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  作者: むかしのさくひん
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1-0

 遠い時代

 世界は平穏から程遠く、大地は炎に覆われ、果ての見えぬ戦争ばかりがあった

 だがある時「街」という世界が、平穏を望む者達の手によって作られ、一部の子どもたちはその世界の中に保護されていく事になる


 美しき世界、平和な世界としての街。

 だがその姿は時の流れによって緩慢に、そして確実に変質していった

 やがて街の底、茫漠とした渦「混沌」の中から三つの群れが産まれ落ちた


  「警邏」最初の群れ、支配者

  「商会」七人の王の下、富む者達

  「救民」愚者の社、使の民


 それら三つの意志は各々の利権を追求し、やがて殺し合いが始まった


 警邏は壁の外の力を用いて、畏怖と怯懦を解き放ち

 商会は煽動と欺瞞によって、理を砕き

 救民は強大な群れを率い、破壊の嵐を引き起こした


 長きに渡る戦争


 永劫に続くかと思われた狂騒

 だがそれは、商会と警邏の間で協定が結ばれ、救民の失墜という形で幕が下ろされた


 平和が始まる、警邏の長は厳かに宣言した


「そうは言うがね。元はと言えば、君が僕を呼び出したんじゃないか?」

 カラスの濡羽のような漆黒の中で、その人は私を観ていた。

「なのに君は、僕に向かってそんな事を言うのかい? まぁ否定はしないけどね」

 その人は言葉に笑みを忍ばせながら、楽しげに語り続ける。

 私はただ黙って、ただ唇を噛み締めて。私に向けて放たれるその言葉に、そして私自身の心に、怯えるだけだった。

「否定はしないよ、だって僕にはそもそも意見なんてないから。だからこそ、君なんだよ」

 震える私の元へ、その人は静かに歩み寄ってくる。

 儚げな月明かりが薄く闇を削り、かすかにその人の姿を映しだす。

 それは異形の姿だった。

 辛うじて人の様相を呈しているが、その本質は既に人のソレとは乖離していた。

 私は思わず目を背ける。

「君は以前『悪とは、罪なき人に害をなすこと』そう言ったよね?」

 彼は私の頬に手をあてる。ざらつき、節くれだった手、そこから生き物独特の、生々しい温かみが頬を伝い、私の震えは潮が引くように、掻き消えていった。

「とても良い論理だと僕は思うよ、飾り気が無く、それでいて美しい」

 筋肉の痙攣という逃げ場、それを失った私の内の恐怖は、代わりに「不安」という焦燥に変化して、私の胸を締め付け始めた。

「質問なんだがその論理に基づけば『罪のある者に、害をなさない』これもまた悪とならないかい?」

「私を……けしかけるの?」

 恐怖の無くなった私は、不安を怒りへと濾過する事で、ようやく言葉を発することができた。

「違うよ、だから僕に意見なんて無いんだ。君だよ、君が僕を、そして君自身を決断させるんだ」

 その人はそっと屈み込み、私の瞳を覗き込む。

 彼の目に私が映る、私の姿が、醜い私の――

「お願い……やめて……」

 私は顔を伏せ、蹲る。

 耐えられ無かった、自分の中が溢れ返る事が、感情が膨れ上がる事が。自分が制御できない、私が私じゃ無くなってしまう。

 動機が激しくなる、胸の奥が鉛の様に重くなり、視界が歪み崩れる。

「お願い……」

 その人は、ただ私を観てるだけだった。

「お願い……消して……消してください」


 私の内のこの憎悪を、どうか消し去ってください

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