4 なかなかいい手が浮かびません
あまり話が進んでません(土下座)
スローネテス様は、張り切ってお帰りになった日から僅か10日ほどでまた、ジャルジーにいらっしゃいました。
「あの人間、ちっとも更正しないぞ!」
と、お門違いな怒りをわたしにぶつけるために。
「ですから、あくまでやってみたら効果があるかなぁ程度のことですから、事態が変わらないのは仕方ない気がするんですけど」
「それは理解しているんだが、倒れる寸前まで感情を食ったら逆に怒り出して尚いっそう我々に対する態度が悪くなったことが気にいらんと言っているんだ」
「あー…既に自分が中心で地球が回ることに疑問がなくなっていましたか…それじゃあ打つ手を考えるのが難しそうですね」
怒り心頭のスローネテス様を前に、ふわふわのオムレツを一口食べて長い溜息をつく。
この方、TPO無視で現れるのが仕様のようなんですけど、今回は非常にタイミング悪く昼食の真っ最中だったんです。
入り口でカイムさんが必死に止めてくれたんですけどね、ほら、基本的にゴーイングマイウェイがデフォルトなので聞きません。偉い分だけ誰も諫められないから、猪突猛進を止めるには王様でも連れてくるしかないんです。
そんなわけで、不作法はお互い様とばかりにわたしは食事を取る手を止めません。
だって、お腹空いたんだもの。別に2人分食べてるわけじゃないけど、今日はタイミング悪くお昼時間が後ろへずれ込んじゃったせいで、空腹度合いがいつもより上がってるんです。
ね?タイミング最悪でしょう?
「…よくこの状況で食事を続けられるな」
ただ、不躾な来訪者であるスローネテス様はお気に召さなかったようです。
せわしなく口を動かすわたしに、ちょっと冷たい視線を寄越しましたから。
「だって先触れもなく現れた訪問者に気を使う必要はありませんし」
「私は隣国の要人だぞ」
「ならばそれらしく、手順を踏んで現れたらどうだ。最近のお前は非公式に他国を訪れ、相手の都合も考えず屋敷に押しかけているように見えるが?」
かなり失礼なスローネテス様を扱いあぐねているところに、リーリアを寝かせていたはずのレリレプトさんが現れる。彼は傲慢なお客様の言葉尻を取って見事に反撃すると、言葉に詰まらせるという華麗な技を披露してくれた。
話すの苦手だったはずなのに、最近アゼルさんとメトロスさんにお勉強させられて、とってもボキャブラリーが豊富になったんですよ、彼。
巧くコントロールしたなぁと感心していたら、旦那様方は素敵にネタばらしをして下さいましたけど。
リーリアを守りたいなら、剣だけでなく口先で相手を丸め込めないとダメだと吹き込んだらしいです。
嘘ではないけど、かなりな確率でよい部下、よい婿にするために仕込まれている気がしますよ、レリレプトさん。気をつけて!
ああ、そんな裏話はどうでもよかったですね。取り敢えず援軍をこっそり呼んで下さったカイムさん、グッジョブです!
