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電脳遊客  作者: 万卜人
第七回 悪党弁天丸の追跡の巻
51/87

 じろじろと無遠慮な視線を、玄之介は雷蔵の住まいに注ぐと、居住まいを正した。

「さて」と畏まって口を開く。ぐっと雷蔵を睨み据えるようにして、俺に尋ねた。

「そこの御仁が、鞍家殿の申される〝話が判る悪党〟だとか。どのような悪党なので御座るか?」


 俺と雷蔵の目が合う。雷蔵は、俺がどう返事をするか、興味津々である。

「まあ、知能犯ってやつだな。最初は、辻占いで客の手相を見て、いい加減な与太を作って、金を騙し取っていた。その内、それに飽き足らず、寺を乗っ取り、怪しげな宗教を、善男善女に吹き込んで荒稼ぎだ」


「何を言うか!」

 雷蔵は、かっとなって叫んだ。

「儂は唯の一人たりとも、騙すなどと悪行はしておらん! 騙されたというのは、あっちの勝手な言い掛かりじゃ!」

 俺は爆笑した。

「それじゃ、なぜ寄場人足なんかに落ちぶれているんだ? あんた、最後はねずみ講にも手を出していたろう?」


 雷蔵は思い切り顔を顰め、そっぽを向く。腕組みをして、ぶすりと呟く。

「まったく、お主という奴は、口が悪いのう……。もう少し、老人をいたわるという礼儀を知らんのか?」

 俺は頭を掻いた。

「すまんな。俺は【遊客】でね。こんな武士のなりをしているが、礼儀作法は空っきり、身についていねえのよ!」


 俺は玄之介に説明した。

「この雷蔵は、悪党には珍しく、人殺しとか、押し込みのような荒仕事とは、縁がない。それで、お縄になっても、寄場送りになるのがせいぜいで、こんな歳になるまで生きながらえてきた。まあ、かなり珍しい悪党の部類に入る」

 玄之介は好奇心を丸出しに、雷蔵を見詰める。

「それで、話が判るとは?」

「雷蔵の商売だ。地獄耳の……という通り名で判るように、こいつは、あらゆる情報を集めている。人足たちが、こいつにいやにペコペコしていたのを見たろう?」

 玄之介は思い出したように頷いた。

「雷蔵は人足たちに、出所した後の身の振り方、誰に会って、どんな話をすれば良いか、事細かに指示してやる。雷蔵の言うとおりにすれば、寄場を出ても、後の生活は驚くほど上手く行く。だから人足たちは、雷蔵には下手に出るのさ。臍を曲げられたら、知恵を借りれなくなるからな」


 玄之介は驚きに顎を上げた。

「なぜ、そのような情報を集められるので御座る?」

「こいつのおかげよ!」


 雷蔵は口を挟み、窓に向けられている遠眼鏡を指さす。


 その時、刻を告げる、鐘の音が遠くから響く。雷蔵はひょい、と首を伸ばして窓に目をやった。

 窓から見える江戸の町の一角に、きらきらとした光が瞬いている。光はある一定の法則に従って点滅を繰り返した。

「いかん! 時間だ!」

 ひょこひょこと遠眼鏡に近づくと、接眼鏡に目を押し当てた。手探りで懐から帳面を取り出すと、矢立から筆を取り出し、遠眼鏡に目を当てたまま、何か書き込んでいる。


「ふむ……何と! 八百屋の猫に仔猫が生まれたとな! ほほほ……、お上を批判する落首が書かれたか……。面白い、面白い……」


 上機嫌に遠眼鏡から目を離す。満足そうに、手元の帳面に眼を落とす。

 呆気に取られている玄之介に、俺は解説してやった。

「雷蔵のやっていたのは、鏡の反射を利用した通信だ。つまり、光通信だな」

 玄之介は目を光らせた。

「内通者がいると? 何と、大胆な!」

 雷蔵は手を振った。

「そんな大袈裟な! 猫に仔猫が生まれたのが、そんなに大変な謀反かの?」

「まあ、それは……」

 玄之介は不満そうに唇を曲げる。


 俺は話を続けた。

「出所した人足のうち、気の利いた奴が雷蔵の考案した光の信号で、江戸で起きた様々な出来事を報せてやる。雷蔵は、そんな雑多な情報から、有用な情報を選り分け、ここで働く人足に、有利な知恵を貸してやる。ここでじっとしているだけで、雷蔵は、江戸のどこの誰よりも、市中については詳しい情報を手に入れているのさ」


 雷蔵は、にんまりと誇らしげに笑った。

「この灯台を、二倍の大きさにさせたのも、儂の仕事に役立てるためじゃ! 高ければ、高いほど、遠くがよく見えるからのう!」

 言葉を切ると、俺をじっと見詰める。

「お主、儂に会いに来たのは、これで二回目じゃな! 前回は、五日前だったが……」

 俺は、あんぐりと口を開け、尋ね返した。

「何だと……。俺が、以前に、お前さんに会いに来ただと?」

 雷蔵は頷いた。

「左様。その時は、江戸の悪党たちが不穏な動きをしていると言っておったが。何か掴めたのかね?」


 俺は、茫然自失していた。

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