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電脳遊客  作者: 万卜人
第十回【暗闇検校】の正体の巻
85/87

 落し穴に俺たちが呑み込まれる瞬間、吉弥は長大な刀を、真っ向に【暗闇検校】に振り下ろしていた。

 俺の角度からは、吉弥の切っ先が【暗闇検校】をばっさりと斬っていたかどうか、はっきりとは判らない。

 が、「ぎゃあ──っ!」という、魂消るような叫び声が、聞こえていた。


 もしかしたら……?


 いや、もし【暗闇検校】が吉弥によってやられたとしても、俺たちの窮地には、何の変わりもなかった。

【遊客】の持ち合わせる、超人的な運動神経と平衡感覚で、頭から落下するのは防げたが、相当に穴は深そうだ。

 蓋はすぐに戻り、俺たちは暗闇に取り残されてしまった。暗視モードにしても、何も見えない。暗視モードは、僅かでも光があれば、増幅できるが、まったくの暗闇では役に立たないのだ。

「ど、どうするの?」

 暗闇で晶の震え声が聞こえてきた。玄之介の、辛抱強い答がした。

「晶殿。だから、拙者が申したであろう? そこもとは、現実へ戻るよう忠告申し上げたはずじゃ!」

 玄之介は、諭したつもりが、逆効果だった。晶は暗闇の中、爆発した。

「何を呑気なお説教をしているのっ! 助かる手段はないの? ねえ、二郎三郎。あんた、黙ってないで、何とか言いなさいよ!」


「何とか」


 俺が答えると、吉弥が暗闇で「ぷぷぷぷ……」と忍び笑いをする。晶は、呆れ返ったのか、黙り込んだ。

 俺は吉弥に尋ねた。

「おい、お前さんの刀、天井に届くか?」

「やってみるよ!」

 吉弥が答え、すぐ天井の方向から「どん、どん!」という、刀の切っ先で突っつく音が聞こえた。吉弥は溜息を吐いた。

「届くが、蓋は固いようだ。刀で突っついたくらいじゃ、開かないね……」

「そうか」

 俺は絶望感に肩を落とした。このまま、暗闇の中、時間切れで〝ロスト〟してしまうのだろうか?

 と、微かな音が響く。何か、別の場所で蓋が開くような音だ。

 次いで、どどど……という、耳障りな轟きが近づく。


 なんだ?

 ばしゃばしゃという水の音!

 水責めだ!


「きゃっ!」

 晶が飛び退く気配。

「水よ! 水が入ってきた!」

 そんなの、判り切っている。

 そうだ! 俺は【暗闇検校】に水責めで殺されたのだ! 溺れるまで、仮想現実の接続を切断できなかったのは、結界に閉じ込められたままだからだ。同じ状況が、繰り返された!

 どうする? このままじゃ、今度も俺は──いや、晶、玄之介、吉弥と共に溺れ死んでしまう。

 俺と晶、玄之介の三人は、記憶を失くしても現実世界に戻れるが、吉弥はそのまま、この世とのお別れになる。

 ひたひたと水は足下に達し、たちまち踝を越えた。もう、脛まで上がってきている。

 迸る水には、微かに匂いがついている。水草の匂い。多分、廃寺のある辺りの、川の水を引いているのだ。

「鞍家殿!」

「二郎三郎っ!」

「伊呂波の旦那!」

 三人の悲鳴が、暗闇を切り裂く。

 俺に頼られても困る。何しろ、一度は同じ手でやられているんだからな!

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