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電脳遊客  作者: 万卜人
第七回 悪党弁天丸の追跡の巻
55/87

十一

 俺は吉弥の肩越しに、渡し場を見た。

 遥かに遠く、渡し場がぽつんと見え、桟橋に舟がもやっている。

 舟の船頭は、こちらを見て、慌てて立ち上がった。騒ぎを目にし、どうしようかと迷っている風情だ。やがて決意したのか、を手にした。


 いかん! あいつ、一人だけ逃げ出すつもりだ!


 俺は全身の力を込め、叫んだ。

「動くんじゃねえ! そのまま留まれ!」

 俺の叫び声は、最大級に響いていた。【遊客】は恐ろしいほどの肺活量を誇り、思い切り叫ぶと、火薬の爆発音くらいの音声は、軽く出るのだ。

 ぎくり、と船頭が動きを止めた。


 しめた! 俺の気迫カリスマが効いた!


 はっ、と気付くと、人足の足も止まっていた。全員、俺たちに襲い掛かる姿勢のまま、石像のように凝固している。


 そうか!【遊客】の気迫は、人足にも効いている!


 じりじりと人足たちが俺の声に立ち直り、再び攻撃をしようと近づく。俺はあらん限りの気力を込め、叫ぶ。

「動くんじゃねえっ!」

 びくり、と人足たちは足を止める。

 玄之介、晶の二人も、近づく人足を猛烈な気力で睨みつけ、寄せ付けない。

 俺たちは、足止めされている人足たちを掻き分けながら、桟橋へと急いだ。

 その時、人足たちの間から、喚き声が聞こえた。


「何してやがるっ! とっとと、あいつらを殺さねえかっ!」


 声の主を探すと、だらりとした女物の着物を身につけた、ひょろりとした痩身の男が目に入った。相変わらず、長大な、見掛け倒しの刀を肩に担いでいる。


 弁天丸だ!


 俺と玄之介の目が合った。

「あいつ……!」

 俺の言葉に、玄之介は慌しく頷く。

「左様で御座る! あやつ、このような場所に来ていたので御座るな!」

 俺は身につけた【遊客】としての総ての気力を総動員して、弁天丸を睨みつけた。俺の視線は、レーザー・ビームのように、弁天丸の両目を直撃していた。

 弁天丸と、俺の視線が、かち合った!

 一瞬にして、弁天丸の顔色が変わった。すっと、血の気が引いて、がくりと腰が折れ、くたくたと膝から力が抜ける。

 気絶するかと思ったら、意外にも立ち直った。ぐっと両足を踏ん張り、薄ら笑いを浮かべている。

「よお……。ちょこまか、ちょこまかと、五月蠅うるさい動きをするじゃねえか! 鞍家二郎三郎さんよ……!」

 声は震えているが、それでも俺の気迫に抵抗している。ひくひくと唇の端が痙攣し、両目に殺意が漲る。


 俺は仰天していた。


 どうしたというのだ? なぜ、俺の気迫が効かない?

 じろり、と弁天丸は、付近にいた人足を睨みつけ、さっと俺を指さす。

「さあ! あいつらを殺せ! 命令だ!」

 弁天丸の言葉に、突き飛ばされるようにして、人足たちは俺たちに殺到する。

 俺たちは向かって来る人足たちを、何とか退け、後退した。

 俺の心は、嵐のように乱れている。

 訳が判らず、ただ向かって来る人足たちを退けるだけで手一杯だ。


 なぜ弁天丸に、俺の気迫が効かない?

 しかも、弁天丸は、人足を自分の思うがままに操っている。人足たちが一瞬にして変貌したのは、どうやら弁天丸の仕業のようだ。

 俺たちは全速力で桟橋に突進し、舟にどうにかこうにか、辿り着いた。俺は苛々しながら、船頭に命令する。

「舟を出せ! 早くっ!」

「へいっ!」と船頭は大声を上げ、艪を握りしめ、全力で漕ぎ出した。

「ちっ! 仕損じた……!」

 岸に、弁天丸が悔しそうに立っている。俺は艫に座り、弁天丸を睨みつける。

 普通なら、これで弁天丸は意志の力を喪失するはずだ。が、平気で俺の凝視に耐えている。

 俺の頭に、天啓のように閃きが浮かぶ。


 まるで弁天丸は、【遊客】じゃないか!


 まさか?

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