表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

灰色の世界、灰色の僕

作者: 猫小判

R15指定がかかるくらいに暗い内容です。無駄にグロい表現は避けたつもりですが、作者の主観なので何ともいえません。血が苦手な方にはあまりお勧め出来ません。  全体的にほんの少し読みやすくなるように加筆修正しました。

 灰色の街を物陰に隠れながら音もなく行く。

 今はまだ配給の時間でもなければ睡眠の時間でもない。不殺生の法律なんてものはあるが、そんなの誰も守らない。僕も守らない。

 何処までも冷たい、人殺しだけしか能がない相棒を抱いて、他人を殺して物品を奪うために今日も街を徘徊する。

 全ては生きるため。他に何かを考える余裕なんてない。そんなもの必要さえない。生きることが一番重要なのだから。

 僕は一息ついて空を見上げた。そこに広がるのは、世界の全てを燃やし尽くした後に残った灰のような色の空。

 こうして空を見上げていると、いつか殺した老人のことを思い出す。彼は僕に銃を突き付けられて死を覚悟したのか空を見上げて、

「どうして、どうしてあの美しかった空を壊してしまったのか……」

涙を流して、彼はそう嘆いていた。

 正直、この灰色の空しか知らない僕には、そんなことはどうでも良いことだった。ただ、全てが灰色の世界は僕にとって都合の良い世界だ。灰色の僕が違和感なく世界に溶け込めるのだから。何色かに染まることが無いのだから。

 そうやって無為に空を眺めていると、風に乗って何処からか複数人の話し声が僕の耳に届いた。僕は地上に視線を戻す。

 それは建物の中からの声では無くどこかの路地、方向から考えて大通りの方らしかった。


 なんて迂闊な人達なのだろう。


 配給時間と夜以外の街には、僕のような略奪者が闊歩しているというのに。

 この時間帯に会話しながら外を歩くだなんて自殺行為でしか無いと知っている筈なのに。

 そう奇妙に思いつつ、僕はいつものように息を殺して大通りへ向かって行った。


 それは僕にとって全く不可解な光景だった。百人に届く程の老若男女が皆、同じように涙を流していた。

 そこに集まっている全ての人が悲しみに暮れていた。

 それは僕には理解できない行動。生より悲しみを優先するなんて、生よりも重い悲しみなんて知らないから。無い筈だから。

 数秒考え込んで、考えても無駄だという結論に達した僕は、懐からハンドガンを取り出した。

 そう、別に理解する必要なんて無い。今から殺して奪うんだから。

 僕は一番手間に立つ老人にハンドガンの照準を合わせた。ハンドガンの一発は警告。ただ殺されるのか、足掻いて殺されるのか、逃げ惑って殺されるのかを選ばせる為の少しの猶予。弱者にだって選択肢はあるのだから。

 無造作に引き金を引いた。

 吐き出される弾丸。身じろぎもしない老父。

 その胸に弾丸は吸い込まれるようにして命中し、灰色の世界に鮮烈な赤い花を咲かせた。

 老父の体が崩れ落ち、同時に耳に痛い甲高い悲鳴。人数の割に小さな悲鳴は僕の灰色の心に届くことなく通り過ぎていく。僕は機械的にマシンガンを構え、目の前の状況に戸惑いを覚えた。

 誰も逃げるどころか動揺さえしていなかったのだ。ただ、母親にしがみついて泣き叫ぶ子ども達を除いて。

 少し、苛立ちを覚えた。別に泣き叫ぶところが見たかったわけではない。別に我先にと弱者を押しのけて逃げまどうところが見たかったわけでもない。ただ解らなかった。理解出来なかった。死の恐怖を超えるその感情を、認めたく無かった。

