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好きとか嫌いとか  作者: 芦原ななみ
第1章
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天沢と荒川(4)

「そんなに俺のことが嫌い?」


 突然、真剣なトーンで投げかけられた問い。

 ここまで来たら、もうどう思われようが構わない。本人を前にしてどうかと思ったが、開き直る気持ちで、私は黙ってうなずく。

 ふん、と鼻で笑って荒川は続けた。


「そんなに俺が嫌いなら勝負しようか。次のテストで勝ったほうに一つだけ命令を下せる。真剣勝負だよ」


 は? と、今度こそ本当に固まった。彼の言葉を咀嚼するのに時間がかかる。

 勝ったほうが命令を下す、ということは、負けたほうは言うことを聞かなければならないということになる。


「そんなの、乗るわけないでしょ?」


 予想通りの答えだったのか、荒川はやっぱりなとばかりにせせら笑った。


「できないんだ。あの学年トップの天沢さんが?」


 馬鹿にしたような笑みを浮かべ、こちらを見下ろしてくる。その様子は自信に満ち溢れていた。

 私は平静を装って言う。


「できないんじゃなくて、やらないだけ。やる意味がないもの」

「自信がないんだろ?」


 見下したような物言いに、かちんときた。さっきから言わせておけば、調子に乗っちゃって。


「なに言ってるの? 毎回負けてるのはそっちじゃない。それに、私が勝ってもなんの利益もないし」


 そう、勝負なんてこいつの自己満足。自分が負けたところで、「なにマジになってんの?」とかなんとか言って、こっちの言うことなんて聞かないに決まっている。勝負する意味なんてない。私が勝つことも目に見えている。

 しかし、そこは荒川も引かなかった。


「お前がなくても、こっちが困るんだよ」

「どうして」


 お前って言った? 今、お前って言ったよね?

 冷静を装ってそう答えたけど、内心はひどく動揺していた。


「天沢さんが俺を避けてるって、けっこう有名でさ」

「は?」


 その言葉に衝撃を受けた。

 私がこいつを避けていることが、有名? ありえない。


「そんなはずは――」

「ないって? どうしてそう言えるんだよ。あんな鬱陶しそうな眼で、いつも俺を見るくせに」


 私の言葉を遮って、荒川は忌々しそうに吐き捨てた。


「あんたが目立つから嫌でも目に行くんじゃない」


 そうだ。誰がこいつを好きで見るものか。


「それに、私が荒川くんを避けていることが有名だとどうなるの? 不都合なことなんてないでしょ」

「あるんだよ。俺の信用に傷が付く」


 それなら、どうしたっていうのか。なんにせよ、私には関係のないことのように思えるけど。

 私が黙っていると、荒川はさらに続けた。


「嫌いだからって、それを他人に知られるほど表に出していたら、常識に欠けるってもんだろ? だからお前には勝負を受ける責任がある」


 あんたのほうが常識に欠けていることに、まず気付け。

 心の中で毒づきながらも、確かにそれも一理あるのかもしれないと思った。無意識とはいえ、明らかに避けているように見えたのなら、それは私の失敗だ。

 だけど、どうしても受け入れたくないのも事実。こいつと少しでも接点を作るなんて、冗談じゃない。


「それでも断るって言ったら?」


 最後の悪足掻き。心のどこかでは、もう逃げられないと分かっていた。

 案の定、荒川は厭らしい笑みを浮かべると、私の耳に口を近づけて言った。


「一生お前に付きまとってやる」


 私に対する最大の嫌がらせだ。こいつならやりかねない。というか絶対にやってくる。

 悔しいけれど、折れないわけにはいかなかった。


「……分かった。じゃあ私が勝ったら、もう一生関わらないで。話しかけるのも無しだから」


 本当に面倒だけど、一回こっきりの勝負だ。それも私の得意分野。勉強だけなら負けたことがない。

 不承不承うなずくと、荒川は満足げに笑った。さっきまでの厭な笑みじゃなく、憎たらしいほどに清々しい笑顔。


「勝負は次の期末試験だ。成績が上位だったほうが勝ち。休んだとかで試験を放棄した場合は、負けとする。これでいいな?」


 既に勝った気でいるような荒川の態度に嫌気が差す。どこからそんな自信が湧いてくるのか。

 こうなったら。徹底的に叩きのめしてやる。勉強では、私に絶対勝てっこないことを思い知らせてやるんだ。






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