抽出
二〇三五年一月十日。
東京都○○区にて、轢逃げ事件の発生が目撃される。
犯人の車は、白いカローラ、との事。
しかし、目撃はされ、現場に血痕も残るものの、当の被害者は目撃者が通報をしに目を離した間に、何者かに持ち去られたと見られ、行方不明である。
また、現場に残っていた被害者の物と思われる鞄からは、以下のような数枚の名刺が発見されている。
「××研究所所長、滝沢秀一」
この人物も事件当日から行方が分からなくなっている事から、警視庁は、被害者は滝沢秀一ではないかと読んでいる。
また、被害者の消滅は、証拠の隠滅を図った犯人の仕業ではないかという疑惑が深く、警視庁は被害者と犯人の捜索を同時に進めると発表している。
二〇三五年七月八日。
日本国政府は非戦争主義を放棄。
同時に全世界に宣戦布告。
日本国政府、国家総動員令発令。
―――新日本軍諜報部報告書より
「……そういえば、例の計画はどうなのだ、日向?」
並べられた机の間を縫うように歩きながら、上級士官服を着た責任者風の男が、端に座っている白衣を着た痩せぎすの男に視線を向けた。
七月九日。
軍上層部の最初の会議は終盤に入っている。
白衣の男が立ち上がる。
骸骨の様な容姿とマントの様に寸法の合わぬ白衣との組み合わせは、マントの色が純白である以外は、まるで死神のようである。
やせ細った顔に付け足したような口元には下劣な微笑みを浮かべている。
年齢も分からぬ。
逞しい肉体と真四角な表情無き顔を持ち合わせた上級士官服を着た責任者とは対照的である。
「はい、例の計画は順調に進行中であります、猪狩少将殿」
喉をガラガラ云わせ、日向と呼ばれた男は必要以上に丁寧に答えた。
猪狩は能面の様に表情の無い顔の眉を僅かに上げた。
「ほう、それでは実行に移せそうなのか?」
「いえ、まだ生体サンプルの確保が出来ていません」
日向が下劣な微笑みを深め、答えた。
上級士官が近くに在った机に己の巨大な拳を叩きつけた。
その机に座っていた男は、だが身じろぎもしなかった。
「この計画で一番重要な物が足りていないではないか! 生体サンプルなど、国民の中から無造作に選べばよい! 違うか!」
日向は突然の罵声にも身じろぎもしない。
「いいえ、決して間違いではございません。ただちに生体サンプルの確保に取り掛かります」
「……いいだろう。解散だ」
それぞれの出席者が机から立ち上がり、不気味なほどに静かに、会議室から去った。
日向は手元にある、故意か過失か未発表のままの報告書に目を落とした。
『生体実験の結果から考察するに、生体サンプルは死体でなくては、拒絶反応が起き、計画は失敗する。また、サンプルは成長能力に長け、脳の柔軟な事より、幼ければ幼いほど好ましいと考えられます……』
日向はあちこち歯の隙間のある口をこじ開けるようにして広げた。
これが、常に笑っているように見える日向の、本当の哂い方であった。
「お父さん、早く行こ!」
同じ日、今年小学2年生になった裕樹が、信号が青に変わったのを見、父親である辰沢秀和の腕を強く引いた。
「そんなに急がなくても大丈夫だろう?」
秀和は微笑んだ。
今日は裕樹の誕生日である。
秀和は、丁度日曜日であったこの日、裕樹をおもちゃ屋に連れて行ってやると約束していたのだ。秀和は今日ばかりは裕樹をなるべく叱らないようにと決めていたので、引かれた腕が多少痛くても何も云わないでいた。
二人は横断歩道を歩き出す。
このおもちゃ屋の前の横断歩道は長い。
跳ねるように歩く裕樹に手をつながれながら、秀和は握手をするように激しく揺れる腕についていく形で歩いて居た。
半分ほどを過ぎたときだった。
二人は、左側から淡い光を浴びた。
ヘッドライトか?
