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キレイの定義  作者: 他紀ゆずる
転編
66/80

6 善悪の判断は大切です。

 要約されたコジマさんの不満は、とっても単純明快でした。

 邪魔をするな。

 この一言に尽きるそうです。


 友達に2度と会えないのは寂しいし不満だけど、あまり上手くいってなかった両親と妹とは縁が切れてせいせいしているんだそうで、現状には大変満足しているとのこと。

 そこにスローネテス様がいろいろいろいろ画策するんで、マジウザイ、キモイ、シネ。ついでにそれに協力しているわたしも、マジウザイ、キモイ、シネ。


 ………地球にいる時は意識せずに使っていた言葉ですけど、自分が言われるとかなり腹立たしいですね、これらの単語は。もちろん意味が同じなだけで、翻訳機能が発動しているんでしょうが、この星にもこの手の俗語があるんですねぇ、驚いた驚いた。


「だいたいさ、あたしが慣れない環境で苦労しているだろうから話し相手を手配って、はぁ?って感じなんだけど。卒論と全然決まんない就職先でイライラして、全部消えればいいとか考えてた人間に、不要でしょ、それ。あんたがどんだけぬるくておめでたい環境で育ったんだか知らないけど、周りも自分基準で判断とか痛すぎ」


 言い方は褒められた物じゃないが、目の前で憤慨する人の言葉はいちいち正論で、わたしのチキンなハートは傷だらけだ。いろいろずばずば刺さってます。

 人のことをヒロインシンドロームとか言ったけど、自分だって同じ病に罹患しているじゃないの。

 無理矢理喚び出された人は『不幸』で、助けてくれる誰かの手が必要だって決めつけた根拠はなんだろう?コジマさんに似つかわしくないこの感情の枠に勝手に当てはめて、何故同情したりしたの?


「です…よね。なんでこうもコジマさんに同情的だったんだか…?」


 首を傾げながら、見つけた心当たりに嫌な汗をかく。

 前回は、もう少し過激な感じでした。それこそ自分が乗っ取られたみたいな?勝手に口が動いちゃう?


「すみません、この子のせいです」


 目の前で怪訝そうに顔を顰めるコジマさんに謝りながら、大きく膨らんだお腹に手のひらを当てた。

 リーリアがそうだったように、この子もわたしの人格に少なからず影響を与えているようですよ。差し迫った危機がない分、些細な変化と控えめな主張すぎて今まで気づきませんでしたが、確実なようです。

 だってねえ?っとコジマさんと対面している現在、わたしは妙な具合に納得する。


 彼女は美人だ。さすがに付け睫毛などの小道具は装備していないが、派手な造りの顔にフルメイクで、その上モデルのようなスレンダーボディが標準装備とくれば読者モデルでもしていたのかも知れない。

 言動も行動も先の見えない日本って言う国に辟易としている若者らしく、ドライで刹那的な物が多い。

 こんなの、スローネテス様が話すコジマさんについてを聞いていたときは普通に思ってたのに、いくらでも想像がついたはずなのに、彼女には同情はいらない説明が必要なんだってわかってたはずなのに。

 一瞬、迷ってしまった。いらない心配をしてしまった。自分の意思とは関係なしに。


 ………どうやらおなかの中の子は、優しいというかネガティブシンキングとうか、悪意がない分厄介な性格をしているようです。


「なに、どういうこと?赤ん坊がいることと、あんたがあたしに言ったことがどう関係するわけ?」


 脱力してへたりそうなわたしに、興味有りな視線を寄越したのはコジマさんだ。

 子供を産めとか自重して欲しいって言うハイジェントのお願いはシカトでも、ファンタジーな展開なら耳を傾けてくれるって事なんだろうか。

 ほんのちょっとの期待を込めて、にっこり笑顔で赤ちゃんがわたしを通して主張してくることがあるのだと説明すると、彼女の表情は嫌悪に歪んだ。


「えーなにそれ、ホラー?気持ち悪いんだけど。お腹の子に操られるとか、エイリアンみたい。余計に子供とか産みたくなーい」


 世の中、そう上手くはいきませんでした。

 そりゃあそうだ。元々出産とか冗談じゃないって言ってる人が、この程度のことで考え直してくれるはずがない。真っ当な反応ですね、はい。

 自分の考えの甘さに深々と溜息をついた時、頭上から派手な羽音が聞こえてきた。

 ばっさばっさと、耳障りなまで大きいそれは空からの来訪者が1人2人じゃないことを示していて、見上げた先では予想通り、数人の人影がこちらに向かって降下しているところだった。


「ミヤ、大丈夫ですか?」

 真っ先に隣に立ったのはベリスさんで、

「怪我はないか?」

 人が喧嘩でもしていたかのような言葉をかけてくれたのは、サンフォルさんでした。


 後に続いたのは順番に、メトロスさん、アゼルさん、スローネテス様、赤毛の…ベリスさん達の上司さんと、あれはアゼルさんの上司さんだったと記憶してますが、どうでしょう?

