12 キレイの定義2
早寝のため(夜は娯楽がないので街では消灯が早いんです)就寝前に考える時間がたくさんあるんだそうなコジマさんは、召還された他の女性に会ったりエイリスやジャイロさんに召還条件を聞いたりなんかして、ある疑問にぶち当たったんだそうです。
喚ばれた女の子は大抵、押しに弱くて自己が完成していない人が多いんじゃないか、と。
わたしはもちろんその条件のど真ん中。更にとコジマさんが付け加えた、逞しくて(精神的に)順応性が高いっていうのは自分ではわかりにくいけれど、初めの2つがなければこの状態にはなってないだろうなぁと、お腹を撫でる。
「エイリスに修行しろって言われて、抵抗なく受け容れたんだって?ここにいる間も反抗1つしない良い子で、突然攫いに来た悪魔の双子にも抗うことなくついていくし、気付いたら天使の双子とも結婚してるなんて、人づてに聞いてても自分なら絶対許せないって思っちゃったわよ」
言われてみればその通り過ぎて、そんなことはないと全く言えないことにびっくりした。
いつだって、わたしの足下はぐらぐらだったのだ。
エイリスに言われた通りに魔法の修行をするとき、彼女に自立すれば生きていくことができると諭されて素直に頷いた。
強引だと心の中では言っていたけれど、アゼルさんとベリスさんを受け容れることに大した抵抗はなく、あっさり子供まで産んでいる。
ジャイロさんに人間は幸せだと教えられれば彼の都合よく行動しようとし、メトロスさんとサンフォルさんと結婚することを最初に承諾した時、明らかに流されていた。
その後、ライバルの出現にまたまた心変わりをするし、かと思えば今はこの状態。
何この見事な流されっぷり。
「でもでも、これ以上旦那様を持つのは無理って、思いましたよ?」
「自分の口で宣言した?」
「…いいえ。勝手に旦那様達が気付いてくれました」
「なら、黙っていればジャイロとも結婚してたかもね」
呆れたように言われても、やっぱり反論できないから困る。
こうして論ってみると、なんとも『キレイの定義』というものは、この世界に優しくできているようだ。
そりゃあ喚ぶ側の都合で付加する条件なんだから、当然と言えば当然かもしれない。自分達が後々困らないよう、面倒の少ない女性を選抜しているんだろう。
まるで後腐れない女性だけ選り好んで付き合う、サイテーのイケメンのようじゃない。
「微妙に腹が立ちますね、そう思うと」
「あら、でも双方にとって幸せなことなんじゃない?」
知らなくて良いことを知ったばかりに、少々むっとしているわたしをコジマさんは笑った。
流されても言いくるめられても、現状に満足できるならそれに越したことはないと。自分のように納得できないからとあちこちと衝突して、まだまだ完全に受け容れることができない現実と戦い続けるより、素敵な条件付けだと。
そうなのかと首を捻りつつ、ああまた言いくるめられかけていると気付いて苦笑いが浮かんだ。
「これは、中々喚べませんよね、人間」
「そうね、その上強い輝きを放つ魂なんて、ばりばりファンタジーな条件つけるんだもん、そうそう転がってるわけないって」
バカらしい下らないと2人で一頻り笑いながら、でもとわたしは思った。
コジマさんだって強い魂って条件だけはクリアしてるんだよね。だからきっと、この世界で幸せになれるんだ。絶対。
なんて遣り取りがあってから半月、俄然良好になったコジマさんとの関係は、わたしにとってなくてはならないものになっている。
様子を見なくちゃとか理由をつけて旦那様達の屋敷を抜け出してくるけれど、本当のところここに来て彼女とたわいもない話をしたいだけなのだ。
コジマさんの相手をしているんじゃなく、コジマさんに相手をして貰っているところがポイントねと、お茶を啜りながら考える。
「魔術の勉強、すすんでます?」