ここは車の通りも少ない。
真昼にヘッドライトを点けるとは。
消し忘れか、と思い秀和はちらりと光の来る方向を見やった。
「な、なんだ?」
そのライトを付けた車、白いカローラが真っ直ぐに秀和たちに突っ込んできて居るのが、横を歩く裕樹の頭越しにちらりと見えた。
猛スピードである。
「裕樹、避けろ!」
秀和が叫び、裕樹の腕を強く引っ張った。
……が、遅かった。
引っ張った腕がずっしりと重い。
裕樹は、完全にカローラの下敷きになっていた。
「ゆ、裕樹!」
そのまま、そのカローラは潰された裕樹をタイヤの回転で剥ぎ取り、猛スピードで走り去って行った。
潰され、即死であった裕樹をただ呆然と見つめる秀和の視界の端には、やっと点滅し始めた青信号が映っていた。
秀和はくず折れた―――
「ああ……これは酷い」
秀和の背後からしゃがれたガラガラ声が聞こえて来た。楽しんでいるように聞こえる。秀和は完全に無視していた。人の話など聞いていられる心境ではない。
息子が……息子が死んだ。
殺された。
まだ、悲しみはわいてこない。
ショックで何も考える気になれないのだろうか、いやそれとも……。
秀和は俯いた顔を上げなかった。
「ああ、そういえば……うちの研究所では、蘇生の研究もやって居ると聞いたな……」
秀和は反応した。
一瞬だけ、肩を揺らしたのだ。
「そこに連れて行けば、もしや助かるかも分からないな……。あれは研究中の技術だと聞いたのだが、最後のチャンスに賭けてみるに越した事ではないかもしれないなぁ」
秀和が顔を上げた。
その真後ろに居た人物、日向はほくそえんだ。
「どうでしょう? 我々の研究所に、裕樹君を預けてみる気がありますか? どの道、この子は即死です。それなら、我々に預けてみても損ではあるまい」
秀和が日向を見た。
涙はまだ出ていない。
「あんたみたいな怪しい奴に、裕樹を預けるつもりはない! 裕樹は僕の子だ! あんたらのモルモットじゃない! そんな在り得ない話で僕を騙そうとしたって、無駄だぞ!」
日向は内心舌打ちをした。
案外手こずりそうである。
何か、こいつを信用させる物を見せなければ……サンプルは新鮮な方がいい。
そういえば。
「私は、怪しい者では、決してありませんよ。この通り、政府の証明書も持ってきてあります。私は正式な科学者です」
日向は、ポケットの中から使い古したクシャクシャの紙切れを出して見せた。
勿論、偽装である。
本物を見せてもいいのだが、それには計画の内容が詳細に書かれているので、見せたら断られてしまう。
息子が死んでショック状態に陥っている今なら、この程度の偽装書類でも充分な効果を発揮するだろう。
秀和はちらりとその書類を見て、直ぐに視線を落とした。
「政府の者だろうが、正式だろうが関係ない。この子は僕の子だ……」
いいぞ、揺れている……あと一息だ。
日向は内心で哂った。
「でも、このままでは死んでしまいますよ? いや、もう死んでいます。早くしないと、細胞の破壊が進んで、蘇生など出来なくなります」
日向は、事故から既に十分近く経っていることに気付き、苛々しながらも外にしないようにして唆した。
「で、でも……」
何てことだ、『サンプル』の細胞の破壊と腐食が進んでいる……。
日向は、思わず舌打ちしてしまった。
秀和は、驚いたように、日向の顔を見回した。
そして、明らかに不審の表情を作った。
「やっぱり、あんたらは信用できない」
「これは、政府からの命令です」
秀和はきっぱりと首を振った。
「関係ない。裕樹は僕の子だ。僕が供養する」
「供養する必要など無いのです! 我々の手にかかれば、貴方の息子さんも生き返るかもしれんのですよ!」
秀和は、もう信じないと決めたようだった。
「生き返るわけがない! どうせ口実つけて僕の子を何かの実験のサンプルにしようとおもっているんだろう! そんなことはさせない! それに、もしあんたらの言う事が本当だったとしても、何のためにそこまで赤の他人である僕を助けようとするんだ!」
これが限界である。
日向は指を鳴らした。
周りのビルから、日向の部下達がわらわらと出てきた。
全員が銃を構えている。
今この日本では銃刀法が解除されているのだ。
秀和が苦悶の表情を浮かべた。
「あんたら、最初から裕樹を……」
云い掛けた秀和の口は、即座に黙らされた。
日向が取り出した銃の柄で頭部を一撃されたのだった。
秀和は倒れる。
部下達がせっせと裕樹の死体を運んでいく。
「よし……」
日向は哂った。
「ん……?」
秀和は目を覚ました。
ここは……どこだ?
