨の循環”が発生する事になります。つまり、それだけ経済成長するのですね。
経済成長は需要が増えるのが前提ですから、物価上昇が起こる可能性が高くなるのです(需要が増える以上の速度で、供給量が増えればそうはなりませんが、通常は考え難いです)。
では、需要が増えず、物価が上昇してしまう要因(つまり、『スタグフレーション』が起こる要因)には何があるでしょう?
直ぐに思い付くのが、『供給能力の低下』です。供給が減れば物価は高くなるのだから、経済成長していなくても、物価は高くなってしまうのです。
『供給能力の低下』の要因として考えられるのは、まず、労働力不足。
限定的ではありますが、これは既に起こり始めています。特に公共事業での労働力不足は深刻で、海外から労働者を更に受け入れようとしています(当然、海外に逃げる通貨が多くなるので、経済政策としては問題があります。ただし、実質的な移民政策となるのなら、人口増によるGDP増加が見込めます)。少子化の影響を、既に日本の労働市場が受け始めているのは認めなくてはならないでしょう。もっとも、日本には完全失業者、潜在失業者、生活保護受給者、高齢者、専業主婦など、まだまだ労働力が充分に余っています。今の労働力不足は、飽くまで即戦力となる労働力の不足です。これには長い不況で、企業が人材育成を怠って来た事もその背景にはあるのでしょう。
ただし、この“労働力不足”については、留意点があります。労働力不足になれば、その分、労働賃金が上がるはずですが、今(2014年9月現在)の日本では、何故かこれが充分に起こっていません。この点については、後で詳しく説明しますが、恐らくは“通貨の循環”が関係しています。
次に『供給能力の低下』の要因として考えられるのは資源不足です。
資源が不足し、その所為で供給が制約を受けているのです。一部の資源、セメントなどでこれは起こっています。
『スタグフレーション』の要因として、次に考えるべきなのが、『通貨価値の下落』。これが起こっているのは明らかですね。つまりは円安です。
この要因は大きく分けて二つだと思いますが、これについては後に説明を回します。
円安については、『供給能力の低下』とも関係していますが、厳密に言えば、分けて捉えた方が良いと考え、別項目としました。
『スタグフレーション』の要因として、次に考えるべきなのが、『コストの上昇』です。と言っても、これは『供給能力の低下』、『通貨価値の下落』と密接に結びついてもいる訳で独立した項目として提示するのにはやや難があります。
ただし、税の上昇…… 特に、消費税の上昇は実質、コストの上昇だと捉えられるので、特別に項目を作りました。
また、今は原子力発電所を停止しているので、その費用(原子力発電所は、停止中も莫大な費用がかかるのです)及びに本来なら発電できていたはずの電力を、原油や天然ガスなどの輸入による火力発電で賄っていますから、これもコストを押し上げています。
一応、断っておきますが、長期で観れば、原子力発電所は高コストです。初期費用も莫大ですし、将来的には、ウラン資源コストや労働コストの上昇、核廃棄処理などにかかる費用などが大きな問題になってくるはずです。ただし、期間限定、つまり短期間ならば(なにしろ、既に原発を造ってしまっていてウラン燃料もあるので)、利用した方が経済効果は高くなります。
ですが、原子力発電所にあるのは、経済的な問題点ばかりではありませんし、一度、稼働を認めるとなし崩し的に利用され続けてしまう危険もあります。
『スタグフレーション』の要因を説明し終えたので、今度は、これら要因と主に安倍政権による経済政策がどう関係しているのかといった点を考えていこうと思います。
安倍政権がどのような経済政策を執っているのかといった点を先に説明し、その後でその経済政策がどう『スタグフレーション』の要因と結びついているかを述べていきます。
まず、安倍政権は『大規模な公共事業』を行っています。経済成長とは、“通貨の循環”量が増える事だと説明しましたが、その“通貨の循環”は国が通貨を使った場合でも発生します。なので、国が借金をし、公共事業を行う事で“通貨の循環”量を増やそうというのが、その主な目的になります。当然、通貨を手にすれば、その労働者は何か商品を買おうとするでしょうから、この政策には波及効果もあります。
公共事業には、確かに経済成長を起こす効果がありますが、同時に資源を民間から奪ってしまうという副作用もあります。
公共事業の為に、労働力やセメントなどの資源を奪えば、当然、資源の供給が不足するので、コストが上がってしまうのですね。
