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キレイの定義  作者: 他紀ゆずる
転編
69/80

9 見捨てない方向で頑張ります

回りくどい心情説明と長セリフが続きます。最後の何行かを読んでいただければ、飛ばしていただいても意味が通ります。

 応接間には既にお茶の用意がされていて、わたしの抗議など誰も聞いてくれずに、即席の会議が始まりました。

 旦那様方とスローネテス様ハイジェントの天使さん2人は、リーリアを抱いたレリレプトさんを含めて、経緯の説明やら双方の中枢の現状やらを真剣に話しているけれど、誰1人置き去りにしてきたコジマさんを話題に上らせることはなくて、1人窓際のテーブルに着いていたわたしは庭をうろうろ歩き回る彼女をどうしたものかと眺めているしかなかった。


 もちろん、迎えに行こうとしたのよ?だけど真剣な顔したメトロスさんに止められました。

 曰く「わたしの言うことなんか素直に聞くはずない」って。

 確かに、自分はコジマさんと違って努力したんだ的な自慢話をして、更には昼メロと評された人様の精神に優しくない恋愛コントを繰り広げた身としては、返す言葉もありません。彼女を不快にした自信はあります。

 感情的になって偉そうに話しているときは気付かなかったけど、落ち着くと痛い子ですね。痛々しいです。穴掘って埋まりたい…。


 ええ、冷静なつもりだったけどわたし、かなり興奮してたみたいなんですよ。微妙に痛いところを付いて来るコジマさんに、こっちだって苦労したし大変だったんだと主張したかったみたい。

 結局はこの世界に馴染んで、帰れなくてもみんなに受け容れて貰って幸せに暮らしてることに、優越感を持っていたんだって落ち着くとわかる。自分こそ選民意識でコジマさんを憐れんでいた、嫌な奴だなって。

 善意って示している方と示されている方の利害が一致しないと、ただのお節介になったり一段上からの施しにしかならないんだもんね。反省です。


 だからって、このままでコジマさんが幸せになれるとは思わない。

 この星の住人に怒るのはわかるが、いつまでも償いを要求しようとしてもここにはここなりの事情と思想、そしてルールがあるのだ。あちらに要求を飲ませる代わりに、こちらも要求を飲んでやらなければ関係が成立しないだろう。

 なにしろどう足掻いても地球には帰れず、この世界から解放されるには死しかないのだから、自殺して全てを終わらせたいのでなければ、楽しくここで暮らす努力をするしかない。

 被害者であるからと一段上にいたままでは、孤立してしまう。優雅で豪華な一生が約束されても、心の平安が無い一生なんて同じ日本人に送って欲しくないのだ、わたしは。


 誰でもいいから彼女を助けてくれないだろうか。

 失敗ししてしまったわたしが歯がみをしながらそんなことを考えていると、勢いよく応接のドアが開かれた。


「本当にさ、本当にもう、勘弁してもらえないかなっ?!」


 それは、イライラと尻尾を踊らせた不機嫌を隠しもしないジャイロさんで、平時なら身分制度という物に表面上だけでも慇懃な態度を崩さない彼の、珍しい無礼な登場であった。


「すみませんでしたね、ジャイロ」


 大股に室内を横切り、わたしの向かいにどかりと腰を下ろした魔術師に、苦笑交じりに謝罪したのはアゼルさんだ。

 彼がこんな風に感情を露わにする理由を作ったのは悪魔の旦那様だったのかと、中央に視線を転じればメトロスさんもスローネテス様も少々の後ろめたさを端正な表情の中に隠している。

 …このタイミングに関わった人達のメンツを見て、何もわからないならわたしは相当バカだって事になるのだろう。

 間違いなくコジマさん絡みだ。確信を持ってジャイロさんに視線をやると、人のお茶を横取りして飲み干したトラ猫は、そうだよと投げやりに頷いた。


「あの手に負えない人間のせいで、僕がこんなに疲れてイライラしてるんだ。ついでに人に面倒を押しつけて優雅にお茶を飲んでる他国のお偉方にも、ミヤのご立派な旦那にも怒ってる」