「お目覚めになられましたか?」
声がした。
振り向くまでもなく、日向のものである。
目が慣れてくる。
真っ白な壁。
秀和が寝ていた、同じ色のベッド。
天井には裸電球。
「ここは、我々の研究所です」
きょろきょろしている秀和に応える様にして日向は云った。
秀和が振り返り、日向を睨み付ける。
「裕樹を返せ」
「計画は順調に進行中ですよ」
日向は、哂い、すまして云った。
「裕樹は何処だ」
「もう計画は中止できない」
「裕樹を返せっ!」
秀和は日向に殴りかかろうとした。
が、殴れなかった。
手錠で、秀和の手首とベッドの脚が繋がれていた。
「ちなみに、この部屋は常に監視カメラに監視されています。逃げ出す素振りでもあれば、私の部下が駆けつけ、貴方は直ぐにここに……」
「裕樹をどうするつもりなんだっ!」
秀和は叫んだ。
「サンプルです」
日向は哂いを更に深める。
口が裂けているかのように広げられた。
秀和は愕然とした。
そして、悔しそうに叫んだ。
「や、やっぱりそうだったのか! くそっ!」
「はて……不思議ですな。先ほど御自分で言い当てられたではないですか?」
「ゆ、裕樹を……お願いだ、返してくれ……」
秀和は土下座している。
「言ったでしょう。もう計画は中止できない。記憶力がお悪いのでしょうか?」
「ゆ、裕樹いぃ……」
秀和は背を丸め、顔をシーツに押し付けた。
今だ。
日向は先ほどまで秀和の頭の置かれていた枕を秀和の後頭部に押し付け、全体重を掛けた。
手錠で腕が塞がれている状態では、抵抗できまい。
抵抗は殆ど無かった。
五分を過ぎた頃、抵抗が止んだ。
死んだのだ。
大人であろうと、サンプルは多い方がいい。
裕樹の殺人は政府が揉み消して事故に出来るだろうが、秀和の殺しは目撃されたら困る。だから研究所で殺し、サンプルにしてしまえば問題はない。
日向は哂った。
「調子はどうだ?」
猪狩少将が視察に来ていた。
日向の研究室である。
「順調であります。只今脳からのデータの抽出を行なっております。これを以前の計画で作った試作機にプログラムし、命令を聞くようにプログラムすればよい。もとは人間ですから、これから学習させれば素晴らしい『兵器』になるでしょう。」
日向が裕樹の死体から顔を上げ、応えた。
「そうか……拒絶反応は?」
「有りません。死体ですから」
「……殺したのか」
猪狩が珍しくぼそりと言った。
「ええ、事故に見せかけるようにと、政府にも圧力は掛けてあります」
「殺したのか、と聞いている!」
猪狩が怒鳴った。
直ぐこれである。
不良品である。
日向は溜め息をついた。
「勿論です。生きたサンプルは拒絶反応を起こす。それがどうか?」
「そうか……殺したのか……」
猪狩は悲しそうにした。
擬似人格を持った人型兵器の癖に何を言うか。
『これ』は、任務に対しては忠実だが、民間人の殺人は絶対にやらないように『プログラム』してあった。
とりあえずは、人型兵器に擬似人格をインストールするシステムに関しての計画は成功といえる。
だが、これでは充分ではない。
擬似人格にもパターンはある。
だが、人間には、無い。
だからこそ、生体サンプルは必要だ。
「猪狩、聞いているか」
日向は突如態度を変えた。
「日向! 身の程をわきまえろ!」
猪狩は、再度怒鳴った。
「猪狩、調子に乗るのもいい加減にしろ」
「日向! 身の程をわきまえろ!」
とまあこういうことである。
日向が猪狩を呼び捨てすると、こう云うようにプログラムしてある。
