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電脳遊客  作者: 万卜人
第十回【暗闇検校】の正体の巻
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 俺は何ともいえない複雑な気分のまま、立ち上がった。これは、俺の死を見取ったと言えるのだろうか? 目の前に横たわっている老人は、未来の俺なのか?

 気がつくと、【暗闇検校】から分裂した、他の二人の仮想人格も倒れていた。やはり、二百年は、【遊客】にとっても耐え切れない長い年月であった。

 ふと視線を上げると【暗闇検校】が、憎々しげに俺を睨みつけている。部屋のあちこちに設置されている装置に攀じ登り、まるで猿のような格好で俺たちを見下ろしていた。怒りに歪んだ皴だらけの顔は、信じられないほど醜悪であった。

 吉弥が両手で刀を構え、切っ先を【暗闇毛行】に向けていた。険しい表情で【暗闇検校】を睨み、叫ぶ。

「降りてこいっ! 卑怯者!」

 吉弥が構える切っ先を睨んだ【暗闇検校】は、ひくひくと唇を震わせる。

「よ、よせ! そいつを、儂らに向けるな……!」


 俺の頭に、閃きが走った!


 晶と玄之介に向かって、叫ぶ。

「おいっ、吉弥の刀を、全員で握るんだ!」

 俺は吉弥の刀に突進した。弁天丸の刀は、長大で、柄もまた普通のものより長く、二尺はたっぷりとある。俺たち四人が掴んでも、余裕は充分あった。

 俺ががっしりと柄を掴み、玄之介と晶も、訳が判らないまま、俺の指示に従って柄を掴む。

 俺は切っ先を【暗闇検校】に固定させたまま命令した。

「さあ、気迫を使えっ! 全員で【暗闇検校】の奴を、引き摺り下ろせ!」

 刀身が仄かに、青白く光っている。切っ先から俺たちの気迫が、迸るのが見えるようだった。

【暗闇検校】は驚愕の表情になった。ぶるぶると全身が震え出し、今にも攀じ登っている場所から飛び降りる素振りを見せる。

「よせ! やめろ……! そいつを、儂らに使うな!」


 思った通りだ。

 弁天丸がなぜ、寄場で人足たちを思うがままに操れたのか不思議だったのだが、今はっきりと判った。

 刀のせいだ。

【遊客】のみが使える気迫を、弁天丸が使えるのは妙だと思っていたが、刀が増幅させていたのだ。

 この刀は、【遊客】の気迫を無効にさせ、同時に、使用者の気迫を増幅させる。

 弁天丸は元々がNPCだから、気迫はごく弱いものしか持ち合わせていない。しかし、この刀を使えば、【遊客】並みの気迫を放射できる。

 もし、【遊客】が使えば、気迫は通常の何倍にも増すのだ。

 俺は切っ先を【暗闇検校】に向けたまま、静かに命令を下した。

「さあ、そこから降りて来い! 命令だ!」

【暗闇検校】は、いやいやをするように、何度も頭を振った。

「い、厭だ……、お前の命令など、聞くものか!」

 しかし【暗闇検校】の四肢からは、ぐったりと力が抜けた。

 ずるずると装置から滑り降りて、床に着地する。ぺたん、と腰が抜けるように蹲り、恨みがましい目付きで俺を見る。

 ぎくしゃくと、操り人形のように、俺たちに近づいてくる。

 勝利が、俺の胸を満たしていた。

「さあ、もう終わりにしよう。お前の処分は、後で考える。ここにある、総ての機械を、今すぐ壊すんだ! こんなものは、俺たちの江戸には、絶対に存在してはならない!」

 ひくひくと全身を痙攣させながら、【暗闇検校】は装置に近寄った。指先がぶるぶる震え、俺の命令に必死に抗っている。

 指先が、ひどく目立つ赤いボタンに近づいていた。多分、あれが自爆装置か、何かだ。

 と、【暗闇検校】の瞳が、狡賢い光を放った。にやっと笑うと、素早く別のボタンに駆け寄った。

「わははははは! そうはいかぬ! 死ね! 鞍家二郎三郎!」

【暗闇検校】の指先が、ボタンをぐいと押した!

 その瞬間、俺たちが立っていた床が、ぱっくりと二つに割れた!

 俺たちは一塊になって、割れた床に呑み込まれる。落下してすぐ、床は元に戻り、天井に蓋がされてしまった。

 罠に掛かったのだ!

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