7 ご都合主義に一石を投じてみました
だいぶ時間が空いてしまってすみません!
「つーかさあ、大事な人間に謝らせる?普通。そりゃあ怪我させたのは悪かったかもだけど、基本はあたしの自由が保障されなかったのが悪いんでしょ」
してませんでした、前進。思いっきり後退です。後ろへ向かって全力疾走です。
どこからどう見てもふくれっ面でスローネテス様を睨み付けたコジマさんは、なんの嫌がらせかわたしに同意を求めてくる。
「あんたはわかるわよね?日本にいれば基本あたしら行動に制限なんてないし、出かけるのに許可取るとか小学生かっていうのよ」
さも当然と言わんばかりの態度ですが、人に怪我させた自分を棚上げしちゃうのはすっごくまずいと思いますよ?
彼女の言う通りではあるんだけれど、前後にやらかしたことがまずいものだから返事ができずに困り果てていると、舌打ちしたコジマさんはおとりまきの天使2人を振り返って同意を求めた。
残念ながら難しい顔で、反論されてしまいましたが。
「我々の都合で貴女の自由を制限していることについては、どんな申し開きもできません。お許し頂けるまで謝りましょう。けれど同胞を傷つけた貴女を、正しいと言うことはできません」
「人間が貴重な存在であることは確かです。我々の子を成してもらえたら、絶望の先に未来が見えるかも知れない。けれど、選ぶのは貴女だけではないことを忘れないで頂きたい」
それは、拒絶に聞こえた。
人間を切望し、言いなりであったはずのハイジェントが、コジマさんを切り捨てたようにわたしには聞こえて、問いかけるように旦那様方を振り返るとみんな一応に難しい顔をしている。
「なによ、それ!随分勝手なこと言うじゃない」
「勝手はお互い様だ」
当然憤ったコジマさんを、窘めるスローネテス様の声も冷たかった。
きつく睨み付ける彼女の視線を受けても怯まず、彼はハイジェントの天使達に視線をやる。
「最後に残ったお前達の結論は、出たんだな?」
「ああ。悪魔と同意見だ。彼女にこれ以上礼を尽くしても無駄だろう」
それまでの影の薄さを払拭してあまりある堂々とした態度は、彼等が現王の息子であるスローネテス様に対等な口を利いていることと合わせて考えれば、何となく答えが出た。
2人はハイジェントがコジマさんにつけた、審判で、前後の会話から読んでいけば悪魔は彼等天使より先に、コジマさんに見切りをつけていたことになる。
「あの、まさか彼女がここに来ること、分かっていたんですか?」
いくらレリレプトさんから連絡を受けたと言っても、登場のタイミングがあまりによすぎじゃないのかと、今にすれば思うのですが?
胡乱な視線を向けた先で、苦笑いを零したのはメトロスさんだ。
「わかってたわけじゃなくて、ハイジェントから彼女の行動は逐一監視されてたっていうのが正しいかな。事実、レリレプトから連絡を受けたのは僕たちの屋敷だったしね」
「お隣ですか…どうしましょう、後で報復したくなってきました」
「いくらでも。お叱りは甘んじて受けるよ」
別に危険な目に遭ったわけじゃないけれど、1人…いえ、この場合はリーリアとレリレプトさんも入れた3人だけ、ですね、仲間はずれってちょっと腹が立ちません?
しかし、現実はもっと厳しかった。
「詳細はともかく、隣に皆が集まっていることは知っていた。知らなかったのはお前とリーリアだけだ」
「ええっ?!」
さらっと裏切り者なのは、どうなの?!
平坦な表情のままでレリレプトさんがいるってことは、彼は今回の件でご立腹とかはないみたいです。そうですよね、彼は基本、リーリアさえ無事なら文句がなくてリーリアさえいれば常に心の平安が保たれちゃう人ですもんね。
彼女の中心が自分なら、どんだけメトロスさんたちに邪険にされても気になりませんよね!
なお一層の疎外感に、もう何か言うのも嫌で膨れていたらアゼルさんが頬にキスをくれました。
「怒らないで、ミヤ。黙っていたのは申し訳なかったですが、ハイジェントノ天使にどうしても現実を知ってほしかったのです」
「その為には貴女と人間に、何の先入観もないまま会話してもらう必要があって、このような形になってしまいました」
べリスさんも申し訳なさそうに、髪を撫でてくれています。
「レリレプトとリーリアがいて、お前に危害が加わることはないと思っていたが…隣にいても気が休まらないものだな」
そう困った顔をしたサンフォルさんは、怒るのも申し訳なくなるほどいつもの勢いがなくて、
「ごめんね、ミヤ。大切な君をいやな目に合わせて、本当にごめん。体は傷つかなくても心は傷ついたよね?」
わたしに甘すぎるメトロスさんは、そんなにひどい目にあったわけじゃないのに、破壊力抜群の精神攻撃にでもあったかのようにそっと抱きしめてくれた。
これでまだ怒りを持続できるほど、大したことをされたわけじゃないです。というか、コジマさんには腹を立てるというより呆れていた時間の方が長かったような?喚かれるとどうしたものかとは思いましたが、不快感でいっぱいというほどではなかった?
むしろ、怒っていたのはリーリアだった気がしてきました…。
「なによ、あれ!なにしたわけでもないのに、あたしだけ悪者?!っていうか、ご都合主義すぎて気味が悪いんだけど。美形が寄ってたかって取り柄もない女に集るとか、どんなマンガ展開よっ」
横から鋭い突っ込みを受けて、我に返る。
そうだった、ここには他の人もいたんだった。だけじゃなく、薄々自分でも思ってたけどやっぱり、アレなんだ…。
憎々しげに睨みつけてくるコジマさんに、最近忘れがちだけどそれなりに気になっていた状況について、客観的意見を聞いてみるいいチャンスだと気付いた。
「あの、やっぱり変ですよね?超十人並みで、これといって性格がいいわけでもなく、世間に埋没していた女子高生が美形に囲まれて溺愛されてる図って」
自分で言ってて恥ずかしいけれど、客観的に見た状況ってこうなんだと思うんですよ。当然、コジマさんも自分で言うかって顔で一瞥してきたけど、すかさず大きく頷いてもくれた。
「すっごい不自然。どんな妄想よそれ、って感じ。できそこないのアニメ見てるみたいで、吐き気がする」
「ですよね~」
周囲の怪訝な視線にめげることなく、心の片隅に引っかかっていた納得できない現状に忌憚ない意見をもらったわたしは、上機嫌だった。
やっぱり変だよねって、ずっと思ってたんですよ。多分、自分がこの手の本を読んでたら『そんな都合よくいくわけないじゃん』って呟いてるだろうなって。
誰から見てもそうなんだよね、うん!よかったよかった。
「だからこそ、むかつくのよ。あんたはそんなに大事にされるのに、あたしがこんな風に言われることがね」
少々和んだはずの空気は、刺だらけのコジマさんの声で一瞬のうちに凍った。