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キレイの定義  作者: 他紀ゆずる
結編
73/80

1 それから リーリアとレリレプト

「ねえ、エイリス」

「なあに?」

「天使や悪魔の赤ちゃんてさ、産まれる前にお気に入りの人を必ず見つけるものなの?」

「…そんな話、聞いたことないわね。ミヤの子が特別なんじゃない?」

「やっぱり?」


 今日も無理を言って朝から来て貰っているコジマさんと、彼女にべったり張り付いて離れない愛娘イオに、わたしは溜息を禁じ得ない。

 振り返れば3年前、コジマさんの腕の中に生まれ落ちたあの子は、母親を間違えているんじゃないかと疑うほど彼女と引き離されると泣いた。コジマさんが大好きだと全身全霊で主張した。

 だからといって魔術師修行中で、自分の生活を作っている最中だった人にあまり迷惑はかけられず、何とか説得して(話のわかる赤ちゃんで助かりました)数日に一度会うことで納得させたんだけど、会えば母親に甘えるように張り付いて離れないのだ。


 コジマさんが無限に感情を提供できるのをいいことに、食事も彼女から遊んで貰うのも彼女から寝かしつけて貰うのも彼女からと、迷惑一切を考えない傍若無人っぷり。

 でも、基本的にイオの性格は産まれる前に判明したネガティブのままだから、リーリアのように表立って独占欲を表さないのが質の悪いところだ。こっそりひっそり自分をコジマさんから引き離そうとする人間を凍り漬けにするのがデフォだから困る。

 今のところこの冷凍人間の刑にあっていないのは、わたしとジャイロさんだけだった。


「申し訳ないとは思うけど、打つ手がないのが現状なんだよね」


 薬の調合をしているコジマさんの背中に張り付いて、大人しく彼女の手元をみているイオは、正しく母に甘える娘そのものだ。救いなのはコジマさんがこの状態を嫌がっていないことで、むしろ無条件に子供に懐かれるのは嬉しいと言ってくれていること。

 でもでも、母はわたしなのに。酷い、この扱い。


「お母さんてば、また落ち込んでるの?」


 ぐずぐずと己の不幸を嘆いていたら、瞬間移動で現れた上の娘に呆れられてしまった。

 腰に手を当ててふんぞり返る仕草はとても5歳児とは思えない貫禄だけど、この子の場合高慢そうなこんな態度が似合うから困る。真っ直ぐな黒髪のツインテールと、ちょっと吊り気味の黒目も、気位の高いお嬢様然としたイメージをリーリアに抱かせる要因の1つだ。


 だけど、本来の性格は見かけに反して非常にフランクでフレンドリー。レリレプトさんとずーっと一緒にいるせいか特権階級特有の差別意識を持ち合わせておらず、街に行っては種族を越えたお友達を作ってきたり、力のある混じり子を両親と隣家の天使のお屋敷の護衛にスカウトして来たりする素敵なお嬢さんに成長中だ。

 密かに自慢の娘だったりします。 


「あらリーリア。また1人?」


 けれどもそんな彼女に最近微妙な変化が。

 エイリスが苦笑交じりに指摘した通り、生まれてこの方離れたことがなかったレリレプトさんと、距離を取るようになったのだ。

 正確には顔を合わさないですむように逃げ回っている。つまりは喧嘩中のカップルそのもの。これが既に2週間も続いているんだから、さすがに周囲も心配を始める。


「そうよ。大きくなるまで、もうレーには会わないの」

「………大きくって、あなた」


 5才なんですけど?いくつまで我慢する気?