 朧な記憶を探っているわたしをおいてけぼりに、集まってきた旦那様方は妻の無事を確認していた。

 さっきから何故、訳の分からない心配をしているんでしょう?コジマさんは何の力も持たない人間なんですけど?

 疑問を視線に乗せて無言の問いをぶつけると、ひょいっと肩を竦めたメトロスさんが根拠を教えてくれた。


「その人間、ハイジェントを抜け出す際に、世話係の天使に怪我をさせたらしいから」


 ええ?!全く武装しているようには見えないんですけど、もしかして魔法が使えるとかあるわけ?

 どこからどう見ても只人のコジマさんは、聞こえていたらしいメトロスさんの声に人聞きが悪いと眉を顰めた。


「大げさに言わないでよ。何遍言っても部屋の外に出してくれないから、手近にあった物を投げただけでしょ。鈍いから避けきれずにぶつかったんじゃない」

「熱湯入りのティーポットが大げさか?自分を正当化するのもいい加減にしたらどうだ」


 それはやり過ぎです、コジマさん。スローネテス様じゃなくても怒ります。

 あくまで悪くないと主張する彼女を見る周囲の目は、残念ながら冷たかった。どういった経緯なのかわからないが、彼女に付き従っていた2人の男性も、新たに現れた人々も、レリレプトさんですらコジマさんに好意的なものがない。

  勝手に喚びだしておいて無茶苦茶言うのはやめて欲しいって感情は、わたしも知っているので否定はしない。だけど、やっぱりものには限度があるんじゃないかなぁと、思うわけだ。


「あのですね、日本でだって人に怪我をさせたら犯罪者だったじゃないですか。それは世界が変わろうと、結構な地位と権限が与えられていようと、ここでも変わらないんです。コジマさんが感情の赴くままに行動して誰かが傷ついたら、あなたが悪いんですよ?」


 明後日を向いている彼女の感情をこれ以上刺激しないよう、ゆっくりと静かに話したのだけれど、膨れたコジマさんにはあまり効果がなかったようだ。

 視線が合った彼女は、怖い顔をしていたので。


「犯罪だって言うなら、誘拐だって同じじゃない。お互い様じゃないわけ?」

「ご尤もです。だからって個人的に復讐していい法律は、なかったでしょう?ここにもないです。きちんと公正に裁きが下されます」

「へー。じゃあ、あたしをこんな所に喚び出した奴は、どういう処分が下るわけ?」


 そう来ましたか。困りました。

 他国の事情をしならないわたしに、その辺りのことは答えられない。助けを求めるようにスローネテス様を見やると、彼は心得ているとばかりに頷いた。


「今回の騒動を引き起こした魔術師は、地位を剥奪され投獄されている。保身のために東奔西走したようだが、人間1人と99人の他種族の女性を引き替えにできると勝手に判断した罪は大きい。近々極刑に処されることになるだろう」


 重々しい彼の声に、極刑とはまさかとアゼルさんを振り向くと、困った笑みが返ってくる。

 つまり、そういうことなのね。生きていられないって。

 前の王様一味の時もそうだったけれど、この国の司法制度は結構厳しい。死刑廃止とか、なにそれって感じだし、拷問紛いの刑も結構あるってレリレプトさんに教えて貰った。

 ジャルジーがこうで、ハイジェントなら許されるってことはないんじゃないかと思う。寧ろ国が大きい分、重犯罪者は見せしめのように過激な刑が執行されているような気がする。


 となれば、コジマさんは他人を比較対象にできない。なにしろ殺される相手に、これ以上の刑なんてないと思うだろうから。日本では死刑が最高刑だったし。

 …もっと酷い刑がある事実は、知らない方が幸せだよね。

 なんにせよ、逃げ道を失った彼女は、非常に不本意ながら中途半端な謝罪を口にすることになった。


「わかったわよ。わるかったわ。これでいいでしょう?」


 ちっとも謝ってないけど、一歩前進…?で、いいのかな。



長くなったので、一端切りますがまだまだコジマさんのターンは続きます。

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