サムアップして有能な執事と意思疎通を図った後、自分の非に気づいたスローネテス様が大人しくテーブルに着いたのを確認して、わたしは食事の残りを大慌てで胃に収める。
やれやれ、これで落ち着いて話しができますね。
「で、その後のコジマ・ユウナさんは暴挙に走っているわけですね?」
下げられたお皿の代わりに饗されたデザートに舌鼓を打ちつつ、人間さんのその後を問うとスローネテス様の表情が歪む。
「自分の気に入った天使を2人、傍に侍らせて離さない。その…生殖行為もそれなりにしているようなのだが…なんというか…」
「もしかして、子供ができないようにさせているとか?」
「その通りだ。不確実な方法ではあるが、あれでは子を望むのは難しいだろうと医者は言っていた」
「長老さん達が決めた、伴侶以外は接触と食事禁止はどうなったんです?」
「どのような掟も、法も、人間の意思の前では効力をなさん。全く我が先祖ながら余計な決まり事を作ってくれたものだ」
苦々しく吐き出された言葉に、いろんなことが全て詰まっていて、なんて言ってあげていいか分からなくなってしまった。
わたしを守ってくれた決まりが、今ハイジェントの悪魔や天使を苦しめている。
まあ、初め喚ばれた人間さんも、まさか次に召還される人が唯我独尊タイプだとは思わなかったですよね。ジャイロさんが言うように『キレイの定義』を守っていれば、どうもその手の人は喚べないみたいですし。
けれど、結果的にハイジェントにいる彼女には、どうにかこっちの事情を分かって貰いたいって言うのが本音だと思う。
とっても身勝手な事情だけれど。
旦那様達に大切にされている現状でわたしに不満はないけれど、客観的に見るとこの星が取ってる制度は倫理的にすごく問題があると思うんだよね。
喚ばれる女性達のこれまでの生活を全く考慮せず、子供を産めだの感情を食べさせろだの、失礼極まりない。これってちょっと待遇のいい奴隷制度だって言っても過言じゃないと思うの。
それでも時間をかけて自分なりに納得できた人はいい。わたしや過去の人間さんみたいに、大切な人に出会えたら、受け容れられる。
でも、そうじゃなかったら?
泣き暮らすか、全てを恨んで暮らすか。
コジマ・ユウナさんはどうなんだろう。
ただ我が儘なだけなんだろうか。
それとも、不安や不満を周囲にぶつけてるだけ?
スローネテス様が帰ってから、わたしは度々彼女の気持ちを考えていた。
彼女が自分を中心に世界を回し始めているのだとしたら、ここはちゃんと聞いてみた方が良いと思うの。
「コジマ・ユウナさんは、寂しいと言っていたことがありますか?帰りたいと言っていたことは?」
彼女を嫌ってできる限り近づかないようにしていたスローネテス様が知っているとは思えなかったけれど、できるならば本音が知りたいと聞いてみる。
案の定彼は、少し考えて首を振った。
「知らんな。わたしが知っているあの人間は、大抵笑っているか怒っているかだ」
「誰でもそうですけど、表面に出ている感情が全てとは限りませんよ?」
「…確かに」
尽きない欲求を満たしているだけならいいけれど、違う感情の表れだったら根本から解決しないとならない。
難しい顔をしているスローネテス様に、だから1つ提案をしてみた。
「誰でもいいので、聞き上手な女性を彼女に会わせてみて下さい。もしかしたら同性になら気持ちを離してくれるかも知れないです」
わたしにとってのエイリスみたいな人がいればいいと、思うんです。本当は自分がいけたらいいんですけどね。
そんな気持ちでお願いすると、彼は頷いてくれた。
「そうだな。女性をそばに置くことは考えなかった。若い娘より妙齢の者がいいか?」
「コジマ・ユウナさんと話しが会うと思う方で良いのではないでしょうか。わたしはお会いしたことがないので何とも」
「1度ミヤに来てもらえればいいのだが…冗談だ」
最良の提案を仕掛けたスローネテス様は、すちゃっと暗器を構えたレリレプトさんを見てすぐにそれを引っ込めた。
「冗談でも言うな。ミヤはリーリアの大切な母親で有り、今は妊婦でもあるんだ」
至極真面目なレリレプトさんに、思わず苦笑いが零れる。
基本的に彼の1番はリーリアなんですよ、それで今は2番がお腹の赤ちゃん。だって、リーリアにとっては妹になるからって言うのが言い分です。
間違いないですけど、ちょっとくらいわたしの心配もして下さい!
「ともかく、次はその提案を実行してみよう」
前回のことがあるだけに、こんどのスローネテス様の帰還はあまり元気のいいものじゃなかった。
半信半疑って感じ。でも期待しすぎると後がつらいから、そのくらいが丁度いいと思いますよ~。