「猪狩、何故人型兵器に人間の人格が必要だかわかるか」
「日向! 身の程をわきまえろ!」
「プログラムにはいつかは自然にバグが発生するし、俺が手間を掛けないと進化しない。それに、バグの無い完全な人格プログラムなど、作るのは不可能だ」
日向は哂った。
「俺の手元には、試作機が何機もある! もう、脳内のデータをシステムにコピーするプロセスは分かっている! そして、人格はほぼ無限にある! そして兵器として使う分には、お前みたいにいちいち丁寧な『皮』を作る必要は無い! わかるか、この木偶の坊! だから俺は、全世界に宣戦布告したのだ! どう転んでも勝てるからな!」
日向の開発した人型兵器は、その凡用性と戦闘能力に於いてずば抜けて高い『性能』を持つ。だが、人格が無い状態では、融通も利かず、プログラムした通りに動きはしても、予測外の事態には対応できず、擬似人格を作るにしてもまずプログラミングに数年掛かり、話にならない。
そう、猪狩は最初に作った擬似人格と『皮』をつけた人型兵器である。
政府の人間は、日向を除き、宣戦布告をした時点で全滅していた。
猪狩に殺させたのだ。
それで、忘れさせた。
人格があるとはいえ、プログラムである。
書き換えのプロセスは簡単である。
あとは日向が政府の人間として、戦線布告と国家総動員令を発令するだけである。
揉み消しも簡単であった。
逆らった所には人型兵器を放り込めばよい……。
今軍に居る人間も、殆どは日向が作ったものである。
もともと軍など存在しなかったが、政府の人間を消せば、好き勝手出来る。
現在、猪狩の擬似人格をコピーした量産型を全世界に送っている。
各地で破壊行動をしている筈だ……。
後から、搾り取った有り余る税金で量産型を作り、それに裕樹の人格を吹き込んで学習させ(プログラムなので、忘れない。学習は一瞬で終わるのだ)、一挙に出撃させるのだ。
そう、税金は、政府の人間が一人しか居ない今、全て日向の手の中に入ってくるのだ。
日向は、それまでに無い高い声を上げて哂った。
無論、いつの間にか猪狩が居なくなっている事にも気付いていない。
日向は、死体に向かい、作業を続けた。
日向の背後のドアが開く音がする。
猪狩だろう。
実はこの研究所には、猪狩と日向しかいない。
人型兵器はもう出撃させ、軍用の機体はここには居ない。
数少ない人間は、真相を知った途端におののきだした。
だから、猪狩に処分させた。
「何だ、猪狩?」
「……誰が猪狩だ?」
「なに!」
日向は急いで振り向いた。
秀和であった。
両手をポケットに突っ込んでいる。
余裕である。
「お、お前は殺した筈だぞ!」
日向がおののく。
「機械が死ぬかね?」
秀和は涼しい顔で自分の右手を、ズボンのポケットから出した。
機械であった。
右手の皮膚が剥がれ、金属製の骨格が剥き出しになっている。
そして、顔の皮膚を剥ぎ取った。
そこには……。
「ひ、秀和! お前は『あの』秀一だったのか!」
日向は明らかに動揺している。
「秀一は、『ヒデカズ』と読む。僕と面と向かって話をしたことの無いお前は、『シュウイチ』と読むと勘違いしていたんだろう。僕としては、読みが同じになるから紛らわしくなかった。……裕樹の父親、滝沢秀一は死んでいる、交通事故でな。白いカローラだ」
秀和、いや、その分身が、涼しい顔で云った。
「そうだ、俺が殺した! 当然だ、あいつは、俺の技術に近いことをしようとしていた。邪魔だったんだよ!」
