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電脳遊客  作者: 万卜人
第十回【暗闇検校】の正体の巻
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 雷蔵の教えてくれた廃寺に辿り着いたのは、夜明け前だった。

 暁闇が、辺りにじっとりとした闇のとばりを下ろしている。が、もうじき夜が明ける。夜明け前が、もっとも暗い。

 俺たちは暗視モードを使って、用心深く廃寺に近づいた。俺がここに来るのは、これが二度目のはずだが、以前は謎の相手に殺され、記憶は失っている。従って、俺には未知の場所である。

 赤外線モードにして、俺は首を捻った。


 妙だ。


 辺りには全く人気がない。熱の残滓を探っても、一欠片も放射は感じない。つまり、長い間、無人であった証拠だ。

「どうします?」

 隣で、玄之介が俺に尋ねかけた。俺たちは廃寺の近くの草叢に、頭を低くして潜んでいた。


 さっと、朝日が、辺りを金色の光に染め上げる。

 俺は暗視モードを解除し、立ち上がった。

「行こうぜ。確かめてみなければ……」

 俺の胸に、言いようのない不安が湧き上がる。

 厭な予感が広がった。


 ゆっくりとした歩調で近づき、俺は廃寺の境内に足を踏み込んだ。

 足下は、ぼうぼうに生い茂った雑草に覆われ、手入れの一切されていない庭には、じめじめとした湿気が満ちている。

 庫裏に上がると、足下はじゃりじゃりと埃と、砂が音を立てた。身を屈め、観察すると、何人も人が歩いた跡が残っている。

 手探りすると、床に微かな溝を感じる。ふっと息を吹きかけると、四角く上げ蓋らしき形が浮き上がる。

 指先を掛け、持ち上げようとするが、固くてとても動かない。

「あちしに任せな!」

 吉弥が呟くと、のっそりと俺の目の前に屈み込み、腕を振り上げる。巨大な、ハンマーのような拳が固く握られた。

 ぐわんっ! と、吉弥は力任せに、床を拳で叩きつけた。床がばきんと音を立て、割れて散らばった。

 後には、上げ蓋が現われる。材質は金属だ。取っ手があり、吉弥はそれをむんずと掴むと、ぐっと全身に力を込めた。

 ごく……、と微かな音がして、上げ蓋が僅かに持ち上がる。

「むむむむむ!」

 吉弥が顔を真っ赤にさせ、全身の筋肉を緊張させた。芸者の着物を身につけているのに、はっきりと逞しい筋肉が盛り上がるのが判る。

 ばきんと、大袈裟な音がして、上げ蓋が弾け飛ぶ。接合場所の掛け金が、歪んでいた。凄い馬鹿力である。

 黒々とした抜け穴を覗き込む。穴からは、黴臭い匂いが漂っている。

 俺は三人の顔を眺め、一人で頷いた。

 一声「行くぜ!」と呟くと、そろりと一歩を踏み出す。階段はコンクリート製で、壁も、床も、天井も同じ材料だ。

 俺たちがぞろぞろと地下室に踏み込むと、ぱっと照明が点いた。多分、自動で点灯するのだ。

 冷え冷えとした地下室を、俺たちは彷徨うように進んだ。どこまで進んでも、人っ子一人たりとも、見当たらない。無人のようだが……。


 俺は『悪党走査』を実行した。

 驚愕が、俺の足を止める。

「どうしたの?」

 晶が不審そうな声を上げる。

「ここには、誰もいない。悪党は、一人たりとも、存在しない!」

 俺の答に、晶と玄之介が『悪党走査』を実行した。二人とも、意外な事実に顔を見合わせた。

「ここは【暗闇検校】の住処じゃなかったの?」

 晶は不満そうな声を上げた。玄之介は渋い表情で、何か考え込んでいる。

 全く、訳が判らない。もしここが【暗闇検校】の本拠とすれば、悪党がうじゃうじゃ住んでいるはずなのに……。俺の『悪党走査』には、ただの一人たりとも引っ掛かってこなかった。

 ともかく、捜索を続ける。何か手懸りが残されているかもしれない。


 地下は、かなり深い。階段を何度も降り、数階を下っていく。地下室は総てコンクリート製で、天井には最新式の照明が点っている。あちこちに通路が枝道のように広がり、扉が並んでいる。

 吉弥が馬鹿力を揮って、扉を一つ一つこじ開けて行く。たいていは荷物置き場や、食糧庫で、たまにここを使っていたらしい悪党らの住処の後もあった。

 しかし、どの部屋もがらんとして、人気はない。完全な無人であった。

 どんどん階を下がって行き、吉弥が何枚目になるのか、がっちり鍵が掛かった扉をこじ開けた時だった。

 内部に、人が閉じ込められていた!

 ずんぐりとした身体つきの、若い男だった。男は、部屋の片隅に蹲り、扉が開くとポカンとした顔つきで、こちらを見上げた。

 晶は男を見た途端、悲鳴を上げた。

「お兄ちゃんっ!」

「え?」と、俺は晶を見詰めた。

 晶は俺を見て、ゆっくりと頷いた。

「そうよ、あれは、あたしのお兄ちゃん!」

「とすると……」

 ようやく、俺は言葉を押し出した。

 そう、俺たちは晶の兄、大工原激だいくばらげきを見つけたのだった!

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