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電脳遊客  作者: 万卜人
第六回 大立ち回りの捕り物と、一つの手懸りの巻
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 先頭を走る、俺の姿を、弁天丸は認めたようだった。が、見知った様子ではなかった。俺が高輪の大木戸で、逆に弁天丸に暗示を掛けた時、俺を忘れるよう指示していたから、俺の顔は、記憶から、ぽっかりと抜け落ちているのだ。


 俺は走りながら、鞘から刀を抜いた。俺の刀には刃はない。完全ななまくらだ。

 しかし、この騒ぎでは、弁天丸が気がつく訳がない。弁天丸は「くわーっ!」と奇妙な叫びをあげ、長さ五尺はありそうな、長大な刀を振り上げた。そのまま、俺に向かって振り下ろす。

 が、あまりに長すぎ、重すぎる。弁天丸の動きは、俺にはスローモーションにしか見えない。

 俺はさっと手にした刀を旋回させ、弁天丸の刃を、刀の腹で、真横から払った。

 きいーん! という、歯の浮くような甲高い音がして、弁天丸の手から、刀が弾き飛ばされる。

 俺の手許が、急に軽くなっていた。

 気がつくと、俺の刀が、半分からぽっきりと折れている!


 ちぇっ! 無謀だったか?


 俺の刀は、わざと鈍らにしているだけあって、あまり上等な業物ではない。打ち合ったら、簡単に折れてしまうのだ。

 すとっ、と軽い音を立て、弁天丸の刀が、近くの地面に突き刺さった。弁天丸の視線が、俺の折れた刀と、地面に突き刺さったままの自分の刀を、忙しく往復する。


 さっと弁天丸は横っ飛びになると、自分の刀を目掛けて走り出す。

 俺は、そうはさせじと、弁天丸の前へ飛び出した。半分になったが、まだ武器はある。

 俺の姿に、弁天丸は踏鞴たたらを踏んだ。

 俺は、弁天丸の刀を素早く地面から抜き取り、持ち上げた。


 重っ! 十キロ近い。普通の刀は、重くても一・五キロ程度なのに。


 何て重さだ。こんな重量のある武器を、普段から持ち歩くなど、正気ではない! これでは、まともに打ち合うなど不可能だ。

 しかし弁天丸は、俺の手に自分の刀が移ったのを見て、絶望を顕わにした。

 俺は弁天丸の手が届かぬ距離に、刀を投げ捨てた。こんなもの、荷物になるだけだ!

 じりじりと、弁天丸は後じさりを始める。


 弁天丸の背後では、源五郎と部下たちが、豆蔵らと戦いを繰り広げている。

「きゃあっ!」と黄色い悲鳴が上がった。

 何事かと、そちらを見ると、晶が背後から、豆蔵の手下に羽交い絞めにされているところだった。

 熊のような身体つきの、巨体が、小柄な晶の身体を、背後から、がっしりと掴まえている。


 あの馬鹿娘!


 俺の注意がれたのを見てとり、弁天丸は逃走に懸かった。

 戦いの輪の隙間を狙い、逃げ出そうとする。


「あっ! 待ちやがれっ!」


 俺は弁天丸の背中に叫んだ。

 懐から、かねて用意の、卵の殻を掴み出す。それを弁天丸の背中に投げつけた。

 ぱしーん、と軽い音を立て、卵の殻は弁天丸の背中で弾けた。ぱっと、弁天丸の背中に、白い粉が舞い散る。


 弁天丸は、気がついていない。

 俺は北叟ほくそ笑んだ。あれで、どこにいても、弁天丸の居所はたちどころに知れる!【遊客】だけが使用できる、マーキング弾なのだ!


 源五郎の部下たちは、指示を守って、弁天丸を不自然に思えないよう、見逃している。


 弁天丸は、命からがら、やっとの思いで逃げ出したと思い込んでいるだろう。よもや、故意に逃がされているなどと、考えが及ぶまい。

 俺は、晶の救出に向かった。


 まったく、面倒事を引き起こすのが、あの娘の趣味なんだろうか?

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