 ふんっと鼻息が聞こえそうな勢いのジャイロさんは、黄金に輝く猫目を眇めて庭のコジマさんを確認すると、そもそもっとアゼルさん達がどれほど無茶で無謀で無責任なことを彼に押しつけたのかを懇々と説明し始める。


「人間が僕たちに相応の見返りを求めるのは、こっちの頼み事を考えたら当然のことなんだよ。たまたま最初の人間もミヤも、流されやすい所につけ込まれたから面倒は起こらなかった。でも、本来ならあの人間の反応が普通。街で獣人達に貰われていった女の子達も、似たようなこと言うしね。

今回だってその辺を考慮して剛柔合わせた初期対応をしてくれたら、彼女もあそこまでつけ上がらなかっただろうに。…知ってる?ハイジェントの彼女の部屋って、宝石とドレスに溢れてるんだよ。しかも賓客が使う1番上等な部屋をあてがわれたのに、使い古しの家具が気に入らないってアンティークを全部新品に入れ替えさせてさ、美術品を撤去させて自分の指示通りに作らせたぬいぐるみを溢れるほど置いてあるの。物の価値がわからないのを、一部屋で証明して見せたよね。

対人関係も最悪で侍女はほぼ日替わり、連れ込んだ男も日替わり、国の要人からは害虫の如く嫌われて、権力欲に塗れたバカ共からは日々利用価値を探られてるって言うんだから溜息しか出ない。

そんな相手を矯正する方法を考えて実行しろとか、無責任すぎるだろう?他国の不始末なんか知らないって言うんだ。なのに命令がアゼルニクス様とメトロス様から発せられたんじゃ、僕は従わないわけにいかない。もし見返りが無かったら、間違いなくジャルジーを捨ててたよ」


 …長いです、ジャイロさん。溜め込んでいた物が一気に噴出したのはよくわかりましたけど、ちょっと要約したいんで待って下さい。

 まだブツブツ言っているのを聞き流しながら、長い説明を纏めると、つまり。

 コジマさんがこの世界に馴染めるよう、ジャイロさんが手を尽くしてくれたって事?

 すごくタイムリーな、わたしに都合の良い展開にびっくりしてアゼルさんとメトロスさんを見ると、2人ともお見通しとばかりにいい笑顔で頷いていた。

 やっぱり、旦那様達って…。


「あの、すっごく嬉しいです。ありがとうございます!」


 かなり不安だったコジマさんの今後がちゃんと設計されていたことに喜んで2人に頭を下げると、ピタリとおしゃべりをやめたジャイロさんが鼻で笑う。


「お礼とか必要ないだろう?そっちの天使様が僕に約束した見返りがなんだか、君知らないくせに」

「見返り?」


 首を傾げて、ふと思い当たる。

 そう言えば、ジャイロさんが最後に言ってたっけ。それがなければこんな面倒引き受けなかったって。

 一体何を約束したのかと、旦那様達を見ると2人ともわざとらしいあからさまさで視線を外してくる。

 …なんでしょう。すっごい嫌な予感が、するんですけど?


「君のお腹にいる子ね、僕にくれるんだって。本来、天使は天使としか交配しないのに、いくら魔術師とは言え獣人に嫁がせるなんて勇気あるよね」


 というか鬼畜?皮肉に口角を上げたジャイロさんに、激しく同感ですとも。

 なにそれ?産まれる前の娘を交渉材料に使うなんて、しかも本人の意思を無視して勝手にお嫁に出すとか、あり得ないんですけど?!

 お腹の底から湧いてくる怒りに目の前が白く染まって、気付けば酷く室内の気温が下がっていた。呼気が白い煙状になる程度に、寒い。よく見れば壁も床も、所々霜を被ったように白く凍てついている。


「…ほう、腹の子は冷気をるのか」


 冷静に状況を分析しているスローネテス様を、本気で殴りたくなってしまった。

 だって、諸悪の根源はハイジェントじゃないの?わたしや赤ちゃんが怒っているのも、ジャイロさんがやさぐれたのも、コジマさんが進退窮まってるのも、元はといえば貴方の国の責任なんですよ!!

 

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