先ほど、『スタグフレーション』の原因に『供給能力の低下』『コストの上昇』があると書きましたが、つまり公共事業は『スタグフレーション』の要因の一つになっています(労働力不足による供給制限が既に起きており、公共事業の為に使われる通貨は、海外にも流れて日本国内から失われているという点を考慮してください)。これは民間企業から、資源を奪って成長の芽を摘み取っているのと同じ事でもあります。
もっとも、その公共事業によって、インフラ設備が整い、それで経済が活性化するのであればその限りにあらずです。例えば、必要な道路を造ってそこを多くの車が利用し、新たな“通貨の循環”を生み出せば、むしろ民間の成長を促せます。
しかし、国の行っている現在の公共事業の多くは、このようなものではありません。
例えば災害対策。仮にそれが必要な災害対策であったとしても、経済効果の観点から捉えるのなら一時的な効果しかなく、前述したような重大な副作用があります。
安倍政権の経済政策の特徴として上げるべき二つ目の特性は『大胆な金融政策』でしょう。日本銀行(通貨を発行している政府の為の銀行で、物価を制御する役割もあります)が、国債などの債券を大量に買い取って、金融市場に莫大な規模の通貨を供給しています。これを行うと、金利が低下します。
この主な効果は、投資活動の活発化です。金利が下落すると、借り手にとって有利になります。お金を借りても、返すお金は少なくて済むので借金をして投資を行うという流れを発生させ易くするのです。
当然、そうなれば需要が増え、物価上昇に繋がります(これは、『スタグフレーション』ではありません)。
更に経済全体の通貨量も増えるので、通貨価値の下落を起こし物価が上昇し易くもなります。もっと突き詰めるのなら、通貨価値の下落をこのように引き起こす事は、一種の財政破綻でもあります。つまり、変な表現ではありますが、この政策は財政破綻を少しずつ起こしているようなものでもあるのです。
ここに世界中の投資家へ影響を与える要因も重なるので、円が売られ(その仕組みは複雑ですが、価値が減ると予想される通貨は売られ易くなるというのは基本ですので、その点は覚えておいた方が良いでしょう)、この政策は円安を引き起こす要因ともなるのです。
円安になると、輸入品が高くなるので(当然、資源もそこには含まれます)、物価上昇の要因となります。これは、当然、『スタグフレーション』の要因になります。
つまり、安倍政権の執っている『大胆な金融政策』にも『スタグフレーション』を引き起こす要因があるのです。
安倍政権の経済政策の特徴として上げるべき、三つ目の特性は、『民間投資の活性化』でしょう。
ただ、ところがこれについては、充分に行われているのか疑問の声が上がっています。確かに金融政策で、金利を下げる事には成功していますが、肝心の規制緩和が行われていないので投資意欲を刺激していないと言われているのです。
少し説明しましょう。
規制によって守られている業界が存在します。代表例は、電力業界や農業。新規の参入を制限している為、投資が抑制されてしまっているのですね。これには投資が抑制されてしまう以外にも様々な弊害があります。まず、競争原理が働かないので、物価が不当に高くなってしまいます(企業の数が充分に多ければ、価格競争が起きて、物価は安くなる)。
日本の電力料金は、海外に比べて高いと言われていますが、その一因がこれです(もちろん、コストがとても高い原子力発電所の所為でもありますが。因みに、原子力産業には税金からもお金が入っています)。
また、これは農業で顕著ですが、産業の衰退を引き起こしてもいます。新規参入を制限してしまったが為に若い労働力が入らず、農業従事者の平均年齢が上がり、今や70代以上の高齢者がその主要な年齢層になってしまっているのです。
新規参入がなければ、競争相手がいない分、農家は助かります。その優遇処置が、政治家の農家からの票の確保に繋がる為に固定化してしまい、結果として、そんな事態にまで至ってしまったのです。だから新規参入を促すような政策を展開する事が求められているのです。
農業に興味を持っている企業は多くいますから、制度さえ改革すれば、これは一気に進む可能性があります。
農業に関して、有効だと思える政策は他にもあります。例えばインターネットを利用した物流の効率化を行えば、農作物の値段は大きく下げられる可能性を持っています。農作物は単価が安いのが普通なので、その値段に占める物流コストの割合が大きいからですね。
もちろん、そうして物流を効率化すれば農作物の物流に関わっている業者が……主に、農協ですが、減る事になります。だから恐らくは、反対の声が上がるでしょう。