日向はヒステリックに哂う。
秀和は無視した。
「確かに、秀一の居た研究所でも似た様な技術が開発されていた、日向。だが、人格の吹き込みは不可能だった」
「と、当然だ! この技術は俺にしか使えん!」
日向が甲高い声で誇らしげに云った。
秀和はまたしても無視した。
「だが、秀和、いや、僕の居た研究所は、こことは違い、人格がプログラムされる素体は兵器として考えられていなかった。純粋な人間の代わりだった。そして……僕、いや、秀和は、死ぬ直前に、研究員達に頼んだのだ。自分をサンプルに使ってくれと。そして死ぬ一瞬前に、人格の移植に成功した。そこから僕は辰沢秀和として生きている」
「馬鹿な! 拒絶反応が起こるはずだ!」
今度は秀和が嘲笑う番であった。
「馬鹿はお前だ。本人の承諾の基だ。拒絶反応など起こるわけがあるまい。僕が、あの研究所で唯一生まれた人造の人間だ。そして、裕樹の親として僕は生きてきたというわけだ。もともとあった記憶を基にな」
日向は、ショックで口をぱくぱくさせていた。
「そして、偶々お前の車が裕樹を轢いた。僕は今まで生身の人間を演じていたというわけだ。勿論、涙は出なかった。だが、元々の僕の裕樹への愛情もあるし、悲しみも深かった。だが、僕を殺したお前への復讐の為には、耐えるのもそんな苦痛では無かったよ!」
日向は、じりじりと迫り来る秀和に、壁まで追い詰められた。
「ふ……ふははははは!」
日向が何かを思い出したかのように笑い出した。
「何が可笑しい?」
「お前は所詮兵器ではない! それに対して俺が開発したのは……猪狩! 来い!」
日向は指を鳴らした。
猪狩が部屋に入ってきた。
「猪狩、そこに居る奴を殺せ!」
だが、猪狩は反応しなかった。
「日向、お前は無実である民間人を殺す事に対して反対するようにプログラムしたのだろう? 遊びだかなんだかは知らないがな!」
「ああ、したさ!」
「じゃあ、お前はその『罪の無い民間人を殺した』男だ、敵だ! そして、敵の敵は味方、だという単純な思考もお前はプログラムしただろう! 猪狩は僕が脱出するのを手伝ってくれたよ!」
「な、何という事だ……」
日向がガクっと肩を落とした。
猪狩が目にも止まらぬ速さで日向に殴りかかった。
襟首を捕まえ、持ち上げる。
「や、止めてくれ……猪狩……」
日向が必死に頼み込む。
「馬鹿め、猪狩は『任務に忠実』だ、忘れたのか!」
秀和が嘲笑した。
日向の顔面を猪狩が目にも止まらぬ速さのパンチで殴り飛ばした。
そして、くず折れる日向を踏みにじった。
それだけで動かなくなる。
死んだのだか気絶したのだか分からない。
これでは日向が弱いのか人型兵器が強いのかわからない。
「……猪狩、ありがとう」
猪狩は硬い表情をこちらに向けただけであった。
「僕がプログラミングしなおしてやるよ。普通の人間として暮らせるようにね」
猪狩は僅かに頷いた様に見えた。
戦争は……終結だ。
全世界に行っている人型兵器を電波で制御している大量のモニターを見、秀和は全てのプラグを抜いた。
これで、人型兵器の動きは止まっただろう。
第三次世界大戦は、一切の被害を出さず、免れる事が出来た。
裕樹は……死体の方は哀れだが、ここにも、秀和の居た研究所にも素体はあるはずだし、転送も可能なはずだ。データの抽出が、死体が腐る前に行なわれていてくれたお陰だ。
ハッピーエンドか……この世の中では珍しいな。
秀和は微笑んだ。