 だけど背伸びそしてそんなこと言う姿は…とっても可愛いですよ?思わず抱きしめちゃうくらいには。


「何かあったの?」


 腕の中に抱き寄せた娘は、普段の大人びた言動からは信じられないくらい小さくて幼い。

 そうだよね、地球にいたら保育園児だもんね。悪魔は早熟って言っても、精神は肉体に影響を受けるんだから子供なんだよね。

 くすんくすんと啜り上げ始めたリーリアの常にない様子は、離れた場所で作業をしていたコジマさんの注意もひいた。手を止めた彼女は、背中にイオを貼り付けたまま、お茶を飲んでいたテーブルに近づいてくる。


「どうしたの、リーリア。何で泣いてるの」

「うーん、なんかレリレプトさんとあったみたいなんだけど」


 詳しくはわかんないんだと、すっかりわたしのお姉さんポジションが定着しているコジマさんに告げると、彼女は眉根を寄せてソファーに腰を下ろした。


「ねーたま?」


 イオも異変を察したのか、小さな翼をはためかせてリーリアの背中にぺたりと着地する。


「黙って泣いていても何も変わらないわよ?話してみなさい」


 そして、エイリスに優しく促された彼女が言うには。

 最近、レリレプトさんは街の獣人のお姉さんにモテモテ(死語)なんですって。

 どっちつかずだと同族は彼等を忌み嫌うけれど、他の種族にしてみればその限りではない。そりゃあ、スラムで暗殺して生計を立てている時は不気味な怖さがあっただろうけれど、常に子供リーリアに優しくて、無闇に人を傷つけないイケメンが女性達の関心をひくのは当然のこと。


「あーそう言えば、肉屋のお兄さんがぼやいてた。最近女の子に声をかけると決まって、銀色の悪魔を狙ってるからダメだって断られるって」


 ポンと手を打ったコジマさんは、そっかあの人銀色だったねと今更思い出したようだ。

 まあ、無理ないかなこの反応は。

 何しろ事情を知らなければ是非とも狙いたくなる好物件のレリレプトさんだけど、我が家とその周辺の人物にとっては対象外の婚約者持ちなんだから。

 しかもリーリアしか眼中にない、非常に一本気である意味融通の利かないお兄さんである。


「でも、レリレプトは貴女以外に興味を示さないじゃない。なのに会わないの?大きくなるまで」


 産まれる前の遣り取りから知っているエイリスの疑問はご尤もで、寧ろリーリアの主張の方こそわからない。

 それはここにいる誰もがそうで、首を傾げていると恋する少女は叫ぶのだ。


「だって私が子供なせいで、レーってばロリコンって言われたのよ?!ナイスバディの超美人な狐さんに、ロリコンってロリコンって…!」

「えー真実じゃない」


 思わず本音が漏れ出したわたしを、睨んだのは娘一人で他の人達は首を縦に同意してくれた。

 それはそうでしょう。26にもなる男が5歳児以外に食指が動かないとか、どう好意的にとってもロリだから。日本でだったら最悪逮捕だよ?


「ロリコンじゃない!レーは私が好きなの!私だけが好きなの!」

「わかっているなら、逃げないでくれ」


 怒るリーリアの隣にいきなり現れたレリレプトさんは、切なげに零すとわたしの腕からの小さな体を取り上げてしまう。


「10日以上も会えなくて…後1日でもこれが続けば、屋敷を壊してしまうところだった」

「レー…」


 衝撃の告白に絶句する周囲など気にもせず、抱き合った2人の盛り上がりはいきなりクライマックスみたいです。


「破壊活動に走るのは、どうかと思うよね」

「それより感動のシーンの筈なのに、犯罪チックなのがまずくない?」

「どうでもいいけど、これ以上見せられたら私がお屋敷を壊しそうよ」


 それぞれ思うところはあれど、答えは1つ。


「「「自分の部屋でやって」」」


 痴話げんかなんて、犬も食わない訳よね。

 その後、彼等の揉め事が纏まろうが散らかろうが気にする気のなかったわたしたちは、早々にバカップルを部屋から追い出したのでした。


「でも、ミヤと旦那達ってあんな感じよね」

「そうねぇ。昔はもっと酷かったわよ」


 コジマさんとエイリスが人の過去をネタにお茶を飲み、わたしが悶え苦しむのは頂けない弊害。


 


すいません、すいません、すいません。

私は犯罪者を書くことを目指しているわけじゃないんです…カップリングが既に犯罪なんです…あれ?

リクを頂きました方、こんな感じでどうでしょう?

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