しかし、ならば、その部分もケアすれば良いだけの話です。例えば農協自体が、民間企業、農家と協力し合い農業をやるような手段もあるはずです。農作物の価格が下がったなら、その分、供給量は増やせるはずですから、ある程度はそれが成功する可能性はあります(もっとも、今、農協の解体が提案されていますから、この発想自体どうなるか分かりませんが)。
これは農業分野だけの話ですが、他の分野でもアイデアを出す事は可能でしょう。ところが、日本では規制緩和及びに新規参入を促すような政策がほとんど執られていません(一部では実施されているようですが、充分かつ効果的とはとても言えない)。最近になって、安倍首相は「規制緩和をする」と発言しましたが、これには疑いの目が向けられています。つまり、『民間投資の活性化』は、今のところ、大きくは動いていないのです。
更に言うと、安倍政権が行っている『大規模な公共事業』は、民間から資源を奪う事で、民間の投資を抑制しています。『民間投資の活性化』を目指すと主張しながら、一方ではそれを抑える政策を執っている。つまり、安倍政権の経済政策は、自己矛盾を抱えてしまっているのです。これでは需要を喚起できる可能性はとても低くなるでしょう。
以上の内容は、一般的にも言われている『スタグフレーション』に関する事を説明したものです。
ただ、なんとなくその全体像は捉え難いのではないでしょうか?
しかし僕は、通貨循環モデルを用いれば、明確に『スタグフレーション』の姿を捉えられる事を発見しました。そしてそれで一般に語られている以外の『スタグフレーション』の要因をも見つける事ができたのです。
では、まず通貨循環の視点から経済を捉える為の簡単な通貨循環モデルで、通常の経済成長の流れを説明します。
技術発達などにより、生産効率が上昇すると労働力が余ります。少ない人数でより多くの生産が可能になるのだから、需要に限界がある以上、これは当然です。この“余った労働力”は、普通に考えるのなら、失業者になってしまいます。ここで通貨の循環を考えると、失業者への通貨の供給が失われ、働いている人間に集中し、それは貯蓄になります。この現象は通貨の循環が失われるのと同じ事ですから、世の中は不景気に陥ります。
ここで貯蓄から投資を行い、それで新しい生産物が誕生すれば、失業者がその新しい生産物の生産で働けるようになり、かつ、その新しい生産物について“通貨の循環”が発生するようになるので、通貨の循環量が増えます。つまりは経済成長するのです。
不景気を脱し、好景気に転換して経済成長するのには、このような経緯があります。
上記は理想的な不景気から好景気への転換を説明したものです。当然、経済政策はこの理想的な過程を辿るよう促す為に施行されます。ですが、失敗すればこうはなりません。そして『スタグフレーション』に陥ってしまう場合だってあるのです。
では、上記モデルで、今、日本で、何が起こりつつあるのかを説明します。
まず、今の経済は、労働力が余り通貨の循環が失われ、結果通貨が貯蓄となって一部に固まっている状況です。企業や個人によって通貨が死蔵されてしまって、世の中を循環していない(これは、貯蓄が投資に向かっていないという事でもあります)。ここで注目するべきなのは、貯蓄は労働力が使われない事で発生している点です。つまり“貯蓄”と“余った労働力”は、非常に密接に関係しており、数学的には近似した現象ではないかと予想できるのです。ですから、通常は(飽くまで、“通常は”です。特殊な手段も存在します)、死蔵された通貨が使われなければ、余った労働力…… つまり、失業問題を解消する事はできないと考えられます。
物価が大きく変動しなければ、この死蔵された通貨はそのまま価値を持ち続けます。しかし、ここに誤った政策などでインパクトを与えると、物価が上昇し始め、死蔵された通貨の価値が減ってしまいます。
これはその社会全体の資産が減って行く事を意味しています。
非常に大雑把に捉えるのであれば、これが今、日本で起こっている『スタグフレーション』の姿だと言えます。
この要因は、先ほど述べたように様々に考えられます。そして、少なくとも状況が好転する材料が少ない事は確かだと思えるのです。投資は貯蓄によって行われますが、その貯蓄が減ってしまっているのですから(この状況では、当然、生活困窮者も増えます)。
ここまでの説明で“通貨の循環”という視点が非常に重要である事を分かってもらえたと思います。
通貨が死蔵されてしまうと、そこで循環が断たれ、社会を巡りません。そして、不景気に陥るのです。
だからこそ、“死蔵された通貨”が循環するように促さなくてはならない。では、その“死蔵された通貨”は何処にあるのでしょうか?
