3 それから ユウナとジャイロ2
「大変だったんだよ、1人で生きていくとか張り切ってるユウナを口説き落とすのは」
相変わらず傍若無人な猫は、とっととコジマさんの隣に座ると勝手にお茶を淹れてそれを手に聞いてもいない苦労話を語り始めた。
面倒なんでざっと要約すると。
さんざんな目にあったコジマさんは結婚なんて全く考えていなくて、ましてやこの世界に都合良く利用されるのは真っ平だと自活の道まっしぐらだったそうだ。
そんな彼女が無条件に心を開くのがイオで、直向きに慕ってくる幼子にすっかり心を奪われているのを相変わらず我が家を覗き見していたジャイロさんが盗み見て、どこをどうしたわけか…惚れ込んだらしい。
ひねくれ猫さんはツンデレ属性がお好みだったと。
だって、コジマさんは端で見ていてもジャイロさんに優しくなかったですからね。もちろんジャイロさんだってコジマさんに親切にしてるところとか見たことなかったですし。
一体何があったんでしょうね、2人に。
詳細は部外者の与り知らないことなのでともかく、人目がないところで真面目に誠実にコジマさんを口説いた(本人談)らしいです。そしてやっと、結婚の申し込みにオーケーを貰ったそうで。
そこで、エイリスに感づかれ釘を刺されたジャイロさん、過去の行状や己の性格をせっかくその気になったコジマさんにばらされちゃまずいと、反対されているから堂々と会えないとか嘘をついてちゃっかり既成事実にこぎ着けたらしいです。
実に策に長けた彼らしい、卑怯極まりない手段です。これでコジマさんが怒りながらも幸せを覗かせていなかったら、旦那様達を嗾けてお仕置きを計画したところです。まったくもう。
「とりあえず、誤解は解いておくわね。私は一切反対していないし、妨害工作は全てユウナを思ってのことよ。ミヤに孫を生んで欲しいって言ってはいたけど、それは別にユウナじゃダメってことじゃないのよ。貴女は始めにハイジェントの爺様達にろくでもないことを吹き込まれて頑なになっていたから、心に余裕を持てるようになって初めて、結婚とか子供とかを考えればいいと思っていただけなの。こんなに早くその気になれたなら、いいことだわ」
でもこれだけは知っていて頂戴と言ったエイリスは、その後、酷く真面目な顔でコジマさんに獣人の結婚について忠告をしていた。
「一度夫にしたからって、一生その男と一緒にいなければいけないわけじゃないのよ。気に入らなかったらどんどん捨てて構わないから。特に家の息子はね」
これにびっくりしたのはコジマさんで、溜息をついたのはジャイロさんだ。
「ね、ねぇ、エイリスってジャイロのこと嫌いなの?」
あんまりな言いようにびっくりしてこっそりコジマさんが聞いてくるくらい、その後の2人のにらみ合いはすごかった。
「だから知られたくなかったのに。どうしてこんなめでたいことを反対するのさ。仮にも僕の母親が」
「母親だからこそ、でしょう。好きな男を選び放題な女の子達が、わざわざ貴方を選ぶのをなんで黙って見てないといけないのよ」
「孫が欲しいなら黙ってて。だいたいミヤには僕の行状を教えずに、勧めてたじゃないか」
「だってこの子には立派な旦那がいたでしょう。孫だけ生んでくれれば、残りの人生は悪魔や天使と幸せに暮らせたじゃない。わざわざ性悪猫に関わらなくても」
「自分だって性悪羊だろう。性格は貴方に似たんだから」
「あーら、同じ性悪でも根っから悪人面の猫と大人しそうな羊とじゃ天地の違いよ。一緒にしないで」
「はいはいはいはいはい、いい加減不毛な争いは止めましょうね~」
終にはお互いの容姿批判にまで飛び死した争いを一端止めて、結局コジマさんとコジマさんのお腹にいる子供はどうするつもりなのか、と問えばこれがまた正反対の答えを返された。
「一生、私が面倒見るわ。あの家にユウナと産まれた子と一緒に住むの」
「すぐに僕の家に連れて帰るに決まってるだろう。魔術師は夫を複数持たないことが多いんだから、ユウナには僕だけでいいんだよ」
そうしてまた、言い争いです。なんですかこの人達。どうしようって言うんですか、この先。
正面のコジマさんを見やると同じ気持ちだったみたいで、眠ってしまったイオを撫でつつぽつりと零す。
「いっそ、ここに置いてくれない?その子達が産まれるまでのベビーシッター代わりに」
指さされた先には、これまでになく大きく膨らんだわたしのお腹があって、確かにこの状態じゃ娘達の面倒を思うように見られない身としては、とってもありがたい申し出だった。
はい、妊娠中です。今度は悪魔の旦那様達の子供で、女の双子なんですって。
もともとイオに懐かれすぎてるコジマさんは足繁く通ってくれてはいたけれど、同じ妊婦さんとして始終喧嘩している親子がいる環境に置いておくより、平和で静かなここに住んじゃう方が安心な気もします。街と違って制約も多くて窮屈なこともあるかもだけど、コジマさんはわたしみたいに外出するにも付き添いがいるほど厳重に生活制限がかかっているわけじゃないし、別荘に滞在くらいな感覚でいてくれたらいいかも。
「もちろん大歓迎です。これから悪阻とか大変になるだろうに、あんな胎教に悪い人達がいるところにいちゃいけません。ベビーシッターなんて言わずに、友達としていつまででもどうぞ」
「そうよね。陽気なのは大歓迎だけど、喧嘩は頂けないわ。そもそも半分ここに住んでるようなものだったしね」
「ですです」
頷き合って、くるりと部屋を見回した。
実はここ、悪魔邸に用意されたコジマさんの部屋です。元は、エイリスの家に住み込んでいるコジマさんが逃げ出したくなった時の、避難先として用意されました。
それが予定外にイオがコジマさんに纏わり付くようになって、生家である天使邸にも迷惑をかけているお詫びに疲れたらいつでも休んだり泊まったりして欲しいと部屋を用意され、わたしと話し込んじゃったりイオやリーリアと遅くまで遊んじゃった日にどっちかの屋敷に泊まることが増え、現在彼女の家は3軒あるも同然の状態です。10畳ほどのワンルームマンションが別邸としてあるのです。
これは利用しない手はありません。
「研究書や薬はこっちにもあるんですよね?」
「うん。生活の拠点をこっちにするだけで、あっちに帰らないわけじゃないから必要なら取りに行けばいいし」
「子育てならわたしでもお手伝いできますよ。リーリアもイオもレリレプトさんやコジマさんにくっついてますけど、おしめ替えたり夜泣きに付き合ったりは母親にさせてましたからね」
「助かるわ。やっぱ初めては不安だもん」
「ですよねぇ」
わたしだって初めてはいろいろあったんですよ。旦那様や使用人の人達に助けて貰いましたけど、基本、子供って迷惑だけは親にかけるんです。それも母親に重点的に。
遊んでもらうときは他の人でいいのに、どうして眠いとか不機嫌だけはわたしに押しつけるんだろうって泣きたくなったこともありますが、いい加減2人育てれば慣れます。どんと来いです。
ほっとした表情のコジマさんと頑張りましょうと励まし合っていたら、ようやく状況に気付いた魔術師達が騒ぎ始めましたが後の祭り。
こうしてコジマさんは、この後ずっと3軒の家を渡り歩き、ジャイロさんは一生通い夫になるのだけれど、それはまた別のお話。
だんだん後始末話になってきました。
…最後はミヤのそれからです。