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キレイの定義  作者: 他紀ゆずる
起編
9/80

8 頭の中が作り替えられていたとは初耳です

 エイリスの元で得た地理や魔術に関する知識は、アゼルさんが説明してくれた内容と同じだった。

 問題は、召還術とそれに伴う体の中の変化、あとは様々に暮らす種族とその階級についてわたしが何も知らないことだ。


「ミヤが自分の世界の言葉だと思って使っているのは、この大陸ジャルジーの公用語です」


 淹れ直したお茶のカップとお菓子を勧めてくれながら、噛んで含めるように教えてくれたアゼルさんの言葉は、理屈はわからなかったけれどすんなり納得できた。

 だってずっと疑問には思っていたんだもん。地球にだって民族ごとにたくさんの言語が溢れているし、同一国内で違う言葉を使っている国だってある。

 それなのに異星に来て苦もなく日本語が通じるなんて、あり得ないんじゃないかって。


「召還されあの魔法陣を通る際、貴女たち女性の言語は召還者が使用しているものに強制的に変換されます。ミヤはジャルジーの民である魔女エイリスと同じ言葉を話し、理解できるようになった」


 そう言ったアゼルさんが差し出してきたのは、1冊の本だ。

 どこからともなく現れたそれには『建国の歴史』とタイトルがふってある。


「どんな名前の本です?」

「建国の歴史、です」


 ちゃんと漢字とひらがなで読めると付け加えると、アゼルさんは少し申し訳なさそうに顔を歪めた。


「私達にはそれがジジャ語にしか見えません。けれど、貴方の目は自国の言葉としてそれを捉える。言葉も一緒で、ミヤは自国の言葉を話しているつもり、聞いているつもりで、ジジャ語を解している。…本人に無断で頭の中をいじっているのです。それが良いことだと、私には思えない」


 だから浮かない顔をしているんだと、やっとわかった。

 悪魔のくせに変なところで律儀な人…ううん、人達。だって、ベリスさんも同じ表情をしているもの。

 負の感情を食べるだの、エサだのと言っていたくせに、それくらいのことで心を痛めるとはらしくないと、なんだかおかしくなってきた。


「人によっては怒るかもしれませんけど、わたしはおかげで不自由なく暮らせたんで、むしろ感謝してます。なのでそんなことを気にするより、人の感情を食べる行為をやめてもらえる方がうれしいんですけど」


 笑い飛ばすとほっとした顔をするくせに、お食事禁止は即却下するとはやはり悪魔か。

 最後の一言はうっかり声に出してしまっていたらしく、聞き留めたベリスさんがその認識も違うと否定してくる。


「ミヤが我々を悪魔、奴らを天使と言う…いや、なんと言ったらいいんでしょう……そう、悪いもの、善いものと表現すればきちんと聞き取れますか?」


 言っている意味がわからない。

 わかるけどわからないと首を傾げたわたしに補足とばかりに、サンフォルさんがこう聞いてきた。


「ミヤの世界で悪魔とはどういったもので、天使とはどんな役割がある?」


 役割、か。聖書とかキリスト教とか詳しくないからよくわかんないけど、リメイクでやってた映画や物語の中のでの位置づけなら説明できる。

 おぼろな記憶を辿りながら、指折りわたしは特徴を挙げだした。


「えっとですね。悪魔はまず人間の魂を食べたり、人間に乗り移ったり、人間を騙したり、自分の欲望に忠実だったり、卑怯なイメージです」


 あ、悪印象しかなかったと慌てて両サイドを確認すると、気持ち2人ともへこんでいるようだった。

 ごめんね、わたしってば嘘のつけない正直者なんです。

 ここで彼等に構っていると天使について答えられなくなるんで、いったん棚の上に上げ、説明を続ける。


「天使は基本的に神様のお使い的なイメージと、人間を助けるとか、死んだ人の魂を天国までつれてくとか、そんなんです。あと頭の上に輪っかが浮いてたり、羽根を背中につけて飛んでます」


 そういえば、昨日見たアゼルさんとベリスさんの羽根は真っ黒だったなぁとか思い出して、ふと天使だと名乗った2人に聞いてみたくなる。


「お2人の羽根は、白いですか?」

「白いよ」


 言うが早いかメトロスさんの背中が派手な音を立てて、でっかい翼が姿を現した。純白の白鳥みたいな羽根は、やっぱり名画なんかで見る天使と同じで、色だけは本気で天使っぽい。

 うんうんと1人納得してわたしは、1番天使と悪魔の説明で大事な部分を忘れていたと慌てて付け加えた。


「天使は白い羽根、悪魔は黒い羽根…あれ、これは堕天使だけで本当はコウモリみたいな羽根だっけ?ま、どっちにしても白が天使、黒は悪魔です」

「「「「それ(だ)です」」」」


 いきなりハモる4人に一瞬引いてしまったが、彼等はそうかそうかと妙にすっきり納得した顔をしている。

 羽根はそんなに大事なとこ?それよりも白と黒?どこがそれだかわかならいけれど、そんなもので急に納得できるとはなんとも腑に落ちない。

 わたしが顔を顰めたのに気づいて、サンフォルさんが、つまりと切り出した。


「ミヤの言語がジジャ語に変化しても、君の中の知識まで魔女とシンクロするわけではない。耳から入った情報を自分の知っている知識やイメージに近いものと置き換えて判断するんだ。天使とは古き言葉で『白き翼』を意味し、悪魔とは『黒き翼』を意味する。取り急ぎ古い文献を調べたところ、以前召還された人間の世界には翼を持つ種族はいなかったとあった。ミヤの頭の中で『黒き翼』が悪魔と変換されて、天使族悪魔族を理解したのではないかと思う」


 長い、少し長い説明だったけれど、よくわかった。

 つまり、足りない知識は補えない。知らないことが多すぎるわたしは、単純に色と翼で種族名を決定していたんだと。

 ………ああ、義務教育中も高校生になってからも、ちっとも自発的に勉強に取り組まなかった自分を再教育しに行きたいっ!

 芝居がかって嘆いてみようとか考えたけど、むしろ勉強不足の人間を無理矢理連れてきた方に責任があるんじゃないかと気づいたんで、却下しておいた。

 そうして、お茶を一口飲んで落ち着いてから、でもと首を傾げる。


「人間の感情を食べるとか、それも痛いとか辛いとかの負の感情をエサとか言うのは、やっぱり悪魔だと思うんです。だって天使は食べないでしょう?感情」


 ダークな感じのものは悪魔の専売特許の筈と確信してたのに、なぜだか前方2人が視線を外す。それもまぁ、とっても決まり悪げに。

 これは、もしやのもしや?

 そろりと視線を上に向けると、何故か満面の笑みを浮かべた黒い双子が楽しそうに答えるのだ。


「食べますよ。天使も感情を食らいます」

「ええそれはもう貪欲に、我々と同じ勢いで召し上がります」


 ……ねえ、わたしの言語変換機能って、相当性能が悪いんじゃない?普通はそういうのは全部一括りで悪魔って言うもん。

 そんな心の声を、申し訳なさそうに縮こまる天使2人に免じて、決して口には出さない寛大なわたしなのであった。


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