 気が付けば引き金を引いていた。

 体を打ち据えるような発砲音が轟いていた。

 薬夾が地面に落ちる高い澄んだ音が小さく響いていた。

 頭に残る耳をつんざく断末魔は一度も僕に届かなかった。




「………あ」


 僕は慌てて引き金から指を離す。

 いつの間にか動くものはいなくなり、全て鮮やかな赤い水たまりに沈んでいた。

 結局、誰一人として断末魔を上げぬまま、生への執着を見せぬまま、全員が物言わぬ屍となってしまった。……気持ち悪かった。

 ここにいた人の全てが生を最初から捨てていたような顔で死んでいったのだから。何かうす気味悪いものを感じ、ふと目的を達していないことを思い出す。

 僕は物品や配給券を回収するために、立ち上がり池の中に踏み入ることにした。

 死体の懐をまさぐり配給券を回収していく。ついでに使えそうな金品も回収した。ただ、誰も自分を守るための道具を持っていないのは引っかかったが、気にしないことにした。

 暫く物品の回収に没頭していると、丁度人がすっぽり収まるくらいの大きさの黒い重厚な箱が目についた。

 頭を上げて周りを見回すと、これが丁度人だかりの中心にあったのが分かった。

 恐らくこれが沢山の人が涙を流した理由なのだろう。この中に生より重い悲しみを生み出すものが入っているかと思うと興味が湧いてくる。僕は恐る恐る蓋を開いた。

 箱の中には痩せこけた白い着物のようなものを着た若い女性がやつれた、しかし安らかな顔で横たわっていた。土気色の顔から死んでいることがすぐに分かる。

 僕はその場にへなへなと崩れ落ちた。

「どう、し、て……?」

 この女性を僕は知っていた。

 いや、僕だけではなくこの辺り一帯の人間は全て知っているだろう。彼女は腹を空かせて泣いている子供を見れば自分の配給券を譲り、困っている人がいれば相談に乗り、場合によっては手助けしていた。

 更に医学の心得もあって、この街一帯の医師のような人であった。また人当たりも良く誰からも好かれる、灰色の世界でなお輝く白い聖母のような女性だった。

 彼女とはあまり親しくもなかったが、僕は良く知っていた。

 人を殺して自分の利を得ている僕が言えることではないが、正直彼女の生き方に憧れていた。

 僕も勇気があれば彼女のように生きたいと願っていた。その彼女が、死んだ。

 生きていても他人を殺すことしかできない僕が生きていて、他人を助けることができる彼女が死んでしまった。悪い僕が生きて、正しい彼女が死んだ。

 急に目の奥が燃えるように熱くなる。


「こんな、こんな世界なんて無くなってしまえ!!」


 僕は力の限り空に向かって叫んだ。心の底からせり上がって来た何かを吐き出すように、叫んだ。

 正しい彼女を殺してしまったこの世界が憎い。 正しい彼女を奪ったこの世の不条理が憎い。

 世界が灰色であることを望んでいた僕は、初めて世界に色が戻るように願った。

 目から溢れ出す何かがが、どうしようもなく熱かった。

 久しぶりに読み返したらあまりにも読みにくく、伝えたい主題も中途半端な強調で終わっていて、微妙に自己嫌悪に陥りました。というわけで読みやすく書き直してみたのですが、いかがでしょうか? 初めて読んだ方も、久しぶりに読んでみた方も感想、評価を頂けると嬉しいです。

 反響次第で続編(後日談)的なものを書くかもしれません………。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] んー。終わりが唐突過ぎますし、最後の台詞も身勝手な感じ。それを狙ったかは知りませんが。 後、主役の周囲の環境がわかりません。銃って維持し辛いと思います……が、流石に投げナイフじゃ百人倒せま…
[一言] 灰色の世界感。こういう暗いの、いいですねえ。亡くなった女性とのことをもっと描くと、わかりやすいかもしれませんね。最後、主人公が突然いい人になってしまったような感じがしました。勝手なことを言っ…
[一言] これは小説ではなく独白。 こういった手法で描きたいのであれば、もっと濃厚な文章でこれでもか、ってぐらい描写する必要があると思います。 村上龍の「空港にて」あたりが参考になるでしょう。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