よく世間で言われている企業の『内部留保』はもちろん、その一つです。だからこそ、安倍政権の経済政策でも『民間投資の活性化』が掲げられているのです(ただ、内部留保は、全てが現金で保有されている訳ではないので注意が必要です)。
ですが、死蔵された通貨が存在する場所は企業だけではありません。そして、そのもう一つの場所こそが『スタグフレーション』を引き起こす要因の一つになっていると、僕は考えています。
それは、個人、得に高齢者の貯蓄。
2014年4月より、消費税が8%に引き上げられました。これはほぼ強制的な物価上昇ですが、コストの上昇とも見做せます。その物価上昇した分だけ、労働賃金が上昇するのであれば、それは消費意欲を下げる事には繋がりません。つまり、需要は保たれます。
しかし、現実はこれが起こっていない。労働賃金は増えていないのです。だから、『スタグフレーション』の要因になってしまっているのです。
消費税に関する通貨の循環を考えてみましょう。消費税は国に渡され、様々な用途で使われます。その中には、高齢者年金の支払いも存在するし高齢の公務員への高い給料もあります。つまり、高齢者へ渡されている。ところが高齢者の多くは、一般的に消費意欲が低いのです。だから、その渡された通貨の多くは、貯蓄に回ってしまう。
もちろん、貧困層の高齢者も多く存在しているし、当然、そういった方達は貯蓄などに回す余裕もなく年金をほとんど使っています。ですが、世の中には資産を多く持ち、海外などへの投資によって莫大な収入のある高齢者も多く存在するのです。年収が1500万円を超す高齢者が、更に何百万以上の年金まで貰っているのが、今の社会の現状です。
民間の富裕層に限らなくても、例えば、公務員退職者に支払われる共済年金では月に24万円も支払っているケースもあります。夫婦が公務員の場合、合わせるのなら、約50万円という収入。その年金の支払いを月に18万円しか収入のない若い人まで負担しているのです。しかも、年金による収入は税の支払いに関しても優遇されています。少し調べれもらえば直ぐに分かりますが、高齢者の貯蓄の規模は非常に大きく、若い世代の数倍にもなっています。こういった世代間格差を鑑みれば、それも当たり前だと頷けるでしょう。
消費税は確かに他の税に比べれば世代間格差は少なく、平等だと言われています。高齢者だって負担していますから。
ですが、それでも消費意欲が高く、子育てなどで消費する必然のある若い世代の方が、その実質的な負担は大きくなるはずです。
これは消費する必然のある若い世代から通貨を奪い、消費意欲の低い高齢者世代へ通貨を渡しているという事です。
当然、こうして渡された通貨は、高齢者世代の貯蓄となり、死蔵され、労働者へは回りません。つまり、消費税によって、強制的に物価は上昇させられましたが、その上昇した分の通貨の一部は高齢者へと渡り死蔵されてしまっているのです。通貨の循環が断たれ、労働者へ還元されていない。
だから、当然、物価は上がったのに、労働賃金上昇は起こらず、需要を保てないのです。短期間ではこれは確実に『スタグフレーション』を引き起こす要因になっています。
ただし、長期間では、需要不足によって、物価下落要因になるはずですので、『スタグフレーション』を引き起こす効果は減るかもしれません。ただし、円安などによりその効果は打ち消され、やはり『スタグフレーション』が起こり続ける可能性もありますが。
年金制度を見直し、高齢者へ回している通貨を、消費する必然性のある若い子育て世代へ回すよう工夫しなければ、この問題点は恐らくは解決できないでしょう。
最後に、ほぼ確実に経済成長を起こす方法があるので、書いておきます(既に、他で何度も書いていますが)。
労働力が余っている状況下で、その労働力を活用し、新たな生産物を生産させれば、それで経済は成長すると先に書きました。