「うん。薬みたいな難しいのはまだ全然だけど、攻撃魔法とか防御魔法とかは良い感じ」
エイリスに弟子入りしてひと月でこう言える彼女は、魔法の才能があるんだって。
「ミヤが半年かけて覚えた分を、ほぼマスターしてるのよ」と、2日前に会った魔女は嬉しそうに言っていた。
召還した魔術師から言語を習得することができるありがたいギフトがあるんだから、魔術もそんな風に覚えられれば楽なのに、ここでも召還者に都合のいい条件が発動していて、貴重な知識は共有できないようになってるんだとか。相変わらず微妙なラインで人の神経を逆なでする星です。
あ、余談だけど。ハイジェントとジャルジーは公用語が違うのにコジマさんとどうして話ができるんだと首を傾げたら、彼女がこの国の言葉を喋ってくれてたんだと言うことが判明。どうやらコジマさんを喚んだ魔術師には近隣3カ国語が知識としてあったらしい。
エイリスはどうなのかと見やったら、じろりと睨まれた。彼女は4カ国語話せるそうです。必要になったらわたしも話せるからありがたく思えと横柄に言われました。ふふふ。ハイジェントの魔術師より劣ってると思われたくないんだね。
脱線したけれど、そんなわけでコジマさんが今、魔法を使えるのは彼女の努力の賜なのです。
元々スローネテス様達をやり込められるくらいに頭の回転がいいんだから、やる気がプラスされれば覚えは早いわけで、更には魔力もわたしより全然あるものだから魔女としての独り立ちは遠からずできるとエイリスがお墨付きをくれたって。
コジマさんてば着々と自分の人生を切り開いてる、よねぇ。
「なに、大きな溜息吐いちゃって」
わたしがアゼルさん達に会う前、思い描いていた生活を現実にしてるコジマさんを思うと、自然に吐息が零れた。
もちろんそんな様子に彼女は眉を顰めたけど、悪い意味じゃないと首を振る。
「羨ましいなって、思ったんです。別に今の生活が嫌だって訳じゃないけど、自分で何でもできる可能性とか、自由に選べる権利とか、楽しそうだなって」
旦那様達に守られている生活は楽だけれど、街で暮らしていた頃の気軽さはない。無い物ねだりだってわかっていても、実現しているコジマさんを羨んでみたりしてしまうのだ。
そんなわたしの我が儘を、彼女は笑い飛ばした。
「隣の芝生、ね。こっちだってあんたの三食昼寝付きがいいなって思うわよ。でも、ほんの短い間だったけど、望みが何でも叶う生活って…人間をダメにするわよね。よく流されないで正気保ってるわね」
流されやすいくせに、と呆れたように言うから、ちょっと意地悪がしたくなる。
「なんかイロイロ悟った今のコジマさんなら、望めばできますよ三食昼寝付き。もう一度悪魔や天使に会ってみます?」
「冗談やめてよ、あんな傲慢な連中、絶対イヤ。ここの肉食マッチョの方が性格良いし優しいし、タイプなの」
大げさに身震いしてみせるコジマさんの表情は、本気で嫌悪に満ちていて、一体ハイジェントで何があったのかと聞いてしまいそうだった。
スローネテス様やジャイロさんから事情は説明されたけど、コジマさんの本音は聞いたことないんだよね。きっとこれも彼女側から見たら、違った話しになるんだろう。
いつか別の機会に教えて貰おうと、違う居場所を見つけた同士と笑みを交わす。
誤解や考え違い、いろいろあったけれど、ともかくコジマさんとこうして仲良くできるようになったことは、この星に来てから最大の幸せだったと噛みしめながら。
「ねえ、これ、どういう状況?」
だが、折角のティータイムは、突如終わりを告げる。
お腹の中から今度はコジマさんの腕の中に生まれ落ちた、娘によって。
彼女、悪魔や天使の子供がどう生まれてくるか、知らなかったのかな?
知らないか、あの驚愕に満ちあふれた顔から察するに…。
以上で転編は終了です。
読んでいただいてありがとうございました。