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電脳遊客  作者: 万卜人
第八回 老中荏子田多門の陰謀の巻
66/87

十一

 まったく、妙な具合になった。何と、俺と弁天丸が、肩を並べて江戸城の内部をうろうろする羽目になったのである。呉越同舟ごえつどうしゅうとは、実に今の俺たちを言うのだろう。


 俺たちは、本丸表から、城の周囲をぐるりと迂回して、天守台へと進んで行く。

 迂闊に城の内部に踏み込み、大奥など迷い込んだら最後、どうなるか判らないからだ。

 俺たち【遊客】は、江戸城の地理を即座に思い浮かべられるが、それも外側だけで、内部については、情報遮断をされている。何しろ江戸城は、大江戸行政の要であり、様々な秘密のベールに包まれている。


 理由は、将軍だ。


 将軍は、仮想現実で江戸を創設して、その後は、ずーっと江戸城に籠もり切りで、姿を表さなくなった。

 大奥で何をしているのか、沙汰の限りだが、噂では──いや、噂など、てんで当てにはならない。とにかく、うっかり大奥に踏み込んだら後はどうなるのか? 迷い込んだ【遊客】に、どのような運命が待っているのか?

 総ては謎に包まれている。従って、江戸城に出仕する【遊客】、大名、様々な人間は、極力、大奥に近づかないよう、用心しているという。

 老中に就任すれば、情報遮断などなくなり、総ての通路、部屋、廊下などの情報が得られるシステムになっている。だから、城内で迷子になるというヘマは仕出かさずに済む。


 天守台へと向かうと主張したのは、弁天丸だった。そこに、荏子田多門がいるらしい。

「なんで天守閣に籠もっているんだ。多門の奴は?」

 俺の質問に、弁天丸は明快に答える。

「あの天守に、江戸城を封鎖するための絡繰からくりがあるんだと! 多門はあそこで、江戸全体を封鎖しているらしい……」

 俺は、仰天していた。

「なぜ判る?」

 弁天丸はニタリと笑い掛けた。

「【暗闇検校】様が、仰ったのさ! 天守台に籠もる老中の、荏子田多門の江戸封鎖を解け、と。俺がわざわざ、お城にやって来たのも【暗闇検校】様の御命令なんだ」

 俺は普請場で見た、多門の姿を思い浮かべた。江戸城の天守閣を再建するという計画を、熱心に推し進めたのは多門だった。

 これが狙いだったのか! 最初から、江戸を封鎖する計画だったのだ……。


 歩いている俺たちを誰何する声、一つない。城内は静まり返っている。

 奇妙である。いくら夜間とはいえ、城内を警備する番士や御庭番、伊賀者一人たりとも見掛けないとは、とうてい信じられない。

 俺たちは、破却された無人の城を歩いているのではないか、と妙な考えが浮かぶ。あまりの静寂に、俺たちもまた、黙りこくって歩く。


 俺はふと、疑惑を覚えた。

「弁天丸は、どうやって、城の中へ入って来られたんだ?」

「んあ?」

 弁天丸は、不意を突かれたように、キョトンとした目つきで俺を見た。

「な、なんでえ……藪から棒に……」

 俺はぐっと、弁天丸に近づく。

「お城の入口は、厳重に警備されていた。お前ら悪党が、踏み込むのを防ぐためだ。どうやって、その囲みを突破できた?」

 俺の言葉は、怒りのために震えていた。弁天丸はいつもの笑いを浮かべていたが、唇の端は、ひくひくと痙攣している。

「いいじゃねえか、そんな詰まらねえ話。何が気になるんだ、伊呂波の旦那」

 俺の背後にいる晶が、押し殺した怒りの声を上げた。

「殺したのよ! あの拳銃で! だから大手を振って、入れたんだわ!」

「けっ!」

 弁天丸は大袈裟に顔を顰め、肩を竦める。

「それがどうした! 俺は悪党だぜ! 悪党が人殺しをして、何が珍しい? あんまり、ギャアギャアさえずってやがると……」

 帯に捻じ込んだ拳銃をさっと引き抜き、数歩前へ飛び出して、立ちはだかった。銃口は曖昧に、俺たちを狙っている。


 背後で、吉弥が緊張する気配がする。あいつ、飛び掛るつもりか?

 一瞬、戦慄が走ったが、微かな物音に、弁天丸はぎくりと視線を動かす。

 俺たちを狙っていた銃口が、さっと逸れて、弁天丸は背後に振り向く。俺は弁天丸の視線を追った。

 影が一つ、二つ、三つ……。くっきりとした城影に紛れるように、幾つかの影が忍び寄って来た。

 姿格好から判断して、忍者である。揃いの忍び装束、足音は立てず、素早い動きで物陰から物陰へと飛び移り、四方から囲んでくる。


 御庭番だ!

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