この“新たな生産物”は何でも良く、例えば太陽電池や風力発電などでも可能です。しかし、問題はそこにどうやって“通貨の循環”を発生させるかです。貯蓄を多く持つ生活者達が、自発的に太陽電池などを充分な量、買ってくれれば良いのですが、そんな事は起こりそうにありません。
最も手っ取り早いのは、公共料金のような形で、再生可能エネルギーを造る為のお金を徴収してしまう事です。
もちろん、それで支出は増えてしまいますが、同時に収入も増えるので、大きな問題はありません(ただし、ほとんどの労働力を、日本国内で賄う前提)。今まで原油や天然ガスを買う為に海外へ流れていた通貨が、日本国内で回るようになるので、或いは収入は支出額以上に増えるかもしれません。
これと似た制度は、公務員制度や電気ガス水道といった公的料金として既に実績があります。
再生可能エネルギーを製造する企業を特定せず、競争を行わせれば、競争原理を活かす事もできるでしょう(当然、工場建設などの費用は企業側が持ちます)。
また、好景気になり、労働賃金が上がれば、国際競争力を落としてしまいますが、今まで原油や天然ガスを買う事で海外へ流れていた通貨が、日本国内で回るようになるといった点を応用すれば、その影響を緩和させる事は可能です。具体的には、海外企業と競合する中小企業の電気料金を、その浮いた通貨で安くすれば良いのです。
更にまだ注目すべき点があります。
再生可能エネルギーの多くには、維持費が非常に安価という特性があるので、物価が比較的安い今の内にできるだけ多く製造しておけば、将来的な労働力不足、エネルギー資源不足下で起こるだろう物価上昇時の備えにもなるのです(当然、利益率も高くなります。因みに、世間一般の再生可能エネルギーの試算には、この物価変動が考慮されていません)。
“通貨の循環”を増やすといった考えを応用するのなら、これに更に一工夫する事が可能です。
よく考えてもらえば分かるのですが、“通貨の循環”が増えるのだから、当然、その増えた分に関しては通貨の増刷が可能なのです。通貨需要と通貨供給を同時に増やすので、不健康な物価上昇は引き起こさないのですね(委縮していた経済が回復する、健全な物価上昇ならば起こる)。
だから、一番初めの再生可能エネルギー製造の為の公共料金に関しては、通貨の増刷で賄う事が可能です。二回目以降は、料金の支払いが発生しますが、その増刷した分の通貨が、再生可能エネルギー製造を通して循環するイメージになります。もっとも、収入が増加するまでのタイムラグを考慮して、二回目以降の料金徴収をどれだけの期間毎に行うかを決める必要はあります。
この手段、常識外れに思われるかもしれませんが、今、安倍政権の行っている『異次元の量的緩和』に比べれば、充分に理性的な手段です(安倍政権の『異次元の量的緩和』は、博打のようなものですから)。
先に述べた方法は、労働力が余っていなければ使えません。そして、少子化の影響を受けて徐々に日本の労働力は減って来ています。何かしら対策を打たない限り、もう十数年も経てば、労働力不足はより深刻になっているでしょう。
更に、労働力不足に陥れば、貯蓄は減ります。日本が現在、1200兆円以上の規模の借金をできているのは、自国でほとんどの借金を賄っているからですが、この状態ではそれができません。財政は危機的状況下に陥ってしまうのです。
つまり、時間はもうそれほど残されていません。早く有効な解決手段を講じなければ、取り返しのつかない事態に陥るでしょう。少なくとも僕は、勇気を出して、これまで試みられていない方法を執るべきだと思います。
スタグフレーションの要因は、非常に多数あるので、作中で書いたもの以外にもあります。
日銀の国債買取を、借金返済と同じだと主張している人を見かけましたが、「借金返済」というよりも、「借金踏み倒し」と表現した方が妥当です。何もしないで、通貨を刷るだけで富が生まれるはずがありません。実際、その代償として、通貨価値が下落していますしね。